『それでも夜は明ける』(原題:12 Years a Slave)
監督:スティーヴ・マックィーン
出演:キウェテル・イジョフォー,マイケル・ファスベンダー,ベネディクト・カンバーバッチ,
ポール・ダノ,ルピタ・ニョンゴ,サラ・ポールソン,ブラッド・ピット他
前述の『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』を観たあと、
1ヶ月フリーパスポートを受け取り、2本目に観たのはこれ。
普通に考えるとミニシアター系作品。
TOHOシネマズの中ではそんな作品もよくかかる西宮ですので、
本作の上映は不思議なことではありませんが、
先日発表された第86回アカデミー賞で作品賞を受賞、
そのほかの部門でも多くノミネートされていたからか、
結構大きめのスクリーンで上映、客の入りも上々。
『タワーリング・インフェルノ』(1974)のスティーヴ・マックィーンと同姓同名の黒人監督。
マイケル・ファスベンダーがお気に入りなのか、
初監督作品と『SHAME シェイム』(2011)、そして3作目でも彼を起用。
しかしこの彼はめちゃくちゃ悪い、嫌いになりそうなぐらい(笑)。
主演は『キンキーブーツ』(2005)のドラァグクイーン役がめちゃよかったキウェテル・イジョフォー、
セクシーブーツを履いていた彼を思い出すと、本作との差に目が点になります。
1841年、南北戦争が起きる前のアメリカ。
南部では酷い人種差別がおこなわれ、黒人は奴隷として生きるよりなかったが、
北部では自由証明書なるものが発行され、
それを所持する黒人は奴隷ではない自由黒人として暮らしていた。
黒人男性のソロモン・ノーサップは生まれながらの自由黒人で音楽家。
彼が奏でるヴァイオリンの音色に魅入られた白人の友人も多く、
妻子とともにニューヨークで恵まれた幸せな日々を送っていた。
あるとき、信頼する白人男性の紹介で、サーカスでの演奏を引き受けることに。
ワシントンD.C.まで出向いた興行は大成功、興行主と祝杯をあげて酔いつぶれる。
目が覚めると窓のない冷たい部屋に閉じ込められ、手足には枷(かせ)が。
入室した見知らぬ男に自分は自由黒人であると説明するが、待っていたのは拷問。
興行主は最初からソロモンを奴隷市場に売るつもりだったのだ。
ソロモンはジョージア州の逃亡奴隷プラットの代わりをさせられ、
以後プラットと名乗ることを強いられる。
人間としての尊厳はもちろんのこと、名前すらも奪われたうえ、
ソロモンは大農園主フォードに買われてゆく。
今はどうあがこうともすべて無駄な抵抗にちがいない。
そう感じ取ったソロモンは、真面目にフォードに仕える。
知的で、主の意を即座に汲むソロモンのことをフォードは目にかけるように。
しかし、フォードに雇われている白人の監督官にとってはソロモンが目障り。
監督官に素直に従わないソロモンは本気で殺されかける。
この農園ではソロモンを守れない。そう考えるフォード。
彼は奴隷の売買に対して良心の呵責を持つ人物ではあったが、経済的余裕もなく、
借金の形に、残酷きわまりない別の大農園主エップスにソロモンを売り……。
奴隷制度の作品を観るたびに思います。
どうしてこんなことがまかり通っていたんだろうと。
物心ついたころから「差別すること」を教育されていたら、
罪悪感なんてかけらも持たないのかもしれないと思ったりもします。
エップスの依頼で働くカナダ人大工役にブラッド・ピット。
彼がエップスに対して放つ言葉には考えさせられます。
黒人奴隷の正当性を説明できるのか。
もし法律が変わって白人奴隷が認められたら、
白人奴隷を認めない正当性をあなたは説明できるのか。
何でも同じことなんだ、一人の権利は全員の権利。
プロデューサーにも名を連ねるブラピはオイシイとこ取りの感もありますが、
彼の台詞のひとつひとつはとても印象に残りました。
ところでこのところのTOHOシネマズではくずはモールを宣伝中。
本編開始前、その宣伝途中で入場してきた私の隣席の年輩女性は、
秘密結社鷹の爪が宣伝する映像に不安になったのか、
「あの、ここ、『それでも夜は明ける』ですか」と私に聞いてこられました。(^o^;
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