『ザ・ディープ』(原題:Djúpið)
監督:バルタザール・コルマウクル
出演:オラフル・ダッリ・オラフソン,ヨハン・G・ヨハンソン,
スロストゥル・レオ・グンナルソン,テオドール・ユーリウソン他
アイスランドの映画と聞いてすぐに思い出すのは
『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』(2009)ぐらいですが、
本作の監督はアイスランド出身、もともとは役者ながら、
このところハリウッドでも活躍めざましい注目株。
『ハード・ラッシュ』も彼の監督作です。
アカデミー賞の外国語映画賞は毎年各国から1作品のみ出品可能。
本作は第85回アカデミー賞にアイスランド代表として出品されたものの、
残念ながらノミネートには至らず。
今年のGW中にヒューマントラストシネマ渋谷の限定レイトショーにて上映。
6月下旬からTSUTAYAで独占レンタル中です。
1984年3月に実際に起きた海難事故に基づいています。
転覆した船からたった1人生還した男が注目を浴びて……とあるので、
英雄扱いされたり、ひとり生き残ったことを非難されたり、
そんな作品かと思っていたら、ひと味もふた味もちがいました。
アイスランド、ウエストマン諸島の過去に火山が噴火した町。
地元の漁師グッリは、仲間の5人とともに船に乗り込み、漁に出る。
この日は網が岩に絡みついたりして、出足から少し嫌な感じ。
それでも新入りのコックにさまざまなアドバイスを送りながら、
みんなでワイワイ、いつもと変わらぬ漁。
ところが、夜のとばりがおりるころ、ウィンチが故障、船が転覆する。
極寒の海に投げ出されたグッリたち。このまま助けを待つには水温が低すぎる。
はるか遠くに見える陸を目指して泳ぎはじめるが、
グッリ以外の仲間は次々と力ついえて死んでしまう。
グッリは冷たい水の中を6時間も泳ぎつづけ、
雪の積もる陸地にたどり着くと、そこからさらに2時間、裸足で歩く。
ようやく灯りのともる人家を見つけて扉を叩くとそのまま気を失う。
病院に搬送され、意識を取り戻したグッリは世間の注目の的となるのだが……。
これがハリウッド作品なら、ちがう味付けがされていたと思いますが、
この先の展開にはちょっと意表を突かれました。
グッリへのインタビューを目にした科学者が、
彼が生還したことには科学的な理由があるにちがいないと考えます。
そこで、グッリの身体を徹底的に調べたいと希望。
グッリの母親が「奇跡を研究するの?」と尋ねるのがおもしろい。
ネタバレになりますが、調査した結果、グッリの体細胞はまるでアザラシ。
肥満体で運動能力が高いわけでもなく、水泳も好きではない。
そんな彼とマッチョな海兵隊員数名がほぼ裸で氷水の中に入って実験。
海兵隊員たちは寒さに耐えきれず、すぐに水から飛び出します。
耐えようとした海兵隊員は自力では出られなくなり、引き上げられたりも。
普通の人間は5度以下の冷水の中では20分が限界だそうで。
しかし、アザラシ並みの体細胞を持っていたとしても、
普通の人間はそんな状況下では正常な思考回路は保てないとのこと。
グッリがすべての場面で的確な判断をくだしていたのは、
やはり奇跡というしかないそうな。
カモメに話しかけながら、カモメを追って生き延びた彼。
派手な展開はまったくなし、ドキュメンタリーかと思うような真摯な作品です。
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