《や》
『山逢いのホテルで』(原題:Laissez-moi)
2023年のスイス/フランス/ベルギー作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
熟年女性のクローディーヌは、アルプスの麓にある町の自宅で仕立て屋を営みながら脳性麻痺の息子バティストをひとりで育てている。彼女の息抜きは、毎週火曜日、ロープウェーに乗った先にあるホテルで客を物色し、後腐れのないアバンチュールを楽しむこと。その日限りの肉体関係を心がけていたが、あるとき、ダムの調査にやってきたドイツ人男性ミヒャエルと恋に落ちて……。
最初は観るのをやめようかと思うほど気持ちが悪かった。だって、どう見ても60歳ぐらいの化粧の濃いオバハンがホテルのフロント係に今日の狙い目を尋ねるんです。ホテル公認の売春婦かと思ったらそうではなくて、ただベッドに男を誘って数時間を楽しむだけ。こんなオバハンの誘いに乗るなよと言いたくなりました。その思いは最後まで変わらなかったけど、次第にオバハンの化粧にも慣れてなんとか最後まで。バティストを捨ててミヒャエルとアルゼンチンへ飛ぶと決意するも、土壇場になってやっぱり息子のもとへと戻ります。重い内容のわりに深みはあまり感じられず。主演のジャンヌ・バリバールって、マチュー・アマルリックの奥さんだったのですね。なんにせよ、アラ還になっても裸体をさらして濡れ場に体当たりの根性は凄い。
《ゆ》
『ユア・ソング』(原題:你的情歌)
2020年の台湾作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
台北在住の音楽教師ユゥ(アリス・クー)は、浮気した恋人と再構築を望むも婚約を破棄され、逃げるように花蓮の田舎町へと移り住む。ピアノ教師として再出発した彼女が出会ったのは、やはり台北からこの町へとやってきた教師シン(フー・モンボー)。シンはかつて統一試験で首席を獲った秀才で、将来どんな職業にでも就けるだろうと皆から思われていたのに、理想の教育を追い求めて教師の道を選んだ結果、ずっと非正規雇用に甘んじている。新たな教育事業の展開を志して広報活動をおこなったところで興味を示す者は現れず、くすぶったまま。そんなシンは校内でオーディションを企画し、ひとりの生徒アドン(シェ・ポーアン)に歌の才能を見いだす。ボーカルとギターをアドンに任せ、ほかに楽器のできる生徒を集めると、ボーイズバンド“七月男孩”を結成。オーディション番組への出場に向けて練習を開始するのだが……。
シェ・ポーアン自身が人気オーディション番組『超級偶像』の出身で、本作でスクリーンデビューを果たしたそうな。歌が上手いのはもちろんのことイケメンだから、そりゃ売れるでしょう。ただ、シンとユゥはちょっと魅力に欠ける。シンの理想も不明瞭だし、浮気した恋人にキレるユゥを見ていると、そりゃ逃げたくもなるよねぇと思う。アドンはユゥに想いを寄せ、シンもユゥに惹かれて、生徒と教師の三角関係に終始するのかと思いきや、終盤に明かされる「ユゥが花蓮に来た理由」にビックリ。傷心の彼女が目標に定めたのは、初恋の相手シンを探し出して再会すること。見事それを叶えたのに、シンのほうはまるで覚えていませんでしたって。どう反応すればいいのかわからんがな。ま、アドンは台北に出てスターになり、シンとユゥは結婚して可愛い男の子を授かりましたというハッピーエンドです。「探し求めていた成功とは、実は気持ちの問題だった」というシンの台詞は腑に落ちる感じがして好きだけど。
《よ》
『夜明けの蜃気楼』
2025年の日本作品。Amazonプライムビデオにて配信。
編集者の雨宮省吾(南圭介)は、締切を守らない作家・東雲茉莉(鞘野美咲)がこもりっきりの海辺の宿を訪れる。省吾は妻との間にいた娘・佐知(MEL)を乳幼児突然死症候群で亡くした折に、妻の責任として激しく責め立てた。妻は一切言い返さず、自分のせいだと受け入れた。省五は酷いことを言ったと謝りたいのに謝れないまま時が過ぎるが、佐知がイマジナリー娘として省吾の目の前に現れるようになってから10年以上が経過している。イマジナリー娘の佐知は成長して18歳、今や妻とそっくりの風貌。茉莉は以前から聞いていた佐知の存在を信じ(但し、省吾の妄想の産物ではなく幽霊として)、省吾を変人扱いせずに佐知にもよく話しかけてくれるのはありがたいところ。そんなある日、宿で働く女性・笠原まひる(MAHO)の妹が訪ねてくる。妹によれば、まひるは家出したまま行方がわからなくなっていたらしく、こうして居場所を探し当てた妹がまひるに会うためにやってきたのだ。しかしまひるは妹に会うことを頑なに拒否して……。
目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた子どもを失うのはたまらなく悲しいことでしょう。その責任をすべて妻に押しつけたことが誤りであるとわかっているのに口には出せない。こんな父親にはっぱをかけるべく存在しつづけるイマジナリー娘。やっと妻に電話をかけられるようになった父親を見届ける優しい物語でした。増本竜馬監督、今後の長編作品に期待します。
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