『罪人たち』(原題:Sinners)
監督:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン,ヘイリー・スタインフェルド,マイルズ・ケイトン,ジャック・オコンネル,ウンミ・モサク,ジェイミー・ローソン,オマー・ミラー,デルロイ・リンドー他
なんとなく気になる作品ではあったものの、よくわからんホラーをIMAXで観る必要があるのかと思いながら、ほかにちょうど良い時間帯の上映作品もないので、109シネマズ大阪エキスポシティでIMAXレーザーGT版を鑑賞。そうしたら意外と客が入っているうえに、外国人が5人以上で連れ立って来ていたりもして驚く。
ライアン・クーグラーとマイケル・B・ジョーダンといえば『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)と『ブラックパンサー』(2018)の監督・主演コンビ。どちらも面白かったし、私はそもそもマイケル・B・ジョーダンが結構好きです。
人種差別がはびこる1932年のアメリカ南部の田舎町。アル・カポネのもとにいたという噂で誰もが恐れる黒人の双子兄弟スモーク&スタック・ムーアが帰郷し、黒人向けのダンスホールをオープンするべく古びた製材所を購入。
ふたりの従弟サミー・ムーアとは父親同士が兄弟。サミーの父親は牧師で、スモーク&スタックの父親は悪党。兄弟でありながらまるで違う。ブルースを弾かせたら天下一品のサミーだが、父親はギターは悪魔を呼ぶとして音楽に反対。どうしてもギターを手放したくないサミーは、スモーク&スタックの店で演奏することに。
スモークはダンスホールのオープンに向けてツテを駆使し、必要な人とモノを調達。ハーモニカとピアノの名手デルタに出演を求めたり、疎遠だった妻アニーと再会して料理を頼んだり。こうして慌ただしくもダンスホールは無事にオープンにこぎつける。
ところが、黒人しかお呼びでないこの店に楽器を携えた3人の白人がやってきて、演奏させてほしいと言う。追い返した後に店の売り上げを予想してみると、米ドルで払える客が少ないせいですぐに赤字になる日が来るとわかる。そこで、さっきの3人が金を持っているかどうか確かめようと、スタックの元カノでこの日唯一の白人客メアリーが店の外にいた3人に声をかけるのだが……。
面白いですねぇ。白人客はバンパイア(吸血鬼)だったという展開に唖然としつつ笑う。バンパイアって、招いてもらえないと屋内に入ることができないんですね。これって常識なんですか。とにかく、ダンスホールの入口から入れないバンパイアたちは、相手に「どうぞ中へ」と言わせたい。言ったが最後、大変なことになるわけで。
製材所の持ち主がKKKのメンバーで、とんだ差別主義者。そんな時代背景もきちんと描かれているなか、ブルースが人々を魅了する様子も素晴らしい。ダンスホールでの演奏にはなるほどこれは大画面で観る価値ありだと思いました。バンパイアもみんな音楽が大好きで、ブルースとは違う曲をダンスホールの外で演奏して踊る。
ふざけているのか真面目なのかわからない面白さ。エンドロール後もお見逃しなく。観に行ってよかった1本です。
『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』
『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』
監督:小林健
声の出演:栗田貫一,大塚明夫,浪川大輔,沢城みゆき,山寺宏一,片岡愛之助,森川葵,鈴木もぐら, 水川かたまり他
前述の『かたつむりのメモワール』の後、TOHOシネマズなんばにて21:50からのレイトショー。
“ルパン三世”の2D劇場版アニメーションは約30年ぶりだと書いてありましたが、『LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘』(2018)とか『ルパン三世 THE FIRST』(2019)とかも観たし、『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE』(2013)なんてのもあったし。ルパン三世は常に近くにいる感じではあるものの、ルパン三世マニアではないから、どんなシリーズがいつ作られてそれらがどう繋がっているのか私にはわかりません。
ルパン三世と次元大介、石川五ェ門、峰不二子はこれまで何者かから命を狙われること多数。そのたびに刺客を倒して生き延びてきたが、黒幕が誰なのかが気になる。ある日、邸を丸ごと焼かれたルパンは、犯人がメッセージ代わりに謎の島の地図を残しているのを見つけ、次元たちと乗り込むことに。ルパンを追ってもれなく銭形警部がついてくる。
目的地であるバミューダ海域上空を飛んでいると、何者かによって飛行機が撃墜される。不時着した島には大昔の対戦の頃に用いられたとおぼしき兵器や核ミサイルが積まれ、かつて戦っていた兵士たちが人間とも思えない姿で徘徊していた。
そんな兵士たちを支配しているのは不死身のムオム。世界から無用な人間を排除して統率しようとしているムオムは、ルパンたちをも過去の遺物とみなす。島に呼びつけて皆殺しにするつもりらしく、立ち込める濃霧は毒。24時間以内に島から脱出しなければ、ルパンたちの体は毒によって砕け散ってしまう。頭を撃ち抜こうが全身を焼こうが死なないムオムを葬る手段などあるのか。
寝不足の状態で観に行ったのに、寝ませんでしたねぇ。やっぱりルパンは面白い。次元と五ェ門がカッコイイのも相変わらずで、特に五ェ門には惚れそうです。不死身のキモい怪物が相手でも負けないのがルパン。ルパンが目の前で溶岩の海に落ちるのを見た銭形のオッサンがルパンの死を悼むシーンも笑えます。死ぬわけないやろ!って。
エンドロール後もお見逃しなく。洒落てるなぁ。利子は1本。
『かたつむりのメモワール』
『かたつむりのメモワール』(原題:Memoir of a Snail)
監督:アダム・エリオット
声の出演:セーラ・スヌーク,コディ・スミット=マクフィー,エリック・バナ,マグダ・ズバンスキー,ドミニク・ピノン,トニー・アームストロング,ポール・カプシス,シャーロット・ベルジー,メイソン・リツォス,ニック・ケイヴ,ジャッキー・ウィーヴァー他
『メアリー&マックス』(2008)を観たときは言葉を失いかけました。そのアダム・エリオット監督の新作は大阪市内へ出向かないと観られません。TOHOシネマズなんばで鑑賞。
エリオット監督の年齢が定かではないのですが、プロフィール写真からはまだそれほどのお歳ではなさそう。とはいうもののものすごい寡作で、日本で公開された作品は3本のみ。この3本以外に4本撮っていらっしゃるようですが、それらはすべて短編作品らしい。もっとようさん撮れんのかいと思わなくはないものの、粘土でこんな造作をするだけでも多大な時間を要するうえに、毎度アニメとは思えないほどテーマが重いストップモーションアニメなんです。本作も子ども向けとは到底言えない重さ。アニメだからって子ども向けと思うのがそもそも誤りなのでしょうね。
主人公の女性グレースが家族同然に親しかった老婆ピンキーを看取るシーンから始まります。ピンキーを喪ってひとりっきりになったグレースが、シルヴィアと名づけていたかたつむりに話して聞かせる思い出。
1970年代のオーストラリア。双子の姉弟グレースとギルバートがこの世に生を受けるが、出産と同時に母親は死亡。口唇裂のせいでいじめられるグレースをいつも守ってくれたのはギルバート。いよいよ手術したほうがよいということになったときもギルバートが輸血に協力してくれる。
父親は男手ひとつで子どもたちを育てようと頑張ってきたが、不幸な事故に遭う。下半身麻痺となってからは酒に溺れ、ある日急死。グレースとギルバートは別々の家に里子に出されることに。
グレースの里親イアンとナレルは「まぁまぁ」の良い人間。ただ、彼らはスワッピングカップルであるため、ほかのカップルとの出会いの場を求め、たびたび乱交パーティーやヌーディストグループの集まりへと出かけて家を空ける。そのときにはグレースは置き去りにされるのだ。
一方のギルバートの里親オーウェンとルースは農家を営む宗教原理主義者。言うことを聞かない子どもには悪魔祓いと称して虐待をおこなうのが常。彼らの実の息子4人のうちベンだけはギルバートとウマが合い、こっそり一緒に遊ぶようになるが、あるときギルバートとベンがキスしているのをルースに見られ、ホモは悪魔だとして虐待される。
グレースとギルバートは会えないまま年月が過ぎてゆく。処女のまま年頃をはるかに過ぎたグレースは、ついにありのままの自分を愛してくれる男性ケンと出会う。自分の結婚式にはギルバートに参列してもらおうと、招待状と航空券を送るのだが……。
こうして書いているだけでも、どんなアニメやねんと思います(泣)。ようやく幸せを掴んだかに見えたグレースでしたが、実はケンがただのデブ好きだとわかります。グレースのために作ったミルクセーキマシーンも、グレースを自分好みのデブにしたかっただけ。
社会に巣食うありとあらゆる問題が込められていて、観ているのが本当につらい。クレイアニメと言ったって、“ウォレスとグルミット”みたいな可愛いものではなく、シワだらけの婆さんの死に際の絶叫を聞くシーンから始まるのですから。
凄惨な話が続くだけに、最後はちょっと感動。徹底して叩き落とされて、でも最後には「人生、生きていればいいこともあるよ」と言われているかのよう。
『F1/エフワン』〈字幕版〉
『F1/エフワン』(原題:F1)
監督:ジョセフ・コシンスキー
出演:ブラッド・ピット,ダムソン・イドリス,ケリー・コンドン,トビアス・メンジーズ,ハビエル・バルデム,サラ・ナイルズ,キム・ボドゥニア,ジョセフ・バルデラマ,ウィル・メリック他
公開初日、109シネマズ大阪エキスポシティにてIMAXレーザーGT版を鑑賞しました。36回観た『トップガン マーヴェリック』(2022)と同じ、ジョセフ・コシンスキー監督作品。
F1ドライバーが主人公の作品といえば、すぐに思いつくのは『ラッシュ/プライドと友情』(2013)。それ以外でもカーレーサーが主人公の話なら『フォードvsフェラーリ』(2019)なんかも面白かった。昔は鈴鹿サーキットへもよく行きました。なんだかんだでレース好きです。
ソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)はかつてアイルトン・セナやアラン・プロストとも競った天才ドライバー。1990年代に所属していたチーム・ロータスで今まさに頂点にのぼりつめようかというときにクラッシュ。大怪我を負った彼はチームを追われ、ギャンブルに走って家庭も破綻。しかし走ることが心底好きだと気づき、以降はレースの大小問わずにドライバーとして渡り歩く日々を送っている。
デイトナ24時間レースに参戦したソニーは激走を見せて見事チームを勝利に導く。このままチームに残らないかと惜しがられるも断った彼は、その後に立ち寄ったコインランドリーで、ロータスでチームメイトだったルーベン・セルバンテス(ハビエル・バルデム)から声をかけられる。
今はチーム・エイペックスのオーナーであるルーベンが言うには、チームは1勝もできないままで最下位に沈み、残り9レースでなんとか結果を残さなければチームの存続が難しくなるのだと。エイペックスには才能あふれる新人ジョシュア・ピアス(ダムソン・イドリス)がファーストドライバーとして在籍しているが、傲慢な性格が災いして完走することすらままならない。セカンドドライバーとしてソニーを招聘し、この事態を変えてほしいとルーベンは考えているのだ。
金に興味はないが、走りたい。これは奇跡を呼び込めるかもしれないと、チームに合流するソニー。しかし、こんなジジイにチーム内の自分のポジションを奪われてたまるかと思うジョシュアは最初から喧嘩腰。あまりにワガママな坊やぶりにソニーも怒りを抑えられず……。
とにかくレースのシーンが多い。肝心のシーンが多いというのは『国宝』と同じで、魅入られます。ケリー・コンドン演じるF1チーム初の女性テクニカルディレクターと恋に落ちるものの、長いラブシーンなどは皆無。あ、彼女が若すぎないのもいいですね。トム・クルーズの相手役がジェニファー・コネリーだったように、ブラピとケリー・コンドンはちょうどいい。
そしてやっぱりイイ、ハビエル・バルデム。トム・クルーズと別れた後のペネロペ・クルスと結婚してからもう十数年経つわけですが、素敵なカップル。ハビエル・バルデムを初めて知ったという人には『海を飛ぶ夢』(2004)をオススメしたい。『コレラの時代の愛』(2007)も強烈です。初恋の女性と結ばれる日を50年以上待ち続けた男性の話で、その日まで自分はヤリまくるんですから(笑)。
ちなみに私はもともとトム・クルーズよりブラピのほうがタイプです。本作を観てそれは変わらないなぁと思いました。それにしてもトム・クルーズといいブラピといい、60歳を過ぎた男がこんなにカッコイイのは嬉しいこと。
コシンスキー監督は、空の世界を描いても凄かったけど、陸の世界を描かせても凄かった。絶対、大スクリーンで観るべき作品。
『ルノワール』
『ルノワール』
監督:早川千絵
出演:鈴木唯,石田ひかり,中島歩,河合優実,坂東龍汰,リリー・フランキー,ハナ・ホープ,高梨琴乃,西原亜希,谷川昭一朗,宮下今日子,中村恩恵他
109シネマズ大阪エキスポシティにて。
スルーしそうになっていたところ、後述の『F1/エフワン』の封切り日にハシゴ可能な時間帯の上映。んじゃ観ようかということで。
『PLAN 75』(2022)がたいそう話題になった早川千絵監督ですが、テーマが重くて観る気になれないまま今まで来ました。本作はそれとはまた違うテーマだけれど、なんとなくカンヌっぽい(芥川賞っぽい)イメージ。日本/フランス/シンガポール/フィリピン/インドネシア作品で、多様な人が関わっているようです。
小学5年生の沖田フキ(鈴木唯)は溢れ出す好奇心を抑えきれない少女。たくましすぎる想像力で作文を書けば、教師も傑出した文才を認めつつ、その内容が大人を戸惑わせる。
フキの父親・圭司(リリー・フランキー)は癌に冒されて余命わずか。母親・詩子(石田ひかり)は勤務先で管理職に昇進したばかりだが、そのきつい物の言い方のせいでパワハラ認定される。圭司の最期を自宅で迎えられるようにすべきだと思うものの、公私ともにイライラを募らせる詩子。
こんな家庭で親の目を向けられることが少ないフキは、あちこちに興味を向けます。英会話教室で見かけるいかにもお嬢な同年代の少女(高梨琴乃)のお下げ髪に触る。最近夫を亡くしたらしい近所の物憂い女性(河合優実)に話しかけて家に上がり込む。郵便受けに入っていたチラシを見て伝言ダイヤルにかけ、話し相手の大学生(坂東龍汰)から呼び出されて会いに行く。
もうなんというのか、フキの行動は危なっかしいばかりか、見ていて不愉快にすらさせられます。フキの心情をあらわにするシーンはないから、観て感じ取るしかありません。いちいち言葉で説明されるよりもそのほうが余韻があって良いには違いないけれど、とにかく心地が悪い。
ただ、登場人物の誰にも共感できないにもかかわらず、作品自体には惹かれます。いつ頃の話なのか作品中では具体的に明かされないせいで、最初はいろんな描写がひっかかる。本人への癌の告知は珍しいという台詞やパワハラなど、え、いつのこと!?と思っていたのが、キャンプファイヤーでYMOの“ライディーン”がかかると確実に1980年代だわかります。これは楽しいシーン。
今から何十年も前が舞台でありつつも、癌に効くあれこれだとか自由診療だとかいうものは、今も昔も存在する。藁にもすがりたい人たちの思いにつけ込む商売に私もすがりかけたから、そんなシーンは複雑な思いで観ました。
好きじゃない。でも気になる作品であり監督でもあります。