MENU

『ルート・アイリッシュ』

『ルート・アイリッシュ』(原題:Route Irish)
監督:ケン・ローチ
出演:マーク・ウォーマック,アンドレア・ロウ,ジョン・ビショップ,トレヴァー・ウィリアムズ,
   ジェフ・ベル,タリブ・ラスール,クレイグ・ランドバーグ,ジャック・フォーチュン他

シネ・リーブル梅田にて。

2010年のイギリス/フランス/ベルギー/イタリア/スペイン作品。
労働者階級を撮りつづける社会派の名匠ケン・ローチ監督の作品ながら、
興行的には厳しいものがあるのかなかなか買い手がつかなかったようで、
時機を逸しての公開になってしまった感があります。
それでも観ておいてよかったと痛切に思える1本。

リバプールに暮らすファーガスは、酒場で喧嘩して留置場に放り込まれたせいで、
兄弟同然に育った親友のフランキーが何度もかけてきた電話を取れなかった。
そしてそのまま、フランキーは戦場で命を落としてしまう。

ファーガスとフランキーが所属していたのは戦争を請け負う軍事会社。
高給だからと、ファーガスがフランキーを誘って民間兵としてイラク戦争に参加。
ファーガスは一足早くイギリスへ帰国したが、
後に残ったフランキーが乗っていた車が“ルート・アイリッシュ”で襲撃されたのだ。

“ルート・アイリッシュ”とは、バグダッド市内の米軍管轄地域(グリーン・ゾーン)から
バグダッド空港まで続く片道約12kmの道路のことで、
ここを走る車はテロの標的になりやすく、世界一危険な道と呼ばれている。
フランキーは何度もこの道を往復させられていたらしく、
葬儀のさいに弔問に訪れた会社が言うには、「悪いときに悪い場所へ」。
フランキーの死は不運以外のなにものでもないと。

しかし、フランキーが亡くなる前に、
ファーガスにこっそり渡してほしいと仲間に託したのが携帯電話。
それがフランキーの助手を務めていたイラク人の携帯であることがわかり、
ファーガスはイラク出身の音楽家ハリムにメール等の翻訳を依頼。
うちひとつの動画に同僚が民間人を射殺するシーンが含まれていたことから、
事実隠蔽のためにフランキーは殺されたのではないかとの疑念が浮かび……。

会社は安価で雇った労働者を民間兵として派遣する。
けれども会社が安価だと感じる給料は、労働者が飛びつくにはじゅうぶんな高給。
戦争は外注されて民営化され、戦うのは自分の給料のため。
顧客を守るためならば民間兵は何をしても罪に問われることなく、好き放題。
自分たちの暮らす場所でよそから来た民間兵に無茶苦茶されたらどうなるか。
もともとは中立の立場だった人たちがアルカイダに協力的になる。衝撃的です。

世界一危険な道だから“ルート・アイリッシュ”、なんだかピンと来ないのですが、
同監督の『麦の穂をゆらす風』(2006)を観ると、そりゃそうだと思えます。
ついでに、石持浅海の推理小説『アイルランドの薔薇』は、
南北アイルランドの統一を謳う人物が宿屋で殺される事件が起きます。
登場人物の国籍がいろいろで、日本人の科学者が活躍しますが、
アイルランドの和平問題もわかりやすく説明されていて唸りました。

しかしこの監督、今まで顔写真を見たことがなく、
勝手にいかついおっちゃんを想像していたら、なんだかとっても優しそう。
なのにこんな作品とは。熱いなぁ。
—–

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次