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『アリスのままで』

『アリスのままで』(原題:Still Alice)
監督:リチャード・グラツァー,ワッシュ・ウェストモアランド
出演:ジュリアン・ムーア,アレック・ボールドウィン,クリステン・スチュワート,
   ケイト・ボスワース,ハンター・パリッシュ,シェーン・マクレー他

ちょっと寝てしまった『コングレス未来学会議』終映後に
シネ・リーブル梅田のある4階から1階へ駆け下り、
公衆電話で桃谷のとんかつ屋さんにお弁当注文の電話。
近くでケータイをいじっているお兄ちゃんがいるのに
「盛り合わせとエビミックス」と言うのは少々恥ずかしかったけれど。

ふたたび4階へ戻って本作を。
数人連れで来ているおばちゃんが多く、上映前の話し声のけたたましいこと。
上映中は静かでしたが、ケータイを2回も鳴らしたオバハン1名。しばく。

主演のジュリアン・ムーア第87回アカデミー賞で主演女優賞を受賞。
リチャード・グラツァー監督はホーキング博士と同じくALS患者で、
本作の企画が持ち上がったときに病状が悪化。
ゲイカミングアウトしている監督の公私ともにパートナーだった、
ワッシュ・ウェストモアランド氏のサポートを得て映画を完成。
残念ながら今年3月にグラツァー監督は他界されました。

大学で言語学の教鞭を執るアリスは50歳。
彼女の授業は大人気で、業績も非常に高く評価され、講演会等に引っ張りだこ。
医師の夫ジョン、その後を継ぐ長男トム、既婚で妊娠を待ち望む長女アナと優しい婿、
役者志望の次女リディアと、子どもたちは三者三様だが、
良い家族に恵まれて、充実した日々を送っている。

ところが、ある日の講演中、簡単な単語が出てこなくなる。
日課のジョギング中に道に迷ってしまうこともあり、
病院で検査を受けたところ、若年性アルツハイマー病だと宣告される。
しかも遺伝性であり、子どもたちにも高い確率で発症のリスクがある。
ジョンは急いで話す必要はないと言うが、
診断がまちがいないものだとわかれば、打ち明けざるを得ない。

アリスの症状は徐々に進行し、大学の授業にも支障を来すように。
辞職を余儀なくされたアリスは不安に駆られ、家族も動揺の色を隠せず……。

知的レベルが高い人ほど進行が早く、
けれど症状が出ても騙しだまし日々を送ることができるので、発見が遅れる。
同年代だけに他人事とは思えず、見ているのが辛く恐ろしい。

まだ正気の時間がほとんどのとき、アリスが冷蔵庫の中を覗いて唖然。
なぜシャンプーが入っているのかと。
しかしこれも私を含めて友人の間ではない話ではありません。
冷蔵庫の中に木工用ボンドが鎮座ましましていたとか、
洗ったつもりだった鍋を実は洗わずに片付けていて、何週間も経ってから気づいたとか。
全部笑い話で済んでいますが、済まなくなるとしたら。

正気なアリスがいずれそうでなくなる自分に向けてビデオレターを残します。
自殺の手段を伝えているわけですが、正気でなくなったアリスにはそれもできない。
階段を上がって、棚を見つけて、引き出しを開けて、薬を取り出して、全部飲む。
そこに至るまでに、指示のひとつひとつを忘れてしまうから、
自分が以前に考えていた「こうなったら死んだほうがマシ」という状況になっても、
死ぬことが許されないなんて。

何もわからなくなっても、愛は感じることができる。
そのシーンはとても優しくて、心に残ります。
ただ、実際に認知症の家族を介護してきた人にとっては、
こんなものではないと言いたくなるかもしれません。
若年性アルツハイマー病を知るにはいい作品かと。
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