『アスファルト・シティ』(原題:Asphalt City)
監督:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
出演:ショーン・ペン,タイ・シェリダン,ベンガ・アキナベ,マイケル・カルメン・ピット,キャサリン・ウォーターストン,マイク・タイソン他
イオンシネマ茨木にて。
イギリス/アメリカ作品で、原作は元救急救命隊員のシャノン・バークによる小説なのだそうです。監督はフランス出身、『暁に祈れ』(2017)のジャン=ステファーヌ・ソヴェール。
EMS(Emergency Medical Services)に所属する新米の救急救命隊員クロス(タイ・シェリダン)は、医学部入学を目指す青年。家賃を節約するためにチャイナタウンの安普請の部屋で中国人とルームシェア。昨年は受験に失敗、今年こそ合格をしようと懸命に勉強している。
彼が担当するのはニューヨークのハーレム地区。ここでは銃弾が飛び交うのは日常茶飯事だし、ヤク中が過剰摂取で泡を吹いていることもしょっちゅう。ベテラン隊員ラット(ショーン・ペン)とコンビを組むことになったクロスは、腐乱死体の処理に呼ばれることもあれば、イカれたオバハンがコインランドリーで豪快に居眠りしているのを追い出すために呼ばれることもある。いつ何時も無愛想でクセのあるラットとどう接していいのか最初は戸惑っていたクロスだが、日々を共に過ごすうち、心を通わせるようになる。
明らかにDVに遭っているとおぼしき女性宅を訪れたときは、その夫の横柄な態度を見たラットが怒りを抑えられずに喧嘩に。居合わせた警官も巻き込んだせいでラットは謹慎処分を食らう。自分が不在の間も人を死なせるなよとクロスに言っていたラットだが、処分が解けたある日、ヤク中のうえにHIV陽性の女性がヘロインを打ちながら出産したらしき現場で、命が危うい赤ん坊を取り上げたラットは……。
軽い気持ちで観に行くと地獄に突き落とされそうな作品です。エンドロールで知りましたが、救急救命隊員の自殺者の数は殉職者の数より多い。そりゃそうだ、こんな仕事、特にこんな地区を担当していたら、メンタルがやられるに決まっている。目にした遺体の様子を忘れられず、耳元では常に蝿が飛んでいるかのような音に悩まされる。
クロスは幼い頃に自死した母親を助けられなかったことを悔いて医者を目指しているらしく、それを聞いたラットは、人はいずれ死ぬのだし、全員を助けることはできないのだから気に病むなと、ぶっきらぼうではあるけれどクロスを慰めます。ラットといることで、こんな仕事をしていても時には笑顔になれたクロスなのに、ラットがこんな最期を遂げるなんて。
悲惨なラストで終わるのかと思ったけれど、ラットの教えを守るかのように前を向きはじめたクロスの姿に救われます。救急救命隊員の皆さんに敬意と感謝を。
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