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『誰がために憲法はある』

『誰がために憲法はある』
監督:井上淳一
 
正直言ってあまり観るつもりはなかったのですけれど、
家からシュッと行けそうなシネコンでは観るものがなく、
2日前に行ったばかりの第七藝術劇場へ。
 
『セメントの記憶』の衝撃度が高くて書き忘れていましたが、
ナナゲイさん、椅子が替わったんですよね。
名古屋の劇場から譲り受けたそうで。
ずいぶんへたっていた椅子がちょっぴり(かなり)新しくなり、
ドリンクホルダーも設置されています。
 
これと後述の『主戦場』と、ものすごくお客さんが入っています。
 
日本国憲法を擬人化した芸人・松元ヒロによる一人語り「憲法くん」。
というものを私はそもそも知りません。
それを渡辺美佐子が演じるって、どういうことかまったくわからんまま観に行きました。
 
渡辺美佐子が「姓は日本国、名は憲法、言いにくいから憲法くん」として、
日本国憲法をわかりやすく説明してくれます。
そのあと、彼女が中心メンバーとして長年活動を続けている原爆朗読劇について。
朗読劇に参加するほかのメンバーも名女優たち。
高田敏江、寺田路恵、大原ますみ、岩本多代、日色ともゑ、
長内美那子、柳川慶子、山口果林、大橋芳枝といった人たちです。

渡辺美佐子が初恋の話を始めたとき、どこに行き着くのかわかりませんでした。
小学校のときにほのかな恋心を抱いていた相手。
何十年後かに彼を探し出して会う企画なんてのはよくありますが、
本人ではなく親御さんが現れて、息子が原爆で亡くなったと告げる。
こんな残酷な展開が待っていたなんて、誰が想像できるでしょう。
そんなことがあって、彼女が関わるようになった朗読劇。

戦争で深い傷を負ったわが国が、もう二度とそんな思いに遭わぬよう、
理想を掲げて日本国憲法をつくったはず。
なのに今、その憲法が変えられようとしている。
理想と現実は違うから、現実に合うようにと。
 
日本国憲法が生まれて70年。
「その間、僕は誰も殺さなかった。それが誇り」という渡辺美佐子演じる憲法くんは言います。
人は理想に近づこうとするものではないのでしょうか。
理想は理想で、現実と違うからと投げ出してしまうためのものなのか。
 
日色ともゑが出演作を選ぶときに問うてみることが印象に残っています。
「そこに正義はあるか」。

—–

『ザ・バニシング 消失』

『ザ・バニシング 消失』(原題:Spoorloos)
監督:ジョルジュ・シュルイツァー
出演:ベルナール・ピエール・ドナデュー,ジーン・ベルヴォーツ,
   ヨハンナ・テア・ステーゲ,グウェン・エックハウス他
 
カルト的人気を誇る1988年のオランダ/フランス作品。
日本では劇場未公開でしたが、このたび初公開。
『恐怖の報酬』(1977)といい、何十年も経ってからの公開が嬉しい。
これを見逃すまいと思い、この日はシネマート心斎橋へ行ったのでした。
 
でも、観るかどうかはすごく迷ったのです。
というのも、ジョルジュ・シュルイツァー監督自身がハリウッドリメイクした『失踪』(1993)は、
私がこれまでの人生で観た中でいちばん恐ろしいと感じた作品だったから。
そんな作品のオリジナルって、もっと怖いかもしれんやん。
わざわざ嫌な思いをしに観に行く価値あるやろかと葛藤。
 
結局、観なかったらそれはそれで後悔するだろうと観に行くことに。
 
オランダ人カップルのレックス(♂)とサスキア(♀)は、フランスに旅行。
途中、車への給油を促すサスキアをレックスが無視。
なのにガス欠で止まったことからふたりは喧嘩。
夜道で怖がるサスキアを放置してレックスはガソリンを買いに。
ポリタンをぶらさげて戻ったレックスとサスキアの間に重い空気が流れるが、
レックスが心から詫びたため、すっかり仲直りしてラブラブ。
 
サービスエリアに寄り、サスキアはご機嫌なまま買い物に。
ところがいくら経っても戻ってこない。
警察に通報しても、痴話喧嘩の果てに逃げられたという認識。
そんなわけはないと、レックスは半狂乱になってサスキアを探すが、
いったい誰が彼女を連れ去ったのか、見つからないまま。
 
それから3年が経過。
レックスはリネカという新しい恋人とつきあっているものの、
失踪したサスキアのことが忘れられない。
レックスはリネカに言う、「僕が真相を知らず、でもサスキアが幸せなのと、
僕が真相を知って、でもサスキアは死んでいるのとどちらがいいんだろう」。
 
やはり真相を知りたいレックスは、犯人に向けてメッセージを送り続ける。
するとある日、犯人とおぼしき男が接触してきて……。
 
サスキアを拉致したのは、フランス人の大学教授。
社会的信用もあり、妻と娘の良き夫良き父でもある。
彼は女性を拉致して生き埋めにしていたという驚愕の真相。
 
クロロホルムを嗅がされて、目が覚めたら棺桶の中
土がかぶされていて、声をあげても誰にも聞こえない。
棺桶の中で動けず飲まず食わずで、人間って何日生きていられるのでしょう。
いや、こんな状態では生きていたくなんかない。気が狂いそうです。
 
オリジナル版は教授が何の実験をしたかったのかがよくわかりません。説明不足。
本人は閉所恐怖症で、閉所に閉じ込められた人がどうなるか知りたかったのか。
リメイク版では確か、男性が同じ目に遭わされて殺されかけたとき、
男性の新しい恋人が気づいて救出したというエンディングだったと思いますが、
オリジナルは誰にも気づかれずにそのままおしまい。
リメイク以上に嫌な感じです。嫌すぎて笑ってしまった。
 
リメイクを観ていたおかげで「えっ、こんな悲惨な話!?」と思わずに済んだけど、
もうこんな悲惨なエンディングの話は観たくない。
何はともあれ、心理的に人生でいちばん怖かった映画のオリジナルを観られてスッキリです(笑)。

—–

『Be With You いま、会いにゆきます』

『Be With You いま、会いにゆきます』(英題:Be With You)
監督:イ・チャンフン
出演:ソ・ジソブ,ソン・イェジン,キム・ジファン,コ・チャンソク,イ・ジュンヒョク
   ソン・ヨウン,イ・ユジン,キム・ヒョンス,パク・ソジュン,コン・ヒョジン他
 
ナナゲイで観た『セメントの記憶』の衝撃をひきずりながら、心斎橋シネマートへ。
ちょうど木曜日だったので会員サービスデー。お得な1,000円です。
 
原作は市川拓司のベストセラー小説だというのはもう説明不要ですね。
日本では同名の『いま、会いにゆきます』として(2004)に映画化。
そのときの共演がきっかけで竹内結子中村獅童ができちゃった結婚したのでした。
私はレンタルDVDで確かに観たおぼえはあるのですが、
「死んじゃったお母さんがが戻ってきた」ということぐらいしか記憶になし。
中村獅童がタイプとはいえないからでしょうか。
別に嫌いじゃないんですけれど、好きでもない、というのかどーでもよくて。
やはり主演俳優がタイプかどうかって大事ですよねぇ。
 
で、本作はその韓国版リメイクです。
こっちの主演ソ・ジソブが中村獅童よりずっとタイプ。
女優ソン・イェジンは可愛くて美人、竹内結子にちょっと似たタイプかも。
こんなに泣ける良い作品でしたっけ。泣いた泣いた。
 
夫ウジンと小学生の息子ジホを遺して亡くなったスア。
ジホは母親スアのお手製絵本にあるとおり、
梅雨の始まりとともに母親が帰ってくると信じている。
 
高校時代は将来を嘱望される競泳選手だったウジンは、
体調に問題があって水泳を辞め、今はプールに用務員として勤務する身。
頼りないウジンがシングルファーザーとなったことを周囲は心配するが、
近所でパン屋を営む気の好いホングの手も借りながら、なんとかやりくり。
 
天気予報が梅雨入りを宣言した日、
スアが約束の場所へ帰ってくるはずだと言ってきかないジホ。
ウジンは仕方なくジホを連れて廃線となった線路のトンネルへ。
するとそこにはスアにそっくりの女性がうずくまっていた。
 
彼女はすべての記憶を失っているらしいが、スア本人としか思えない。
ウジンとジホは彼女を家へ連れ帰ると、訝る彼女にスアの写真などを見せ、
妻であること母親であることを説得し、彼女もそれを受け入れる。
 
こうして幽霊かもしれないスアと、ウジン、ジホ家族3人の生活がまた始まるのだが……。
 
梅雨が終わってスアは天国へと帰って行くんですけれど、
最後にすっごいドンデン返しがありまして。
 
この日の晩の食事会で本作の話をしたら、
ほかの3人ともなんとなくはオリジナル版や原作のことを知っていて、
でもこんなドンデン返しはオリジナルにあったかいな、なかったんちゃうか、
原作にはあったような気がするとか、ワーワー言うておりました(笑)。
 
オリジナルが15年前の作品だから、今さらネタバレにはならないでしょう。
 
自分がいずれここからいなくなる運命だと知ったスアは
まだ幼いジホがひとりで何でもできるように、
また、ジホが体調に不安を抱える父親ウジンのことまで守れるように、
家事をひとつひとつ教えます。
目玉焼きのつくり方、掃除機のかけ方、洗濯物の干し方。
母親の意図を察したジホがしっかりとそれを覚えるようになります。
学芸会の席でほかの生徒たちが各々得意なことを挙げるなか、
最初は普通の子どもたちと同じように夢を語るつもりだったジホが、
スアから習ったことを得意なものとして挙げる様子は涙なしでは観られません。
 
死期を悟った人が、遺された家族がひとりでも生きていけるように、必要なことを教える。
『海洋天堂』(2010)然り、ビデオ録画の仕方を教える『八月のクリスマス』(1998)然り。
泣いてしまうのは当たり前。
ウジンとスアの馴れ初めの話にも胸がキューッ。ボロ泣きでした。
ホング役のコ・チャンソクもめちゃくちゃいい味。
 
オリジナルでも同じくらい泣いたなら覚えているはずなので、
これはリメイクの圧勝ということで。
気持ちよく泣きたい気分の人、ぜひどうぞ。

—–

『セメントの記憶』

『セメントの記憶』(原題:Taste of Cement)
監督:ジアード・クルスーム
 
連日の飲み会にそろそろ疲れが出てきた頃。
にもかかわらずこの日も晩に食事の約束があり、その前に2本(だけ)観るつもりでした。
ところがボーッとくつろいでいた朝、
飲み友だちの姉さんによる、本作が衝撃的だったというSNSの書き込み発見。
えーっ、スルーするつもりだったけど、そんなに凄いんですか。
時計を見ると、間に合いそうな時間。
ほな腰を上げて行ってみますかと、第七藝術劇場へ。
 
ドイツ/レバノン/シリア/アラブ首長国連邦/カタール作品。
ドイツの作品はまぁまぁあるとして、
それ以外に並ぶ国名を見るだけで、軽く観てはいけない空気がすでに流れています。
 
レバノンの首都ベイルート。長い内戦の爪痕が残る街。
復興が進むこの街は、超高層ビルの建設ラッシュ。
その建設現場を支える労働力となっているのは、
今も内戦が繰り広げられているシリアからの移民や難民。
ジアード・クルスーム監督は元シリア軍の兵士で、のちにレバノンへ亡命した人。
 
内戦の続く国では、建設中のビルが空爆に遭ってたちまち崩れ落ちる。
監督の父親はそんな国で建設に携わり、ビルが完成すれば内戦のない国に移動。
そしてそのビルが崩れると、また建設に向かうという生活を送っていたそうです。
 
邦題は「セメントの記憶」ですが、原題は「セメントの味」。
崩れたビルに埋もれ、救出されるのを待つ者が知るセメントの味。
私たちには決して想像できない味だけれども、
それが暗闇の中で口いっぱいに広がることを想像するだけで苦しい。
 
異国へ労働に来て、淡々とこなす仕事。
談笑など聞こえない。壁に響くのは工事の音だけ。
静かな作品かと思いきや、終盤に轟き渡る空爆の音と空に広がる白煙。
 
この衝撃は『草原の実験』(2014)以来。
同じ世界で、なぜこのようなことが今も続いているのか。
言葉を失って、ただただ呆然、そんな感じ。

—–

『ある少年の告白』

『ある少年の告白』(原題:Boy Erased)
監督:ジョエル・エドガートン
出演:ルーカス・ヘッジズ,ニコール・キッドマン,ジョエル・エドガートン,
   ジョー・アルウィン,グザヴィエ・ドラン,ラッセル・クロウ他
 
TOHOシネマズ西宮にて。
182分の『アベンジャーズ/エンドゲーム』を観た直後だったから、
集中力が持つかどうか心配でしたが、これも面白かった。
と言っても明るい気持ちには全然なれませんけれど。
 
原作はガラルド・コンリーの回顧録。
同性愛者であることは「病気」であると言われ、
その「治療」を目的とする矯正プログラムを受けた実体験を綴っています。
 
アメリカの田舎町に暮らす少年ジャレッド・イーモンズ。
父親は牧師で住民の人望厚く、母親は美しく優しい。
何不自由なく育つが、ガールフレンドとの交際になんとなく違和感がある。
 
大学生に入り、寮生活を始めたのをきっかけに彼女とは別れ、
同じ寮暮らしのヘンリーと親しくなる。
自分が同性愛者であることに気づきつつ認めることを恐れるジャレッドは、
ある日ヘンリーに強姦されそうに。
なんとか逃げたジャレッドに、ヘンリーは涙ながらに謝罪し、
過去に別の少年を強姦したことがあると打ち明ける。
 
自分もまちがいなくゲイ。しかしヘンリーとはもうつきあえない。
ヘンリーを避けていると、通報されることを恐れたのか、
大学のカウンセラーを名乗ってヘンリーが実家に電話を入れ、
「お宅の息子さんの性的指向に問題がある」と話す。
 
慌てた父親は町の長老に相談。その結果、矯正プログラムへの参加を提案される。
母親の涙を見るうち、これは病気だ、治さなければと感じたジャレッドは、
その提案を受け入れて施設に入るのだが……。

俳優ジョエル・エドガートンがメガホンを取り、
施設の指導員サイクス役で出演もしています。
 
終盤こそ、この施設が明らかにおかしいことがわかりますが、
最初はただの熱血指導員で、それなりに真面目に見えるのです。
ラッセル・クロウ演じる父親も、ニコール・キッドマン演じる母親も、
息子ジャレッドのことを深く愛していて、本当に心配している。
本人も自分が病気だと疑わず、両親のためにも治療したいと願う。
 
病気だ、そうではない、これは変えられないことだ。
心の動きを表情にするジャレッド役のルーカス・ヘッジズがめちゃめちゃよかった。
 
「私は神を愛している。神も私を愛している。それは間違いない。
 そして私は、息子を愛している。とても単純なこと。それが母親。
 でも、父親はちょっと複雑なの」。
矯正するなんてとんでもないことだと悟った母親の言葉。
父親だってそんなことはわかっているはずなのに、まず体面を気にしてしまう。
 
こんな施設が今なお存在し、何十万人という少年少女が入所している事実に呆然とします。

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