『カンパイ! 世界が恋する日本酒』(英題:KampaiI! for the Love of Sake)
監督:小西未来
20年ぐらい前までは、アルコールの中では日本酒がたぶんいちばん好きでした。
最近では食堂やレストラン併設の酒屋も珍しくなくなりましたが、
そういう店がまだそれほど多くなかった時分、しばしばおじゃました西宮北口のお店。
1階の酒屋で好きなアルコールを選んで地下に降り、
キャッシュオンデリバリーでアテを買って飲んだくれるという。
オーナーがその日オススメの酒を持って客のテーブルを回ってくれるのがまた楽しい。
しかし、たいていその頃には客の大半ができあがっています。
せっかく酒の説明をされても頭がまわらん、おぼえていられん。(^o^;
飲むのが女ふたりにもかかわらず、日本酒を一升瓶で買って持ち込んだときは、
ひとり4合までは無理なくクリアできたけど、空けたら倒れてしまいそう。
ほんの少し底に残った一升瓶をぶら下げてヘラヘラ笑いながら帰った思い出も。
そんなことを懐かしく思い返しながら、シネ・リーブル梅田へ。
監督はロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト。
本作は、2014年にクラウドファンディング(=不特定多数の人がインターネット経由で協力)で賛同者を募り、
制作費が集まったのちに完成したドキュメンタリー。
2015年に第28回東京国際映画祭でプレミア上映されて話題になったほか、
各地の映画祭にも出品され、日本酒が世界で注目されていることがわかります。
主な登場人物は3人。
日本酒伝道師と呼ばれるアメリカ人ジャーナリスト、ジョン・ゴントナー。
外国人として史上初めて杜氏となったイギリス人、フィリップ・ハーパー。
岩手の老舗酒蔵である南部美人の五代目蔵元、久慈浩介。
ジョンとフィリップはもともと日本には何の興味もなかった人。
オハイオ州に生まれ育ち、大学を卒業してエンジニアとして就職していたジョン。
コーンウォールの農家で育ち、大学では文学を専攻していたフィリップ。
彼らはたまたま1988年の第1回JETプログラムに目を留めます。
JETプログラムとは、語学指導等を行う外国青年招致事業で、
つまりは日本で外国語を教える人を募集するプログラム。
何か目新しいことをしたいと思っていたふたりはこれに応募して採用されます。
彼らは同じ日に来日しましたが、赴任地は別で、その後も特に交流はありません。
それぞれ日本での英語教師生活は楽しみ、同僚から誘われて酒を飲みに行くことも。
安酒を飲んでいる間は日本酒がさほど美味しいとは思わなかったそうですが、
ある日、差し出された日本酒を口にして度肝を抜かれます。
なんだこの酒は。今まで飲んでいた日本酒とは別物。
世の中にこんなに美味い酒があるなんてと、日本酒の虜に。
ジョンは東京で飲み屋に通いつめて日本酒を勉強、日本酒伝道師と崇められるほどに。
フィリップは奈良の梅乃宿酒造に飛び込んで杜氏に。
やがて人手不足で蔵を畳もうとしていた京都の木下酒造が彼によって息を吹き返します。
南部美人の久慈は、幼い頃から外に出れば「南部美人の息子」と言われ、
窮屈さを感じていました。
しかし酒造りに面白さを感じていたのも事実で、
東京農業大学に入学したときには、醸造も学べて教職も取れるなら一石二鳥。
家業を継ぐのが嫌なら教師になればいいしと思っていたそうです。
しかし、海外留学をした折にホームステイ先に土産として持って行った南部美人を絶賛され、
「こんな美味い酒を造る酒蔵の息子だなんて、どれだけ幸せなんだ」と言われて、
それからは蔵元を継ぐことしか考えなかったとか。
東日本大震災の話には胸を衝かれます。
正直なところ、映画や本に唐突に出てくる震災の話は苦手です。
感動して当たり前のような、狙っていることを感じるから。
だけどこれはちがいました。
ご存じの方も多いかと思いますが、「自粛せずに花見をしてください」。
久慈さんの思いが伝わってきて、泣いてしまいました。
そう、これなら私たちにだって協力できる。
蔵元は接待などの営業に徹して酒造には関わらないという暗黙のルールがあったとのこと。
杜氏がいなくなったから一念発起して蔵元自ら酒造を始めた高木酒造。
そこで生まれた、いまやプレミアがつくほど人気のお酒「十四代」。
久慈さんが語るそんな話も非常に興味深いです。
杜氏は「毎年初心者」。
いくらベテランになっても、毎年同じ酒を作るためには初心にかえることが必要。
これって酒造に限らないですよね。驕らず、日々を生きること。
最近もっぱらワインでしたが、これを観たら日本酒が飲みたくなり、
奈良のお酒を飲みながらのこのレビュー執筆でした。
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