『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』
監督:石原立也
声の出演:長縄まりあ,田村睦心,桑原由気,高田憂希,高橋ミナミ,杉浦しおり,小野大輔,中村悠一,加藤英美里,石原夏織,立木文彦,島﨑信長,小林幸子,高橋伸也,田所あずさ他
ほかに観るものがなくなったので、人気漫画だという原作もTVアニメ版も何も知らずに観に行きました。『月刊アクション』に2013年から10年以上連載された後、『漫画アクション』にて昨夏から連載中の同名シリーズ初の劇場版とのこと。原作者の名前がクール教信者って何なのよ、怪しさ満開じゃあないかと思いつつ109シネマズ大阪エキスポシティへ。そうしたら、ちょっと信者になりそうなぐらい気に入ってしまいました。
一見幼い女の子、中身もそうだけど、その実ドラゴンのカンナと同居しているOLの小林さん。小林さんの家にはもうひとり、カンナよりもずっと大人の女性ドラゴン、トールもいます。なぜにドラゴンと小林さんが一緒に暮らすようになったのか、まったくの初見の私は知らんけど、何か事情があるのでしょう。当たり前か。(^^;
ある日突然、カンナをほったらかしにしていたお父さんドラゴンのキンムカムイが、魔法使いのアーザードと共に小林さん宅に来訪し、その昔カンナが壊した龍玉を返すように言います。壊したものをどうやって返せばいいんだという疑問に対し、壊した龍玉はカンナの体内に取り込まれているからカンナが再生することができるのだと。アーザード曰く、ドラゴンの世界では戦争勃発の危機を迎えていて、龍玉があれば確実に勝てるらしい。
戦争に加勢するのは嫌だと考える小林さん。しかし、トールやその仲間のイルルが言うには、ドラゴンの世界は言っちゃなんだけどもう自分たちには関係のないことだし、カンナにそのつもりがあるならば、龍玉だけ渡してハイさよならでいいんじゃないのと。ずっとお父さんを恋しく思っていたカンナは、父親に褒められたくて龍玉を作ることにします。
って、書いてみたけど、合っていますか。タイトルが“メイドラゴン”となっているところを見ると、小林家でメイドの役目を果たしているトールがシリーズの主役なんですかね。とすると、これはスピンオフなんですかね。
カンナやトール、イルルたちがドラゴンであることを小林さんを除く人間たちが知っているのかどうかは本作を観てもわかりません。隠しているふうでもないけれど、人間と一緒にいるときに尻尾が出ちゃうなんてこともないし、ドラゴンだとわかってつきあっているのかしら。私には謎のまま。カンナには才川さんをはじめとする友達もいっぱいいて、学校が楽しくてたまらない。
ドラゴンには人間の気持ちはわからない。親が子を思う気持ちを理解するのは無理。けれど酒の美味しさはわかるところなんて笑ってしまいました。小林さんたちと一緒に暮らすカンナはちゃんと人の気持ちを持っているがゆえに、お父さんがお父さんらしく子どもを愛してくれないことが寂しくてたまりません。カンナがあまりに健気で可愛いから、泣かされてしまいます。
すべてはドラゴンに恨みを持つアーザードが仕組んだこと。コウモリのように振る舞ってドラゴンたちを戦わせ、殲滅してしようとしていたのでした。アーザードはドラゴンが誰かを助けるなんてことはあり得ないと思っていたのに、カンナとトールのために人間界にいたドラゴンたちが力を貸します。そして、小林さんも決してドラゴンを見捨てない。
京都アニメーションが事件に見舞われてから丸6年が経過しました。本作のTVアニメ版は、事件後アニメ制作を再開した初の作品となるそうです。知らないからってスルーしなくてよかった。
『韓国ミュージカル ON SCREEN エリザベート』
『韓国ミュージカル ON SCREEN エリザベート』
演出:パク・ジェソク
出演:オク・ジュヒョン,イ・ヘジュン,イ・ジフン,ギル・ビョンミン他
先月の三連休の中日、NGKの夕方の回を取っていました。その前に何か観るものはないだろうかと物色。なにしろどこの劇場も『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』一色で、それ以外にかろうじて上映している作品はほとんどすでに観たものばかり。と思ったら、あら、こんなのがあるじゃあないか。韓国映画はずっと前から好き、K-POPにハマったのはごく最近(といってもほぼBTSのみだけど)、でもミュージカルは知らないよ。観てみることにしようと、大阪ステーションシティシネマへ。
すっごい人気なんですね。観ようと決めたのがオンラインチケット販売開始の日の朝。21:00に発売だと知って映画のハシゴの合間にちょうど買えるやと思っていたのに、買うのを忘れる。帰宅した深夜に思い出して慌てて購入しようとしたら、えっ、もう最前列しか残っていないのですけれど。ナメていてすみません。最前列の端っこ席を押さえました。
「ブロードウェイとは異なる作風のミュージカルを」という想いで始められたウィーンミュージカル。その代表作品がこの『エリザベート』なのだそうです。ミヒャエル・クンツェが脚本と歌詞、シルヴェスター・リーヴァイが作曲と編曲を担当し、初演は1992年にウィーンにて。日本では1996年に宝塚歌劇版、2000年に東宝版の公演がおこなわれて今も大人気。韓国ではパク・インソン、キム・ムンジョン、クォン・ウンアが韓国語の作詞をして2012年に初演、その後も繰り返し上演されているとのこと。本作は2022年の公演版で、2024年に映画館にて公開された作品。
オーストリア皇妃エリザベート(オク・ジュヒョン)を暗殺したとされるルキーニ(イ・ジフン)の語りによって話は進められます。100年前のことだというのに今もまだ暗殺の動機を厳しく問い詰められるルキーニが、エリザベート自身が望んだことであり、彼女は“死(トート)”(イ・ヘジュン)とこそ愛し合っていたのだと答えます。
舞台は19世紀半ばへと遡る。オーストリア皇帝フランツ(ギル・ビョンミン)のもとへと嫁いで皇后となったエリザベートを待っていたのは、フランツの母親で皇太后のゾフィー(ジュア)との確執。どこへ行こうが自分は自分、いつまでも自由でありつづけられると思っていたのに、皇太后がそんなことを許さない。娘が生まれると勝手に自分と同じゾフィーという名前をつけるわ、エリザベートに子どもの世話をさせないわ。
このまま皇太后の言いなりになるものかと誓うエリザベートは、自分をハンガリー遠征に同行させたいならば皇太后から娘を取り返すことが条件だとフランツに言い、フランツもそれを飲みます。嫁が姑に勝利した初めての瞬間ではありますが、娘が病死してしまう。悲しみの淵に立つエリザベートは、やがて息子ルドルフを授かるも、またしても姑に息子を取り上げられることになってしまうのでした。
『エリザベート1878』(2022)を観るまではエリザベートなる人がどういう人なのかもよく知らなかったほどですから、どこ版のミュージカルも未見でした。観るまではなんでこんなに人気があるのと思っていましたが、これは面白いですねぇ。当たり前のことですが、キャストはみんな歌が上手い。ルキーニは観客を楽しませる役目も担っていて、手の届きそうなところまで降りてきてくれる。みんな舞台化粧ゆえ素顔が男前かどうか知らんけど、たぶん男前でしょ!? ルドルフ役のチャン・ユンソクを調べたところ、アイドル顔♪
途中10分間の休憩を挟み、とても楽しかった3時間弱。ほかの演目もぜひ観たい。
『ロスト・チルドレン』【リバイバル上映】
『ロスト・チルドレン』(原題:La Cite des Enfants Perdus)
監督:ジャン=ピエール・ジュネ,マルク・キャロ
出演:ロン・パールマン,ジュディット・ヴィッテ,ドミニク・ピノン,ダニエル・エミルフォルク,ジュヌヴィエーヴ・ブリュネ,オディール・マレ,ジャン=クロード・ドレフュス,セルジュ・メルラン,ジョセフ・ルシアン他
声の演出:ジャン=ルイ・トランティニャン
ナナゲイで『「桐島です」』を観た後、シアターセブンで『還暦高校生』を観て、再びナナゲイに戻ったら大盛況。この混雑ぶりは何故かと思ったら、『事実無根』の舞台挨拶がおこなわれるところだったようで。『還暦高校生』を観るよりそっちのほうがよかったかもしれませんが(笑)、『事実無根』は4カ月以上前に京都で鑑賞済みだったもので。ナナゲイのロビーにて本を読みながら本作の開場まで静かに待つ。
ジャン=ピエール・ジュネ監督、大好きです。代表作は『アメリ』(2001)ということになるのでしょうが、私は『デリカテッセン』(1991)とこの『ロスト・チルドレン』(1995)のほうがずっと好きで、DVDも持っています。けれど、劇場で観たことはもしやなかったのではないかと思い、このたびのリバイバル上映に飛びつきました。4Kレストア版を上映している劇場があるようですが、ナナゲイでは残念ながら2K版の上映。「残念ながら」と言っても、そこに歴然とした差があるのかどうか私にはわからんし、本作を劇場で観られるならそれでいいのだ。
幼い子どもが一つ目の強盗団に誘拐される事件が頻発。カーニバルで怪力の見世物に出演していた大男ワンも、幼い弟を連れ去られる。強盗団は子どもたちを海上の石油掘削装置につくられた隠れ家に住まう男クランクに売っていた。科学者に創造されたクランクは、夢を見ることができないせいで異様に速く老化が進み、老化を止めるためには子どもたちから夢を盗まねばならないと考えている。隠れ家にはクランクのほか、やはり科学者に造られた同じ顔の6人の男と小さな女、そして水槽のような容器に入れられた脳だけの男アーヴィンが共に暮らしているが、創造主の科学者が姿を消したため、どうにもできずにいるのだ。弟を探すワンは、ちびっこ窃盗団のリーダー的存在である少女ミエットと出会う。なりゆきで一緒に行動することになったふたり。
知的障害のあるワンと、見た目はまだ子どもでもワンよりずっと精神年齢の高いミエット。彼女はワンのことを放っておけなくなります。ダニエル・エミルフォルクはその容貌がこれ以上ないほどクランクにぴったりでコワ面白い。科学者と6人のクローンを演じるドミニク・ピノンが今も健在なのは嬉しいこと。同じく、ワン役のロン・パールマンも変わらないですよねぇ。ミエットを演じたジュディット・ヴィッテが凄い美少女なんですが、彼女は今どうしているのでしょう。食べることにしか興味がなくてゲップが可愛すぎる弟役ジョセフ・ルシアンのその後も気になります。
この世界観はいま観てもすごい。何度でも観たい作品です。
『還暦高校生』
『還暦高校生』
監督:河崎実
出演:ひかる一平,直江喜一,石田泰誠,戸苅ニコル沙羅,森井信好,長谷摩美,笑福亭鶴光,古谷敏他
このタイトルだし、監督は河崎実だし、観ても大丈夫だろうかという不安が走りました。河崎監督といえば『いかレスラー』(2004)ですからね。しかも主演はひかる一平と来た。えっ、この人まだ役者をしてはったんですか。ひかる一平と聞いて思い出すのは、私が中学生だった頃。『3年B組金八先生』の第2シリーズの放映中で、一番人気の生徒は当然沖田浩之。ヒロくん以外で誰が好きかなんて決める必要もないのに、同級生たちから「ひかる一平にしとき」と言われた私はなぜかひかる一平ファンということにされてしまいました。全然タイプちゃうっちゅうねん。しかしまさかヒロくんがまだ30代で自殺してしまうなんて、あのころ誰が想像したことでしょう。悲しい事件でしたね。
で、まぁ、懐かしさもあって、ナナゲイで『「桐島です」』を観た後、1階下のシアターセブンに移動したのですけれども。もう苦笑いするしかない。わはは。
産休に入った教師の代替で星雲学園に着任した野々山(石田泰誠)にとって「青春」はかけがえのないもの。青春を体感してほしいと生徒にも同僚教師たちにも熱く語る。それを鬱陶しがる不良生徒と殴り合いの喧嘩になっても「青春」だけは譲れない。
彼が担任することになった3年B組には42回ダブって今年還暦を迎えるという高校生・椎名(ひかる一平)がいた。不良の巣窟となっているサッカー部をなんとかしようと顧問に就任した野々山は、その昔、椎名がサッカー部のエースだったと聞き、もう一度サッカーをしようと椎名を誘うのだが……。
茶番すぎてあらすじもどう書けばいいのか困ってしまいました。けれど、『3年B組金八先生』へのオマージュといえばオマージュで、パロっているシーンがいっぱい。そもそも役名からしてそうなんです。女子生徒の名前は三原だし、椎名のかつての同級生で今はとある設備会社の部長役を演じる直江喜一の名前は伊藤。これは彼が当時演じた加藤をもじってものでしょう。伊藤のやはり同級生で現在は同校で教師を務める森村(森井信義)が、伊藤のことを「腐ったミカン」呼ばわり。罵り合いになって伊藤は森村を連れて放送室に立てこもる。警察が来て伊藤が連行されるシーンでは、中島みゆきの『世情』が流れることを期待しましたが、それは流れず。ここは絶対「シュプレヒコールの波♪」でしょ。
野々山が椎名をサッカー部に誘うも椎名は拒否。縋る野々山に出した条件は千本シュートを止めること。サッカー部員500本、不良生徒が400本蹴って、その全部を野々山は止めます。野々山より先に生徒たちがへばって、最後の100本は椎名が蹴り、それも全部止めちゃうんだから、凄いわ、野々山先生(笑)。主演はひかる一平というよりは石田泰誠です。
誰も観ないと思うからネタバレしちゃいますが、野々山が頑なにサッカー部への入部を断っていた理由に笑う。彼は人間じゃなくて宇宙人でしたという、抱腹絶倒のオチ。河崎監督らしく、ビジュアルもちゃんと宇宙人になります。ドン引きの展開がもしかしたら『野球どアホウ未亡人』(2023)のようにカルト化する可能性はあるかもしれませんね。ない!?
ところで、本作は「日本橋三越本店の福袋企画の第2弾」とあるのですが、これってどういう企画ですか。この福袋をもらって嬉しいとは思えないけれど、きっと観る人が少ないから、「観ましたよ」と自慢できるかしらん。自慢にならん?
『「桐島です」』
『「桐島です」』
監督:高橋伴明
出演:毎熊克哉,奥野瑛太,北香那,原田喧太,山中聡,影山祐子,テイ龍進,嶺豪一,和田庵,海空,白川和子,下元史朗,甲本雅裕,高橋惠子他
三連休初日、夙川でランチ。ひとりでワインを1本空けた後で映画を観に行けば睡魔に襲われることは間違いないのに、またやってしまいました(笑)。てか、これは私はやめる気ないですよね。ごはんも映画もどちらも好きだから、どちらもハシゴする機会があるならそうしちゃいますよ。起きていられることもあるし、寝たら寝たでええやないかい、いびきかいて他のお客さんに迷惑をかけたりするのでなければ。と、開き直って阪急電車に乗車、十三の第七藝術劇場へ。
桐島聡は新左翼過激派集団“東アジア反日武装戦線”のメンバー。1954年に広島に生まれ、尾道の高校を卒業後、明治学院大学へ進学。そのときに出会った宇賀神寿一らと共に連続企業爆破事件を起こしました。これが1974年の暮れから1975年の春にかけてのこと。1975年5月にメンバーが次々と逮捕されたのをきっかけに、指名手配された桐島は逃亡。49年間に渡る逃亡生活を続けたのち、2024年に末期癌で入院した彼は偽名を使っていましたが、最期に本名を名乗って息を引き取ったそうです。
高橋伴明監督が『夜明けまでバス停で』(2022)と同じく梶原阿貴と共同で脚本を執筆。桐島役に毎熊克哉、宇賀神役に奥野瑛太というクセ大ありの役者を配し、桐島のミューズとなるキーナ役には『春画先生』(2023)の脱ぎっぷりが印象に残っている北香那。偽名を用いて50年近い日々を送った桐島。まさかあのテロ犯だとは知らずに接していたであろう人々に、おそらく高橋監督は丹念な取材を繰り返したのだと思います。その眼差しは温かく、悲惨なだけの逃亡生活だったようには見えません。
ただ、彼の名前を聞いて私がいつも思い出すのはコロナ下のシネ・ヌーヴォで『狼をさがして』(2020)を観たときのこと。死者を出したテロ事件だというのに、上映が終了すると拍手が沸き起こりました。それは作品に対しての拍手というよりも、テロ犯に対する賞賛の拍手に思えて、物凄い違和感に駆られたことを覚えています。最後の「桐島くん、お疲れさま」という言葉にも、そりゃ疲れてもらわにゃと思ったりもするのでした。
人それぞれ主張を持つことは大事。でもその主張の手段として無差別に殺人を犯す心情は理解できません。悔いていたからこそ最期に名乗ったのだと思いたい。