『ムーンライト』(原題:Moonlight)
監督:バリー・ジェンキンズ
出演:トレヴァンテ・ローズ,アンドレ・ホランド,ジャネール・モネイ,アシュトン・サンダーズ,
ジャハール・ジェローム,アレックス・ヒバート,ナオミ・ハリス,マハーシャラ・アリ他
前述の『はじまりへの旅』を観たあと、必死のぱっちでJR大阪駅へ。
野洲行きの新快速に飛び乗って京都へ。嵯峨野線の園部行きで二条まで行きました。
お初のTOHOシネマズ二条へたどり着けるか不安でしたが、
二条駅で降りると目の前にBivi二条というショッピングモールが。
その4階にTOHOシネマズ二条が入っています。
先ほどおこなわれた第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞。
特に作品賞については、一旦『ラ・ラ・ランド』と発表されながら、
訂正されて本作の受賞が発表されたという前代未聞の珍事がありました。
ぬか喜びに終わってしまった『ラ・ラ・ランド』関係者としては冗談ではないでしょうが、
それまで日本ではほとんど宣伝もされていなかった本作は、
一気に世間の人の興味を惹くことになったはず。
実際、この日は満席でした。
で、どうだったかというと、やはりこちらのほうがオスカーにはふさわしい。
『ラ・ラ・ランド』ももちろんいい作品ではありましたが、
同監督の作品では『セッション』のほうが断然好きだった私としては、なんだか物足りなかった。
そこへいくとこれはしみじみといい映画だなぁと思えます。
ひとりの黒人の小学生時代、高校生時代、成人してからの3部構成。
それぞれタイトルは第1部『リトル』、第2部『シャロン』、第3部『ブラック』です。
内気な少年シャロンは母親ポーラと二人暮らし。
体が小さいせいで学校では「リトル」と呼ばれ、
左足を少しひきずっていることもあってか、いじめの対象。
その日も同級生たちに追いかけ回され、やばい地区へと逃げ込む。
その様子を偶然見かけたのが、ドラッグディーラーである中年男フアン。
見た目はいかつすぎるフアンだが、シャロンに優しい目を向け、
「こんなところにいてはいけない。送ってやるから家を教えろ」と言う。
ところが、ひと言も口をきこうとしないシャロン。
困ったフアンは恋人テレサの自宅へとシャロンを連れて行く。
やっと口を開いたシャロンが家に帰りたくないと言ったことから、
フアンとテレサはシャロンを一晩泊めてやる。
翌朝、フアンがシャロンをポーラのもとへと送り届けると、
ポーラはお礼を言うどころか失礼きわまりない態度。
実はポーラは麻薬中毒で、育児放棄状態。
それを察知したフアンは以降シャロンを気にかけるように。
フアンとテレサによって初めて人のぬくもりに触れたシャロン。
しかし、フアンがヤクの売人であることを知り……。
ここまでが第1部。
高校生になったシャロンは、相変わらず酷いいじめに遭っている。
唯一の友だちは、小学校のころからの友だちケヴィン。
陽気で腕っぷしも強いケヴィンは、いじめっ子たちとも上手くつきあっているが、
シャロンを見かけるといつも変わらず話しかけてくる。
彼といるときだけは心の平穏を感じるシャロン。
帰宅すると、ドラッグを買う金のためについには売春を始めたポーラが
今日は客が来るから家から出ていろとシャロンに言う。
フアンの亡き後もなにかとテレサの世話になってるシャロンは、
この日もほかに行く場所がなくて、テレサの家に泊めてもらう。
テレサがくれる小遣いは、翌日にはすべてポーラに持って行かれる運命。
このころ、シャロンは自分が同性愛者ではないかと疑いはじめていた。
ケヴィンと会っているときに感じる胸の高鳴り。
それはもしかするとケヴィンのほうも同様なのかもしれない。
ある日、いじめっ子たちからシャロンを殴るようにと言われたケヴィンは……。
ここまでが第2部。
第3部は、見違えるように鍛え抜かれた体になった、成人のシャロン。
服役を終えた彼は、地元には帰らず、ヤクの売人に。
のし上がってカネを手にし、歯には金を嵌め、高級車を乗り回しています。
黒人が主人公で辛い映画となると、ついつい人種差別がテーマの作品かと思ってしまいます。
そこがすでに大きな偏見なのですよね。全然ちがいました。
本作に白人は出てきません。姿が見えることはあったかな、ぐらいの程度。
白人を排除した映画だというわけではなく、
舞台となっているこの地域がほぼ黒人ばかりの居住地区ということのよう。
だから、これはどんな人種のどんな地域にも起こって不思議はないこと。
それぞれが所属するコミュニティの縮図といってもいいでしょう。
学校、職場、自治体などにも当てはめてみることができます。
毎日が辛くて辛くて仕方がない。そんななかで感じるささやかな幸せ。
目をかけてくれる人の優しさ、友だちとのふれあい。
たったひとりの人物の人生を3つに切り取って見せる腕前、素晴らしいです。
惜しむらくは成人したシャロンの半開きの口。
かぶせた金がじゃまなのか、金をつけているときはいつも半開きのせいで、
ちょっとバカっぽく見えてしまうのです。そんなことありません?
惚れてしまいそうな肉体なのに、なんともったいないことよ、トレヴァンテ・ローズ。
オスカーの助演男優賞を受賞したフアン役のマハーシャラ・アリはめちゃめちゃイイです。
予想に反してピュアなラブストーリー的ラストが待っています。
そう来るかと驚いたし、ゲッと思う人もいるでしょうけれど、私は好きでした。
そうそう、ブラッド・ピットがエグゼクティブプロデューサーとして名前を連ねているのですよね。
相変わらずオイシイところを持っていく人です。
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