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『夏の砂の上』

『夏の砂の上』
監督:玉田真也
出演:オダギリジョー,髙石あかり,松たか子,森山直太朗,高橋文哉,篠原ゆき子,満島ひかり,光石研他

109シネマズ箕面にて、前述の『キャンドルスティック』の次に。21:50~23:40の上映で、こんな時間に誰も観に来んやろと思ったらやっぱり私だけでした。今年6回目の“おひとりさま”

玉田真也監督が松田正隆の同名戯曲を映画化。劇団“玉田企画”の主宰者でもある玉田監督は、2022年に自身の劇団で本作を上演もしたそうです。当時のキャストを調べたら、ほとんどが舞台俳優だから知らない名前が多いけれど、祷キララ西山真来の名前がありました。1990年代の長崎という設定が映画版でも反映されているのかどうかは鑑賞後の今もわかりません。現在の話として観ても何も違和感がないから。

5歳になるかならないかの我が子を事故で亡くした夫婦・小浦治(オダギリジョー)と恵子(松たか子)は、すっかり抜け殻のようになってしまった。ふたりは別居中で、恵子はなんだかんだと物を取りに立ち寄りはするが、彼女がどこに住んでいるのかすら治は知らない。働いていた造船所が潰れてからは仕事を探す気にもなれずに、治はぼんやりと日々を過ごすだけ。

そんなある日、治の妹・阿佐子(満島ひかり)が17歳の一人娘・優子(髙石あかり)を連れて来る。仕事の都合でしばらく優子を預かってほしいと言うが、要は男ができたから優子を邪魔者扱いしているだけらしい。治と恵子が別居中なのを知らない阿佐子は、たまたま来ていた恵子にも「娘をよろしく」と言い放ち、とっとと出て行ってしまう。そのあと恵子まですぐに帰ったことに優子も唖然とするが、どうすることもできず、治と優子はふたりで暮らしはじめるのだが……。

坂道が続く長崎の夏。立っているだけでも汗が噴き出てきます。雨はまったく降らず、水不足でしばしば水道が止まることも。優子がバイトするスーパーでもミネラルウォーターはおひとりさま2本までの購入制限付き。何かセンセーショナルな事件が起きるとかでもなく、淡々と話が進みますが、私はこれ、嫌いじゃないなぁ。むしろ好きでした。

子どもが亡くなったいきさつは、優子が治に尋ねて初めて観客も知ることになります。それ以前の夫婦仲がどうだったのかは知らないけれど、子どもを失ったことで夫婦がこんなふうになったことは明らか。夫は毎日家にいるくせに、子どもに手を合わせることも水やごはんを供えることもない。仏壇が誇りをかぶっているのを見て居たたまれない気持ちになった妻が位牌を持って行くと言うと、そのときだけは抵抗する夫。自分の友人・陣野航平(森山直太朗)がどうやら今は妻と一緒にいるようだとわかっても何も言わないのに対して、航平の妻・茂子(篠原ゆき子)が怒りをぶつけるシーンが凄かった。女って凄いですよね(笑)。

心の底から笑うことはもちろん、悲しいと声に出して言ったり泣いたりすることもない夫婦。子どもを亡くすというのはこういうことなのかなと、そんな経験のない私は思うことしかできません。でも、癒えない心の傷を抱えたまま、やはり傷ついている優子といるときの治を見て、寂しくも穏やかな気持ちに。人とコミュニケーションを取ることが下手な優子が、バイト先で声をかけてきた大学生・立山孝太郎(高橋文哉)にたいがい失礼なことを言われているのに受け入れてしまう様子もなんだかわかる気がします。無理してつきあわなくていい。そうやって俺も生きてきたと言う治。それでいいのかもしれない。

治が渋々就職した中華料理店で調理する姿を見てニヤけてしまったのは、たぶんオダギリジョーに料理人の格好が似合いすぎているからです。

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