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『平場の月』

『平場の月』
監督:土井裕泰
出演:堺雅人,井川遥,坂元愛登,一色香澄,中村ゆり,でんでん,安藤玉恵,椿鬼奴,栁俊太郎,倉悠貴,吉瀬美智子,宇野祥平,吉岡睦雄,黒田大輔,松岡依都美,前野朋哉,成田凌,塩見三省,大森南朋他

原作は朝倉かすみの同名ベストセラー小説とのことですが、私はこの作家の名前すら知らなくて失礼いたしました。公開前に原作を購入したけれど、まだ読めていません。監督は『花束みたいな恋をした』(2020)の土井裕泰。TOHOシネマズなんばにて鑑賞。内容が内容なだけに客は中高年ばかりかと思っていたら、わりと若いカップルも来ていました。

青砥健将(堺雅人)は50代のバツイチ男。元妻(吉瀬美智子)と息子(倉悠貴)のもとを離れ、地元に戻って印刷会社に再就職。認知症を患う母親(大方斐紗子)は施設に入っているから、青砥は実家で一人住まい。男ひとりで不自由があるかと思いきや、ひとりでのびのび、今は料理の腕も上がって弁当作りが楽しい。

ある日、胃に小さな腫瘍があると主治医(前野朋哉)から指摘された青砥は、さらに詳しい検査を受けることに。結果待ちでそわそわしながら行った売店で、レジ打ちする須藤葉子(井川遥)と会う。須藤は中学時代の同級生で、青砥が想いをを寄せていた相手。告白してあっさりフラれた思い出が懐かしい。仕事を終えて帰宅しようとしていた彼女を捕まえてしばらく話す。聞けば須藤は夫と死別して地元に戻ってきたとのこと。たまに会って話をする約束をしたふたりは、以降週一程度、焼き鳥屋で飲むようになるのだが……。

『花束みたいな恋をした』の中年版とでも言えばいいでしょうか。ハッピーエンドには至らず、ちょっと切ないラスト。ふたりが昔の思い出話をしながら過ごす時間はとても幸せそうなだけに、余計に切なくなります。結構淡々と進むぶん、人には勧めにくいけれど、小中高時代辺りに好きだった人と離ればなれになった経験があったりすれば刺さるのではないでしょうか。好きな相手と名前ではなく名字で呼び合う関係とか、キュンキュンしませんか(笑)。それはともかくとして、井川遥演じる須藤が大腸癌で人工肛門を付ける設定だということは知らずに観たからかなり衝撃的でした。

焼き鳥屋の無口な大将(塩見三省)が良いですね。店内で流れる曲を聴いていた青砥と須藤が「これ誰が歌っていたんだっけ」と言うとき、私も小声で言いましたよ、「薬師丸ひろ子」って。大将より早かったでしょ(笑)。須藤の妹役に中村ゆり、めっちゃウザい友だちに安藤玉恵。青砥の勤務先の社長はでんでん、後輩社員に栁俊太郎。須藤がかつて入れあげていた若者に成田凌、青砥の親友には大森南朋吉岡睦雄宇野祥平。中学時代の須藤の父親役に黒田大輔バイプレイヤー揃いの楽しいキャストです。

堺雅人と井川遥というキャスティングがハマっていたのかどうかがちょっと疑問。見ていたくなるキスシーンでもないんだなぁ(笑)。だからと言って、ほかに誰ならハマっただろうかと考えると思い当たりません。誰がいいでしょう!?

『劇場版総集編 ガールズバンドクライ 後編 なぁ、未来。』

『劇場版総集編 ガールズバンドクライ 後編 なぁ、未来。』
監督:酒井和男
声の出演:理名,夕莉,美怜,凪都,朱李,近藤玲奈,あんどうさくら,幸田直子,平田広明,沢城みゆき他

『劇場版総集編 ガールズバンドクライ 前編 青春狂走曲』の公開が先月。それを観るまではタイトルすら聞いたことがありませんでしたが、観てみたら意外と面白くて。後編の本作も109シネマズ大阪エキスポシティにて。

熊本の実家を飛び出し、大学へ行くために東京の予備校に通いはじめた仁菜だったが、憧れの桃香と出会って人生が激変。ガールズバンド“トゲナシトゲアリ”のボーカルとして音楽活動にすべてを賭けると決める。前編では予備校を辞めて音楽活動に専念すると宣言したところで終わりました。

後編では仁菜、桃香、すばる、智子、ルパの5人が次第に人気を博し、芸能事務所からスカウトされます。フェスに出て良い手応えがあればメジャーデビューというところまで来て、見事に成し遂げる。すると仁菜がライバル視する“ダイヤモンドダスト”から対バン企画が持ち込まれ、5人はそれに乗ることにしたものの、ダイヤモンドダストとトゲナシトゲアリでは知名度も既存のファン数も違いすぎて、対バンを張る前から見えている負け。さて5人はどうしますかという話です。

前編を観たときに勘違いしていたことがありました。熊本の高校時代、仁菜をいじめていたのは当時同級生だったダイヤモンドダストの現ボーカル・ヒナだとばかり思っていましたが、違うんですね。クラスでいじめられていた子を助けるために、いじめっ子たちに立ち向かおうとした仁菜。ヒナはそんなことしたらアンタがいじめられるよと忠告したのに、仁菜は聴く耳を持たず。結果、ヒナの言うとおり、今度は仁菜がいじめられるようになった末に登校できなくなって高校を中退したのでした。

自分は間違っていなかった、今も間違っていないことを証明したい仁菜は、わりとややこしくて時にうざい(笑)。私の苦手な「がんばってるアピール」そのままでもあります。トゲナシトゲアリやダイヤモンドダストの曲にも惹かれません。でも物語としては心に留めたい点がいっぱい。仁菜と父親のやりとりにはちょっとホロリとしちゃいました。良いアニメだと思います。ルパちゃん、いい子すぎるし。

からし蓮根カレーって美味しいですか。気になる。

『赤い風船』/『白い馬』

1本だけ観る時間ができたので、すでにクリスマスマーケットでにぎわっている梅田スカイビルへと向かい、テアトル梅田にて。

1922年生まれのフランス人映画監督アルベール・ラモリスは、1970年に48歳の若さで亡くなりました。映像詩人と言われた彼の70年前の作品を4Kデジタル技術によって修復、とあるのですが、テアトル梅田では2K上映です。ま、違いが私にわかるとは思えませんし、とりあえず観ておくことに。短編2本の連続上映。

1本目の『赤い風船』(原題:Le Ballon Rouge)は1956年の作品。登校途中、街灯にひっかかっていた赤い風船を取った少年パスカルは、それを持ったままバスに乗ろうとして拒否される。致し方なく風船を掲げてモンマルトルの街を走り抜け、学校へと到着。授業中は門番の男性に風船を預けると、放課後ふたたび風船を持って歩き出すパスカル。風船が生きているかのように振る舞う様子が楽しい。なんといっても色彩が綺麗です。第9回カンヌ映画祭では短編映画パルムドールを受賞したそうです。

2本目の『白い馬』(原題:Crin-Blanc)は1952年の作品。南仏のカマルグ地方が舞台。野性馬のリーダーである白馬を狙う馬飼いの一団。しかし逃げ足のはやい白馬を捕らえられる者はいない。一団は、同様に白馬を追いかけていた少年に向かって「もしもおまえがあの白馬を捕まることができたら、おまえにやる」と言う。なかなか捕まえられずにいたが、馬飼いたちが白馬をあぶり出すために火を放った日、逃げ惑う白馬を少年が救ったおかげで、白馬と少年は仲良くなる。最後はまた馬飼いに追いかけられて、白馬にまたがったまま海に入ってゆく少年。幻想的です。こちらは第6回カンヌ映画祭の短編映画パルムドールおよび1953年度のジャン・ヴィゴ賞(29歳で他界した天才映画監督ジャン・ヴィゴにちなんだ賞)を受賞。

どちらも映像詩人の名にふさわしく美しい。おかげで睡魔に襲われそうになりましたけど、たまにはこんなのもいいものです。

『アダムズ・アップル』

『アダムズ・アップル』(原題:Adams Æbler)
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン,ウルリク・トムセン,パプリカ・スティーン,ニコラス・ブロ,アリ・カジム,オーレ・テストラップ,ニコライ・リー・コス他

テアトル梅田にて、“マッツ・ミケルセン生誕60周年祭”開催中。大好きな俳優ですが、“北欧の至宝”と呼ばれていたことは知らず。日本では劇場初公開作からキャリアを象徴する代表作までの7作品が上映されるというこの企画、とりあえず未見の1本を観てみようと出かけてビックリ。どんな人気やねん、マッツ。どの作品も満席かほぼ満席じゃあないですか。

デンマーク出身の世界的俳優であるマッツの映画デビューは『プッシャー』(1996)。『偽りなき者』(2012)で第65回カンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞。『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)では悪役を演じて知名度アップ。『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)でもやはり悪役を演じましたが、とにかく魅惑的なんですよね。『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022)にジョニー・デップの代役としてマッツが登場したときは嬉しくて嬉しくて。別にジョニーのことが嫌いなわけではありませんけど。(^^;

さて、本作は2005年の作品で、マッツと多くの作品で組んでいるアナス・トマス・イェンセンが監督を務めています。旧約聖書の『ヨブ記』を下敷きとしているそうな。

仮釈放されたネオナチのアダム(ウルリク・トムセン)は、更生プログラムの一環として片田舎の教会へ送られる。彼を迎えたのは牧師のイヴァン(マッツ・ミケルセン)と、アダム同様に前科者のグナー(ニコラス・ブロ)とカリド(アリ・カジム)。態度の悪いアダムに対してイヴァンはムカつく様子もなし。ここで何をすればいいのかとアダムが問うと、それは自分で考えるようにとイヴァンが答える。思いつきで「教会の庭の木に生るリンゴでアップルケーキを作る」と答えたところ、リンゴを育ててケーキを作ることを目標にするようにイヴァンから言われ……。

あきらかにおかしい牧師イヴァン。アダムから鼻が曲がるほど殴られても怒ることなく、次の瞬間からケロッとしています。グナーやカリドや近所の人々もイヴァンがおかしいのは承知のうえで、けれど彼を奇跡の存在と目している。実はイヴァンには除去不能の大きな脳腫瘍があり、そのせいで精神が錯乱しているのです。自分の身に起こることはすべて悪魔の仕業、悪魔に試されているのだからいちいち気にしない。そう言うイヴァンと話しているとイライラするアダムは、これは悪魔の仕業なんかじゃない、神のご意志なのだとイヴァンに意地悪くわからせようとします。そしてそれに見事成功したのに、以降イヴァンは生きる気力が皆無となり、まるで屍。

イヴァンがどれほど人々にとって大きな存在だったかをようやく知るアダム。憎らしくて仕方なかったアダムがなんとかイヴァンを元通りの「変人」に戻そうとする様子に和むのでした。凄くブラックな話なのに、最後はニヤけてしまう。好きだなぁ。

『ひとつの机、ふたつの制服』

『ひとつの机、ふたつの制服』(原題:夜校女生)
監督:ジュアン・ジンシェン
出演:チェン・イェンフェイ,シャン・ジエルー,チウ・イータイ,ジー・チン,ホアン・ジーリン,ジェン・ジーウェイ,トゥー・シャンツン他

休日出勤の代休を取った日、晩の飲み会前にテアトル梅田にて、2本ハシゴの1本目。

1990年代後半を舞台にした台湾作品です。香港や台湾の作品ではしばしば取り上げられる統一試験。学歴がすべての世の中だから、良い大学へ入るためにはまずは良い高校に入らなければなりません。富裕家庭ではもちろんのこと、貧困家庭ではなおさらのこと子どもが、ひいては親が良い生活を送れるように、我が子を良い高校に入れて良い大学に進めるようにすべてを賭けると言っても過言ではありません。ほかの国でもそんな感じなのですかね。

1997年の台北。父親が急逝したのち生活が困窮するなかで、長女・小愛(シャオアイ)(チェン・イェンフェイ)と次女・咪宝(ミーバオ)(リン・ユーウェン)をひとりで育ててきた母親(ジー・チン)。小愛には何が何でも良い大学に入学してもらわなければと名門の第一女子高校を受験させるが、小愛は全日制に不合格、夜間部になんとか合格する。夜間部なんて格好悪いと小愛は拒否するも、ほかに通う場がないのだから致し方ない。入学式では「全日制も夜間部も関係ない、同じ第一女子高校」と校長が言う。制服は確かに同じだが、ネーム刺繍の色が違う。同じというならなぜ色を変える必要があるのかと文句を垂れる小愛と新しい級友たち。

こうして始まった高校生活。全日制と夜間部は同じ教室を使い、同じ机を使う生徒同士を「机友(きゆう)」と呼ぶらしい。授業を受ける時間がずれているからお互い顔を合わせることはめったにないが、机の中に手紙を入れるなどして机友と関係を築くことはできる。小愛の登校時にたまたままだ教室にいた机友・敏敏(ミンミン)(シャン・ジエルー)と言葉を交わすと、敏敏はサバサバとしたと美人女子で成績も学年3番以内の秀才。敏敏にすぐに憧憬の念を抱く小愛。毎日手紙をやりとりするようになったふたりは学校外でも会うように。

そのころ小愛が想いを寄せていたのは、バイト先の卓球場にやってくる路克(ルー・クー)(チウ・イータイ)。ところが、敏敏から気になる男子がいると言われて連れて行かれた先には路克がいた。自分も路克が好きだということを敏敏に言えず、自分が夜間部の生徒であるということを路克に言えずに高校生活が進んでゆき……。

すごく好きな話かもしれないという予感が最初はありましたが、わりと月並みな展開。小愛は劣等感に苛まれつづけながら、それでも彼と会う時間が楽しくて、本当のことが言えません。路克のほうも小愛のことが好きで、それに気づいた敏敏が途端に嫌な女子になってしまいます。何もかも暴露されて傷心の小愛が描かれる辺りまでは、うーむ、こんなもんかと思っていました。しかし、敏敏に当てた小愛の手紙が読まれる辺からやっぱり好きだなと思いはじめます。敏敏を欺き、路克に嘘をつき、自分にも嘘をついていたと言う小愛。ここから勉強に没頭する彼女は人が変わったよう。

台湾地震を経る年代に設定したのもよかったと思います。ギデンズ・コー監督絶賛に偽りなし。