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ものの味わい方を観る。〈酒とピラニアの餌〉

前述の『列車に乗った男』のなかには、
ふたりの男がお互いの人生への憧れを見せるシーンがいくつかあります。

特に好きだったのは酒とスリッパのシーン。

最初はマネスキエからの寝酒の誘いも断っていたミラン。
しかし、やがて食事も一緒に取るようになり、
逆にマネスキエに酒を勧めます。

ミランにハードリカーを勧められ、
「やめとく。おいしくない」と答えるマネスキエ。
これに対して、ミランはこう言います。

「コツがある。
 まず、口いっぱいに含め。
 喉が渇いたときの水のように、
 体中の管に流し、ぬくもりを味わう。
 どうだ?」。

マネスキエは「飲めそうだ」。
このときの幸せそうなマネスキエの顔といったら。
そして、無愛想なミランもこのときばかりは微笑んでいます。

ミランがマネスキエにこんなことを頼むシーンもあります。
「部屋履きを履きたい」。
「足が痛むのか?」とマネスキエ。
「履いたことがないんだ」。

履き心地のよさそうな、高そうなスリッパに
生まれて初めて足を通すミラン。
「どうだ?」と問われて、「いいもんだな」。
履き込めば履き込むほど、
肌の一部になるからと教えるマネスキエ。
そして、やはり、ふたりとも幸せに満ちた表情。

酒の味わい方が出たついでに思い出した映画を。
役所広司主演の『油断大敵』(2003)。
こちらもおそらくまだ新作レンタルの棚にあります。

ダルマの製作所から数十万円とピラニアの餌を盗んだ
柄本明演じるベテラン泥棒。
刑事である役所広司から
「なんでピラニアの餌なんか盗んだんですか」と聞かれ、
「食べたんだ」。

不思議そうな顔で柄本を見つめる役所に向かって、
「ただ食べるんじゃない。
 自分の想像していた味とどうちがうか、
 味わいながら食べるんだ」。

飲むも食べるも、ただボーッと喉を通してちゃいかんってことですよね。
口に入れる前からしっかり想像を働かせ、
喉を通りすぎてゆくのを感じながら、体中でしっかり味わう、
なんて幸せなことでしょう。

ただし、柄本明の台詞には続きがあります。
「そうすると、ひとつの真実が見えてくる。
 ピラニアは味音痴だ」。(^O^;
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