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『兄を持ち運べるサイズに』

『兄を持ち運べるサイズに』
監督:中野量太
出演:柴咲コウ,オダギリジョー,満島ひかり,青山姫乃,味元耀大,斉藤陽一郎,岩瀬亮,浦井のりひろ,足立智充,村川絵梨,不破万作,吹越満他

仕事帰りにTOHOシネマズ伊丹にて2本ハシゴの1本目。

村井理子のノンフィクションエッセイ『兄の終い』を『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)の中野量太監督が映画化。中野監督は決して量産タイプの監督ではありませんが、私にとって「良いところを突いてくる監督」のような気がしています。

作家の村井理子(柴咲コウ)は滋賀県で夫と長男次男の4人暮らし。ある夜更け、知らない番号からの着信を不審に思いつつ出てみると、東北の警察からの電話。疎遠だった兄(オダギリジョー)が脳出血で急死したらしく、遺体を引き取りに来てほしいと言うのだ。家のことを夫に頼み、4日間の予定で宮城県へと向かう理子。

ふたり兄妹の理子と兄。子どもの頃からマイペースだった兄は、家族で食事に行けばサンプルの前から動かないから、そんな息子に父親(足立智充)はイライラして、理子にはさっさとお子様ランチを勝手に頼む。ゆっくり店内に入ってきた兄は、理子が食べたくてたまらなかったオムライスを頼んだ挙げ句、「中の下の味」と言い放つ。父親は呆れて怒るが、母親(村川絵梨)は兄を放っておけないらしく、溺愛していた。お兄ちゃんなんかいなくなればいいのに。そう思っていた理子。

父親の死後、兄はずっと母親のすねをかじって実家で暮らしていたのに、母親が癌とわかるや否や実家を飛び出し、行方をくらました。母親の葬式の日に戻ってきたかと思うと、喪主を務める理子に金の無心。どうにも最低な兄と連絡を絶とうとするも、居場所もわからない兄は一方的に理子にメールしてきては金を振り込んでほしいと言う。すべて無視しているうちに兄は亡くなったというわけだ。

兄の遺体の第一発見者は小学4年生の息子・良一(味元耀大)らしい。兄のことは憎けれど、良一のことは心配。もしも良一の行く先がなければ自分の家に引き取る覚悟を夫(斉藤陽一郎)に伝えたうえで多賀城市に到着。良一は児童養護施設に一時的に預けられていることを知る。兄の元妻・加奈子(満島ひかり)と娘・満里奈(青山姫乃)と市役所で落ち合って葬儀の手続きを進めた後、兄が暮らしていたアパートに3人で出向き、部屋を片づけることにするのだが……。

もうホントにクズなんです。いくら死んだからって、今さら許すとか好きになるとか思えないほど。このクズっぷりで実はいい人でしたとかいう展開はないよねと思っていたら、そうか、こういうクズもいるのかぁ(笑)。金を振り込んでくれという理由が、給湯器が爆発しそうでなんとかしなきゃだとか、募金箱に有り金ぜんぶ入れちゃっただとか、良一にピアノを習わせたいだとか。よくもそんな嘘を思いつくもんだ。そう思っていた理子。いやいや、私だってそう思う。

別れたけれど良き理解者だった加奈子は、確かに彼は嘘つきだけど最初から嘘をつこうと思っているわけではないと言います。本当にそうしようと思っているのに、結果的に嘘になってしまうのだと。満里奈もパパのことが大好きで、部屋の様子からネグレクトすら疑っていた良一だってお父さんのことが好きだった。兄がいなくなることを願っていた理子も、昔の兄と過ごした時間を思い出します。そう、いつでも兄は全力。

この2日前に観た『栄光のバックホーム』では一粒の涙もこぼれなかった私ですが、これはかなり泣きました。そうじゃないほうが普通なのでしょうが(笑)、中野監督が描く家族の姿が好きです。理子と兄、理子と夫と息子たち、加奈子と満里奈と良一。みんな凄くいい。

最後にかます満里奈の台詞には笑ったな~。「お金はなくても幸せな家族だったかもと思ってるでしょ!? お金がないのに幸せだなんてことはあり得ません。それはお金のある人の妄想」。家族のためにカッコイイ母親になると誓う彼女も素敵でした。

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