『「桐島です」』
監督:高橋伴明
出演:毎熊克哉,奥野瑛太,北香那,原田喧太,山中聡,影山祐子,テイ龍進,嶺豪一,和田庵,海空,白川和子,下元史朗,甲本雅裕,高橋惠子他
三連休初日、夙川でランチ。ひとりでワインを1本空けた後で映画を観に行けば睡魔に襲われることは間違いないのに、またやってしまいました(笑)。てか、これは私はやめる気ないですよね。ごはんも映画もどちらも好きだから、どちらもハシゴする機会があるならそうしちゃいますよ。起きていられることもあるし、寝たら寝たでええやないかい、いびきかいて他のお客さんに迷惑をかけたりするのでなければ。と、開き直って阪急電車に乗車、十三の第七藝術劇場へ。
桐島聡は新左翼過激派集団“東アジア反日武装戦線”のメンバー。1954年に広島に生まれ、尾道の高校を卒業後、明治学院大学へ進学。そのときに出会った宇賀神寿一らと共に連続企業爆破事件を起こしました。これが1974年の暮れから1975年の春にかけてのこと。1975年5月にメンバーが次々と逮捕されたのをきっかけに、指名手配された桐島は逃亡。49年間に渡る逃亡生活を続けたのち、2024年に末期癌で入院した彼は偽名を使っていましたが、最期に本名を名乗って息を引き取ったそうです。
高橋伴明監督が『夜明けまでバス停で』(2022)と同じく梶原阿貴と共同で脚本を執筆。桐島役に毎熊克哉、宇賀神役に奥野瑛太というクセ大ありの役者を配し、桐島のミューズとなるキーナ役には『春画先生』(2023)の脱ぎっぷりが印象に残っている北香那。偽名を用いて50年近い日々を送った桐島。まさかあのテロ犯だとは知らずに接していたであろう人々に、おそらく高橋監督は丹念な取材を繰り返したのだと思います。その眼差しは温かく、悲惨なだけの逃亡生活だったようには見えません。
ただ、彼の名前を聞いて私がいつも思い出すのはコロナ下のシネ・ヌーヴォで『狼をさがして』(2020)を観たときのこと。死者を出したテロ事件だというのに、上映が終了すると拍手が沸き起こりました。それは作品に対しての拍手というよりも、テロ犯に対する賞賛の拍手に思えて、物凄い違和感に駆られたことを覚えています。最後の「桐島くん、お疲れさま」という言葉にも、そりゃ疲れてもらわにゃと思ったりもするのでした。
人それぞれ主張を持つことは大事。でもその主張の手段として無差別に殺人を犯す心情は理解できません。悔いていたからこそ最期に名乗ったのだと思いたい。
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