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『海を飛ぶ夢』〈追記〉

観終わった直後は「よかった」と思うわりに
その余韻が長続きしない映画と、じわじわと効いてくる映画がありますが、
『海を飛ぶ夢』はまさに後者です。

尊厳死をどう考えるか。
ラモン本人はもちろんのこと、彼を取り巻く人びとの思いも、
多くは語らないのに響いてくる、そんな感じでした。

ラモンの兄ホセは海の男だったのに、
弟を看病するために農場の仕事を始めます。
弟を愛してはいるけれど、その弟が自ら命を絶つことは絶対に許せない。
その話が出るたびにもの凄い剣幕で怒ります。

ホセの妻マヌエルは献身的な介護を続けます。
だけど恩着せがましいことは何も言わないし、
態度からもそんなことは微塵も思っていないのがわかります。
尊厳死について聞かれると、自分がどう思うかは関係ない、
ラモンの意思がすべてだと口を閉ざします。

父ホアキンにはラモンは死の話をしないし、
ホアキンもラモンには尋ねようとしません。
家族からラモンの思いを聞き、
息子が自分より先に死ぬというだけでも悲しいのに、
自ら命を絶とうと言うなんてと嘆きます。
でも、息子の前ではそんな顔は見せず、
息子のために特製のパソコンや車椅子を完成させます。

兄夫婦の息子で、ラモンの甥にあたるハビエルは
病や老いについてはまったくピンと来ない。
「無知と無邪気は紙一重」と言った私の友人がいますが、
ハビエルはまさにその紙一重。
ラモンやホアキンに向かって無神経な言葉も口にするけど、
ラモンのことが好きでたまりません。

弁護士のフリアは自らも進行性の病に冒されていて、
ラモンと自分の思いはひとつだと思っています。

ラモンと同様、四肢の麻痺した牧師は、
「ラモンが死にたがるのは家族の愛情が足りないからだ」
と、家族の心を踏みにじる発言をします。

尊厳死について、人の思いは実にさまざま。
それをきめ細やかに描写しきったアメナーバル監督はまだ30代前半。
彼の『オープン・ユア・アイズ』(1997)は
トム・クルーズが脚本に惚れ込んでリメイク(『バニラ・スカイ』(2001))。
『アザーズ』(2001)もアメナーバル監督の作品です。
いずれも死をとらえながら生を感じます。

さらにこの監督がすごいのは、音楽も自分で作ってしまうところ。
自分の監督作ではたいがい、音楽も担当。
これがまた心を揺さぶる曲ばかりです。

今後も、アメナーバル監督の作品だと言うだけで
観にいかずにはいられません。
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