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気持ちの整理をつける。

『監督失格』(2011)でちらりとご紹介した貫井徳郎の『乱反射』。
これを読んでから、「気持ちの整理のつけかた」がテーマとなっている作品が、
映画にもとても多いことに気づきました。

家族だったり友人だったり、大切な誰かを失ったとき、
その虚無感や虚脱感は、ほかの人には計り知れないもの。
相手の身になって考えても、失ったことのない人にはわからないだろうし、
わからないのに「わかるよ」なんていう言葉はかけるのは嘘っぽい。
時が経てば忘れられると思ったりもするけれど、そうじゃない。
人はどうにかして、自分で気持ちの整理をつけようとするのだと思います。

息子を事故で失った両親の『ラビット・ホール』(2010)。
戦地で親友を殺された男の『ルート・アイリッシュ』(2010)。
父親を亡くした少年の『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011)。
特異な形ではありますが、想いを寄せる女性の夫が殺された男の『ドライヴ』(2011)。
ここ半年ばかりの間に観た作品を振り返っただけでも、
気持ちの整理をつけようとする主人公が次々と思い浮かびます。

『乱反射』で気持ちの整理をつけようとするのは、幼い娘を失った父親。
娘が亡くなったのは誰のせいでもなく、ただ不運な事故としか言えません。
しかし、ごく一般的な人々の些細な考えや行動が引き起こしたもの。

ある男性は、定年後、悠々自適の老後を送るつもりが、妻は勝手に楽しそう。
寂しくて犬を飼い始めたら、これが可愛くてたまらない。
嬉々として散歩に出かけたものの、糞の処理をしようとしたら腰がギクッ。
街路樹の根元だし、誰も踏まないだろう。申し訳ないけどこのままで失礼。

優雅な主婦生活を送る女性は、もっと娘から尊敬の念を込めて見られたい。
それには世のためになることをすればいいのだと考える。
近隣の道路拡幅工事にともない、街路樹がバッサリ伐られるらしい。
ここは一発、反対運動を起こして伐採を阻止しよう。

ひ弱な大学生は、本格的に風邪を引く前に治したい。
日中の病院は混雑しすぎ。夜間の救急外来診察ありの病院を近所に見つけたぞ。
風邪ごときで救急に来るなんてと嫌な顔はされるけど、診察は一応してくれる。
薬さえ貰えればこっちのもの。この奥の手を、好きな子にだけ教えよう。

救急外来でアルバイトをする医師は、内科が専門。
風邪で救急診察に来るヤツは腹立たしいが、面倒な患者が来るよりはマシ。
もしも外科の患者が来たら俺には無理。誰かを呼ぶのも面倒だし、パスしよう。

車の運転が苦手な女性は、母や妹の足に使われている。
往来の激しい自宅前の通りからバックで車庫入れするのが嫌でたまらない。
ただでさえ苦痛なのに、車を買い替える段になって、
年の離れた美人の妹の主張により、大きなワゴン車になりそうだ。
運転するのは私なのに、どうしてみんな妹の言うことを聞くのか。

このほか、市役所の役人、植木職人などなどが登場します。

これもやはり600頁の長編で、手元に届いたさいにはゲンナリ。
しかし、誰の頭によぎっても不思議ではない行動の連鎖に、
いったいこの先どうなるんだと没頭してしまいました。

真相を知りたかっただけ。責めにきたわけじゃない。
救われない思いを読後いつまでも引きずります。
だけど、これで主人公の気持ちの整理はついたんだと、信じずにはいられません。
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