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『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(原題:Trumbo)
監督:ジェイ・ローチ
出演:ブライアン・クランストン,ルイス・C・K,エル・ファニング,ジョン・グッドマン,
   ダイアン・レイン,マイケル・スタールバーグ,アラン・テュディック,ヘレン・ミレン他

平日の晩、楽しい面々と福島区で食事することになり、
だからといって休みを取る必要はまったくないのですが、
わざわざ有休を取って晩ごはんの前に映画を3本。
最終目的地が大阪市内なのに、反対方向で映画を観るってどうよと思いつつ、
TOHOシネマズ西宮へ。

赤狩りによる迫害に遭っても屈しなかった脚本家ダルトン・トランボ。
苦難に満ちた彼の半生と復活までの軌跡を描いています。
ダルトン役にはどの映画でも人間味のあるおじさま、ブライアン・クランストン

第二次世界大戦中、アメリカでは共産主義に傾倒する人多数。
けれども、アメリカとソ連は連合国だったから、まったく問題視されず。
ところが大戦が終結して米ソ冷戦体制が始まると、事情が一転。
共産主義者はソ連のスパイ、アメリカを滅ぼすつもりだとして糾弾される。

売れっ子の脚本家だったダルトン・トランボも第二次大戦中に共産党員に。
大戦終結後もその態度に変わりはなく、共産主義運動に参加。
労働者階級の力なくしては映画をつくりあげることが不可能なのに、
末端へ支払われる賃金が安すぎる。もっとみんなに真っ当な給料を。
そんな思いゆえのこと。

しかし、元女優で人気コラムニストのヘッダ・ホッパーを中心とし、
下院非米活動委員会では反共キャンペーンに躍起になる。
共産主義的思想を徹底的に排除する赤狩りを開始、ダルトンも聴聞会へ召還されるが、
証言を拒んだために議会侮辱罪で収監されてしまう。

1年後、ダルトンは出所、愛しい家族たちとの暮らしを再開するが、
ブラックリストに載った彼に仕事の依頼は来ない。
考えた末、ダルトンはB級映画専門の製作会社から格安で仕事を請け負い、
偽名で脚本を書きまくるのだが……。

ものすごく面白かったです。
赤狩りの恐ろしさを改めて知る機会にもなりました。

聴聞会で自分は共産主義者ではないと宣言し、
共産主義的思想を持つ友人知人の名前を挙げれば許される。
そうしなければ映画界で干されるとなれば、
圧力に屈する人がいても仕方ないかもしれません。
周囲の人が次々と寝返るなか、決して友人の名前を売らなかった“ハリウッド・テン”、
それだけで敬意を払うべき人たちでしょう。

ダルトンは本当に書くことが好きだったと見えます。
もしくは自分には書くことしかできないと思っていたか、その両方だったか。
自分が偽名で書いて書いて書きまくって、
ダルトンが書いたとは夢にも思わない赤狩りの主たちからオスカーを与えられ、
ブラックリストに載る仲間たちに仕事をシェアしているうちに、
いずれすべての映画の脚本がブラックリストの仲間の手によるものになる。
ダルトンの夢であり、夢のままでは終わらせなかった凄い話。

ヘッダ・ホッパー役のヘレン・ミレンが本当に憎たらしく、
ダルトンの妻クレオ役のダイアン・レインはおでこの皺も美しい。
娘ニコラ役のエル・ファニングは完全に姉の上を走っている様子。
B級映画専門の製作会社の社長を演じるジョン・グッドマンが傑作。
脅しに決して乗らないB級映画の強みを感じました。
また、ブラックリストに囚われることなく、
『栄光への脱出』(1960)の脚本にダルトンの起用を即決した監督が、
クリスチャン・ベルケル演じるオットー・プレミンジャー。サイコーです。

しかしなんですね、こういう映画を観ると、俳優への印象が変わってしまいます。
『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002)を観てチャールトン・ヘストンに嫌悪感を持ったように、
本作を観てジョン・ウェインが嫌いになり、カーク・ダグラスが好きになりました。

『ローマの休日』(1953)、『黒い牡牛』(1956)、『スパルタカス』(1960)にこんな話が隠されていたなんて。
ちなみにスティーヴン・スピルバーグ監督の『オールウェイズ』(1989)もダルトン・トランボ原作です。
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