『スーパーミキンコリニスタ』
監督:草場尚也
出演:高山璃子,松川星,芝崎唯奈,今村輝大,金時むすこ,jinmenusagi,一條恭輔,宮川浩明,櫻井美代子,飯田圭子他
前述の『スノードロップ』の後、1階下のフロアのシアターセブンに移動して。
2020年の作品のリバイバル上映です。スルーしかけていましたが、今夏に観た『雪子 a.k.a.』がとてもよかったので、草場尚也監督のデビュー作である本作も観ておきたいと思いました。2019年度のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワードで日活が授けるジェムストーン賞とホリプロが授けるエンタテインメント賞の2冠に輝いたそうな。当時、映画の助監督やTVのAD務めていた草場監督が、現場で見たエキストラという存在に心を動かされて撮った作品という触れ込みです。
演劇部員だった頃、『ロミオとジュリエット』のジュリエットを演じた夢島美樹(高山璃子)は、ロミオ役だった憧れの先輩・林俊一郎(今村輝大)と再び共演する日を夢見て女優になると決めた。しかし25歳を迎える今もエキストラ俳優止まり。純喫茶でバイトしつつ“ミキンコリニスタ”を名乗り、日々SNSを更新して撮影会などを企画するも、やってくるファンは片手ほどの数。一方の俊一郎は“リンシュン”という芸名で今ではスター。
エキストラのくせして大物女優気取りの美樹は現場でいろいろやらかす。カフェの客役のときはパソコンの上にドリンクをぶちまけるわ、ヒロインの控え室に偉そうに入るわ。それでもなんとかエキストラの役は得ていたのに、ある日、何の撮影か知らずに行った現場に俊一郎が現れ、動揺したミキは体調不良を理由にトンズラ。そのせいで所属事務所をクビに。
これを機に芸名をバージョンアップ、“スーパーミキンコリニスタ”と名乗りはじめたミキは、数少ないファンのうちのひとり・伊良林邦夫(金時むすこ)から稼ぐ方法を教えられ、撮影会に勤しむ。そんな折、同じく女優を目指すエキストラの後輩・鈴村瞳(松川星)からオーディションの話があると聞き……。
いや〜、このヒロインは相当イタイです(笑)。勘違いぶりが鼻についてイライラさせられっぱなし。別に可愛くもないのに(と通りすがりの小学生男子から言われる)まるでスターのふるまい。現場で一緒になった瞳に女優の心得をレクチャーするのも聞いていられないほど。だって明らかに瞳のほうが可愛いし。ま、でも、かわいけりゃ売れるってこともないですもんね。似たようなタイプの美人よりも、この美樹のような顔立ちのほうが印象に残って良いのかもしれません。
最終的に美樹が売れっ子になるという話ではありません。映画の中の現実も厳しい。ただ、撮影会にかまけておばあちゃん危篤の報せにも帰郷せずにいた美樹が、荷物をいっぱい抱えて歩く見知らぬ老婦人に声をかけるところはいい。その先に打算が入るのは笑っちゃいましたけれども。イライラしたけど楽しかったかな。
『スノードロップ』
『スノードロップ』
監督:吉田浩太
出演:西原亜希,イトウハルヒ,小野塚老,みやなおこ,芦原健介,丸山奈緒,橋野純平,芹澤興人,はな他
高校の学年同窓会で司会を務めた翌朝、気が張っていたからかいつもより数時間遅くに目が覚める。わりとへろへろ。この日の晩は小学校の同級生たちと会う予定で、その前に映画を観に行くのは無謀かと思ったけれど、なんか大丈夫そう。十三へ向かい、第七藝術劇場にて監督と主演女優の舞台挨拶付きの回を鑑賞しました。実在した一家をモデルとしているそうです。
1998年。葉波直子(西原亜希)が帰宅すると、めったに実家に寄らない姉・内藤加也子(丸山奈緒)が来ていた。何事かと思えば、何十年も前にまだ子どもだった直子と加也子を残して蒸発した父親・栄治(小野塚老)がテーブルに着いているではないか。ここに戻りたいと言う栄治のことを加也子は絶対に受け入れられないと憤るが、母親・キヨ(みやなおこ)は栄治と暮らしたいと主張。キヨがそうしたいと言うなら別にかまわないと、直子は受け入れることに。
それからしばらく経ち、キヨが体を壊して寝たきりのまま認知症に。直子はキヨの介護のために仕事を辞めざるを得なくなる。栄治は新聞配達で生活費を稼いでいたが、痛風が悪化して動けなくなる。葉波一家を心配する新聞店のオーナーから生活保護を申請したほうがいいと言われ、直子はおそるおそる市役所へ。担当となったケースワーカー・宗村幸恵(イトウハルヒ)は親身に対応してくれて、スムーズに申請の手続きが進むが……。
生活保護が受給できないという話なんだろうなと思いながら観ていたら、それにしては申請がトントン拍子に運ぶ。葉波一家は受給の資格をじゅうぶんに満たし、生真面目な直子が記入する申請書は完璧で、必要な書類も漏れなく迅速に揃えます。いろんな申請者を見てきた宗村は、そつなくかつ控えめな態度の直子に逆に感謝するほど。宗村の同僚・吉岡(芦原健介)は宗村が葉波一家に肩入れしすぎなのではとちらり思っていたけれど、訪問審査で宗村に同行してみてなるほどこりゃ当然だと思い直します。それぐらい直子はきちんとしていて、この人をなんとか助けなければと思わせるんですよね。
この先ネタバレです。
滞りなく審査が終わり、受給まであと少しというところだったのに、栄治がキヨを連れて死のうと思うと言い出す。そして直子にも一緒に死んでくれるかと聞く。その問いに躊躇なく「いいよ」と答える直子。なぜここまで来て死のうと思うのか。直子の車で川に突っ込み、心中を図る3人。栄治とキヨは命を落とし、生き残った直子は自分が故意に両親の手を放したからだと証言。言い訳などひとつもしません。
事務手続きのために直子に面会した宗村に訥々と直子が話す胸の裡。きちんとしているように見えても、介護前の事務職ではミスもやらかしてきました。人づきあいも上手くない。とことん自信を持てない彼女にとっては母親の介護がすべてだった。生活保護を受給して介護サービスも受けられるようになれば、自分は仕事に出なければいけなくなる。不正に生活保護を受給しようとする人もいるなか、真っ当に受給を認められたら自分の居場所がなくなると考えているのです。これ以上みじめにはなりたくないと。それをきっと両親もわかっているから一緒に死のうと言ったのだと。生活保護を受給すべき人が受給できないという現実がいちばんつらいことかと思っていたのに、受給できることになったがゆえにこんなに追い込まれる人もいるんだと、言葉をなくしてしまいます。
舞台挨拶で話を聴かなければわからなかったことがあります。冒頭、3人の少女が映し出され、1人はバイバイと手を振って出て行く。これは本来3人姉妹だったのに、栄治が蒸発したせいでシングルマザーとなったキヨは、ひとりで3人もの娘を育てるのは無理だと1人を養女に出したということだそうで。養女に出されるのとどちらが幸せな人生だったろうかと考えたりもします。とてもつらい作品ではあるけれど、最後の直子の表情には救いがある。どうか生きてほしいと思う。
『おいしい給食 炎の修学旅行』
『おいしい給食 炎の修学旅行』
監督:綾部真弥
出演:市原隼人,武田玲奈,田澤泰粋,栄信,藤戸野絵,田中佐季,片桐仁,いとうまい子,赤座美代子,六平直政,高畑淳子,小堺一機他
MOVIXあまがさきにて、前述の『ミーツ・ザ・ワールド』とハシゴ。
日本シリーズの第4戦の日だというのにそれを観ずに映画を観に行ったのには理由があります。恐ろしくて逃げたというのもありますが、どうしても本作を観たかったからです。2019年に放送がスタートした“おいしい給食”シリーズ。私はTVでは観たことがありませんでしたが、初の劇場版『おいしい給食 Final Battle』(2020)を観て「面白いやん!」と知る。そして劇場版第2弾の『おいしい給食 卒業』(2022)が私にとっては忘れがたい作品となりました。なぜかということについてはリンク先をご覧いただくとして、第3弾の『おいしい給食 Road to イカメシ』(2024)も楽しかったですよねぇ。だから、いくら日本シリーズがあるといえども、これは絶対に観る機会を逸したくなくて。
函館の忍川中学校3年1組の担任・甘利田幸男(市原隼人)は給食マニア。誰にもバレていないと思っているが、彼の給食好きはみんなが知っていること。給食アレンジの天才生徒・粒来ケン(田澤泰粋)にライバル心を燃やしていることも隠しているつもりが、粒来にはバレバレ。
青森と岩手を訪れる2泊3日の修学旅行。ドライブインで昼食をとるのは忍川中学校と岩手の花堺中学校。忍川中学の生徒たちが楽しく和やかに昼食を楽しむ一方で、花堺中学の生徒たちはスパルタ教師・樺沢輝夫(片桐仁)が目を光らせるなかでただ早く食事を終えるよう求められる。忍川中学の食事の仕方に異を唱えたい樺沢は、給食交流会と称して忍川中学を花堺中学に招待すると申し入れる。
修学旅行のもとのスケジュールを変更してわざわざ他校へ給食を食べに行くと聞いて生徒たちは文句を垂れるが、甘利田としては東北の郷土料理を絶対に食べてみたい。生徒たちに有無を言わせず花堺中学へと向かう。そこにはかつての同僚・御園ひとみ(武田玲奈)もいて、給食の楽しさを知るはずの御園がすっかり樺沢を恐れている様子で……。
本当に楽しいシリーズです。冒頭、最初に現れる給食のメインはメロンパン。これが超美味しそうで、すぐにメロンパンを買いに行きたくなりました。甘利田の脳内に流れるこれらの献立に対する思いが可笑しい。今度こそ自分の食べ方がいちばんだと思いきや、毎回粒来にやられて呆然とする姿に笑わずにはいられません。
今度の異動先は沖縄ですって。どこに行こうがそこにいる給食のおばちゃん・文枝(いとうまい子)(笑)。駄菓子屋のおばちゃん・サキ(高畑淳子)も一緒に来てくれないかなぁ。
『ミーツ・ザ・ワールド』
『ミーツ・ザ・ワールド』
監督:松居大悟
出演:杉咲花,南琴奈,板垣李光人,くるま,加藤千尋,和田光沙,安藤裕子,中山祐一朗,佐藤寛太,渋川清彦,筒井真理子,蒼井優他
声の出演:村瀬歩,坂田将吾,阿座上洋平,田丸篤志他
MOVIXあまがさきに観に行ったのは、日本シリーズの第4戦の日でした。テレビ観戦するのが恐ろしかったから、逃げて映画を観ることにしたというわけです。今日振り返ると、プロ野球シーズンはもう遠い昔に終わっちゃったかのよう。
金原ひとみの同名小説を『ちょっと思い出しただけ』(2021)や『不死身ラヴァーズ』(2024)の松居大悟監督が映画化。松居監督は慶應卒のインテリで、ヨーロッパ企画の上田誠の演出を手伝った後に『アフロ田中』(2012)で映画監督デビュー。その頃は俳優としても『真夏の方程式』(2013)とか『昼顔』(2017)などに出演。監督としての彼のことを私が最初に面白いと思ったのは『男子高校生の日常』(2013)でした。と思っていたら、“バイプレイヤーズ”シリーズの監督と脚本を務めるように。ずいぶん前から活躍されているような気がしていましたが、これを書いている10月末はまだ39歳。11月初めに40歳の誕生日をお迎えに。
新宿・歌舞伎町。27歳のOL・三ツ橋由嘉里(杉咲花)は、ゲロ酔いしてうずくまっていたところに「救急車呼んだほうがいい感じですか」と声をかけてきてくれたキャバ嬢・鹿野ライ(南琴奈)の美しさに目を奪われる。「あなたのような顔に生まれたかった」と言う由嘉里に、ライは「300万あげるから整形したら。なれるよ」。実家に帰りたくない事情がある由嘉里はライのマンションへついて行き、そのまま転がり込むことになるのだが……。
腐女子の由嘉里のお気に入りは『ミート・イズ・マイン』。焼肉を擬人化したアニメなんですと。艦艇を擬人化したり、競走馬を擬人化したり、世の中いろいろあるものですが、焼肉まで擬人化とは驚いた。これがかなり面白そうで、興味が湧きます。
歌舞伎町辺りで生きているさまざまな人との交流が描かれている作品で、時に眠くなったりもするけれど、キャストがとてもいい。ホストの板垣李光人、バーのマスターだかママだかわからんオッサンに渋川清彦、そこの常連客に蒼井優。由嘉里の母親役には筒井真理子。エンドロールに菅田将暉の名前がクレジットされているのを見つけて「えっ」。全然どこに出ていたのかわかりませんでした。それが悔しくてもう一度観に行きたくなります。杉咲花はこういう少々エキセントリックな役が本当に似合いますね。普通の恋愛ものは駄目だ。こういう彼女をもっと見たい。
歌舞伎町って、映るだけでちょっと泣けてくる街かもしれません。
『Mr.ノーバディ2』
『Mr.ノーバディ2』(原題:Nobody 2)
監督:ティモ・ジャイアント
出演:ボブ・オデンカーク,コニー・ニールセン,ジョン・オーティス,RZA,コリン・ハンクス,クリストファー・ロイド,シャロン・ストーン他
前作の『Mr.ノーバディ』(2021)が大好きだったからこれも見逃したくない。109シネマズ箕面にて、前述の『愚か者の身分』とハシゴしました。
一見冴えない中年男ながら実は凄腕の殺し屋ハッチ・マンセル。請け負う仕事をすべて片付けていたら家族と過ごす時間などなく、使えない親父として家庭では軽んじられている。そんな状況を打破すべく、思い切って休暇を取ることに決めたハッチは、昔たった一度だけ家族旅行に訪れたリゾート地プラマービルの遊園地に皆で行こうと計画。妻ベッカ、息子ブレイディ、娘サミーは苦笑いしつつもハッチの案に乗ることに。ハッチの父親デヴィッドももちろん連れて。
ハッチの休暇申請を一応聞き入れたハンドラー(暗殺を指示する管理官)“バーバー”は、「どっちみちおまえはおまえ、トラブルを呼ばずにはいられない性分だ」と断言。そんなことはないと言い返してみたものの、プラマービルに着くや否やすぐに地元民といざこざを起こすハッチ。するとその後なぜか保安官エイベルにつきまとわれるようになり、エイベルが差し向ける輩に命を狙われる。
このままでは落ち着いて休暇を楽しめない。たまらず情報を得ようとバーバーに連絡を取ったハッチは、プラマービルが麻薬や酒の密輸ルートとなっていることを教えられる。町を仕切っているのはワイアットという男で警察ともグル。だが、その上には世にも恐ろしきレンディーナという闇の女帝がいるらしい。レンディーナに逆らえば、一族が根絶やしにされてしまう可能性すらある。ハッチがレンディーナとやり合うのは自由、しかし援護はしないとバーバーから言われるが、見て見ぬふりをすることはできず……。
ボブ・オデンカーク演じるハッチはなかなかカワイイおっさんだけど、どう見ても強そうではありません。ところがキレたら最後、誰も太刀打ちできないぐらいの強さを発揮します。前作同様それが可笑しくて。エイベルを演じるのはトム・ハンクスの息子コリン・ハンクス。これがもう憎たらしいのなんのって。本作を観ると、コリンは絶対に善人役はできないとすら思えます。父親似であることはまちがいないのに、どうしてこうも善人面した悪人役が似合うのか不思議(笑)。夫に愛想を尽かしかけているのにいちばんの理解者でもあるベッカ役のコニー・ニールセンは今年還暦。年相応の可愛い人だなぁと思います。
ハッチとデイヴィッド(クリストファー・ロイド)とワイアット(ジョン・オーティス)、そしてハッチと異母兄弟のハリー(RZA)が遊園地という場所をフルに生かしてレンディーナ(シャロン・ストーン)を迎え撃つのが最高に楽しい。セリーヌ・ディオンの“パワー・オブ・ラブ”の使い方も有効です。ただ、やっぱり前作のほうが面白かったかな~。





