『かぞくのくに』
監督:ヤン・ヨンヒ
出演:安藤サクラ,井浦新,ヤン・イクチュン,京野ことみ,大森立嗣,
村上淳,省吾,諏訪太朗,宮崎美子,津嘉山正種他
晩からの飲み会前に、シネマート心斎橋にて。
朝鮮総連幹部の娘、在日コリアン2世として生まれた監督の実体験に基づく作品。
彼女の兄たちは1970年代の帰国事業のさいに北朝鮮へ渡っています。
在日朝鮮人のリエとソンホの父親は朝鮮総連幹部、母親は喫茶店を切り盛り。
1970年代、16歳のソンホは帰国事業に参加、北朝鮮へ移住する。
1990年代になって、ソンホに脳腫瘍が見つかり、
北朝鮮では治療できないからと、日本への再入国が審議される。
1997年、やっとソンホが日本へやってくることに。
滞在期間として認められているのはわずかに3カ月だが、
25年ぶりの再会を心待ちにする妹のリエと両親。
しかし、ソンホの隣には監視役のヤン同志。
久々の家族団欒の折りも家の外に張り付かれ、思うように話せない。
同窓会の席では、ソンホの近況を聞きたがる友だちに硬い表情を見せる。
日本での滞在中、何を見、何を聞き、何を話したか、
北朝鮮へ帰れば総括させられるんだよ、と、事情を知る一人がポツリ。
病院での検査の結果、悪性の脳腫瘍であることが判明。
医師は、手術そのものは可能だが、滞在期間が3カ月のみとあっては、
経過観察もできない、手術はほどこせないと言い……。
聞いたことはあっても、実態などまるで知らなかった朝鮮総連。
リエの「私はソウルへは行けないの」という言葉に、ひょえ~。
ソンホは高校生になるかならないかの年頃で北朝鮮へ渡るかどうかを選ばされ、
選択権は自分にあったというものの、
拒否すれば幹部の父親がどうなるかがわかっていました。
帰国事業に参加した人たちは、それまで日本で差別を受けつづけ、
まだ見ぬ北朝鮮が楽園に思えたのだという台詞がある一方、
楽園だと思えたから渡ったわけではないこともわかり、
痛みが突き刺さります。
集まる旧友たちは皆、在日コリアンなのですが、
そのうちのオカマが「私はマイノリティ中のマイノリティなんだから」と笑うシーンは、
寂しさと逞しさの両方を強く感じました。
ARATA改め井浦新は、あっちでもこっちでも総括させられる運命。
『愛のむきだし』(2008)、『愛と誠』、そして本作と、
まったく異なる表情を見せてくれる安藤サクラ。
彼女演じるリエから「あなたも、あなたの国も大っきらい」と言われたヤン同志は、
「あなたの嫌いなあの国で、私も、あなたのお兄さんも生きているんです」。
オフィシャルにこう言うために40年かかったという監督のコメントを後日新聞で読みました。
アン・サリーが歌う『白いブランコ』が優しいです。
『おおかみこどもの雨と雪』でもアン・サリーの歌が流れていましたが、
私はこっちの使い方のほうが好きだなぁ。
「気をつけていってらっしゃい」と背中に向かって本気で言っているのは母親しかいないと、
ずいぶん前に誰かが言っていたのをよく覚えていますが、
宮崎美子演じる母親の姿に、その言葉をしみじみ思い返しました。
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