『盤上の向日葵』
監督:熊澤尚人
出演:坂口健太郎,佐々木蔵之介,土屋太鳳,高杉真宙,音尾琢真,小野桜介,ジエン・マンシュー,高川裕也,永岡佑,片岡礼子,橋本淳,吉澤健,吉見一豊,平埜生成,柄本明,渡辺いっけい,尾上右近,木村多江,小日向文世,渡辺謙他
109シネマズ箕面にて。
原作は柚月裕子の同名ベストセラー小説。何年も前から積読の山の中にあるのですが、上下巻に恐れをなして着手を先延ばしにするうちに映画公開となってしまいました。監督は『虹の女神 Rainbow Song』(2006)や『おと・な・り』(2009)の熊澤尚人。若手人気俳優を起用して青春ものや恋愛ものを撮る人だと思っていたのに、『ユリゴコロ』(2017)の辺りからちょっと重めの作風に変わってきた気がします。
埼玉県の山中で死後3年半ほど経過した白骨死体が発見される。身元を示すものは何もなく、唯一の手がかりは遺体と一緒に埋められていた将棋の駒。それは希少な駒で時価600万円相当、所有者は数えるほどしかいない。かつて棋士を目指していた刑事・佐野直也(高杉真宙)は所有者を突き止め、上司の石破剛志(佐々木蔵之介)と共に聴き込みを始める。
このとき将棋界に彗星のごとく現れたのは、奨励会に所属することもなく独学で将棋を学んだらしい天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)。白骨死体はもう1体、長野県でも発見されたとの連絡を受けた佐野と石破は、両事件のどちらも桂介と関わりありと見る。一方の遺体は真剣師(将棋や麻雀などテーブルゲームの賭博で生計を立てる者)・東明重慶(渡辺謙)、もう一方は桂介の父親・上条庸一(音尾琢真)だったからで……。
幼い頃に母親を亡くし、父親と二人暮らしだった桂介は、食事も満足に与えられず、虐待を受け、新聞配達をして作ったお金はもちろんすべて庸一に巻き上げられていました。配達先の唐沢家の軒先に古紙回収品として出されていた将棋の雑誌に目を奪われ、時折抜き取るように。それを知った唐沢光一朗(小日向文世)とその妻・美子(木村多江)は桂介を家の中に招き入れ、将棋を教えはじめます。
少年期の桂介を演じる子役の小野桜介がとてもいい。こんな父親、放っておけばよいのにと思うけれど、酷い父親でも見捨てられないんですね。それにしても音尾琢真はいつもながらのクズっぷり。こんな役が多いせいで、彼が善人役を演じていると驚いてしまうことがあります(笑)。
将棋に詳しくないので、それぞれの将棋のシーンがどれぐらい凄いのかはわかりません。見応えあるのでしょうか。また、ラストはちょっと弱いように思うのですが、どうですか。これは捕まることは避けられないだろうし、それでも棋士として生きて行くにはどうすりゃいいのか。拍子抜けした感はあるけれど、相対的には面白かったです。この気持ちのまま原作を読まねば。
そうそう、佐々木蔵之介の演技がオーバーすぎると思いましたが(彼のことは好きですよ)、6年前に本作がNHK BSプレミアムでドラマ化されたときは大友康平が演じていたそうで、そりゃたぶんどっちにしてもオーバーだな。(^^;
『2021 BTS MUSTER SOWOOZOO』【4Kリマスター特別編集版】
“BTS MOVIE WEEKS”の第1弾は『2016 BTS Live 花樣年華 On Stage : Epilogue』、第2弾は『2017 BTS LIVE TRILOGY EPISODE III THE WINGS TOUR THE FINAL』、第3弾は『2019 BTS WORLD TOUR ‘LOVE YOURSELF: SPEAK YOURSELF’ LONDON』でした。ついに最後の『2021 BTS MUSTER SOWOOZOO』。「4Kリマスター特別編集版」とあるけれど、109シネマズ箕面では2K上映です。どれくらい差があるものなのかは知らず。2Kでもじゅうぶん綺麗だし、BTSを大画面で観られたらそれで良し。
これはコロナ下に無観客でおこなわれたライブなのですね。野外ステージのまわりに設けられた多数のモニターにARMYが映し出され、歓声も聞こえます。“Butter”や“Dynamite”も含み、4作品の中では私が知っている曲はいちばん多い。コロナですべての娯楽が封じられていた時期を思うと、このライブにどれだけたくさんの人が励まされたことかと思います。
作品としていちばん好きだったのは第3弾かな~。とにかくジョングクがかわいかったから。もう1回上映してくれたらまた観に行くのですけれど。楽しい映画週間をありがとう!
『てっぺんの向こうにあなたがいる』
『てっぺんの向こうにあなたがいる』
監督:阪本順治
出演:吉永小百合,のん,木村文乃,若葉竜也,工藤阿須加,茅島みずき,和田光沙,円井わん,安藤輪子,中井千聖,長内映里香,三浦誠己,金井勇太,カトウシンスケ,森優作,濱田マリ,浅見小四郎,天海祐希,佐藤浩市他
文化の日。三連休最後の日はおとなしくしていようと思いましたが、同窓会があったせいで老健に入所中の父に面会していないし、行っておこうかと家を出発。そうしたら当然映画も観て帰ろうということになるわけで。109シネマズ箕面にて2本ハシゴの1本目。
女性として世界で初めてエベレスト登頂に成功した登山家・田部井淳子の人生を阪本順治監督が映画化。「実話を基にしたフィクションです」とのテロップが出ます。ゆえに登場人物の名前も微妙に変更されています。
女性登山家・多部純子(のん)は夫・正明(工藤阿須加)にまだ幼い娘と家庭のことを任せ、女性ばかりの登山隊を組んで隊長としてエベレストへ向かう。新聞社から取材に訪れていた北山悦子(茅島みずき)もせめてベースキャンプまでは行ってみたいと同行。途中、雪崩に見舞われたり、シェルパが下山してしまったりして多難を極め、酸素ボンベの残量から考えると登頂を目指せるのは誰かひとりだけ。純子か岩田広江(円井わん)のどちらが果たすかということになり、結局、純子が登頂する。
帰国後、純子はマスコミの取材攻勢に遭い、自分ひとりで成し遂げたことではないと強調するも、世間の注目は純子のみに向いたことから、それを快く思わない仲間たちと決裂する。唯一、純子と交流が続いたのは悦子のみ。
月日が経ち、体調に少々異変を感じた純子(吉永小百合)は、正明(佐藤浩市)に付き添われて病院へ。検査の結果はステージ3の癌で、余命3カ月を告知されるが、純子は自分が3カ月で死ぬわけがないと断言。告知の直後には悦子(天海祐希)を誘って山へ。以後も何年もの間、山に登り続けながら生きて……。
良い話には違いないのですが、吉永小百合の主演作品ではついつい辛口になる私を許してください、サユリストの皆さん。そもそも彼女が何歳の設定なのかがわからなくて戸惑うのです。実年齢は80歳ですよね。夫役の佐藤浩市は64歳。確かに彼女はいつになっても美しいし、80歳には見えないけれど、青年期役ののんは32歳で工藤阿須加は34歳。これがまったく違和感なしなのに対し、80歳だと誰もが知っている吉永小百合がつまり佐藤浩市とほぼ変わらぬ年齢の女性を演じているのだと思うと「うーむ」となってしまうのです。なにしろ阪本監督は『北のカナリアたち』(2012)で彼女の恋の相手に仲村トオルを起用していますし、とことん「吉永小百合は若い」なのでしょう。滝田洋二郎監督は『北の桜守』(2017)で吉永小百合に30代ぐらいの役を演じさせていましたし、ホンマにどないなっとるねん、60代の男性監督たち。みんな吉永小百合教徒としか思えません。(^^;
純子の娘役の木村文乃、息子役の若葉竜也、よかったです。あと、最近とにかく脇役でよく見かける和田光沙が気になります。あ、息子の転校先の高校教師を演じたカトウシンスケと悦子の上司を演じた三浦誠己もあいかわらず味がありますね。そしてこれが「盛った話」ではないのであれば、田部井淳子の夫は凄い。献身的とはまさにこのこと。
個人的には吉永小百合のせいでなかなか素直に観られない部分がありますが、万人受けする作品だと思います。
『スーパーミキンコリニスタ』
『スーパーミキンコリニスタ』
監督:草場尚也
出演:高山璃子,松川星,芝崎唯奈,今村輝大,金時むすこ,jinmenusagi,一條恭輔,宮川浩明,櫻井美代子,飯田圭子他
前述の『スノードロップ』の後、1階下のフロアのシアターセブンに移動して。
2020年の作品のリバイバル上映です。スルーしかけていましたが、今夏に観た『雪子 a.k.a.』がとてもよかったので、草場尚也監督のデビュー作である本作も観ておきたいと思いました。2019年度のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワードで日活が授けるジェムストーン賞とホリプロが授けるエンタテインメント賞の2冠に輝いたそうな。当時、映画の助監督やTVのAD務めていた草場監督が、現場で見たエキストラという存在に心を動かされて撮った作品という触れ込みです。
演劇部員だった頃、『ロミオとジュリエット』のジュリエットを演じた夢島美樹(高山璃子)は、ロミオ役だった憧れの先輩・林俊一郎(今村輝大)と再び共演する日を夢見て女優になると決めた。しかし25歳を迎える今もエキストラ俳優止まり。純喫茶でバイトしつつ“ミキンコリニスタ”を名乗り、日々SNSを更新して撮影会などを企画するも、やってくるファンは片手ほどの数。一方の俊一郎は“リンシュン”という芸名で今ではスター。
エキストラのくせして大物女優気取りの美樹は現場でいろいろやらかす。カフェの客役のときはパソコンの上にドリンクをぶちまけるわ、ヒロインの控え室に偉そうに入るわ。それでもなんとかエキストラの役は得ていたのに、ある日、何の撮影か知らずに行った現場に俊一郎が現れ、動揺したミキは体調不良を理由にトンズラ。そのせいで所属事務所をクビに。
これを機に芸名をバージョンアップ、“スーパーミキンコリニスタ”と名乗りはじめたミキは、数少ないファンのうちのひとり・伊良林邦夫(金時むすこ)から稼ぐ方法を教えられ、撮影会に勤しむ。そんな折、同じく女優を目指すエキストラの後輩・鈴村瞳(松川星)からオーディションの話があると聞き……。
いや〜、このヒロインは相当イタイです(笑)。勘違いぶりが鼻についてイライラさせられっぱなし。別に可愛くもないのに(と通りすがりの小学生男子から言われる)まるでスターのふるまい。現場で一緒になった瞳に女優の心得をレクチャーするのも聞いていられないほど。だって明らかに瞳のほうが可愛いし。ま、でも、かわいけりゃ売れるってこともないですもんね。似たようなタイプの美人よりも、この美樹のような顔立ちのほうが印象に残って良いのかもしれません。
最終的に美樹が売れっ子になるという話ではありません。映画の中の現実も厳しい。ただ、撮影会にかまけておばあちゃん危篤の報せにも帰郷せずにいた美樹が、荷物をいっぱい抱えて歩く見知らぬ老婦人に声をかけるところはいい。その先に打算が入るのは笑っちゃいましたけれども。イライラしたけど楽しかったかな。
『スノードロップ』
『スノードロップ』
監督:吉田浩太
出演:西原亜希,イトウハルヒ,小野塚老,みやなおこ,芦原健介,丸山奈緒,橋野純平,芹澤興人,はな他
高校の学年同窓会で司会を務めた翌朝、気が張っていたからかいつもより数時間遅くに目が覚める。わりとへろへろ。この日の晩は小学校の同級生たちと会う予定で、その前に映画を観に行くのは無謀かと思ったけれど、なんか大丈夫そう。十三へ向かい、第七藝術劇場にて監督と主演女優の舞台挨拶付きの回を鑑賞しました。実在した一家をモデルとしているそうです。
1998年。葉波直子(西原亜希)が帰宅すると、めったに実家に寄らない姉・内藤加也子(丸山奈緒)が来ていた。何事かと思えば、何十年も前にまだ子どもだった直子と加也子を残して蒸発した父親・栄治(小野塚老)がテーブルに着いているではないか。ここに戻りたいと言う栄治のことを加也子は絶対に受け入れられないと憤るが、母親・キヨ(みやなおこ)は栄治と暮らしたいと主張。キヨがそうしたいと言うなら別にかまわないと、直子は受け入れることに。
それからしばらく経ち、キヨが体を壊して寝たきりのまま認知症に。直子はキヨの介護のために仕事を辞めざるを得なくなる。栄治は新聞配達で生活費を稼いでいたが、痛風が悪化して動けなくなる。葉波一家を心配する新聞店のオーナーから生活保護を申請したほうがいいと言われ、直子はおそるおそる市役所へ。担当となったケースワーカー・宗村幸恵(イトウハルヒ)は親身に対応してくれて、スムーズに申請の手続きが進むが……。
生活保護が受給できないという話なんだろうなと思いながら観ていたら、それにしては申請がトントン拍子に運ぶ。葉波一家は受給の資格をじゅうぶんに満たし、生真面目な直子が記入する申請書は完璧で、必要な書類も漏れなく迅速に揃えます。いろんな申請者を見てきた宗村は、そつなくかつ控えめな態度の直子に逆に感謝するほど。宗村の同僚・吉岡(芦原健介)は宗村が葉波一家に肩入れしすぎなのではとちらり思っていたけれど、訪問審査で宗村に同行してみてなるほどこりゃ当然だと思い直します。それぐらい直子はきちんとしていて、この人をなんとか助けなければと思わせるんですよね。
この先ネタバレです。
滞りなく審査が終わり、受給まであと少しというところだったのに、栄治がキヨを連れて死のうと思うと言い出す。そして直子にも一緒に死んでくれるかと聞く。その問いに躊躇なく「いいよ」と答える直子。なぜここまで来て死のうと思うのか。直子の車で川に突っ込み、心中を図る3人。栄治とキヨは命を落とし、生き残った直子は自分が故意に両親の手を放したからだと証言。言い訳などひとつもしません。
事務手続きのために直子に面会した宗村に訥々と直子が話す胸の裡。きちんとしているように見えても、介護前の事務職ではミスもやらかしてきました。人づきあいも上手くない。とことん自信を持てない彼女にとっては母親の介護がすべてだった。生活保護を受給して介護サービスも受けられるようになれば、自分は仕事に出なければいけなくなる。不正に生活保護を受給しようとする人もいるなか、真っ当に受給を認められたら自分の居場所がなくなると考えているのです。これ以上みじめにはなりたくないと。それをきっと両親もわかっているから一緒に死のうと言ったのだと。生活保護を受給すべき人が受給できないという現実がいちばんつらいことかと思っていたのに、受給できることになったがゆえにこんなに追い込まれる人もいるんだと、言葉をなくしてしまいます。
舞台挨拶で話を聴かなければわからなかったことがあります。冒頭、3人の少女が映し出され、1人はバイバイと手を振って出て行く。これは本来3人姉妹だったのに、栄治が蒸発したせいでシングルマザーとなったキヨは、ひとりで3人もの娘を育てるのは無理だと1人を養女に出したということだそうで。養女に出されるのとどちらが幸せな人生だったろうかと考えたりもします。とてもつらい作品ではあるけれど、最後の直子の表情には救いがある。どうか生きてほしいと思う。





