《た》
『TATAMI』(原題:Tatami)
2025年のアメリカ/ジョージア作品。Amazonプライムビデオにて配信。
ジョージアの首都トビリシで開催中の女子柔道世界選手権。イラン代表選手のレイラ・ホセイニは監督のマルヤム・ガンバリと共に会場入りし、金メダル候補を相手にしても怯まず順調に勝ち進む。ところがこのままではイスラエル選手と対戦の可能性が出てきた途端、負傷を装って棄権するようにとマルヤムを通じてイランの柔道協会から指示される。イラン初の金メダルがかかっているというのに、そんな理不尽なことがあろうかと抗うが、当局は本国でレイラを応援中の両親を逮捕。危険を察知して実家から出ていたレイラの夫ナデルと幼い息子アミルは難を逃れるが、見つかれば何をされるかわからない。マルヤムも当局から脅され、レイラに棄権するように迫り……。
敵対国とスポーツで対戦してはいけない意味が私にはわかりません。協会からは何度も脅され、レイラが従わないと見るや外交官がやってきて阻止しようとする。彼女がどういう状況にあるのかを知った世界柔道連盟の関係者はレイラをなんとか救いたいと考えるけれど、なんてったってレイラに試合をやめさせようとしているのはイランの国家指導者。そんなのに対抗したら何をされるかわかりません。結局権力に屈しない道を選んだレイラは準決勝で敗れますが、試合後に家族やマルヤムと一緒に亡命。以後、イランはすべての国際大会に出ることを禁じられます。イランではレイラもマルヤムも裏切り者扱い。数年後のフランス大会に難民代表として出場するシーンで終わります。イスラエル出身のガイ・ナティーヴとイランの女優ザール・アミールが共同で監督を務めています。マルヤムを演じているのがそのアミール。不屈の精神の持ち主なのでしょうね。こんなふうに両者が手を取り合って映画を撮ることだってできるのに。心を痛めている人がたくさんいるはず。
《ち》
『茶飲友達』
2022年の日本作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
モチーフとなっているのは、高齢者をターゲットにした会員制売春クラブが2013年に売春防止法違反で摘発された事件なのだそうです。監督は『ソワレ』(2020)の外山文治。ENBUゼミナールの“ENBUシネマプロジェクト”第10弾。
新聞に「茶飲友達募集」という3行広告を出し、連絡してきた高齢男性に高齢女性を斡旋する売春クラブ“ティーフレンド”。経営者はかつて風俗で働いていた30代の女性・マナ(岡本玲)。厳しい母親と良い関係を築けなかったマナは、ティーフレンドのスタッフたちをファミリーと呼び、どんな困り事にも親身に対応している。ある日、スーパーで万引きしようとしている60代の女性・松子(磯西真喜)を助けると、松子にもティーフレンドで働いてみないかと誘う。一時は自殺も考えた松子だったが、マナに出会ってからは生き生きとした毎日を送るようになるのだが……。
実際には70代の男性が経営者だったとのこと。それをこんな30代の女性に置き換えたことにより金儲けを目的としたクラブだったという意味合いが薄まっているように思います。伴侶に先立たれた独居老人たち。金はあるけどしゃべる相手がいない。セックスしたかったわけではなく、単にしゃべる相手がほしくて連絡してみただけだったとしても、バイアグラをあてがわれて服を脱がされたらそんな気になっちゃうんですね。それがホッとする瞬間になり、このまま死ぬだけだと思っていたのに人生が変わる。その幸せそうな表情がなんとも言えなくて。老人ホームにも女性を送り込むことで一気に顧客を拡大するもビジネスが露見することに。外山監督はほかにも老老介護や高齢者の婚活を描いた作品を撮っています。観てみたい。
《つ》
『ツイスタータウン ジョプリン竜巻を生き延びて』(原題:The Twister: Caught in the Storm)
2025年のアメリカ作品。Netflixにて配信。
2011年5月22日にミズーリ州ジョプリンで発生した巨大竜巻。人口約5万人の中規模都市を突き抜けたこの竜巻は、時速200km超、ピーク時の幅はなんと1.5km超。推定8千戸の家屋が被害を受け、死者は158人に。アレクサンドラ・レイシー監督は竜巻から生き延びた若者たちの視点で描いています。卒業式の直後に竜巻襲来って、これは映画か何かですかと聞きたくなるほどあり得ない惨劇。感染症で生死の境をさまよいながらも、人生で経験したすべてのことに意味があると語る男性、ゲイであるがゆえにかつてはいじめられたこともあるけれど、それでもこの町が好きだという男性の話が印象に残っています。『ツイスターズ』(2024)が大好きだった私は好奇心のみでこのドキュメンタリーを鑑賞しましたが、竜巻がもたらした被害には言葉を失う。再建に懸ける住人の不屈の魂。
《て》
『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(原題:Thelma)
2024年のアメリカ/スイス作品。Amazonプライムビデオにて配信。
ロサンゼルス郊外在住のテルマは93歳。愛する夫テディに先立たれた後はひとりで暮らしているが、娘のゲイルとその夫アランは近居しているし、24歳の孫ダニーは頼れる相談相手で、パソコンやスマホの使い方をいつも丁寧に教えてくれる。ところがある日、その心優しき孫を装った電話に騙される。ダニーのふりをした男から「車で妊婦を轢いてしまい、留置場にいる。保釈金が必要だ」と言われて気が動転。言われるがままに1万ドルを用意して指示された住所宛てに送る。事情を聴いた娘夫婦とダニーは、テルマが無事だったのだからそれでよいと言ってくれたものの、テルマはどうしても1万ドルをあきらめきれない。しかも隣の部屋から漏れ聞こえてくるのは、「テルマのぼけが始まっているからひとり暮らしはさせておけない」などなどという娘たちの声。名誉を挽回するためにも自分で犯人を見つけて金を取り返したいと思い……。
役名のテルマ・ポストは本作で監督を務めたジョシュ・マーゴリンの祖母の実名。祖母テルマが電話による詐欺に遭ったことがモチーフとなっているそうです。テルマ役は御年96歳の大ベテラン女優ジューン・スキッブ。詐欺に遭ったと知ったときの表情を見ると『ジェリーの災難』と同じように切ない。犯人探しを思い立ったテルマがスマホで旧友に片っ端から電話をかけると、みんな他界しているところは失礼ながらちょっと笑っちゃいました。唯一生きていたのは友人の夫でどちらかと言えば苦手だった爺ベンだけ。ふたりしてシニアカーで疾走する様子が頼もしい。見事に突き止めた犯人は、マルコム・マクダウェル演じるアンティークの照明屋の店主。世間の人たちは何でもかんでもネットで購入するようになってこんな店は流行らないからと犯罪に手を染める。それにしたって、老人が老人を騙す時代なんですね。ベンを演じたリチャード・ラウンドトゥリーの遺作となりました。安らかな眠りを。
《と》
『トラブル・ガール』(原題:小曉)
2023年の台湾作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
ADHD(注意欠如・多動症)の少女シャオシャオは学校で疎まれて孤立している。父親は出張ばかりで家にはほぼ不在。ひとりでシャオシャオの世話をする母親はいっぱいいっぱいで、シャオシャオのことを相談していた担任教師ポールと不倫の仲に。先生だけが自分のことを気にかけてくれる存在だと思っていたのに、母親といつのまにかそんな関係になっていることに気づいてしまったシャオシャオは……。
前知識なく観はじめたら、シャオシャオがADHDということが最初はわからなくて、どうにも手のかかる子だなぁ、母親も先生も大変だなぁなんて思っていました。私が小学生だった頃は、学校にこんな子はいくらでもいたけれど、病名なんて付いていませんでしたから。みんなと友達になりたいシャオシャオ。でも同級生たちは彼女のことを怒らせようとからかうばかり。怒って反撃すると、今度は保護者たちから問題視される。なぜみんな優しくなれないのかと腹立たしくなるものの、私ならどうするだろうと自問。どうにもできないと思うのでした。母親役のアイビー・チェンの葛藤ももっとも。先生役にはテレンス・ラウ。やっぱりイケメン。
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