『アイム・スティル・ヒア』(原題:Ainda Estou Aqui)
監督:ウォルター・サレス
出演:フェルナンダ・トーレス,セルトン・メロ,ギリェルミ・シルヴェイラ,ヴァレンティナ・エルサージ,ルイーザ・コゾヴスキ,バルバラ・ルス,コーラ・モーラ,プリ・ヘレナ,フェルナンダ・モンテネグロ他
朝イチに大阪ステーションシティシネマにて『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』を観て、北新地でランチして、テアトル梅田で『ギルバート・グレイプ』→『ヴァージン・パンク/Clockwork Girl』→これ。
『セントラル・ステーション』(1998)や『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2003)のブラジルの名匠ウォルター・サレス監督が同国の軍事政権時代の実話を映画化したのが本作。第97回アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞しました。
1970年、リオデジャネイロのレブロン海岸近くに暮らすパイヴァ一家。下院議員だったルーベンスは、1964年のクーデター勃発時にその職を剥奪されたものの、以降は民間で弁護士としてキャリアを築き、妻のエウニセと5人の子どもたちと共に幸せな日々を送っている。しかし実は政治亡命者の支援活動をおこなっていることを家族には秘密にしている。
軍事政権下で革命運動が起き、各国大使の誘拐事件が頻発。今度はスイス大使が誘拐され、ブラジルは政治的不安定に直面。ルーベンスとエウニセは、長女ヴェロカが学生運動にでも参加しそうなタイプであることを懸念し、ロンドンに亡命した友人夫婦にヴェロカを託すことに。これで安心かと思いきや、年が明けた1971年、パイヴァ家に軍関係者とおぼしき男たちが現れてルーベンスを連行。夫の身を心配するエウニセと次女エリアナも目隠しをされたまま連行された先で厳しい聴取に遭い、エリアナは翌日解放されたが、エウニセは12日間に渡って拘束される。
ルーベンスの所在も生死もわからないまま時が過ぎ、夫不在では銀行から金をおろすこともできない。収入がなくなってやむをえず家政婦のゼゼを解雇。自宅を売却すると、エウニセは子どもたちを連れてサンパウロへと引っ越すのだが……。
連行後すぐに軍関係者によって殺されていたのに、それを決して認めようとしない政府。エウニセが夫の死亡証明書を受け取ったのは、実に25年経った1996年のことだったそうです。いずれ来るこの日のために法律を学んで48歳で学位を収めたエウニセは、被害者遺族への補償を求め、軍事政権下で起きた犯罪の責任を追及。自分のことのみならず、ブラジル先住民についての専門家にもなって、ブラジル連邦政府や世界銀行、国連の顧問に。人間の尊厳を守ろうとしつづけた人生の半分。辛い気持ちが原動力となっていたのか。凄まじい人生です。
認知症の症状が出はじめたエウニセが映し出されたとき、また老けメイクかよと思ったら、それまでのエウニセを演じていたフェルナンダ・トーレスの実母フェルナンダ・モンテネグロがエウニセの老年期を演じていました。メイクじゃなくて本物の母と子が演じ分けていたことにビックリ。なのに私には老けメイクに見えたことにも衝撃をおぼえました。(–;
『ヴァージン・パンク/Clockwork Girl』
『ヴァージン・パンク/Clockwork Girl』
監督:梅津泰臣
声の出演:宮下早紀,小西克幸,田辺留依,和泉風花,八代拓,若本規夫,上坂すみれ他
テアトル梅田にて3本ハシゴの2本目。前述の『ギルバート・グレイプ』の次に。後述の3本目との隙間を埋めるのに最適な短編で、予告編を入れても40分。「昼呑みした後だから30分ぐらい昼寝できるならちょうどいいや、寝よう」てなぐらいのつもりで観に行ったのに、予想外の面白さで寝る隙なし。
梅津泰臣監督は、原作も監督もキャラクターデザインも自ら手がけるオリジナリティに富んだ人。本作はそんな梅津監督とアニメーションスタジオ“シャフト”が共同で映像制作に臨むシリーズの第1弾なのだそうです。10 年ぶりの監督作とのことなのですが、もともと知らないからそのありがたみがわからなくてすみません。海外でも大人気の人だというのに。一方のシャフトといえば、私も知っている“傷物語”等の“物語”シリーズを世に送り出しているアニメ制作会社。脚本を担当しているのは“仮面ライダー”シリーズの高橋悠也だというのですから、面白いですねぇ。
医療用人工人体技術“ソーマディア”(一見普通の人間で、部分的にロボットみたいなもの)が発達した近未来。そのおかげで人類は健康を維持できるようになった反面、ソーマディアを違法改造して悪用する輩も増えていた。違法改造されたソーマディアは報奨金をかけて指名手配され、バウンティハンター(賞金稼ぎ)から追われる身となるが、高度に改造されたソーマディアに対抗することは、生身の人間にとっては至難の業。
かつて児童養護施設にいた神氷羽舞は、善人と信じていた施設長が実はソーマディアで、バウンティハンターによって殺害されるのを目撃。心に傷を負った羽舞は自らを鍛え抜き、生身のまま凄腕のバウンティハンターに成長する。施設長を殺した張本人のバウンティハンター、ミスター・エレガンスはそんな羽舞を捕らえて殺し、ソーマディアとして再生させる。
もともとSFに弱いため、ついて行けていない場合も多々あるのですが、私の理解ではこんな感じ。オープニングで初めて見た絵には「綺麗!」と声が出そうになりました。キャラクターの顔などは好きなタイプとは言えないけれど、とにかく面白い。ミスター・エレガンスがロリコンっぽいのはいただけないとして、ちょっとだけエロいシーン(っちゅうても入浴シーン程度)もあるのは男子ウケしそうだったりもするし、何よりストーリーから目が離せません。第2弾以降、どうなるのか楽しみです。
近場の劇場で公開している間はスルーしていたのに、いざ観てみたら面白いんだから、やっぱり何でも観てみなくちゃ。
『ギルバート・グレイプ』【12ヶ月のシネマリレー 2024-2025】
『ギルバート・グレイプ』(原題:What’s Eating Gilbert Grape)
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:ジョニー・デップ,ジュリエット・ルイス,メアリー・スティーンバージェン,レオナルド・ディカプリオ,ダーレン・ケイツ,ローラ・ハリントン,メアリー・ケイト・シェルハート,ジョン・C・ライリー,クリスピン・グローヴァー,ケヴィン・タイ他
北新地でボトルワインを1本空けるランチの後、テアトル梅田に向かって映画を3本ハシゴしました。1本目がこれ。
「煌めくような名作・感動作を12ヶ月連続で上映するプロジェクト〈12ヶ月のシネマリレー 2024-2025〉第10弾!」とあるのですが、こんなプロジェクトがあったことすら知らなくて。ラインナップに挙がっている作品タイトルを見ると、そういえばテアトル梅田の上映スケジュールを過去に確認したときに「こんなののリバイバル上映があるんだ」と思った記憶があります。『ヴァージン・スーサイズ』(1999)は観たいと思っていたのに観逃し、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015)や『ローガン・ラッキー』(2017)は私の中では割と新しい作品だから、わざわざいま上映するのはなぜ!?と思ったような。
そんな中にあって本作は絶対もう一度劇場で観たいと思いました。スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム監督のハリウッド進出第2作で、1993年の作品。当時19歳だったレオナルド・ディカプリオが第66回アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされて大きな話題に。彼の演技は本当に素晴らしくて、どえりゃー俳優が出てきたものだと思ったものです。
アイオワ州の小さな町に暮らすグレイプ一家。父親が自殺したのをきっかけに心が壊れた母親ボニー(ダーレン・ケイツ)は過食症を患い、この17年間で身動きできないほどに太った。そんな母親を気にかける長男のギルバート(ジョニー・デップ)は次男で知的障害を持つアーニー(レオナルド・ディカプリオ)の世話で手一杯。長女のエイミー(ローラ・ハリントン)は勤めてい仕事を辞めて家事全般を担い、次女で高校生のエレン(メアリー・ケイト・シェルハート)は反抗期まっただ中で毎日に不満あり。家族を置いて行くことはできず、一度も町から出たことのないギルバートだったが、ある日、トレーラーで旅をする女性ベッキー(ジュリエット・ルイス)と出会い……。
やっぱり良い映画だなぁとしみじみ思う。いまやすっかりキワモノ役が多くなったジョニー・デップのこんな普通の役がもっと見たくなる。トレーラーが通るたびに無邪気に喜び、警鐘塔にのぼっては警察から厳しく注意されるアーニーを演じるレオナルド・ディカプリオを見ていると、今の骨太っぷりが信じられないほど繊細で、この人は天性の役者なのだと思います。
今のデップとディカプリオしかご存じない人がいたら、これは必ずご覧いただきたい作品です。
『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』
『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』(英題:You Are the Apple of My Eye)
監督:チョ・ヨンミョン
出演:ジニョン,ダヒョン,ソン・ジョンヒョク,キム・ヨハン,イ・ミング,イ・スンジュン,キム・ミンジュ,パク・ソンウン,シン・ウンジョン他
北新地で昼呑みの前に1本。大阪ステーションシティシネマにて。
ギデンズ・コー監督の台湾作品『あの頃、君を追いかけた』(2011)は山田裕貴主演で日本でも2018年にリメイクされました。作品自体も大好きでしたし、この邦題は秀逸だと思っていたので、どこ版リメイクも同じ邦題でよかったんじゃないのという気がしなくもない。オリジナルとこの韓国版リメイクの英題は同じですから。ちなみに英題の“You Are the Apple of My Eye”の意味は「あなたは私の大切な人」。これが邦題だとしたら駄目ですよね。それに比べると『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』でよかったかなと思います。同じ邦題の作品がいくつもあったら、それはそれでややこしいし。
監督はこれが長編デビュー作となるチョ・ヨンミョン。主演はK-POP男性アイドルグループ“B1A4”のジニョンと女性アイドルグループ“TWICE”のダヒョン。ジニョンが『僕の中のあいつ』(2018)で主演したさいに父親を演じたパク・ソンウンが本作でも父親役。こう何度も親子役を演じられると、本当の親子に見えてきます(笑)。ジニョンファンなのかダヒョンファンなのか、お盆休み中の朝イチの回から大入り。あ、私の場合はお盆休みではなくて全館停電の日でした。
高校生のジヌ(ジニョン)は勉強が嫌いで悪友たちとバカばかりやっている。男子高校生の三大欲のうち、食欲しかないドンヒョン(キム・ヨハン)、睡眠欲のみのビョンジュ(イ・スンジュン)、いつも勃起しているテワン(イ・ミング)。シュッとしたソウルからの転校生ソンビン(ソン・ジョンヒョク)は彼らに冷ややかな視線を送るも、なんだかんだで一緒につるんでいる。彼らが一様にして恋い焦がれているのが同級生のソナ(ダヒョン)。ソナに興味のないふりをしているジヌも、本当はソナのことが気になって仕方がない。学級委員で優等生で美人のソナは誰も手を出せないマドンナだが、彼女のおちゃらけた親友ジス(キム・ミンジュ)のおかげでかろうじて友人でいられる。
こんな彼らの何年間かを描いています。なんちゅうことはない物語なのに、ニヤニヤしたりしんみりしたり、そうだよね、青春ってこういうものだよねと思わされる。好きなだけでは上手く行かない恋。これを観て自分の初恋を思い出す人も少なくないのではないでしょうか。
オリジナルを観たのが2013年、日本版リメイクを観たのが2018年ですから、オチを忘れていました。観て思い出す、私がこのシーンをどれだけ好きだったかを。アホやろと笑いながら切なくてウルッとするシーンです。きっとどこの国でリメイクしても切ない。初恋ってそんなもの。
そうそう、みんなが夢を語るとき、ジスがアイドルになってチョン・ウソンの彼女になりたいという台詞にも笑った。今も昔もチョン・ウソンはカッコイイもんなぁ。
『キムズビデオ』
『キムズビデオ』(原題:Kim’s Video)
監督:アシュリー・セイビン,デヴィッド・レッドモン
テアトル梅田にて、前述の『鯨が消えた入り江』の次にこんなドキュメンタリー作品を。
子どもの頃にチャップリンを観て映画が大好きになった韓国人キム・ヨンマン氏は、アメリカンドリームを求めてニューヨークへ。クリーニング業で財を成し、レンタルビデオ店“キムズビデオ”を開業します。そこには世界中で収集した55,000本に及ぶ映像作品が取り揃えられ、多くの映画ファンたちが日夜通いつめる有名な店に。しかし、配信が主流になってレンタルビデオの時代は終焉。キムズビデオは惜しまれつつも2008年に閉店したそうです。
あの膨大な数のビデオはその後いったいどうなったのだろう。ふとそう考えたのが、キムズビデオの会員だったデヴィッド・レッドモン。ビデオの行方を調べてみると、シチリア島の村サレーミに丸ごと移設されていたことがわかりました。村あげての事業で受け入れられ、住民たちに開放されることになっていたらしい。
ところが、あのコレクションを再びこの目で見たいとサレーミを訪れてみると、雨漏りするような部屋で埃をかぶったビデオの山。このビデオたちは救出されたいと思っている。そう感じたデヴィッドは、もう一度このコレクションが日の目を見るようにしようとあの手この手を考えます。
さすがシチリアと思って笑ってしまったのが、この村に移設することになったのもマフィアとの癒着が疑われる政治家が絡んでいそうだということ。ビデオだよビデオと思うけど、イメージアップのためには何でも利用されるのですね。
どうやって取り返すのだろうと思ったら、最終的には強奪(笑)。とにかくビデオが保管されている部屋に入れないことにはどうにもできないから、この村で映画を撮りますよと偽って、市長から入室の許可を取り付ける。そしてエキストラのふりをして入室すると、コレクション丸ごと箱詰めしてどんどんトラックに積むという荒技。サレーミに移設したのは失敗だったと思っているキム氏も、一旦譲渡してしまったのだからと取り返すことをあきらめていましたが、まさかキムズビデオのファンが盗みを働いてまでコレクションを取り戻してくれるとは驚いて笑うしかない。体裁を気にするサレーミ市長は、自分たちがいかに寛容な心の持ち主で、返還に協力的だったかを公にしてくれればそれで良いんだそうで。(^^;
『市民ケーン』(1941)だとか『ビデオドローム』(1982)だとか、出てくる映画は数知れず。こんなことがあったんだと驚くとともに、そのハッピーエンドが映画ファンなら嬉しくなる作品です。