『だれもがクジラを愛してる。』(原題:Big Miracle)
監督:ケン・クワピス
出演:ドリュー・バリモア,ジョン・クラシンスキー,クリステン・ベル,
ダーモット・マローニー,ヴィネッサ・ショウ,テッド・ダンソン他
前述の『砂漠でサーモン・フィッシング』@渋谷が「イエメンで鮭釣り」なら、こちらは「アラスカで鯨救出」。
ついでに、本作のアダム役、ジョン・クラシンスキーは、
『砂漠でサーモン・フィッシング』のハリエット役、エミリー・ブラントの旦那様。
今月5日にレンタルが開始された新作です。
1988年10月、米国アラスカ州のバローという町で、
3頭の親子クジラが分厚い氷に囲まれて出られなくなった事件がありました。
その救出作戦を取材したトム・ローズによる同名ノンフィクションの映画化。
フリーのTVリポーター、アダムは、自分の出身地でもあるバローに滞在中。
目的の取材を終えてそろそろ出発という日、
イヌピアト族の族長の孫である少年ネイサンから、
仲間のスノーモービルの腕前を撮影してほしいとせがまれる。
予想していたことだが、それは散々な腕前。
しかし、その後方で氷が不可解に動いているのを見て驚く。
分厚い氷の下には3頭のクジラ。
両親と子どもとおぼしき3頭は、氷に阻まれて外洋に出られない様子。
このままではあと3日持つかどうか。
アダムはカメラを携えるとさっそくリポートを開始。
このニュースは世界中へと配信される。
アダムの元カノで環境保護団体グリンピースに所属するレイチェルは、
ニュースを聞いてすぐにバローへと駆けつける。
石油採掘会社の社長は、自社のイメージアップを狙って協力を申し出るが、
彼の所有するホバーゲージを使用するためには州兵部隊の力が必要。
クジラごときの救出に軍隊まで出動させられるものかと渋い顔だった州知事も、
全世界の注目が集まっていると知り、州兵の司令官へと連絡。
今度はレーガン大統領が支持率アップを目論んで州兵に激励の電話を入れる。
しかし、まばたきすればまつ毛が凍って目を開けられなくなるほどの寒さ。
思惑どおりには作業が進まず……。
好感度が非常に高いドリュー・バリモアですが、
本作においてはかなりヒステリックな姉ちゃん、いやもうおばちゃん。
クジラを捕獲して食糧とするイヌピアト族を野蛮だと一方的に非難。
「では捕鯨をやめたとして、その後の生活の面倒はみてくれるのか」という、
イヌピアト族の若い衆の質問には答えるつもりもありません。
ここでまた思い出すのが『人生の特等席』で挙げた東野圭吾の『真夏の方程式』。
それに則るのであれば、お互いの立場をいちばん理解しようとしているのは、
まちがいなくイヌピアト族の族長です。
クジラを食べることが決してクジラを軽んじていることにはならない。
クジラを誰よりも尊んでいるのが彼らイヌピアト族で、
けれども、彼ら以外の人間にすれば、ただの殺戮にしか見えないことを知っています。
いまここで3頭を捕獲して殺すことを主張すれば、
きっとすぐに捕鯨が禁止され、自分たちは生きていけなくなるだろう。
そうして彼らはクジラの救出に協力することを選び、
事実、クジラが外洋に出られるよう、時間を惜しんで氷に穴を開けつづけます。
イヌピアト族の孫に生まれ、伝統的な儀式を覚えながらも、
大人になったらこんな町は出てゆくと決めているネイサンと、
町を愛し、なおかつ彼のよき理解者でもあるアダムのやりとりに和みます。
アダムからもらったガンズ・アンド・ローゼズの曲にシビれ、
「お母さんクジラの声がアクセル・ローズの声にそっくりだから
赤ちゃんクジラに聴かせるといい」なんて台詞には笑いました。
捕鯨の是非を問うのではなく、ただクジラの救出に懸命な姿に絞ったのはよかったかも。
たとえ理由はさまざまでも。
数日前の出勤途中、ちょうどラジオでかかっていたのが、
ガンズ・アンド・ローゼズの“Welcome to the Jungle”。
そうか、これはクジラの声に似ているのか。
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