『オーバー・フェンス』
監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー,蒼井優,松田翔太,北村有起哉,
満島真之介,松澤匠,鈴木常吉,優香他
宴会前に2本ハシゴの2本目。
前述の『歌声にのった少年』と同じくテアトル梅田にて。
自ら命を絶ってのち20年近く経ってから評価されるようになった、
北海道函館市出身の不遇の作家、佐藤泰志。
函館を舞台にした彼の3つの作品をいずれも大阪芸術大学芸術学部映像学科出身の監督が映画化。
『海炭市叙景』(2010)は熊切和嘉監督、『そこのみにて光輝く』(2013)は呉美保監督、
そして本作はもともと私のお気に入り、山下敦弘監督。
不覚にも『海炭市叙景』は未見なのですが
(熊切監督の『鬼畜大宴会』(1997)のイメージが強すぎるせい(笑))、
たぶんこの函館三部作はすべて私のストライクゾーンど真ん中。
会社を辞め、妻子と別れて故郷の函館に戻ってきた白岩(オダギリジョー)。
職業訓練校の建築科にかよっているが、大工を目指しているというのは建前。
訓練校とアパートを自転車で往復するだけの日々で、
ときおり様子を見に立ち寄る義弟も無気力な白岩を心配している。
訓練校のクラスメートは、代島(松田翔太)、原(北村有起哉)、島田(松澤匠)、
勝間田(鈴木常吉)、森(満島真之介)などで、年齢も経歴もバラバラ。
作業が遅く、いつも暗い表情の森は教官や島田からいじめられているが、
白岩のことは森を含むほとんどの者が「いちばんマトモ」だと思っている様子。
ある日の授業後、白岩は代島から飲みに誘われる。
代島の行きつけらしきキャバクラで紹介されたのが聡(さとし)(蒼井優)。
女にあるまじき名前のそのホステスは、言動もぶっ飛んでいる。
後日、代島から「聡が会いたがっている」と聞いた白岩は、
彼女が昼間バイトをしている遊園地へ立ち寄るのだが……。
白岩役のオダギリジョーの抑えた演技が光ります。
ワケありだけどそのワケはなかなか明かされず、
しかしそのワケのせいで彼にはもう生きる意味が見いだせません。
人と上手く調子を合わせ、上手く断り、
何かも笑顔で受け流していれば、勝手に毎日が過ぎてゆくけれど、
おそらく彼にとってその一日はとてつもなく長い。
数週間前に読んだ浅田次郎の『霧笛荘夜話』に
「生きるのは苦しいけれど、死ぬのはもっと苦しい」という一文がありました。
まさに白岩の様子は、「生きる意味なし、でも死ぬ気力もない」、そんな感じ。
そんな彼が、明らかに精神を病んでいる聡と関わり、
封印していた感情を露わにします。喜びも怒りも悲しみも。
ソフトボール大会のグラウンドに張られたフェンスだけでなく、
見えるところ見えないところ、人のまわりにはいくつものフェンスが張り巡らされているはず。
それをどう越えるのか。
9月に劇場で観た作品のうち、本作のラストシーンがいちばん好きでした。
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