さて、赤瀬川原平さんの『ルーヴル美術館の楽しみ方』。
彼はルーヴルを「パリのメインディッシュだ」と断言しています。
その重み、味わい、栄養価、噛みごたえ、満腹感は
充分いただきましたという気持ちを与えてくれるものだと。
パリの何をメインディッシュにするかは
人によって異なるところでしょうが、
赤瀬川さんにとってはシャンゼリゼがオードブル、
セーヌ河はコールドスープ、エッフェル塔がワイングラスで、
凱旋門は食後のエスプッソコーヒーなのだそうです。
フルコースなんて形式張らずに、
「本日のおすすめ品」だけつまんで帰る人も多いなか、
メインディッシュをひと口だけではもったいなくて、
10日間ルーヴルに通いつめた赤瀬川さん。
そんな彼の一風変わったガイドブックは次の8章から成ります。
“さあ、ステーキをいただこう”
“西洋画は怖いぞ”
“プロレスとラ・トゥールの関係”
“「微笑み」はルーヴルでは貴重だ”
“フェルメールの目はカメラの眼”
“ミロのヴィーナスにみる侘び寂び”
“ズーム・イン!マンテーニャ”
“双眼鏡で絵を見るヨロコビ”。
まず、切符を買って入場するところからおもしろい。
入り口のモギリ嬢は美人揃いで、
高めの椅子に長い脚を組んで座っていらっしゃる。
モギリ嬢と書いたけれども、実際はモギらない。
ビジッと切れ目を入れるだけ。
これはルーヴルに限らず、パリに共通の習慣だそうですね。
カフェなどでお茶の途中で勘定すると、
支払い済みの意味で勘定書にビジッと切れ目を入れるんだとか。
ルーヴルの切符は1日有効で出入りも自由。
だったらいちいち切れ目を入れなくても
その日の切符を持っているかどうかを確認するだけで良いはずが、
「ビジッと切れ目を入れる」ことがなぜか大事なようです。
こんな感じで始まる本書は、笑いに溢れた解説がいっぱい。
西洋画の流血部分を拡大してみたり、
クシャクシャにされた紙、お尻にくっついた水滴、器から流れるミルクなど、
とにかく細かいものや質感を出しにくいものが
見事に表された絵や彫刻を「細密腕自慢」と称して拡大。
中身よりも立派に見える額縁や、床、マンホール、
さらには絵画に入ったヒビの特集に、
掘出し物のコーナーや絵画のなかの路上観察も。
ルーヴル美術館に1日いれば、
そこは肉の文化であることを実感できるそうな。
美術に縁遠くたって、満腹感たっぷりの1冊です。
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