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『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(原題:She Said)
監督:マリア・シュラーダー
出演:キャリー・マリガン,ゾーイ・カザン,パトリシア・クラークソン,
   アンドレ・ブラウアー,サマンサ・モートン,アシュレイ・ジャッド他
 
109シネマズ大阪エキスポシティにて。
 
ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性犯罪を暴き、
その調査報道は世界へ#MeToo運動が広がるきっかけとなりました。
 
本作は調査報道の内幕を映画化したもので、てっきりアメリカ作品だと思っていたら(アメリカ作品です)、
マリア・シュラーダー監督はドイツ人ではないですか。
しかも脚本家であり女優としても『ソハの地下水道』(2011)などに出演している。多才。
 
2017年、ニューヨーク・タイムズの記者ジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、
大手映画プロダクション“ミラマックス”の創設者ハーヴェイ・ワインスタインがその権力を利用して、
女優や自社の女性従業員に対して性的暴行を繰り返していたとの情報をつかむ。
取材を進めるものの、報復を恐れる被害者たちはオフレコでは話してもオンレコでは口を閉ざす。
 
そんななか、記者ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)が産休から復帰。
かつてドナルド・トランプのセクハラ疑惑で被害者から証言を得ることに成功したミーガンは、
ジョディにとって心強い相棒。ふたりは取材を重ね、徐々に事件の核心に迫るのだが……。
 
今の世の中にはさまざまなハラスメントがあって、ハラハラなんていうものまであります。
最後のやつは、ハラスメントを受けていないのに受けたと言いつのるハラスメントだそうで。
 
セクハラの話が出てくると、本当かなとまず思うのは事実。
売名行為じゃないのかと思われる人だってたまにいます。
だけど、こんなに丹念に取材を重ねた結果に証言を得て、
被害者の実名を出して書かれた記事がアップロードされた翌日、
80名を超える女性がハーヴェイから性的暴行を受けたと名乗りを挙げるなんて、
どこからどう見ても本当の話でしょう。
 
被害者に口止め料を払い、誓約書にサインさせ、その契約書のコピーは渡さない。
そして同じことをずっと続ける。
彼がどんなことをしてきたかもあからさまに語られますが、これはビョーキです。
ちょっとした浮気とか遊びなんてもんじゃない。変態野郎。
 
ちょうど本作を観た日の夕刊で、性的被害を受けた女性の記事が第1面に載っていました。
名乗り出ることで自分と同様の被害者が出ることを止(と)められるかもしれないけれど、
なぜ被害者側が止(と)めなければならないのか。止(や)めるべきは加害者側なのに。
本当にそうです。

—–

『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』

『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』(英題:Special Delivery)
監督:パク・デミン
出演:パク・ソダム,ソン・セビョク,キム・ウィソン,チョン・ヒョンジュン,
   ヨン・ウジン,ヨム・ヘラン,ハン・ヒョンミン他
 
TOHOシネマズなんばにて2本ハシゴの2本目。
前述の『イニシェリン島の精霊』を本館で観て、別館に移動して本作を。
 
これが観たくてなんばまで行きました。
そして今さら気づく、自分が結構なカーアクション好きであることに。
 
主演は『パラサイト 半地下の家族』(2019)で長女役だったパク・ソダム。
彼女に助けを求める男児役は、同作で豪邸に暮らす子どもを演じたチョン・ヒョンジュン。
つまり『パラサイト』で家庭教師と教え子の役だったコンビです。
 
脱北者の女性チャン・ウナは、どんな荷物の配送も請け負う特殊配送会社“特送”のドライバー。
女だと思ってナメるなよ。彼女のドライビングテクニックは天才的
どんなに危険だろうと、社長のペク・カンチョルが取ってきた仕事を100%成功させている。
 
ある日、カンチョルから命じられた仕事は、海外逃亡を図る依頼者を港まで運ぶこと。
依頼者は元プロ野球選手で、今は八百長試合のブローカーとして稼いでいるキム・ドゥシク。
組織の金300億ウォン(=約30億円)が入った貸金庫の鍵を盗んでトンズラするつもりが、
元締めの チョ・ギョンピルにバレて逃げることにしたらしい。
 
この仕事はヤバイと直感したウナは断ろうとするが、いい金になるからとカンチョルは聞かない。
致し方なくドゥシクを拾う予定の場所へ向かうと、すでにギョンピルもやってきていた。
 
殺されることを覚悟したドゥシクは、幼い息子ソウォンに鍵を託し、
ウナが待っている場所まで走るように指示。
余計な話に巻き込まれたくないウナはその場から去ろうとするが、
泣きすがるソウォンを見てどうしても置いて行けなくなり……。
 
ギョンピルは違法賭博の元締めでありながら、ベテラン警官でもあります。
こんな奴がどうして警官なんだよと思うけれど、いずれの国も汚職ってあるんですね。
 
なんといっても楽しいのは、ウナが車で爆走するシーン。
ストーリーは凡庸といえば凡庸だけど、凡庸さを忘れるほど痛快。
この展開でバッドエンドはないと思うから安心して観られます。
 
彼女の腕前を見るためだけにもう一度観てもいいかも、と思うぐらい楽しかった。

—–

『イニシェリン島の精霊』

『イニシェリン島の精霊』(原題:The Banshees of Inisherin)
監督:マーティン・マクドナ
出演:コリン・ファレル,ブレンダン・グリーソン,ケリー・コンドン,
   バリー・キオガン,ゲイリー・ライドン,パット・ショート他
 
TOHOシネマズなんばにて2本ハシゴの1本目。
 
監督は『スリー・ビルボード』(2017)のマーティン・マクドナー。
デビュー作だった『ヒットマンズ・レクイエム』(2008)で起用した、
共にアイルランド・ダブリンの出身俳優です。
 
舞台となっているイニシェリン島は架空の島ではありますが、
アラン諸島をモデルとしているのではと言われています。
 
今から100年前の1923年。
アイルランドの孤島イニシェリン島は、住人全員が顔見知りののどかな島。
 
パードリックとコルムは唯一無二の親友同士。
毎日14時になると一緒にパブへ行ってビールを飲むのが習慣。
 
その日もいつものようにパードリックはコルムの自宅へ誘いに行くが、
ノックをしても窓ガラスを叩いても在宅中のコルムは出てこない。
こちらを見ようともしないコルムに、昨晩を振り返るパードリック。
もしや自分は酔っぱらって彼を怒らせたのではないだろうか。
 
あとからパブへとやってきたコルムに問いただすと、
喧嘩もしていないし、失言したわけでもない、しかしおまえのことが嫌いになった、
おまえの話はつまらない、時間を無駄にしたくない、話しかけるなと言われ……。
 
昨日まで大の仲良しだった相手が急に口をきかなくなる。
当然そこにはなんらかの理由があるわけですが、相手は何もないと言う。
納得できませんよねぇ。
 
純朴だけど退屈であるには違いない男パードリックに対し、音楽家のコルムは男女問わず人気がある。
遠方からやってきた音大生もコルムとセッションをしたがります。
彼らとは楽しげに話すコルムにいらつくパードリックがつきまとうと、
やがてコルムはとんでもないことを言うのです。
もしも今後自分に話しかけたら、そのたびに自分の指を1本切り落とすと。
そしてそれを実行に移します。転がる指。
 
1923年のアイルランド本土では内戦が起きていました。
アラン諸島とはまるで違う、大変な状況の本土。
当時の内戦で本土についてはケン・ローチ監督の『麦の穂をゆらす風』(2006)を観るとわかりやすい。
 
コルムと諍いを続けることを選んだパードリック。
終わらない内戦に自分たちを例えて、続かなければならないものもあるという彼の台詞が重く響きます。
 
善人が善人でなくなるとき。
島でいちばん馬鹿なドミニクからも見放されたパードリック。
予知能力があるかのような不気味な老婆が怖い。
 
救いはパードリックの妹シボーンの存在。
読書家で何でも知っている彼女は、兄を想って島に居続けるのかと思われましたが、
ようやく出て行くことにした姿がたくましく映ります。
 
普通に行けば、女性にモテそうな風貌なのはどう考えてもコリン・ファレルのほうでしょ。
この「えっ、このキャスト!?」と驚けたのも楽しかった。

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『パラレル・マザーズ』

『パラレル・マザーズ』(原題:Madres Paralelas)
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス,ミレナ・スミット,イスラエル・エレハルデ,
   アイタナ・サンチェス=ヒホン,ロッシ・デ・パルマ,フリエタ・セラーノ他
 
塚口サンサン劇場にて3本ハシゴのラスト。
2本目と同じ、ペドロ・アルモドバル監督の作品。
たぶん、客全員、2本目とハシゴだと思われます。
 
春には49歳になるそうですが、相変わらず抜群に綺麗。可愛い。羨ましい(笑)。
 
スペイン・マドリード写真家のジャニスは独身、40歳。
スペイン内戦で亡くなった親族の遺骨発掘について、
取材の被写体として知り合った考古学者アルトゥロに相談する。
アルトゥロは既婚者だが、妻は癌で入院中。彼とジャニスは親密な仲に。
やがてジャニスは想定外に妊娠。アルトゥロに伝えたうえで産むと決めて別れる。
 
出産を控えた病院で同室になった妊婦は、まだ17歳のアナ。
彼女のほうも想定外の妊娠だったらしいが、ジャニスと違ってただただ暗い。
出産は素晴らしいこと、きっとなんとかなるとアナを励ますジャニス。
 
同じ日に同じく女児を出産したふたりは、それぞれセシリアとアニタと名付ける。
連絡先を交換し、いずれ会おうと約束して病院を後にする。
 
その後、セシリアに会いに来たアルトゥロは、自分とは似ていない、
この子は自分の子ではないと言い放つ。
妊娠当時にアルトゥロ以外とは寝ていないと憤るジャニスだったが、
気になって自分とセシリアのDNA鑑定をしたところ、母子関係にないとわかる。
 
おそらく病院で赤ん坊たちを取り違えられたのだ。
セシリアはアナの子、そしてアニタがジャニスの子なのだろう。
いまさらそんなことは誰にも言えない。
アナと連絡を取るのが怖くなり、電話番号を変更するジャニスだったが……。
 
偶然アナと再会してしまいます。そしてアニタが突然死したことを知らされる。
もしもアナに子どもたちを取り違えられた事実を話せば、
ジャニスは二度子どもを失うことになる。どうしても言い出せません。
 
彼女の葛藤は真に迫るものがあって考えさせられましたが、
遺骨発掘の話はどこへ行ったんだと思っていたころに再浮上し、
最後はみんなで連れ立って発掘現場へ行くことに私は違和感をおぼえました。
ふたつの話を無理矢理つないだような感じで。
 
しかしこうして書いてみると、内戦で肉親を失うことと、こんな形で自分の子どもを失うことは、
決して無理矢理つないだ物語ではないようにも思えます。
 
違和感があるのはその問題ではなくて、お国柄というのかお人柄なのかも。
生まれたばかりの赤ん坊を取り違えられたら、病院を訴えませんか。
連絡もせずそのままにしておいて、アナはアナで「知っていたのに言わなかった」とジャニスを責め、
とっととセシリアを連れて実家に帰ってしまう。
そしていつのまにか仲直りして発掘現場へ行っている。こんなもんなのでしょうか。
 
なんだか不思議。でも今こうして振り返ると心に残る作品に変化しているのも不思議。

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『ヒューマン・ボイス』

『ヒューマン・ボイス』(原題:The Human Voice)
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ティルダ・スウィントン
 
塚口サンサン劇場にて、前述の『マスター 先生が来る!』と後述作品の間に。
スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督による初の全編英語作品。
コロナ下の2020年にさまざまな制約があるなかで撮られたそうです。
 
ジャン・コクトーの戯曲『人間の声』を「自由に翻案した」とのテロップ。
30分の短編で、冒頭に買い物のシーンがあるものの、あとはティルダ・スウィントン一人芝居
 
飼い犬を連れて金物店を訪れる女性。彼女は1本の斧を買います。
まっすぐ帰宅した女性はひたすら誰かの帰りを待っている様子。
それが別れた恋人であることがわかる。
 
今までは本を読んだり映画を観たりしている間に必ず帰ってきた恋人。
なのに数日前、恋人は出ていったまま。犬の主人は彼なのに。
いらつく彼女はベッドの上に置いた彼のスーツに買ってきたばかりの斧を振り下ろす。
 
ようやく彼からの電話があり、イヤホンをつけて話しはじめる彼女。
最初のうちは彼を待っていたそぶりなど見せず、毎日楽しく暮らしていたように話すけれど、
次第に感情が高ぶり、どれほど彼のことを待っていたか、
こんなふうに別れては気持ちの整理などつけられないと思いの丈をぶつけます。
 
電話の相手の声はいっさい聞こえません。
私たちが見るのはティルダ・スウィントンの狼狽した姿と必死な声だけ。
 
最後は落ち着いた声で電話の向こうの相手にそこからこっち見ていてねと告げ、
部屋に火をつけると、燃えさかる炎を見つめながら立ち去ります。
 
批評家の評価は非常に高い。でも私のような凡人が観ると「はぁ?」(笑)。
ただ、ペドロ・アルモドバル監督の色彩の使い方には目を奪われます。
原色がほとんどで、強烈なのにケバくない。美しい。
そんな中にたたずむ悲壮感あふれる哀れな女性の声が耳に残ります。
 
「はぁ?」と思っていたのに、なぜか部屋の様子と彼女の姿が頭から離れません。
今になって彼女の、彼への想いの断ち切り方に愕然とする。

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