『港のひかり』
監督:藤井道人
出演:舘ひろし,眞栄田郷敦,尾上眞秀,黒島結菜,斎藤工,ピエール瀧,一ノ瀬ワタル,MEGUMI,赤堀雅秋,市村正親,宇崎竜童,笹野高史,椎名桔平他
年の瀬が近づいてくると道がめちゃめちゃ混むんですよね。空いているときなら仕事帰りに40分程度でミナミまで行けるのに、今は1時間半かかります。それでも復路は30分で帰れるから、車で行くのはやめられない。往路の混みっぷりにゲンナリしながらなんばパークスシネマへ。
『正体』(2024)の藤井道人監督によるオリジナル脚本。藤井監督はまだ39歳ですが、1年にどんだけ撮るねんというぐらい撮りまくり。映画のみならず、Netflixで話題になっている岡田准一プロデュースのTVドラマ『イクサガミ』まで手がけて勢い止まらず。そんな藤井監督が主演に舘ひろしを起用。これはちょっと意外。だって、舘ひろしっていつまで経っても“あぶない刑事”のイメージなんだものと思ったけれど、そうか、藤井監督は『パレード』(2024)でも舘ひろしを起用していましたね。
元ヤクザの三浦(舘ひろし)は父親と慕っていた組長の河村(宇崎竜童)から除籍を言い渡された後、旧知の荒川(笹野高史)の世話を受けて小さな港町へやってきた。今は漁師をしながらひとりで暮らしている。ヤクザだったということはどこで聞きつけたか町中の者が知っていて、荒川やごく一部の住人以外は三浦と口を利こうとしない。誰も三浦に面と向かって何かを言う度胸もなく、陰口を叩いては嘲笑っている。
ある日、盲目の少年・幸太(尾上眞秀)がいじめられているところに出くわした三浦。荒川によれば、幸太は事故で両親を亡くし、自身は一命を取り留めたものの失明。遺産目当てに彼を引き取った叔母(MEGUMI)のもとに身を寄せているとのこと。叔母の連れ合い(赤堀雅秋)からは暴力をふるわれているらしく、表情は暗い。ふと三浦が幸太に声をかけたことからふたりの交流が始まる。
幸太を病院に連れて行き、診察を受けてみると、手術をすれば幸太の目は見えるようになると言う。その費用は500万円ほどで、叔母が出すとは思えない。そこで三浦はいまだ彼のことを兄貴と慕う大塚(ピエール瀧)を使って、河村の後に組長の座に就いたろくでなしの石崎(椎名桔平)の金を頂戴することに。金の調達に成功すると、三浦は自首する。そうとは知らない幸太は、名前も知らない「おじさん」に荒川を通じて手紙を送り続け、やがて刑事になるのだが……。
成人した幸太を眞栄田郷敦が演じています。三浦のことを気にかける刑事には市村正親。善人側の人々がみんなものすごく温かいのに対し、石崎の憎たらしいこと。さらには斎藤工演じる石崎の舎弟・八代は見た目も怖すぎる。イカれた斎藤工を見ることができます。
赤の他人の少年のために三浦がここまでしようとするのはなぜなのか。荒川に問われた三浦は、幸太がひとりの人間として自分と接してくれたからだと言います。人間の強さとは何か。誰かのために生きられるということ。
能登半島地震復興応援の一環として製作された作品です。人々の光とならんことを願う。
『君の顔では泣けない』
『君の顔では泣けない』
監督:坂下雄一郎
出演:芳根京子,高橋海人,西川愛莉,武市尚士,中沢元紀,林裕太,石川瑠華,前野朋哉,前原滉,ふせえり,大塚寧々,赤堀雅秋,片岡礼子,山中崇他
『阪神タイガース THE OFFICIAL MOVIE 2025 栄光の虎道(こどう)』の鑑賞後、同じくTOHOシネマズ伊丹にて。
君嶋彼方の同名ベストセラー小説を『決戦は日曜日』(2022)の坂下雄一郎監督が映画化。体が入れ替わる話を観ると、必ずどっちがどっちだったか錯覚を起こしてしまいます(笑)。
30歳の坂平陸(芳根京子)と水村まなみ(高橋海人)は毎年同じ日に喫茶“異邦人”で会う約束をしている。15歳だった高校生の夏、お互いの体が入れ替わってしまって以来、元には戻らずそのまま15年の月日が過ぎた。1年に1度こうして会って近況を報告し合い、いつか元通りに戻れないものかと探っているのだ。
あの夏、一緒にプールに飛び込んだ翌朝、目覚めると体が入れ替わっていたふたり。陸として生きることを余儀なくされたまなみ(武市尚士)、そしてまなみとして生きることになった陸(西川愛莉)。見た目は陸のまなみは、陸の両親(山中崇&片岡礼子)や弟(林裕太)との生活に順応し、女子とも上手くつきあっている様子。しかし、見た目がまなみの陸は、両親(赤堀雅秋&大塚寧々)が陸とまなみのことを恋人同士と思いたがるせいでイライラを募らせ……。
まず30歳のふたりが登場し、15歳まで遡って、時折また30歳のふたりを映し出しながら、17歳、24歳、27歳というふうに節目節目を過ごしたふたりの様子を描いています。
体が入れ替わったことはふたりだけの秘密。誰にも言わず、バレないように過ごしてきました。「私」「俺」と言うのはふたりきりで会うときだけ。友人たちのなかにはふたりがなんだか変わったことを察知していた者もいます。それでも友人関係が続いた相手もいれば、ぎくしゃくして仲が壊れた相手もいる。陸は親友だった田崎淳一(中沢元紀)からまなみとして告白されるはめに陥ったりも。結婚もして、子どもも産み、ここまで来るといろんな人への責任が生じて、見た目がまなみの陸は元に戻ってはいけない気がしてしまう。一方の見た目が陸のまなみは、どうしても元に戻りたい。ふたりの話が聞こえているであろう異邦人の店主役のふせえりと前野朋哉の表情がいいですね。
元に戻ったかどうかわからないままのエンディング。あなたはどちらだと思いますか。
『阪神タイガース THE OFFICIAL MOVIE 2025 栄光の虎道(こどう)』
『阪神タイガース THE OFFICIAL MOVIE 2025 栄光の虎道(こどう)』
監督:今村圭介
ナレーション:佐藤隆太
18年ぶりにリーグ優勝、そして38年ぶりに日本一になった2003年は確かに嬉しかった。そのときほどの興奮は私にはなく、本作もスルーしかけていました。だけど、やっぱり観なきゃいけないよねぇとTOHOシネマズ伊丹へ。観てみたらやっぱりよかった(笑)。
球団創設90周年の今年、2リーグ制となった1950年以降ではNPB史上最速でリーグ優勝を成し遂げた阪神タイガース。藤川球児監督の話を聴きながら今シーズンを振り返ります。選手会長の中野をはじめとする面々が藤川監督や今年のチームについて語る。佐藤、大山、森下、近本、坂本、村上、才木などの主要メンバーのみならず、ちょっと頑張ったルーキー伊原や、伊原以上に凄いルーキーが出てきたかと思われたのにその後は活躍できなかった工藤、エラーに泣いた木浪などの談話もあります。石井大智が打球を受けたシーン、彼が復帰した日のことももちろん。選手の補強に頼ることなく育てる。不気味なチームにしたいと言う球児。
この日、帰宅後に観たかまいたちMCの『余談ですけど』。テーマは「オリックスと阪神の違い」でした。ゲスト出演していた能見が、オリックスファンは球場に行くことを娯楽のひとつとして考えているが、阪神ファンは「球場に行ったらなアカン」と考えていると話していました。本作を観に行った私がまさにこの「観に行ったらなアカン」だったから笑ってしまった。
暗黒時代も懐かしいけど、やっぱり黄金時代が続いてほしいと思うのでした。
『ハウス・オブ・ダイナマイト』
『ハウス・オブ・ダイナマイト』(原題:A House of Dynamite)
監督:キャスリン・ビグロー
出演:レベッカ・ファーガソン,ジェイソン・クラーク,アンソニー・ラモス,ガブリエル・バッソ,ジャレッド・ハリス,ケイトリン・デヴァー,トレイシー・レッツ,グレタ・リー,モーゼス・イングラム,ウィラ・フィッツジェラルド,ジョナ・ハウアー=キング,ブライアン・ティー,レネー・エリス・ゴールズベリー,イドリス・エルバ他
たまには配信で観た作品も挙げておきます。10月24日よりNetflixにて独占配信中。それに先駆けて10月10日から一部の劇場で公開していた折に観に行きたかったのですが時間つくれず。家で観る時間もないんだけどと思いながら、どうしても観たかったので時間をつくりました。つくれるものですねぇ(笑)。
監督は『ハート・ロッカー』(2008)や『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)のキャスリン・ビグロー。骨太の作品ばかりなので、男性だとばかり思い込んでいた時期があります。女性だと知ったときには驚きましたが、まだお若い人だと思っていたら今は70代半ばに差しかかっていらっしゃいます。こんな言い方はたいそう失礼かと思いますが、ババアがこんなの撮れるんだという驚き。すみません。尊敬しています。
出どころが不明のICBM(大陸間弾道ミサイル)がアメリカに向かって発射されたことがわかります。そのときそれぞれこんな3カ所にいたこんな人たちはどうしていたかという3部構成。
第1部『傾斜が水平に』。午前3時すぎ、海軍大佐オリヴィア・ウォーカー(レベッカ・ファーガソン)が発熱した娘を夫に託して出勤する先はホワイトハウスの危機管理室。当直チームから勤務を引き継ぎを済ませるが、午前9時半、北西太平洋上空を正体不明のICBMが飛行しているのを探知。このままだと18分後にシカゴに着弾するものと推定される。
ICBMが発射される前に時間は戻って第2部『弾丸で弾丸を撃つ』。国家安全保障問題担当大統領副補佐官のジェイク・バリントン(ガブリエル・バッソ)は、ICBMの飛行を知らされ、大統領(イドリス・エルバ)、国防長官リード・ベイカー(ジャレッド・ハリス)、米国戦略軍司令官の空軍大将アンソニー・ブレイディ(トレイシー・レッツ)らとのビデオ会議に出席する。
同じく時間が戻って第3部『爆薬が詰まった家』。少女たちのバスケットボールチームのイベントに出席中だった大統領は、ICBMが発射されたとの報告を受けて会場を出る。避難の途中、大統領に同行する報復戦略顧問兼大統領軍事顧問の海軍少佐ロバート・リーヴス(ジョナ・ハウアー=キング)から報復計画の選択肢を提示され、どうすべきか苦悩する大統領。
どの場面にもさまざまな人がいます。ICBMの発射を検知した空軍基地には妻から離婚を切り出されたばかりの少佐。オリヴィアの隣には今晩恋人にプロポーズしようと思っている部下。国防長官は妻の死のことで娘から疎まれていて、電話をかけてくるなと言われているけれど、そこから逃げるようにと伝えたい。ホワイトハウス担当のCNNの記者は何が起きているのか知りたい。大統領の妻は象の保護に関する問題でケニアに滞在中。
報復攻撃をしたのかどうか、私たちはわからないまま。そこが不満なのか、口コミを見ると評価はあまり高くないようですが、あなたならどの選択をしますかと問われているようで唸りました。「報復しないのは降伏するのと同じだ」と言う大統領に対して、「報復するのは自殺するのと同じです」というジェイクの言葉が耳に残っています。
『果てしなきスカーレット』
『果てしなきスカーレット』
監督:細田守
声の出演:芦田愛菜,岡田将生,山路和弘,柄本時生,青木崇高,染谷将太,白山乃愛,白石加代子,宮野真守,津田健次郎,羽佐間道夫,古川登志夫,吉田鋼太郎,斉藤由貴,松重豊,市村正親,役所広司他
NGKに行く前にTOHOシネマズなんばにて2本ハシゴの2本目。『サマーウォーズ』(2009)や『竜とそばかすの姫』(2021)の細田守監督が満を持して送る新作。シェイクスピアの『ハムレット』をモチーフとしています。時間的にちょうどよかったIMAX版を鑑賞しました。括弧内は声の担当者です。
中世のとある国。王アムレット(市村正親)の娘である王女スカーレット(芦田愛菜)は父親のことが大好き。争いを好まないアムレットは優しい王として民衆からも慕われていたが、隣国との揉め事を話し合いで解決しようとする姿勢を王の弟クローディアス(役所広司)は良しとしない。クローディアスの陰謀で反逆罪を着せられたアムレットは、スカーレットの目の前で処刑される。女王ガートルード(斉藤由貴)もあっという間に寝返ってクローディアスの妻となる。
復讐を誓うスカーレットがクローディアスを殺す機会を探るうち、逆にスカーレットが毒を盛られて意識を失う。目覚めるとそこは“死者の国”。年月を経てすでに亡くなっているクローディアスもこの国にいるらしい。砂漠を突き進みながらクローディアスの行方を探していたスカーレットは、現代からやって来た看護師の聖(岡田将生)と出会い、共に旅をするのだが……。
死してなお争う。この国にいるものはみんなすでに死んでいるというのに、クローディアスは今も王として君臨しています。スカーレットが敵討ちを画策しているという噂はすぐに駆け巡り、クローディアスの側近たちが次々とスカーレットを狙う。中にはアムレットを処刑したコーネリウス(松重豊)とポローニアス(山路和弘)もいて、スカーレットは彼らを殺そうとしますが、聖が許さない。負傷したふたりに手当てをしてやる始末で、スカーレットは呆れます。けれど、聖の馬鹿かと思うような優しさがスカーレットを救うことになります。
当然評価が高いだろうと思っていたら、けちょんけちょんに言われていて驚く。確かに『サマーウォーズ』と比べたらいたって「普通」で特に面白かったとは思いません。でもそんなに言われるほどは酷くない。だいたいこの俳優たちの声でアニメが観られるなんて、それだけで嬉しくなりませんか。まぁ、2回は観ないなぁ。てか、散々な叩かれ様で、まもなく上映が打ち切られてしまいそう。
この世界から戦争がなくなることを願って作られた作品であることは確かだと思います。





