『影裏』
監督:大友啓史
出演:綾野剛,松田龍平,筒井真理子,中村倫也,平埜生成,國村隼,永島暎子,安田顕他
TOHOシネマズ伊丹にて、
前述の『阪神タイガース THE MOVIE 猛虎神話集』とハシゴ。
原作は未読で、映画版とどう違うのか知りません。
その後、読みました。そのときのレビューはこちら。
社交的とは言いがたい彼は、慣れない土地で心細さを感じている。
ある日、社内の禁煙の場所で喫煙する日浅典博(松田龍平)を見かけて注意する。
まったく気にするそぶりもなく吸い続けるそいつは同僚で、
何を思ったか突然日本酒の一升瓶を抱えて今野の部屋へとやってくる。
以来、日浅に誘われて酒を飲んだり釣りに行ったり。
もっぱらひとりで過ごしていた今野の休日は見事に変わり、毎日が楽しくなる。
ところが日浅が何も告げずに会社を辞めてどこかに行ってしまう。
日浅と同じ部署の西山(筒井真理子)らから、
あれほど仲が良かったのに何も聞かされていないのかと訝られ、
本当に何も知らない今野は喪失感を拭えないまま月日が経ち……。
映画版を観るかぎりではそれほど芥川賞っぽくはない。
ただ、ところどころ「全部言わんけど読み取れ」みたいな部分があります。
今野がただ孤独な青年なのではなく、ゲイであるとわかるのは中盤以降。
しかし、序盤に彼が眠るベッドの撮り方は、
晒し出された綾野剛の脚を爪先から映していて、なまめかしい。
後になれば、あのショットは伏線だったのだとわかります。
日浅に惹かれてゆく心を抑えられなくなる今野。
一緒に映画を観に行けば切ない想いが極まってひそかに涙を流し、
焚き火を見ればそれがガラスの炎のように見えて自らの恋心と重ねてしまうのです。
綾野剛、お見事。
一方の日浅はちゃらんぽらん。
今野の気持ちを知っていながら弄んでいるようなところがある。
あの東日本大震災が起きてから行方不明になっているというのに、
父親も兄も日浅を探そうともせず、「死んでいるとは思わない。
どこで何をしようが生きていける奴」と断言する。
「嘘をつかれたから縁を切る」という父親の言葉を聞いて、
今野がつぶやくひと言が印象的。「その程度の嘘で」。
ゲイである自分は、つきたくない嘘をつかざるを得ない場面だらけだったのでしょう。
消化不良の部分はありますが、なんだか心に残る作品です。
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