最愛の息子を失う哀しみを
まったくちがうタイプの映画として描いたのは『ハート』(1999)。
母マリアと息子ショーン。
ある日、単車で出かけたショーンは、
ヤク中の若者の運転する車にはねられて死亡する。
ショーンは脳死と判定され、心臓はある患者に提供されることに。
息子とふたり暮らしだったマリアはしばらく悲しみに暮れるが、
偶然目にした新聞記事で、息子の心臓がゲイリーという男性に移植されたことを知る。
ゲイリーに会いにいくマリア。
ゲイリーの胸のなかに息子の心臓があると思うと
その鼓動を聞きたくてたまらない。
マリアの行動は次第に常軌を逸し、
ストーカー的なものへと転じてゆく。
マリアが茶色い紙袋を大事そうに抱えて歩くところから
この映画は始まります。
袋からは赤い色が滲みでていて、ポタポタとその滴が。
サイコホラーの要素が目立ちますが、
息子を愛してやまなかった信心深い女性の
痛々しいまでもの苦しみ、悲しみが伝わります。
哀しみが狂気という形になって表れた作品であり、
ただ怖いとは思えません。
臓器を提供する側の家族、移植された側の家族、
とりまくさまざまな人びとについて考えさせられる作品です。
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