『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(原題:The Fantastic Four: First Steps)
監督:マット・シャックマン
出演:ペドロ・パスカル,ヴァネッサ・カービー,ジョセフ・クイン,エボン・モス=バクラック,ジュリア・ガーナー,ナターシャ・リオン,ラルフ・アイネソン他
風邪の余波を受けて観逃しそうになっていた本作を109シネマズ箕面にて。
スーパーヒーローが多すぎて、もう誰が何やらさっぱりわかりません。本作もマーベル・コミックの人気スーパーヒーローチームだそうですが、映画化されるのは初めてじゃないでしょ、“ファンタスティック4”って聞いたことあるもんと思ったら、『ファンタスティック・フォー』(2015)でした。あらためてそのときのキャストを見たら、おおっ、10年経った今、売れっ子になっている俳優が多いではありませんか。『トップガン マーヴェリック』(2022)のルースター役で知名度急上昇のマイルズ・テラーが主役だったのか。“クリード”シリーズで主役を張る前のマイケル・B・ジョーダンもいる。逆に子役でブレークしてから久しいジェイミー・ベルがベテランの立ち位置で、なかなか面白い顔ぶれだったのに。『ファンタスティック・フォー』で転んだからってその後も鳴かず飛ばずだったわけじゃないから、むしろ踏み台として良い作品だったのかもしれません。
さて、それはそうとしても、映画化するたびにスベってもまたキャストを替えて映画化する意味は何なんでしょう。これから売りたい俳優を起用するならともかく、ペドロ・パスカルはアラフィフのオッサン、ヴァネッサ・カービーはすでに売れっ子ではあるけれど(好きですよ)客を呼び込む女優としては弱いし、ジョセフ・クインに至っては「誰!?」っちゅう感じで、エボン・モス=バクラックのことはさらに知らず、しかもこんな特殊メイクじゃ顔もわかりません。
とにもかくにも観はじめる。これまでの映画化作品と繋がっているのかどうかは不明です。どうせどれも一度しか観ていないし、復習する時間を取る気もありませんから、なんでもいいやと半ば投げやりな気持ちで(笑)。
宇宙飛行士だった4人。リードとその妻スー、その弟ジョニー、そしてベンは、4年前のミッション中に事故に遭う。命の危険はなかったものの、4人それぞれに事故の影響で特殊能力を得たことにより、人類を守る神的存在となって崇められている。リードは全身がゴムのように伸び、スーは自分とその周囲を透明化させる力を持つ。ジョニーは全身に炎を纏って飛行可能。唯一見た目も変わってしまったベンはその外見通り岩のごとく頑丈で怪力に。
不妊で子どもをあきらめかけていたスーの妊娠が判明し、リードは喜びを隠せない。甥っ子の誕生を心待ちにするジョニーとベンも赤ん坊を迎える準備で大忙しとなっていたところへ、全身金色メタルでサーフボードで疾走する女性が地球に飛来する。彼女は惑星を次々と食らう怪物ギャラクタスの使者で、次のターゲットは地球だと言う。ギャラクタスと交渉を試みた4人だったが、ギャラクタスはリードとスーの間に生まれる子どもを引き渡すなら地球に手出ししないと言い……。
敵の使者がサーファーということに笑ってしまう。どないな設定やねんこれとも思うし、ギャラクタスとの交渉に失敗して次の案を練るときに、そうだ!地球ごとギャラクタスの目の届かないところへ転送してしまおう!って、人類がすぐに納得するんですかと頭の中に疑問符いっぱい。ギャラクタスに罠を仕掛けるときには人類を地底へ避難させるけれども、えっ、人類全員そんなバスに乗り込んで地底へ誘導できるものですか。なんというのか、適当で実に大雑把。
で、また“アベンジャーズ”が始まるわけですね。アベンジャーズ人気に頼らなければ、スーパーヒーローものは存続できないようです。あ、そうそう、ひとつ嬉しいことがあった。久しぶりにナターシャ・リオンを見られたこと。『Fカップの憂うつ』(1998)の頃の面影はあるようなないような。元気な姿が見られるのは幸せです。あ、もうひとつ驚いたことがありました。スーが設立したフューチャー財団の職員リン役のサラ・ナイルズって、『F1/エフワン』でジョシュアのオカン役だった人ですよね。彼女、まだ38歳なのに、33歳のダムソン・イドリスのオカン役を演じさせられていたっていったい何なの!?
『BTS ARMY:FOREVER WE ARE YOUNG』
『BTS ARMY:FOREVER WE ARE YOUNG』(英題:BTS ARMY: Forever We Are Young)
監督:グレース・リー,パティ・アン
109シネマズ箕面にて。
これまでに観たようなライブ映像を交えたドキュメンタリー作品だと思っていたら、BTSのメンバーたちのコメントなどはない、がっつりARMYに焦点を当てた作品だったから、ちょっと意表を突かれました。
『JUNG KOOK: I AM STILL』(2024)を観ていなかったらきっと私は今もBTSどころかK-POPの世界に一歩も踏み入れぬままだったでしょう。1回目の『JUNG KOOK: I AM STILL』を観たのは去年の10月のことだから、まだファン歴は1年経っていません。それがどうですか、このハマり具合は(笑)。
本作を観ると簡単には「私もファンです」とは言えなくなります。BTSがデビューした2013年から数年以内にハマって追いかけつづけている世界各国の人たち。さまざまな背景を持ち、異なる環境で育ったファンたちだけど、皆、BTSの音楽と出会い、動画を観ては励まされ、BTSが世界的ポップスターになるのを支えてきました。ビルボードのランキング入りを果たすにはどうすればよいか、ラジオで曲が流れるようにするにはどうすればよいか、ファンが考えて見事にそれを成し遂げたのですね。
BTSのメンバーの言葉、曲を理解するために、ボランティアで翻訳を担当する人たちが世界中にいるそうです。誰ひとりとして金を取っていない。ただ皆で想いを共有したくて自主的にしていること。それぞれの推しの良さも語られて、「とにかくジョングク」の私も箱推しになってしまう。女性ファンが圧倒的に多いのかと思ったら、男性ファンもキラキラと目を輝かせて話す様子がとてもイイ。
その一方で怖いことも。YouTuberとなってBTSに特化した配信を始めたら、登録者数はうなぎ登り。けれど、炎上の危険性は必ずつきまとい、ちょっとでも批判的なことを言おうものなら何万人もの単位で一気に登録者が減ったりもする。ファンであることは変わらないのに、この辺りはちょっと理解しにくい世界だったりもします。
引っ越してすぐに壁にお気に入りの曲のバーコードを書いたファンの話はいいなぁと思いました。帰宅したらすぐにそれをスマホでスキャンすれば好きな曲が流れる。やりすぎやろと思わなくもないものの、気持ちはなんとなくわかる(笑)。何よりこの壁がオシャレに見えるんです。
私のような最近のファンは、彼らがデビュー後に順風満帆なアーティスト人生を送ってきたのだと思っていましたが、そうじゃないんですね。解散も考えたというシーンは何度か観たことのある動画だけど、もらい泣きしてしまう。韓国人アーティストとして初めてロンドンウェンブリースタジアムでおこなった公演のときの観客の歌声にはじわじわ涙がこみ上げます。
ARMYの皆さんに敬意を表したい。基本的に面倒くさがりの私はこの一員にはなれそうにもないけれど、皆さんのことを応援したいと思います。まぁまぁお歳を召した女性が「BTSのメンバーが私ぐらいの歳になっても聴きつづけていたい」とおっしゃっていて、「婆ちゃん、いくつまで生きるつもりやねん」と思ったことは内緒です。(^^;
『入国審査』
『入国審査』(原題:Upon Entry)
監督:アレハンドロ・ロハス,フアン・セバスティアン・バスケス
出演:アルベルト・アンマン,ブルーナ・クシ,ローラ・ゴメス,ベン・テンプル,デヴィッド・コムリー他
病み上がりでもおとなしくしていられず、朝から京都へ向かってまずは墓参り。蕎麦菓子屋で女将さんとひとしきりしゃべった後、そのお菓子を土産に京都市美術館で開催中の書道展へ。母の旧知の人たちにご挨拶してからなんばへ。“還暦特別公演 辻本新喜劇 in なんばグランド花月7DAYS”の千秋楽に行く前に、なんばパークスシネマにてこのスペイン作品を。
これが長編デビュー作となるアレハンドロ・ロハス監督はベネズエラのカラカス出身。彼の実体験を基に、同じカラカス出身でやはり本作で長編デビューを果たすことになったフアン・セバスティアン・バスケス監督とともに撮り上げたのだそうです。上映時間は77分で、中編程度の尺。ほとんどが会話のみによる構成にもかかわらず、緊迫感ありありの心理サスペンス。
スペインのバルセロナに暮らす事実婚の夫婦ディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クシ)は、移民ビザを取得してアメリカに移住することに。何の問題もないと自分たちに言い聞かせつつも、ニューヨークの空港で入国審査を前に緊張するふたり。前に並ぶ人を見るかぎり最も優しそうな職員に当たってホッとしながらパスポートを提示したのに、二次審査の必要があるからと別室に連れて行かれる。
部屋に現れた女性審査官バスケス(ローラ・ゴメス)は、ベネズエラ出身のディエゴを疑い、移民ビザ目的でエレナとつきあっているのではないかと言う。続いて現れた男性審査官バレット(ベン・テンプル)からはディエゴがエレナに隠していた事実を突きつけられ、エレナも疑念を抱きはじめて……。
面白いですよねぇ。ふたりが入国審査を受けるまでは、とても仲睦まじいカップルに見えていました。ディエゴの見た目は誠実そのものだし、エレナも明るく質素で良いイメージしかない。お互いを信頼し、それぞれの親のことも大事にしている。こんなふたりがなぜこんな扱われ方をしなきゃならんのだと憤慨してしまうほど。バスケスの尋問の仕方はふたりを挑発しているとしか思えません。
ところがバスケスとバレットからディエゴの過去が明らかにされると、あらら、ちょっと待って!となる。コンテンポラリーダンサーのエレナはスペイン出身で、このたび移民ビザ取得の抽選に初エントリーして見事当選したらしい。一方のディエゴは都市計画の専門家だけど今は無職。エレナと出会う前にも何度か移民ビザの取得を申請したことがあったのに、いつも落選。しかも彼にはネットで出会った女性との婚約歴があり、交際期間はエレナとかぶっているじゃあないかと。そりゃこんなことを聞かされたら、エレナも疑心暗鬼になるというもの。
このときにポロッと出るのがディエゴの本音でしょう。「帰る場所がある人にはわからない」。決してエレナを利用しているわけではない。生涯共に過ごしたいと思っているのは偽りのないこと。けれど、自分の祖国は政治的に不安定で、絶えず問題が勃発している。物事を片付けるには金が必要で、金さえあればなんとかなる賄賂の国。
とても結末に期待できる展開ではなかったから覚悟していましたが、あ、そうですか(笑)。つまり、これぐらい酷い仕打ちを受けてもいなすくらいの肝っ玉がなければ、アメリカの入国審査には通らないってことなのでしょうかね。これに耐えられる人だけいらっしゃいって。
ようこそ、アメリカ合衆国へ。トランプ政権下ではどうなるのか。低予算作品のお手本。面白かった。
『アンティル・ドーン』
『アンティル・ドーン』(原題:Until Dawn)
監督:デヴィッド・F・サンドバーグ
出演:エラ・ルービン,マイケル・チミーノ,オデッサ・アザイオン,ユ・ジヨン,ベルモント・カメリ,マイア・ミッチェル,ピーター・ストーメア
109シネマズ大阪エキスポシティにて公開初日に。前述の『木の上の軍隊』とハシゴ。本作について何も知らなかったから、劇場に着いてからチケットを買えばいいと思っていたのですが、当日昼間に販売状況を確かめたら、なぬ!? エグゼクティブシートはすでに満席じゃあないか。ほかの席も想像以上に埋まっていました。慌てて購入。
世界的人気のホラーゲーム『Until Dawn 惨劇の山荘』を『ライト/オフ』(2016)や“シャザム!”シリーズのデヴィッド・F・サンドバーグ監督が実写映画化。この監督の代表作はどちらかといえば『アナベル 死霊人形の誕生』(2017)のほうだと思うのですが、数年前までホラーが苦手だった私は、特に人形もののホラーには怯えて手が出せませんでした。もう苦手意識はなくなったので(ほとんど目を瞑って観ているのですが(^^;)観ることにしましたが、R18+指定じゃあないか。エロによる指定じゃないなら、相当グロいスラッシャーホラーってことですよね。
母の死後、落ち込んで何もできずにいた女性クローバー(エラ・ルービン)。そんな彼女を見かねて、姉メラニー(マイア・ミッチェル)が突然出て行ってしまう。それっきり連絡が取れなくなって1年。メラニーのことを心配するクローバーは、元カレのマックス(マイケル・チミノ)、親友のニーナ(オデッサ・アザイオン)とその彼氏エイブ(ベルモント・カメリ)、ミーガン(ユ・ジヨン)らに協力を仰ぎ、わずかな手がかりを頼りにメラニーの行方を探すことに。
途中寄ったガソリンスタンドの中年男性店員にメラニーの写真を見せると、この先のグロアバレーという場所で多くの人が消息を絶っていることを聞かされる。一行がグロアバレーに向かうと暴雨に見舞われるが、急に視界が開けたかと思うとそこには観光案内所の看板のある一軒家が建っていた。足を踏み入れると無人で、宿帳にはメラニーを含む何人もの記名が繰り返され、しかも次第に判読不能な字になっていることがわかる。
いったい何があったのかと訝っていると、覆面をした殺人鬼が現れ、全員あっという間に惨殺されてしまう。ところが、全員死んだはずがすぐに目が覚め、殺される前に戻っているではないか。どうやら全員死ぬとゲームがリセットされ、生き返って最初からやり直しになるらしく……。
R18+らしくめちゃグロい(笑)。と言ってもホラーを観るときの常で、ほとんど目を伏せていたので、えげつないシーンはまったく観ていません。すみません。(^^;
要は『きさらぎ駅 Re:』と同じですね。あちらは誰か1人しか現実世界に戻ってこられないけれど、こちらは誰か1人犠牲になれば残りの人は全員無事に戻れます。誰が犠牲になるかで揉めそうなところ、いちばんイケメンでいちばん「友達ではない」エイブが冷たいことを言い出して彼女のニーナに「死ね」とぶった切られるシーンは笑えます。でもそれも全員が生き残るための方策であって、誰かが死んでしまったときには全員で生き返るためにとりあえずもう一度全員死んでおこうじゃないかということ。
ガソリンスタンドの店員で黒幕の心理学者ドクター・ヒルを演じるピーター・ストーメアが怖すぎる。グロアバレーではかつて町ごと水の底に沈む炭鉱事故が起こり、数百人が死亡。そのトラウマを調べるためにヒルが呼ばれたという話なんですが、私が目を伏せていた時間が長かったからか何なのか、ヒルが町のためを思ってやっていたことなのかどうかがわかりませんでした。それでも、全員生きて帰るために5人が試行錯誤を繰り返し、最後に見事生還するまでは結構ドキドキして楽しかった。この手のタイムループものは好きですね。
人生は一度きりだからこそ尊い。
『木の上の軍隊』
『木の上の軍隊』
監督:平一紘
出演:堤真一,山田裕貴,津波竜斗,玉代勢圭司,尚玄,岸本尚泰,城間やよい,川田広樹,山西惇他
ナレーション:松下洸平
シネコンで金曜日に公開された新作はたいてい翌週前半には制覇しているところ、本作の公開週は週末に遊び倒して翌週月曜日に発熱、3日間寝込みました。病み上がりで出勤した日の晩は甲子園だったから映画を観ることはできず、翌金曜日にやっと劇場へ。ふだんならば1週間経ってまた新作が次から次へと公開されているところ、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』のせいかおかげか新作は数えるほどしかなし。私としましては「前週の金曜日に公開された作品を今週の金曜日に観る」というのは不覚に感じたりもするのですが(笑)、どんなプライドやねん。(^^;
109シネマズ大阪エキスポシティにて。
実話に着想を得た井上ひさし原案、こまつ座原作の舞台劇の映画化とのこと。監督はダイナマイト平の別名も持つ平一紘。沖縄に生まれ、ずっと沖縄で過ごし、沖縄国際大学在学中に自主映画制作チームを立ち上げる。昨年は沖縄観光大使にも就任という、まんま沖縄の人。本作はもとが舞台劇とあるように、ほぼ堤真一と山田裕貴の二人芝居のような体裁を取っています。
1945年4月、太平洋戦争末期の沖縄・伊江島に米軍が上陸。宮崎から派兵されたベテラン兵士・山下(堤真一)の指揮のもと、地元出身の新兵・安慶名(山田裕貴)ら日本軍は応戦を試みるがどうにも太刀打ちできず。次々と仲間が殺られるなか、追い詰められた山下と安慶名は大きなガジュマルの木の上に逃げ込む。戦闘経験なく不安に怯える安慶名に対し、山下は援軍が来るまでこの場で待機することを示唆するのだが……。
山下は戦闘に長けているとはいえ、島のことを熟知しているのは安慶名のほう。携帯していたわずかな食糧が底をつくと、安慶名は食べ物を探しに行かせてほしいと言い出します。殺されるかもしれない恐怖よりも空腹のつらさが勝つわけですね。島の植物や生物について詳しい安慶名に偉そうにしつつも教えを請う山下の様子は、こんな絶望的な状況の中でもたまに笑いを誘います。ソテツもそのまま食べれば大変なことになるけれど、調理方法次第では食べられる。米軍が残した缶詰等を見つけたときに安慶名は狂喜、しかし山下は敵軍の食糧など食ってたまるかと断固拒否します。そんな山下になんとか生きていてほしくて安慶名が考え出す案。山下もきっと気づいていたのではないでしょうか。
終戦を知らないままに2年もこんな日々を送りつづけた2人。観るのがしんどくなる描写の続出だったにもかかわらず、堤真一と山田裕貴の好演によって時にはホッとしながら最後まで観ることができました。それでも、いったい何のための戦争かと思うし、とにかく帰りたいんだという安慶名の気持ちは当たり前だと思います。生きて帰ることが恥ずかしいなんて思わせちゃいけない。