『しわ』(原題:Arrugas)
監督:イグナシオ・フェレーラス
声の出演:タチョ・ゴンサレス,マベル・リベラ他
今年6月、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーの配給によって
劇場公開が実現した2011年のスペインのアニメーション作品。
ほんわかしたアニメを予想していたら超凹む。
アニメでこんなにヘヴィーなのは『メアリー&マックス』(2008)以来かも。
原作はフランスで大絶賛されたパコ・ロカのコミック『皺』。
エンディングの言葉は「今日の老人 明日の老人 すべての人に捧げる」。
かつてはとある銀行の支店長だったエミリオ。
認知症の症状が現れはじめた彼を、息子夫婦は老人ホームに入居させることに。
ホームは高級な部類に入ると見えて、食事は豪華、プールもある。
ルームメイトとなったのは数年前から入居しているミゲル。
気さくな男のようだが、向こうから申し出た館内の案内に金を要求されたのがちと不満。
言い訳するミゲルに、自分は銀行員だったから金銭関係に詳しいと言うエミリオ。
それを聞いたミゲルは、エミリオのことを富豪に例えて「ロックフェラー」と呼ぶようになる。
館内を一通り見学し終わるが、ミゲルは2階へは連れて行ってくれない。
2階にはいったい何があるのかと尋ねるエミリオに、ミゲルは決して2階へは行くなと言う。
自分で自分のことができなくなった者が2階に送り込まれ、
正常な人間ですら2階へ行けば1週間で気が変になるのだと。
最初のうちは自分には何もおかしなところなどないと思っていたエミリオ。
しかしある日の食事時、向かいの席に座るアルツハイマーの男と
看護師が薬を渡しまちがえたことから、自分もそうであると気づく。
2階へは送り込まれたくない。
エミリオはミゲルに相談、なんとかずっと1階で暮らせるよう、策を練るのだが……。
ホームに入居者として登場するのは、エミリオとミゲルのほか、
ごく稀に面会に来る孫のためにバターやジャムを貯めるアントニア、
アルツハイマーのモデストと、彼を介護するために一緒に入居した妻ドローレス。
金さえ払えば何でも頼みを聞いてくれるミゲルに、犬を飼いたいと頼みに来る男性は、
犬を連れ歩いていることを忘れてしまうために犬の世話ができません。
また、一日中、公衆電話の場所を探し歩いている女性や、
相手の言葉をオウム返しに話しつづける元DJの男性などなど。
最近のことが思い出せず、簡単な名詞が出てこなくなる。
身だしなみを整えられず、金品を盗まれたと疑い深くなる。
そんな、聞き及ぶ認知症の症状をまざまざと見せつけられます。
自分を騙しつづけるか、真実と向き合うか。
入居当時から自分は沈没しないと固い意志を持っていたとおぼしきミゲルは、
綺麗事なんて言っていられないと言いつつも、
なんとかエミリオが2階送りにならぬよう、あの手この手を打ちます。
やがて1階から消えてゆく人びと。押し寄せる悲しみが耐えがたく。
けれども、友人としてずっとそばにいる選択をしたミゲルの姿に少し救われます。
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