『マダム・イン・ニューヨーク』(原題:English Vinglish)
監督:ガウリ・シンデー
出演:シュリデヴィ,アディル・フセイン,メーディ・ネブー,
プリヤ・アーナンド,アミターブ・バッチャン他
前述の『サンシャイン♪歌声が響く街』とハシゴ。
同じくシネ・リーブル梅田にて。
『サンシャイン♪』を観る前に最後列端っこの座席を予約済みでした。
予約時はちらほらの入りだったのに、いつのまにやら満席に。
1980年代から1990年代にかけて、ボリウッドのトップ女優だったシュリデヴィ。
結婚を機に引退した彼女の15年ぶりの復帰作とのこと、年齢を知ってびっくり。
50歳って、ヘザー・グレアムもかすむ美魔女ぶり。
だけど、シュリデヴィの場合、美魔女という感じがしません。
TVとかで美魔女を見ると、いやいや、よく見ると年相応でしょとか、
なんぼほど化粧濃いねんとか、ついつい言いたくなってしまうのですが、
彼女の場合、なんというのか自然で上品、嫉妬も芽生えないほど美しい。
40代の主婦シャシは、ビジネスマンの夫と2人の子どもの世話に忙しい専業主婦。
彼女の料理と菓子づくりの腕前はプロ級で、
特に彼女がつくるインドの伝統菓子ラドゥは絶品、販売を求める人も多い。
嬉しくてたまらず、夫のサティシュにその話をするが、
「それは俺にだけ作っときゃいいんだ」とにべもない。
菓子作りしか能がないような扱いにはうんざりするうえに、
もうひとつ、釈然としないのは、夫や子どもたちの自分を見下した態度。
家族のなかでシャシだけ、英語ができないのだ。
まだ幼い息子サーガルはお母さん大好きで可愛げがあるが、
思春期にある娘サプナーの態度には、母親に対する敬意がまるで感じられない。
シャシが英語を話そうとすると、夫と娘は目配せして嘲笑う。
サティシュの代わりにシャシが懇談に行けば、サプナーは母親を恥じるかのよう。
ある日、ニューヨークに暮らすシャシのたった1人の姉マヌから連絡が入る。
マヌの娘でシャシの姪に当たるミーラーが結婚するので一家で出席してほしいと。
結婚式準備の手伝いを頼まれたシャシは、家族より一足先にニューヨークへ向かうことに。
ニューヨークでは英語ができないがゆえに泣きたくなることもしばしば。
そんなとき、通りすぎたバスの車体に「4週間で英語が話せるようになる」という広告が。
まだインドにいる家族にはもちろんのこと、マヌたちにも内緒で英会話学校にかよいはじめるシャシ。
同様に英語を上手く話せないさまざまな国の生徒たちと交流するうち、
シャシは少しずつ英語を身につけるとともに心境にも変化が生まれ……。
ボリウッドと言えば踊りまくり。
そんなイメージは『きっと、うまくいく』(2009)で一新されましたが、本作はさらに踊り控えめ。
ボリウッドとしては変化球と言えましょう。
テンポのよい音楽とごく控えめに挟まれた踊りで飽きることなし。
たったひとりで初めてニューヨークへ行ったシャシが、
意を決してコーヒーショップに入ったものの注文を伝えられず、
意地の悪い店員の言葉に涙する姿に胸が痛みます。
その昔、インドネシアへ行った折りに、シンガポールで置いてけぼりにされ、
ひとりで帰ることになったときの心細さと言ったら(笑)。
親切なおじさんおばさんに助けられ、なんとか大阪へ帰ってきましたが、
税関で「お嬢ちゃん、大丈夫?」と聞かれました。
すでにお嬢ちゃんというような年齢ではなかったはずですが、
私はよほど情けなく頼りない顔をしていたのでしょう。
シャシの不安げな表情を見て、あの頃の気持ちがよみがえりました。
こんなふうに、英語コンプレックスを抱いた経験のある人、
そして、家事を一手に担って家族のために働いているのに、
夫や子どもから邪険に扱われていると感じたことのある人、ぜひご覧ください。
シャシの言動のひとつひとつが自分にとっても意味あることのように感じ、
彼女が輝くのを見ると自分のことのように嬉しくなります。
ゲイの英語の先生のユーモアと思いやりに励まされ、
シャシから見れば十分英語のできる人なのに、
自分の英語は汚いと思っているフランス出身の料理人ローランに想いを寄せられ、
そんなこんなは楽しくもちょっと切ない。
原題は“English Vinglish”、“Vinglish”は辞書にも載っていない言葉で、
語呂を楽しむ言葉遊びのようなもの。
「英語だとかなんだとか」のような意味だそうです。
英語がどうだとか言うけれど、そんなものなんとでもなるじゃないかと言いたげ。
サティシュ役のアディル・フセインは『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012)の父親役。
サティシュとサプナーのエラそうな態度は、いくら懺悔されようともちょっと許しがたいですけど(笑)。
ミーラーの妹ラーダ役のプリヤ・アーナンドがとっても知的で温かみのある美人。
シャシの英会話学校通いを唯一知って協力する人物で、サイコーです。
笑えるシーンもたっぷり。
劇場内が沸きに沸いたのは、飛行機でシャシの隣席に座る紳士の言動。
インドの国民的俳優アミターブ・バッチャンが特別出演してその役を。
ちなみに彼がシャシのために「ひとりヒンディー語吹替」をやってみせる作品は
『ミッション:8ミニッツ』(2011)です。抱腹絶倒。
泣けて笑えて、特に女性にオススメの134分間。ぜひ。
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