また話が横道にそれますけれど。
前述の『モンテーニュ通りのカフェ』は、
ちょっとした会話にくすぐられる作品でした。
“カフェ・ド・テアトル”を訪れるのは、
3日後に近くでおこなわれる演奏会、芝居、オークションの関係者です。
演奏会から本当は逃げ出したいと思っている男性ピアニストは、
クラシック音楽はまったくわからないというジェシカに、
『きらきら星変奏曲』の出だしを弾いて聴かせます。
「それなら知ってる!」とにっこり微笑むジェシカ。
「これはモーツァルトの曲だよ」とピアニスト。
ジェシカは申し訳なさそうに「無知でごめんなさい」。
すると、ピアニストは、「悪いのは僕たち演奏家のほうだ。
クラシックのコンサートは堅苦しいものだと、
君に思わせてしまっている」と逆に謝ります。
こんな会話があって、ラストに聴く彼の演奏は胸を打つものでした。
昼メロのヒロインのイメージから
一刻も早く抜け出したいと思っている女優。
カフェでゆっくりお茶しようにも、
次から次へと現れる彼女のファンに、サインや握手をねだられてゲンナリ。
近くのホテルに有名な映画監督が滞在中であることを聞きつけ、
なんとしてでも自分の舞台を見に来てもらえるよう、策を練ります。
そんな彼女の毎度決まったオーダーが、
「エスプレッソ。バルサミコを入れてね」。
さらに話がそれますけれど、先日おじゃましたお店で、
「それは美味しそうには思えない」と話していたら、
話をお聞きになっていたシェフが、「やってみます?」と、
食後のエスプレッソにバルサミコを入れて出してくださいました。
絶対美味しくないと思っていたのに、NGでもなかったのが驚き。
分量にもよるんでしょうが、美味しいわけじゃないんです。
でも、なんとなく、私にとっては癖になりそうな味でした。
オークション出品者の老人とジェシカの会話も素敵です。
出品予定のブランクーシの彫刻「接吻」を見て、
芸術に無縁のところにいるというジェシカが、
「恋したくなるわね」と評したときの表情が
とってもキラキラしていました。
ジェシカの名言をもうひとつ。
「人には2種類あるの。
携帯電話がかかってきたときに、『くそっ、誰だよ』と思う人と、
『あら、誰からかしら』とときめく人。私のように」。
なんだか、バルサミコ入りのエスプレッソのように、
オシャレなような、オシャレでないような、
でもピピッと隠し味の効いた、素敵な映画なのでした。
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