『人生はビギナーズ』(原題:Beginners)
監督:マイク・ミルズ
出演:ユアン・マクレガー,クリストファー・プラマー,メラニー・ロラン,
ゴラン・ヴィシュニック,メアリー・ペイジ・ケラー他
『セイジ 陸の魚』の前、4本ハシゴの3本目。ガーデンシネマ梅田にて。
マイク・ミルズ監督が、自身の父親との関係を基に書きあげた作品。
今週初めに発表された第84回アカデミー賞では、
父親役を演じたクリストファー・プラマーが助演男優賞を受賞しました。
CDジャケットなどのデザインを手がけるアートディレクター、オリヴァーは、
ロサンゼルス在住の38歳の独身男。
1955年に結婚した両親は44年連れ添い、1999年に母ジョージアが他界。
その半年後、父ハルは75歳にしてゲイであることをカミングアウト。
癌に冒されて亡くなるまでの4年間、自分に正直な人生を満喫する。
2003年、父の最期を看取ったあと、いつまでも喪失感が消えないオリヴァー。
同僚たちは彼をパーティーに誘うが、どこへ行っても父のことを思い出す。
オリヴァーのさびしい笑顔を指摘したのが、
ニューヨークで高級ホテル住まいをしているフランス人女優アナ。
意気投合したふたりは以後も会うようになるのだが……。
ユアン・マクレガー主演の父親と息子の話といえば、
『ビッグ・フィッシュ』(2003)がめちゃくちゃ良かったですが、
あれから約10年、30代後半の息子を演じる彼もやはり○。
美術史を愛し、美術館を創設して館長を務めたハルは、自宅には不在であることが多く、
ハルを見送るジョージアの表情に、子どもながらになんとなく不穏を感じ取っていたオリヴァー。
厳格だったはずのハルのいきなりのカミングアウトにオリヴァーはとまどいますが、
病の縁で人生を謳歌する父親との距離を徐々に縮めてゆきます。
しんみりとするテーマのなかにも遊び心がいっぱい。
ポップな色使いの絵や写真を挟み、序盤は観ているあいだ、ずっとニコニコ。
オリヴァーのつぶやくあれこれやユーモアのセンスが、
両親から受け継がれたものだとわかるシーンにもニッコリ。
時系列をいじりながらも混乱させることなく見せてくれます。
オリヴァーとアナは、お互いこの人しかいないと思っているのに、
人との距離の置き方が似すぎていて、なんだか素直になれません。
失うときが来るのが怖くて踏み出せない。
そんなふたりを応援するのがアーサーという名前の小型犬(ジャックラッセルテリア)。
犬にしゃべらせちゃう演出もとってもキュートでした。
アナ役のメラニー・ロランもアーサーに負けず劣らず(?)キュート。
ラストはちと急ぎ足でまとめにかかってしまった印象があります。
けれど、オリヴァーとアナ、ハルにジョージア、それにゲイの仲間たちを見ていると、
「人間は前ばっかり向いているわけにはいかないんだよ。
下を向いたり後を振り返ったりするのが人間だと思うんだ」。
重松清の『カシオペアの丘で』に出てくるこんな一文を思い出し、
振り返ったり下を向いたりしてときおり前に進めなくなる登場人物たちが
たまらなく愛おしくなる作品なのでした。
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