1本だけ観る時間ができたので、すでにクリスマスマーケットでにぎわっている梅田スカイビルへと向かい、テアトル梅田にて。
1922年生まれのフランス人映画監督アルベール・ラモリスは、1970年に48歳の若さで亡くなりました。映像詩人と言われた彼の70年前の作品を4Kデジタル技術によって修復、とあるのですが、テアトル梅田では2K上映です。ま、違いが私にわかるとは思えませんし、とりあえず観ておくことに。短編2本の連続上映。
1本目の『赤い風船』(原題:Le Ballon Rouge)は1956年の作品。登校途中、街灯にひっかかっていた赤い風船を取った少年パスカルは、それを持ったままバスに乗ろうとして拒否される。致し方なく風船を掲げてモンマルトルの街を走り抜け、学校へと到着。授業中は門番の男性に風船を預けると、放課後ふたたび風船を持って歩き出すパスカル。風船が生きているかのように振る舞う様子が楽しい。なんといっても色彩が綺麗です。第9回カンヌ映画祭では短編映画パルムドールを受賞したそうです。
2本目の『白い馬』(原題:Crin-Blanc)は1952の作品。南仏のカマルグ地方が舞台。野性馬のリーダーである白馬を狙う馬飼いの一団。しかし逃げ足のはやい白馬を捕らえられる者はいない。一団は、同様に白馬を追いかけていた少年に向かって「もしもおまえがあの白馬を捕まることができたら、おまえにやる」と言う。なかなか捕まえられずにいたが、馬飼いたちが白馬をあぶり出すために火を放った日、逃げ惑う白馬を少年が救ったおかげで、白馬と少年は仲良くなる。最後はまた馬飼いに追いかけられて、白馬にまたがったまま海に入ってゆく少年。幻想的です。こちらは第6回カンヌ映画祭の短編映画パルムドールおよび1953年度のジャン・ヴィゴ賞(29歳で他界した天才映画監督ジャン・ヴィゴにちなんだ賞)を受賞。
どちらも映像詩人の名にふさわしく美しい。おかげで睡魔に襲われそうになりましたけど、たまにはこんなのもいいものです。
『アダムズ・アップル』
『アダムズ・アップル』(原題:Adams Æbler)
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン,ウルリク・トムセン,パプリカ・スティーン,ニコラス・ブロ,アリ・カジム,オーレ・テストラップ,ニコライ・リー・コス他
テアトル梅田にて、“マッツ・ミケルセン生誕60周年祭”開催中。大好きな俳優ですが、“北欧の至宝”と呼ばれていたことは知らず。日本では劇場初公開作からキャリアを象徴する代表作までの7作品が上映されるというこの企画、とりあえず未見の1本を観てみようと出かけてビックリ。どんな人気やねん、マッツ。どの作品も満席かほぼ満席じゃあないですか。
デンマーク出身の世界的俳優であるマッツの映画デビューは『プッシャー』(1996)。『偽りなき者』(2012)で第65回カンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞。『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)では悪役を演じて知名度アップ。『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)でもやはり悪役を演じましたが、とにかく魅惑的なんですよね。『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022)にジョニー・デップの代役としてマッツが登場したときは嬉しくて嬉しくて。別にジョニーのことが嫌いなわけではありませんけど。(^^;
さて、本作は2005年の作品で、マッツと多くの作品で組んでいるアナス・トマス・イェンセンが監督を務めています。旧約聖書の『ヨブ記』を下敷きとしているそうな。
仮釈放されたネオナチのアダム(ウルリク・トムセン)は、更生プログラムの一環として片田舎の教会へ送られる。彼を迎えたのは牧師のイヴァン(マッツ・ミケルセン)と、アダム同様に前科者のグナー(ニコラス・ブロ)とカリド(アリ・カジム)。態度の悪いアダムに対してイヴァンはムカつく様子もなし。ここで何をすればいいのかとアダムが問うと、それは自分で考えるようにとイヴァンが答える。思いつきで「教会の庭の木に生るリンゴでアップルケーキを作る」と答えたところ、リンゴを育ててケーキを作ることを目標にするようにイヴァンから言われ……。
あきらかにおかしい牧師イヴァン。アダムから鼻が曲がるほど殴られても怒ることなく、次の瞬間からケロッとしています。グナーやカリドや近所の人々もイヴァンがおかしいのは承知のうえで、けれど彼を奇跡の存在と目している。実はイヴァンには除去不能の大きな脳腫瘍があり、そのせいで精神が錯乱しているのです。自分の身に起こることはすべて悪魔の仕業、悪魔に試されているのだからいちいち気にしない。そう言うイヴァンと話しているとイライラするアダムは、これは悪魔の仕業なんかじゃない、神のご意志なのだとイヴァンに意地悪くわからせようとします。そしてそれに見事成功したのに、以降イヴァンは生きる気力が皆無となり、まるで屍。
イヴァンがどれほど人々にとって大きな存在だったかをようやく知るアダム。憎らしくて仕方なかったアダムがなんとかイヴァンを元通りの「変人」に戻そうとする様子に和むのでした。凄くブラックな話なのに、最後はニヤけてしまう。好きだなぁ。
『ひとつの机、ふたつの制服』
『ひとつの机、ふたつの制服』(原題:夜校女生)
監督:ジュアン・ジンシェン
出演:チェン・イェンフェイ,シャン・ジエルー,チウ・イータイ,ジー・チン,ホアン・ジーリン,ジェン・ジーウェイ,トゥー・シャンツン他
休日出勤の代休を取った日、晩の飲み会前にテアトル梅田にて、2本ハシゴの1本目。
1990年代後半を舞台にした台湾作品です。香港や台湾の作品ではしばしば取り上げられる統一試験。学歴がすべての世の中だから、良い大学へ入るためにはまずは良い高校に入らなければなりません。富裕家庭ではもちろんのこと、貧困家庭ではなおさらのこと子どもが、ひいては親が良い生活を送れるように、我が子を良い高校に入れて良い大学に進めるようにすべてを賭けると言っても過言ではありません。ほかの国でもそんな感じなのですかね。
1997年の台北。父親が急逝したのち生活が困窮するなかで、長女・小愛(シャオアイ)(チェン・イェンフェイ)と次女・咪宝(ミーバオ)(リン・ユーウェン)をひとりで育ててきた母親(ジー・チン)。小愛には何が何でも良い大学に入学してもらわなければと名門の第一女子高校を受験させるが、小愛は全日制に不合格、夜間部になんとか合格する。夜間部なんて格好悪いと小愛は拒否するも、ほかに通う場がないのだから致し方ない。入学式では「全日制も夜間部も関係ない、同じ第一女子高校」と校長が言う。制服は確かに同じだが、ネーム刺繍の色が違う。同じというならなぜ色を変える必要があるのかと文句を垂れる小愛と新しい級友たち。
こうして始まった高校生活。全日制と夜間部は同じ教室を使い、同じ机を使う生徒同士を「机友(きゆう)」と呼ぶらしい。授業を受ける時間がずれているからお互い顔を合わせることはめったにないが、机の中に手紙を入れるなどして机友と関係を築くことはできる。小愛の登校時にたまたままだ教室にいた机友・敏敏(ミンミン)(シャン・ジエルー)と言葉を交わすと、敏敏はサバサバとしたと美人女子で成績も学年3番以内の秀才。敏敏にすぐに憧憬の念を抱く小愛。毎日手紙をやりとりするようになったふたりは学校外でも会うように。
そのころ小愛が想いを寄せていたのは、バイト先の卓球場にやってくる路克(ルー・クー)(チウ・イータイ)。ところが、敏敏から気になる男子がいると言われて連れて行かれた先には路克がいた。自分も路克が好きだということを敏敏に言えず、自分が夜間部の生徒であるということを路克に言えずに高校生活が進んでゆき……。
すごく好きな話かもしれないという予感が最初はありましたが、わりと月並みな展開。小愛は劣等感に苛まれつづけながら、それでも彼と会う時間が楽しくて、本当のことが言えません。路克のほうも小愛のことが好きで、それに気づいた敏敏が途端に嫌な女子になってしまいます。何もかも暴露されて傷心の小愛が描かれる辺りまでは、うーむ、こんなもんかと思っていました。しかし、敏敏に当てた小愛の手紙が読まれる辺からやっぱり好きだなと思いはじめます。敏敏を欺き、路克に嘘をつき、自分にも嘘をついていたと言う小愛。ここから勉強に没頭する彼女は人が変わったよう。
台湾地震を経る年代に設定したのもよかったと思います。ギデンズ・コー監督絶賛に偽りなし。
『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』〈字幕版〉
『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)2 ぼくらが望む未来』(原題:羅小黒戦記2)
監督:MTJJ,グー・ジエ
声の出演:シャン・シン,リウ・ミンユエ,チュー・ジン他
めちゃめちゃ面白かった『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』(2019)の続編。日本語吹替版の声優陣は知った名前の人ばかりだから、吹替版を観てもいいかなとは思いましたが、とりあえず観るチャンスがあるならまずは字幕版を。イオンシネマ茨木にて。
舞台となっているのが妖精と人間が共存する世界だということさえわかっていれば、前作やTV版をご覧になっていないとしてもじゅうぶんに楽しめる作品ですが、前作から5年経って本作を観た私が「どーゆー意味!?」とわかりづらかったものが2つ。それについてのみ先に説明しておきましょうか。1つめは「館」。館とは妖精と人間が平和に過ごすために働く組織のことで、本部のほか、各都市に支部が置かれています。2つめは「執行人」。執行人とは館で働く妖精の職務のうちのひとつで、問題を起こした妖精を捕らえて拘束する役目を担っています。
子猫の妖精・小黒(シャオヘイ)が、人間でありながら妖精たちの集う館に所属する執行人・無限(ムゲン)の弟子となって2年。ある館が武装集団の襲撃に遭い、その館にいた妖精たちは全員殺されてしまう。防犯カメラに無限と瓜二つの男性が指揮を執る様子が映っていたことから、妖精の長老たちは無限を呼び出し、疑いが晴れるまでここから出ないようにと通告する。無限を犯人だと決めつけて鼻息を荒くするほかの執行人たちは、無限を投獄でもしなければ気持ちが収まらない様子。それを制して哪吒(ナタ)が無限の監視役を買って出る。哪吒の家で一緒にゲームをしながら存分にくつろぐ無限。一方の小黒は無限の無実を証明するため、姉弟子・鹿野(ルーイエ)とともに真犯人探しの旅に出るのだが……。
基本的に真面目な話ではあるけれど、ふきだしてしまうことたびたび。キャラがとにかくとてもいい。小黒は師匠である無限のことが大好き。無限は人間ですが、妖精の誰よりも強い執行人。そして、妖精と人間が共に幸せに暮らすことを誰よりも願っています。鹿野は人間によって惨殺された妖精の生き残りで、無限に拾われました。人間を許せないと思う気持ちは今も変わらない。でも、無限のことは信頼しています。
いま戦えば妖精が勝つ。でも、科学を学びながら発展に務めてきた人間はまだまだ賢くなって、そのうち妖精よりも強くなるかもしれない。それを懸念する妖精が人間を抹殺しようとして今回のことをおっぱじめたわけです。
戦争になったらどちらに付くか。妖精側を選ぶと言う鹿野に対して、小黒は「僕は正しいほうに付く」と言います。そうですよね、どちらに付くかじゃない。正しいほうに付くことを選べるようになりたいと思うのでした。
小黒が可愛いのは言うまでもなく、無限はイケメン、鹿野はクールビューティー、哪吒がめっちゃ面白いし、キュウ爺もサイコー。これはぜひ吹替版も観たいです。もう少しそれぞれのキャラを勉強してから。中国アニメもすっかり侮れなくなりました。
『SPIRIT WORLD スピリットワールド』
『SPIRIT WORLD スピリットワールド』(原題:Spirit World)
監督:エリック・クー
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ,竹野内豊,堺正章,風吹ジュン,でんでん,鈴木慶一,五島舞耶,吉田晴登,細野晴臣,久保田麻琴,斎藤工他
NGKで“コントグランド花月”を観た後、TOHOシネマズなんば別館へ駆け込み。NGKが19:00から2時間のはずだったから、ちょうど予告編が終わる頃に入場できるだろうと思っていたけれど、少し時間が押したせいで本編の上映に間に合わず。10分ぐらい遅れて入場。
シンガポール出身のエリック・クー監督が撮り上げた日本/シンガポール/フランス作品。竹野内豊とカトリーヌ・ドヌーヴと堺正章って、どんなキャストやねん。凄い面々やなぁと思うものの、ドヌーヴ×日本では『真実』(2019)がまったく面白くなかった過去があるので、素直に良さそうだとは思えません。
著名な映像作家ハヤト(竹野内豊)は父親ユウゾウ(堺正章)の訃報を受けて群馬県高崎市の実家へ。遺品の中にユウゾウが大ファンだったフランス人シャンソン歌手クレア(カトリーヌ・ドヌーヴ)のコンサートチケットを見つけ、会場へと向かう。講演終了後、クレアにサインをもらってその場を後にすると、ユウゾウの遺言に従って母親メイコ(風吹ジュン)のもとへサーフボードを届けることに。一方、高崎に宿泊したクレアはひとり飲みに出かけた店でなんと急死してしまう。クレアは死後の世界でユウゾウと出会い、旅するハヤトを一緒に見守ることになって……。
うーむ、乗れない。文句の付け所が間違っているかもしれないけれど、そもそも世界的に人気のある歌手がこんなもんですかと思わずにいられません。歳を取ってからシャンソンを歌いはじめた大竹しのぶとかぶってしまうのです。大竹しのぶのことは好きでも嫌いでもありませんでしたが、彼女が歌うシャンソンは全然上手いと思えなくて、歌いはじめてからの彼女のことが苦手になりました。彼女と比較すると、カトリーヌ・ドヌーヴの声は太くて圧が凄いのは確か。でもやっぱり上手いとは思わないし、胸も打たれない。そこが気になって没入できず。
つまりはスランプに陥って酒浸りだったハヤトの旅の話なので、別に幽霊となったクレアとユウゾウは要らなかったのではとすら思うのでした。幽霊の話なら、やっぱり『僕と幽霊が家族になった件』(2022)がいちばん。それと比べるのが間違っている!?





