『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
監督:松岡錠司
出演:オダギリジョー,樹木希林,内田也哉子,小林薫他
大ヒット中。
原作はご存じ、リリー・フランキーの大ベストセラー。
1963年生まれのマー君(リリーさんの本名は雅也君)が、
九州の小倉や筑豊で過ごした幼少期から、
上京して通った武蔵野美術大学時代、
実家からオカンを呼んで暮らした東京の日々を綴っただけ。
綴っただけなんですけど、この原作はスゴイです。
映画化されたら必ず観ようと誓い、
速水もこみち主演の月9も楽しく観ていましたが、
TV版は最終回で泣かせようと走りすぎ。
ボク=オダギリジョー、
オカン=樹木希林、オトン=小林薫の映画版は
湿っぽくなるすんでのところで留められています。
松尾スズキの脚本、イイ。
それでも劇場内は鼻をすする音があちこちで。
こうしてロードショーで観て、
私の泣きのツボは一般的じゃないことに気づきました。
そもそも、役者がわかりやすく泣くシーンには引くほうです。
ちなみに例外は『手紙』(2006)の玉山鉄二のボロ泣き顔。あれは参った。
本作で私が涙ボロボロだったのは、むしろ泣き顔のないシーン。
オカンの闘病中、病室の片隅で肩を震わせるボク。
台詞なし、顔も見えません。
オカンの病室に集まる、元はボクの仲間たち。
今はもう、オカンの友だち。
オカンのまわりでにぎやかに食事する彼ら。
自分は何も食べられないのに、オカンのなんと幸せそうな笑顔。
病院の外で一服するオトンとボクの会話。
オトン「部屋代、高いんだろ」。
ボク 「1日4万」。
オトン「払えるのか」。
ボク 「うん。まぁ」。
オトン「……すげぇな」。
別の女と暮らし、とうの昔に父親として、
夫としての責任は放棄したオトン。
今、自分は妻に何もしてやれないのに、
べらぼうに高い病室代を息子が支払っているわけです。
そこまで成長した息子に驚き、立派に思い、
申し訳なさでいっぱいになっている、でも言えない。
その気持ちが滲んだ「すげぇな」のひと言に、私はグッと来ました。
原作で私の笑いのツボだった一文、
「この肩書きがあれば、キノコでもカマボコでも
通してもらえるんじゃないかと思うぐらい
凄い肩書き」が映画でもちょっと観たかったな。
現在、興行成績で本作の上を行くのが
『名探偵コナン』と『クレヨンしんちゃん』。
クレしんはひとりでよく観に行っていただけに、
本作が圧されているのはビミョーな気持ち。
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