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『オーロラの涙』

『オーロラの涙』(原題:On Falling)
監督:ローラ・カレイラ
出演:ジョアナ・サントス,イネス・ヴァズ,ピョートル・シコラ,ニール・ライパー,レア・マクレー,デボラ・アーノット他

京都で3本ハシゴの2本目。前述の『私たちのこれから All Shall Be Well』の次に、同じくアップリンク京都にてイギリス/ポルトガル作品を。『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016)、『家族を想うとき』(2019)の製作陣が手がけたヒューマンドラマとのことなので、てっきり監督はケン・ローチだろうと思ったら、​ポルトガル出身で現在はスコットランドを拠点とするローラ・カレイラという女流監督の作品なのだそうです。第72回サン・セバスティアン国際映画祭で最優秀監督賞にも輝いたとか。

主人公は、ポルトガルからスコットランドへとやってきた移民女性オーロラ。巨大な物流センターのピッカー(物流倉庫内で商品を集めて回る作業者)として働き、住まいはシェアハウス。職場では週毎の最優秀ピッカー賞を獲得することもありますが、貰えるのは金一封ではなくチョコバー。勤務先でも住居でも表層的には上手く人付き合いをしているけれど、休日に一緒に出かける相手もいなければ、愚痴をこぼせるような友人もいません。笑うことも泣くこともなく、仕事中以外はスマホを離さず、淡々と過ぎてゆく毎日。それだけの作品なんです。退屈なはずなのに、彼女がスマホを手放せないのと同じくらい、こちらも彼女から目が離せない。

とにかくお金がない。ただでさえ困窮して日々の支払いもままならないところ、スマホが壊れる。そうなると修理代が思わぬ出費となります。シェアハウスの電気代は入居者が順番に振り込むことになっていて、今週はオーロラが振り込む順番に当たっているのに、想定外の出費があったから払えない。というのか、払うことすら忘れている。停電してみんなが騒いでいるのを聞いて初めて自分の番だったことを思い出します。オーロラ自身はシャワー中に停電に遭い、「ちょっと、私シャワー中なのよ」と叫びかけた後に「どうしよう、忘れていた」と思い至る。しかしそこで「ごめん!私の番だった」とは言えないわけです。言えば自分が今すぐ払いに行かなきゃいけなくなるから。そんなお金はないもの。

スマホの修理代のせいで食事にも金をかけられず、ついにはシェアハウスの人のものに手を出すように。シャンプーも人のものをこっそり使う。こういったシーンのみならず、全編通してオーロラの台詞は非常に少ない。ただそこで起きたことと彼女の表情から私たちは心の裡を感じ取ることになります。もっと給料の良い職場を求めて面接を受けに行った先で、趣味や休日の過ごし方を問われて、自分に何もないことを思い知るときが痛々しい。

最後の笑顔が救いではあるものの、光は射しません。

『これからの私たち All Shall Be Well』

『これからの私たち All Shall Be Well』(原題:從今以後)
監督:レイ・ヨン
出演:パトラ・アウ,マギー・リー,タイ・ポー,ホイ・ソイン,フィッシュ・リュウ,リャン・チョンホン他

祇園でひとり呑みの前に京都で映画3本ハシゴ。その1本目にアップリンク京都で観たのがこの香港作品です。

共に60代のパット(マギー・リー)とアンジー(パトラ・アウ)は長年連れ添ってきたレズビアンカップル。ビジネスで成功したパットは生涯アンジーの面倒を見ると誓い、アンジーはそんなパットを頼もしく思いながら支える。ふたりで新事業を立ち上げる日を目前に控え、交友関係にも恵まれて穏やかで充実した暮らしを送っていた。

アンジーの両親、特に父親は、娘が同性愛者であるという事実について考えたくないのか、何度説明してもパットのことを「親友」としか認識しようとしない。一方、パットの兄シン(タイ・ポー)とその妻メイ(ホイ・ソイン)、兄夫婦の息子ビクトル(リャン・チョンホン)や娘ファニー(フィッシュ・リュウ)はふたりの関係に理解を示し、家族ぐるみのつきあいが続いている。中秋節には皆を招き、アンジーが腕によりをかけた料理をふるまうが、その晩、パットが急逝してしまい……。

台湾は東アジアで初めて同性婚を認めた国ですが、香港では同性婚は現在も非合法。いくら事実上のパートナーであっても、遺言状がなければパットの遺産を継ぐ権利はアンジーにはありません。ふたりで終の住処として購入したマンションの部屋も、パットだけが契約者として署名したものだから、アンジーのものとは認められないのです。

パットとアンジーのことをずっと見つめてきたにもかかわらず、遺産が絡むと変わるのが人間。無職だったシンはようやく夜勤の警備員にアルバイトが決まったばかりで、遺産が入るなら保険もつかない警備員の仕事をしなくてよくなるでしょう。妹のパットはビジネスの才があるのに、その兄であるシンはまるで駄目。どうしてこんなに兄妹で出来に差があるんだと、メイはパットとアンジーのことを妬ましく思っていたとメイ自身が吐露するシーンがあります。

親がこんなだから、楽ではない生活を送ってきたビクトルとファニーも、お小遣いやら車の修理代やら何かにつけてそっと手渡してくれていた叔母パットとアンジーの味方のままではいない。最初こそアンジーを追い出すなんてあんまりだと両親に言うけれど、次第に金と部屋がほしくなってしまうのです。

遺言状さえ書いてくれていたら。でも60代で今まで健康だったなら、自分が急死するなんて思いませんよね。ぼちぼち書けばいいやぐらいに構えていると、こんな事態に陥る。もっとも、遺言状を書かなかったせいではなく、同性婚や事実婚が認められていないことのほうが問題でしょう。かつ、本作を観れば香港の住宅不足や経済格差も浮き彫りになっています。ファニー一家が暮らすマンションなんて、ここはどこのスラムですかと思うほどの酷さ。ここから抜け出せるなら、世話になった人の心配なんてしていられないと思う気持ちもわからなくはない。

つい先日、別姓を通す日本人夫婦が、日本では法的に結婚が認められないため、婚姻届を提出するためだけに渡米して即帰国したという新聞記事を読みました。保険の受取人としても認められるかどうかは日本ではまだまだ厄介なようですが、それでも結婚自体は認められる。本作の中でも「アメリカで婚姻届を提出していたら、こんな理不尽なことにはならなかったのに」という弁護士の台詞があります。そんなことをしなくてもこの人たちは純然たるパートナーだったと認められる日はいつになったら来るのでしょう。

『ENHYPEN [WALK THE LINE SUMMER EDITION] IN CINEMAS』

『ENHYPEN [WALK THE LINE SUMMER EDITION] IN CINEMAS』(英題:ENHYPEN [WALK THE LINE SUMMER EDITION] in Cinemas)
監督:オ・ユンドン,パク・ジェソク

昨年“HYBE CINE FEST IN ASIA”『HYBE CINEMA NORAEBANG』を観たさいにENHYPENのことを知りました。メンバーのうちのひとりであるニキがサトテル似なのが気になって(ニキファンの人、ごめんなさい)、調べてみたらグループ唯一の日本人。韓国語も話せなかった13歳のときにK-POPアイドルを目指して単独渡韓したと知り、俄然応援したくなりました。以来、推しとまでは言えませんが、かなり気になる存在です。

本作は2025年7月6日に東京・味の素スタジアムで開催された“ENHYPEN WORLD TOUR ‘WALK THE LINE’ IN JAPAN SUMMER EDITION”の模様をフィルムに収めたドキュメンタリー作品。観るか観まいか迷っていたところ、数日前にメンバーのヒスンが突然脱退とのニュースを聞き、彼がいる最後のライブなら観ておくことにしました。と言っても、ジョングクにハマる前はBTSが何人なのかも知らなかったときと同じで、ENHYPENもニキ以外は名前も知りません。よって、脱退したヒスンがどの人なのかもわからないまま鑑賞しました。

前週に観るかどうか迷っていたときに空席状況を確かめたら、あんまり客が入っていなかったけれど、ヒスン脱退が効いたのか、「えっ」と思うほど客が入っています。109シネマズ箕面のScreenX版

オープニング曲の“BROUGHT The Heat Back”はENHYPENを聴きはじめた頃から大好きなので、テンションが上がる。ENHYPENファンのことはENGENEというのですね。これも今回初めて知りました。すみません。“Shine On Me”はARMYで言うところの“Forever We Are Young”みたいな感じなのでしょうか。確かに良い曲。

鑑賞翌朝、ヒスンがどの人なのか調べて驚く。アンタやったんかい。いつまでもENGENEと一緒にと言っていたのに、寂しいことですね。今後の活動は6人で続けるとのこと。これを機会に全員の名前を覚えるようにします。ニキ推しで。(^^)

『花緑青が明ける日に』

『花緑青が明ける日に』
監督:四宮義俊
声の出演:萩原利久,古川琴音,入野自由,岡部たかし他

イオンシネマ茨木にて、2回目の『木挽町のあだ討ち』を観ました。2回目だと、芝居だとわかっているから変なところで笑ってしまいます。最初の最初から「この人ら、めっちゃ芸達者やなぁ」と思ってふき出してしまって。怪しい客になっていたと思います。すみません。

さて、その後に同じ劇場の同じスクリーンで観たのが本作。日本画家の四宮義俊が監督・原作・脚本・キャラクターデザイン・作画監督・美術監督・色彩設計をすべて自身で務めた長編アニメーション作品です。新海誠監督の『言の葉の庭』(2013)のポスターアートや『君の名は。』(2016)の回想シーンのパート演出なども担当しているとのことですが、ポスターアートだとかパート演出などと聞いても私にはよくわかりません。多方面で活躍している人なのですよね。ふむふむ。

神奈川県二浦市(三浦市に因むとおぼしき架空の都市)に暮らす式森カオルと幼なじみの兄弟・帯刀千太郎と敬太郎。帯刀家は老舗の花火工場“帯刀煙火店”を営んでいたが、兄弟の父親・榮太郎が蒸発。以降、敬太郎は失踪した父親に代わって幻の花火“守破離(シュハリ)”を作ることに没頭しはじめる。しかし、町は再開発のために帯刀煙火店を取り潰したい。立ち退きを迫るも敬太郎は出て行こうとしないまま4年が経過する。

大学入学をきっかけに町を出たカオルのもとへ、今は二浦市役所に勤める千太郎から連絡が入る。まもなく行政代執行によって帯刀煙火店が壊されるから、その前に敬太郎を説得してほしいと言うのだ。カオルはとりあえず帰郷し、千太郎と共に敬太郎に会いに行くのだが……。

冒頭、声が聞き取れなくて不安になりました。これは私の耳が悪いのかしらと心配していたら、その後は大丈夫。しかし、カオル役の古川琴音の声がなんとなく聞き取りづらい気がします。女優としては嫌いな人ではないけれど、声優としては若干の違和感。そしてハチャメチャな敬太郎の声も萩原利久というのはちょっと違う気がして。もう少し高めの声の人のほうがイメージに合っているように思うのです。絵のイメージどおりの声だと思ったのは千太郎役の入野自由と榮太郎役の岡部たかし。声が引っかかるとなかなか物語に没入できません。

「再開発」には否定的な作品のほうが多く、故郷で再開発の話が持ち上がったことがない身としてはどう受け止めるべきなのかも迷います。これだけの土地を占拠して、税金も納めずにいたら、そりゃ出て行けとなっちゃうのかなぁとは思うものの、行政と業者の癒着問題なども組み込まれていて余計に迷う。鑑賞後に三浦市が実際に同じ問題を抱えているということを知り、さらに複雑な気持ちに。

シュハリには目を奪われました。こんな花火がもう見られなくなるならば、やっぱり花火工場をそのまま残してほしくなる。

『ナースコール』

『ナースコール』(原題:Heldin)
監督:ペトラ・フォルペ
出演:レオニー・ベネシュ,ソニア・リーゼン,アリレザ・バイラム,セルマ・ジャマールアルディーン他

テアトル梅田にて、前述の『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』とハシゴしたスイス/ドイツ作品。監督は本作が長編3作目となるペトラ・フォルペ。ドイツ出身の女優レオニー・ベネシュが主演を務めています。

スイスの病院。人手不足にもかかわらず、患者を拒めずに常に満床の病棟看護師フロリアが遅番のシフトに入ると、3人体制のはずが1人欠勤で2人きり。あと1人いるにはいるが、見習いの実習生。携帯電話は病院の内外問わずひっきりなしに鳴り、そのたびに優先順位を見極めて対応するフロリアだったが……。

フロリアが病院内を行ったり来たりするだけの作品なのに、みなぎる緊迫感が半端ではありません。患者はさまざまだけど、そりゃ誰でも自分を優先してほしい。検査を受けて何日も経つのに、主治医から何の説明もなくて不安がる老人。便秘で入院し、処置後に認知症を発症したかのような老女。投薬の時間を過ぎていると苛立ちながら言いに来る女性。ナースコールをしてから病室に来るまでの時間を毎回計って嫌みを言う男性。禁煙を守らないアル中女性患者もいます。

ある患者がフロリアのことを天使だと言ったように、この看護師は本当に凄い。終始笑顔というわけでもないし、下手に慰めの言葉をかけたり希望を持たせたりなんてことはありません。淡々とひとつずつ仕事をこなす。しかし、不安に駆られている患者が落ち着けるように最善のことをする。時には子守歌を歌うことも。生身の人間でありながら天使なのです。

時間を計る男性患者、ベランダで喫煙する女性患者とのやりとりは傑作で、ニヤニヤしてしまいました。癌で亡くなった私のは泣き言ひとつ言わなかったけれど、同じく私のが「昼間はどうってことないねんけどね、夜はきついね。こたえる」と言っていたのを思い出し、本作の患者たちのような気持ちだったのかなと思いました。

世界的に深刻な看護師不足に陥っているそうです。この人たちに安らげる時間を。観てよかったと切実に思う作品でした。