『僕のスウィング』(原題:Swing)
監督:トニー・ガトリフ
出演:チャボロ・シュミット,オスカー・コップ,ルー・レッシュ他
10歳の少年マックス。
夏休み、裕福な祖母の家庭に預けられることに。
ジプシー音楽に魅入られたマックスは、
ロマ(「ジプシー」は「ロマ族」の通称)の居住区を訪れて、
ギターを習うことにする。
アルジェリアに生まれ、ロマの母親を持つくトニー・ガトリフ監督。
『ガッジョ・ディーロ』(1997)でもロマの居住区にまぎれこんだ青年を描いていました。
余談ですが、この『ガッジョ・ディーロ』の主演俳優、ロマン・デュリスは男前。
『パリの確率』(1999)でもその男前を堪能できます。
タイトルの「スウィング」には2つの意味があります。
ひとつは、マックスにギターを教えるミラルドの娘の名前。
少年と見まがうような、ボーイッシュな黒髪、黒い瞳の美少女。
マックスはスウィングに想いを募らせますが、
ジプシーと一般家庭の人間が結婚する可能性はあるのかどうかと思い悩む幼い恋心。
もうひとつの「スウィング」は、マヌーシュ・スウィング。
マヌーシュとは、フランス北部からベルギーやオランダにかけて住むジプシーのことだそうで、
彼らの生活から切り離すことのできない音楽がマヌーシュ・スウィング。
ジプシーの音楽とスウィング・ジャズのマリアージュです。
マックスの師匠、ミラルドを演じるのは
マヌーシュ・スウィングの天才的ギタリスト、チャボロ・シュミット。
作品中に、「これはジャンゴ・ラインハルトのギターだ」というセリフが出てきます。
ジャンゴは伝説のギタリストで、ウディ・アレンの『ギター弾きの恋』(1999)でも
世界でいちばん優れたギタリストとして名前が登場します。
チャボロはそのジャンゴのもっとも正当な後継者と言われている人。
とにかく、彼のギターを聴くだけでもこの映画を観る価値あり。
すばらしいのは彼のギターにかぎらず、
ロマの人たちが集まって即興ではじめる演奏もスゴイです。
サックス、アコーディオン、バイオリンなど、
さまざまな楽器を持った彼らがはじめるセッション。これは圧巻。
音楽は譜面を拾うものではなく、
心で弾くものだというチャボロの言葉とともに、音がズンズン胸に響きます。
マックスとスウィングのひと夏の恋と、
あふれんばかりのマヌーシュ・スウィング。
映画の終わり=夏の終わりと同時にせつない気持ちになるのでした。
必見、いや、必聴。
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