積み上げた本の中から1冊を取り出すとき、
一応その季節に応じた本を選んでいるつもりですが、
久々にどうしても荻原浩が読みたくなりました。
手に取った本は『ひまわり事件』。
季節は真逆なものの、タイムリーに選挙が絡んでいます。
550頁ほどの本作は、荻原浩の他作品に比べるとテンポがイマイチ、
レビューサイトの評価も芳しくありません。
読み終わってみて、それでも私はやっぱりこの作家が好きだぁ!
理事長を同じくする2つの施設。
老人ホーム“ひまわり苑”と“ひまわり幼稚園”は隣り合って建っている。
ひまわり苑の所長は理事長の義弟、ひまわり幼稚園の園長は理事長の娘。
県会議員選挙に出馬予定の理事長は、自らのイメージアップに必死。
老人と幼児の交流を図ろうと、苑と園の間の壁を取り払うのだが……。
幼稚園時代をここで過ごし、園の中でも特に問題児と言われた4人―
晴也、伊梨亜、秀平、和樹―が、当時に交わした約束を果たすため、
13年後に更地となったこの地を訪れるシーンで物語は始まります。
以降の章は当時の様子が描かれ、約束の中身が明かされるのは最終章。
小分けにされた章は、妻に先立たれて苑に独りで入居する誠次、
母子家庭に育つ、緊張しぃで口べたながら悪ガキの晴也、
晴也の所属する“こぐま組”の担任、和歌子先生が、交代で語る形。
園児たちにとって、自分たちの何十倍も生きている年寄りは一種の妖怪。
苑と園の間の壁は魔界との結界だったのに、それが破られたわけです。
園児と顔を合わせるようになると、 白塗りの化粧に気合いが入ったり、
無理に笑顔を作ったりする年寄りの姿が、もう怖くて仕方がありません。
年寄りに声をかけられるたびにビビる子どもたちは、
いちいち「ひょえ~、じょわ~」。←パンツの中でチビったところ。
子どもが苦手な誠次は、こんな状態を鬱陶しく思っています。
しかし、苑に飛び込んできたボールを拾ったことから晴也らと話すように。
誠次がひまわりの種を植える様子を見かけた彼らが、
「ジジがミックスナッツを土に埋めている」と考えてビビるところは爆笑。
理事長や園長の都合に振り回される和歌子先生の姿もまた傑作。
「パコパコパコ」。何の音かと思ったら、パソコンのキーボードを叩く音。
和歌子先生が落ち着いてキーボードを叩いている間はいいですが、
だんだん腹が立ってくる段では、スゴイ音になります。
「パコパコパコガコベコギコガコ」。可笑しすぎ。
経営者側の思惑のみで構成される、くだらない合同プログラムから脱出して、
誠次が悪ガキ4人を苑の自室に連れて行ってみれば、
園の机の下でゲームばかりしている無口な和樹が麻雀の達人で「ロ~ンッ!」。
誠次と同じく入居者の寿司辰や片岡、おトキ婆が惨敗し、
もう園に帰らなくちゃという和樹に向かって、
「勝ち逃げする気か、坊主!」と叫んで大人げないことこの上なし。
誰から麻雀を習ったんだと聞くと、和樹は「ニンテンドーディーエスです」。
年寄り連中は「何者だそれは。外人か」。
苑の経営改善を求めて片岡がバリケード封鎖をおこなうことについては、
園児を巻き込んでこんなことやらかしちゃ駄目でしょと思いますが、
子どもたちだって言いたいことがあるんだと声を上げるシーンには涙。
園長の勝手な判断で演劇発表会の配役や台詞が変更されると、
たとえば「主役なんだよ」と家族に話したことが嘘になってしまいます。
「僕は嘘はついていないのに嘘つきになってしまった」って。(T_T)
最初はお姫様役に固執していた伊梨亜の言葉には笑い泣き。
「おサルは大切な役だって言ったくせに。
おサルでもいいからがんばろうって思ってたのに」。
むずかしい言葉がまだありすぎる子どもたち。
それを説明する誠次の言葉のひとつひとつが可笑しくも優しい。
非現実的なストーリーではありましたが、
こんなふうに世代のちがう人同士が関われたら。
「想像というのは、自分とは違う誰かのことを考えることだ。
いまとはちがう明日を考えることだ」。
人間は、誰もが一冊の教科書。
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