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『潜水服は蝶の夢を見る』

『潜水服は蝶の夢を見る』(原題:Le Scaphandre et le Papillon)
監督:ジュリアン・シュナーベル
出演:マチュー・アマルリック,エマニュエル・セニエ,
   マリ=ジョゼ・クローズ,アンヌ・コンシニ,パトリック・シェネ他

42歳というバリバリの働き盛りに脳梗塞で倒れ、
全身の自由を失ったファッション雑誌『ELLE』の元編集長、
ジャン=ドミニク・ボビーの自伝に基づく作品。
唯一動く左目を20万回瞬かせることによって
書き取り手に文字を伝え、自伝を書き上げたジャン=ドミニク。
本作は、彼が左目で見た世界がスクリーンに映し出されるので、
観る者も彼自身になったかのようです。

病室で目覚めたジャン=ドミニク。
ぼやけていた視界がだんだんとはっきりと見えてくる。
医師が覗き込み、話しかける。
どうやら自分は3週間前に倒れ、意識不明だったらしい。

名前を言えと言われたから、名前を告げたのに、
子ども3人の名前も言ってみせたのに、
医師には自分の声が聞こえていないようだ。

医師は言う。これは非常に難しいケースで、
意識はしっかりとあるのに、身体が動かせず、話せない。
“ロックト・イン・シンドローム(閉じ込め症候群)”だと。
そう、それはまるで、重い潜水服を着せられた状態。

炎症を起こしかけている右目は糸で縫いふさがれ、
動くのは左目だけ。瞬きだけならなんとか。
問いかけに“Yes”なら1回、“No”なら2回、瞬きをすることに。

“Yes”と“No”以外にも意思の疎通を図る手段を考えようと、
言語療法士のアンリエットと理学療法士のマリーがやってくる。
ふたりともたいした美人だ。
こんな美人を前にして、手も出せないなんて。

やがて、アンリエットが提案したのは、
頻出度順に並べ替えたアルファベット表を彼女が読み上げ、
ジャン=ドミニクが言いたいアルファベットに来たときに
瞬きで合図するという方法。
自分を憐れむことをやめたジャン=ドミニクは、
瞬きだけで自伝を書く決意をする。

じわじわと心に染み入る佳作。
彼の入院以降、さまざまな立場の人が面会に訪れます。
面会者には聞こえていないジャン=ドミニクの声が、
私たちには心のつぶやきとして聞こえます。
そこにはユーモアとやるせなさが入り混じって、
ときには笑わされ、ときにはたまらない気分にさせられます。

過去に思いを巡らせながら、蝶になる日を夢みた彼は、
自伝出版後すぐ、亡くなったそうです。

決して消えないものが、ふたつある。
その記憶と想像力。
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