『しあわせな選択』(英題:No Other Choice)
監督:パク・チャヌク
出演:イ・ビョンホン,ソン・イェジン,キム・ウスン,チェ・ソユル,パク・ヒスン,イ・ソンミン,ヨム・ヘラン,チャ・スンウォン,イ・ヨンニョ,オ・グァンノク,イム・テポン,キム・ヒョンムク,ウ・ジョンウォン他
公開初日にTOHOシネマズ伊丹にて。
『オールド・ボーイ』(2003)、そして『親切なクムジャさん』(2005)を観たときの衝撃は20年経った今も忘れられません。そのパク・チャヌク監督がイ・ビョンホンを主演に起用したブラックコメディ。原作は1997年に出版されたドナルド・E・ウェストレイクの『斧』。2005年にギリシャ出身のコスタ=ガヴラス監督が映画化しているようです。ウェストレイクはいくつものペンネームを持つ非常に多作な作家で、本作に限らず映画化された小説多数。メル・ギブソンの『ペイバック』(1999)やジェイソン・ステイサム主演の『PARKER/パーカー』(2013)の原作者も彼。すでに故人ですが、こんなふうに映画化される作品が今後も出てきそう。
大手製紙会社に長く勤めるユ・マンス(イ・ビョンホン)は、妻ミリ(ソン・イェジン)と息子シオン(キム・ウスン)、娘リオン(チェ・ソユル)との4人暮らし。優秀な社員として表彰され、念願のマイホームも手に入れて、何ひとつ申し分のない人生を送っていた。ところがその後すぐにまさかのリストラ対象となり、会社から解雇を言い渡される。上司から上等な鰻を贈られて喜んでいたのはついこの間のこと。どうやら鰻を贈られるのは解雇前というのが周知の事実だったらしい。
クビになったことをしばらくは家族に言えなかったマンスだが、思い切って打ち明けると、ミリは家族一丸となってマンスの再就職を応援しようと言う。ミリ自身が習っていた社交ダンスもテニスも辞め、金のかかる習い事は将来有望なリオンのチェロだけに。処分できるものは処分し、2匹の愛犬もミリの実家に預ける。
しかしマンスの再就職先はなかなか見つからない。紙媒体のものがどんどん世の中から減らされていくなか、紙と共に四半世紀を生きてきたマンスは、今さらほかの仕事になんて就けない。求人募集を見ては応募するも落とされてばかり。そこでマンスは自分と同じく再就職を狙う人物を調べ上げ、同業他社を解雇された優秀な人物さえいなくなれば自分が採用されるに違いないと考えて……。
イ・ビョンホンにはいつまでもカッコイイ人であってほしいから、こんな彼はあんまり見たくありません(笑)。シングルマザーだったミリに惚れ込んでプロポーズし、まだ幼かった彼女の連れ子にはその事実を知らせないまま、実子同然に接する良き父親。真面目なのが取り柄だけど自己評価が高すぎる気もします。面接に臨む彼の様子を見れば、仕事ができるとも思えません。でも、この世からあと何人かだけ消えてくれたら自分は安泰だと信じて、殺しに走ってしまいます。
マンスが消しにかかるライバルのうちのひとり、ク・ボムモ(イ・ソンミン)は解雇されてから酒浸り。そんな夫をなんとか立ち直らせたい妻(ヨム・ヘラン)には富裕な両親がいるから、妻は親に頼ってもかまわないと思っています。けれどボムモのプライドがじゃまをして、義両親には頼めない。夫がそんなふうに引け目を感じているとは夫が死ぬ直前まで知らなかった妻。「失業してしまったこと自体は仕方がない、いつまで経ってもうじうじしているその態度が腹立たしい」と妻が言うシーンに迫力がありました。
また、もうひとりのターゲット、コ・シジョ(チャ・スンウォン)もマンスやボムモ同様に今まで製紙業一筋でしたが、彼の場合は家族のためにとにかく稼がねばと考え、靴店に勤めています。「家族のために」という点ではマンスも同じだけど、マンスの場合は「ライバルを排除して製紙業に戻ること」が目標になるのですね。
楽しい話ではないけれど面白い。そしてやっぱりこんなイ・ビョンホンは見たくない。いくらやり遂げたからって、真相に気づいてしまった妻はずっと怯えて暮らすのですから。それでも家族の一致団結を目指す。ほかに選択肢はない。
『レンタル・ファミリー』
『レンタル・ファミリー』
監督:HIKARI
出演:ブレンダン・フレイザー,平岳大,山本真理,ゴーマン・シャノン・眞陽,柄本明,木村文,真飛聖,森田望智,安藤玉恵,板谷由夏,菅原大吉,原日出子,神野三鈴,宇野祥平,梅沢昌代他
イオンシネマ茨木にて前述の『劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編』を観た後、109シネマズ箕面へ移動して本作を鑑賞しました。
もとは大阪出身のHIKARI監督は、高校在学中にアメリカへ留学。アメリカの大学院へと進んで映画制作を学んだそうです。車椅子生活を送る女性を主人公にした『37セカンズ』(2019)が話題になりましたが、私はどうも気が乗らずにパスしてしまったため、同監督の作品を観るのはこれが初めて。
7年前に来日し、歯磨きのCMで一瞬ブレイクしたアメリカ人俳優フィリップ(ブレンダン・フレイザー)。その後は鳴かず飛ばずで、オーディションを受けるもたいした役にはありつけず、くすぶりつづけている。
ある日、仕事として葬儀に参列する機会を得るが、遅刻したうえに、棺桶に入れられていた故人が目を開けたものだからびっくりして思わず声を上げてしまう。どうやら葬儀を体験したい男性(宇野祥平)の望みを叶える場だったらしく、またまたびっくり。帰りがけ、遅刻も含めたフィリップのふるまいについて駄目出しをしてきたのは、“レンタルファミリー”の社長・多田(平岳大)。多田の会社では、顧客の依頼に基づき家族その他をレンタルするらしい。多田から「うちで仕事をしてみないか」と誘われるフィリップ。そのまんま白人俳優を演じればいいのだと言われ……。
以下、ネタバレ混じりで書きます。
『オーガスト・マイ・ヘヴン』(2024)にも出てきたような仕事ですが、結婚式や葬式に代理で出席する以外にもいろんな依頼に応えます。たとえば、レズビアンであることをカミングアウトできずにいる女性(森田望智)が、アメリカ人男性と結婚して渡米するというシナリオを作り上げ、新郎役を依頼してきます。これがフィリップの初仕事で、こんな嘘はみんなの人生をつぶすことになると言って当日に逃げ出しかけた彼にレンタルファミリーのスタッフ・愛子(山本真理)が怒鳴る。依頼者は本当に愛するパートナーと一緒になり、そうとは知らない親は娘の結婚を喜ぶ。人生をつぶすどころか、これでみんなが幸せになるのだと。
ようやく腹を括ったフィリップがその後かかわるのは、離婚女性の別れた夫を演じて、一人娘・美亜(ゴーマン・シャノン・眞陽)が私立中学に入学できるようにすること。受験する本人のみながらず親もその学校にふさわしいかどうかを見られるから、面接には両親そろっていないと駄目なんですね。自分を捨てた父親だというフィリップに最初は怒りを見せている美亜が、次第に懐く。まるで本物の親子のようです。また、昔は一流の役者だったけれど今はすっかり自信をなくしている喜久雄(柄本明)に記者のふりをして取材を申し込んでほしいとか。これは喜久雄の娘(真飛聖)からの依頼。
こういう会社は実際にあるのでしょうね。多種多様な依頼に時には目が点に。呆れたのは、妻に浮気を突き止められた夫が、妻から浮気相手を連れてくるように言われたさいに、本物の浮気相手を連れていく勇気なく、浮気相手を演じてくれという依頼。面白いというよりも酷い話ですよねぇ。こんな男はクズだ。
ブレンダン・フレイザーはオスカーを獲得したときの『ザ・ホエール』(2022)よりずっといい。美亜とフィリップの関係や、柄本明演じる喜久雄がある場所で「忘れる前に会えてよかった」と言うシーンには涙がこぼれましたし、しみじみとした良い作品です。
どうでもいいことなんでしょうけど、本作の情報としては公式HPやポスターを含めて『レンタル・ファミリー』になっているのに、本編では『レンタル ファミリー』。「・」が見当たらないのが気になってしゃあないのでした。(^^;
『劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編』
『劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編』
監督:菊地康仁
出演:岡咲美保,豊口めぐみ,前野智昭,古川慎,千本木彩花,M・A・O,江口拓也,大塚芳忠,泊明日菜,小林親弘,櫻井孝宏,沼倉愛美,Lynn,日高里菜,春野杏,金元寿子,大原さやか,川澄綾子,田中理恵,熊田茜音,高梨謙吾,木島隆一,大西沙織,遊佐浩二,小坂菜緒,藤嶌果歩,堂本光一他
イオンシネマ茨木にて。
スルーするつもりでしたが、弟がオンラインクレーンゲームで釣り上げていた景品あれこれのことを思い出してやっぱり観ることに。同じ理由で弟が亡くなった年に『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』(2022)を観ています。確かそのときはちっとも話について行けなくて、無理だと思った記憶が。きっと今回もわからなくて睡魔に襲われるのだろうと思ったら、えーっ、これはなんか知らんけどついて行けるやん。細かいことはわかりません。登場人物についても前回観てから勉強したわけではないので、名前も何もかも覚えられません。でもそんな状態で観ても面白い。下記、いろいろと間違っていたらごめんなさい。
普通のサラリーマンだった青年が異世界でスライムに転生。スライムとして日々を謳歌すると決めたのにそうはならず。仲間がどんどん増えて、彼は王リムルとして皆から崇められ慕われる存在に。リムルはスライムになっているときもあれば、美少年の姿になっているときもあるようです。
そして本作では天帝エルメシアの招待を受け、彼女が所有するリゾート島へとみんなでバカンスに繰り出します。ところがタダより高いものはない。エルメシアには思惑がありました。海底に佇むカイエン国という国家が地上をも征服しようと画策しているのを知ったエルメシアが、それを阻止するためにリムルの力を借りようとしていたのでした。
カイエン国は水竜を守り神としており、水竜を操れるのは巫女のユラだけ。カイエン国の宰相ジースによる陰謀に気づいたユラがいち早く地上へと飛び出し、リムルに話を聴いてもらおうとしています。そんなことはとっくにお見通しだったエルメシアは、ユラから聴くまでもなくリムルに協力を依頼します。
女性キャラがみんな美人。エルメシアなんて人としても優れたまさに理想の天帝。リムルの仲間の女性たちは総じて巨乳(笑)。これを見て萌える男性ファンがいるのは納得できます。
スルーしかけていたけれど、観てよかった。やっぱり初見でついて行くのが無理なのは“ガンダム”が最高峰かもしれません。
『嵐が丘』
『嵐が丘』
監督:エメラルド・フェネル
出演:マーゴット・ロビー,ジェイコブ・エロルディ,ホン・チャウ,シャザド・ラティフ,アリソン・オリヴァー,マーティン・クルーンズ,ユアン・ミッチェル他
109シネマズ大阪エキスポシティにて、IMAXレーザーGT版を鑑賞しました。大画面で観たかったわけではなく、時間的にいちばん都合がよかったからというだけです。
原作は言うまでもなく、18世紀のイギリスを舞台としたエミリー・ブロンテの古典小説。今更ながらブロンテについて調べてみたところ、1818年にイギリス・ヨークシャーで牧師の子として生まれた彼女は、結核を患って30歳の若さで死亡。女性が小説など書くものではないと言われていた時代だったこともあり、亡くなる前年の1847年に出版した唯一の長編小説『嵐が丘』は当時は酷評されましたが、没後に評価されるように。「没後に高く評価される」と聞くと、アストル・ピアソラなんかを思い出す。ご本人たちは空の上でどうお思いになっているのでしょう。
そんなブロンテの作品を『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)のエメラルド・フェネル監督が映画化したアメリカ作品。フェネル監督はイギリス出身、主演のマーゴット・ロビーと『フランケンシュタイン』(2025)で怪物役を演じたジェイコブ・エロルディはオーストラリア出身。家政婦役はタイ出身のホン・チャウ。主人公の結婚相手を演じるシャザド・ラティフこそはイギリス出身ではありますが、父親はパキスタン人なのだそうで、実に国際色豊かなキャストです。
荒涼とした高台に建つ屋敷、通称“嵐が丘”に暮らすアーンショウ家。主人のアーンショウは酒と博打に目がないろくでなしで、アーンショウ家は落ちぶれていく一方だというのに、毎日酔っぱらって帰ってきては粗相し放題。そんな主人でも、一人娘のキャサリンは世界一の父親だとかまってほしがる。主人にも娘にもあきれ果てている家政婦のネリー。
ある日、いつものように酔っぱらった主人が孤児の少年を連れ帰る。酔うと博愛主義を見せたがるのが主人の悪い癖。しかし、キャサリンは遊び相手が現れたと喜び、名前すら言おうとしない少年をヒースクリフと名づけてペットのように可愛がる。こうして幼い頃から片時も離れずに育ったふたりは、身分の違いを超えて惹かれ合うようになるのだが……。
ヒースクリフに惹かれつつも、キャサリンが玉の輿にでも乗らなければ潰れることは確実なアーンショウ家。隣の豪邸に越してきた裕福なリントン家に狙いを定めたキャサリンは、目論見通り息子のエドガーのハートを射止め、求婚されます。ヒースクリフのことを愛しているが、彼と一緒になっても未来はない。キャサリンがネリーにそう話しているのを立ち聞きしてしまったヒースクリフは嵐が丘を去るのでした。
多少は期待して観に行ったのですが、なんだかなぁというのが率直な感想。マーゴット・ロビー演じるキャサリンは美しいし、衣装やリントン家の調度品を見るのも楽しい。しかしエロさを醸し出そうとしているオープニングがまず好きじゃない。画面にはまだ何も映し出されていない状態で聞こえてくるのはまるであえぎ声そのもの。映ったと思ったら、絞首刑にされている囚人の首がなかなか折れなくて死にきれないときの声でした(笑)。
そのほかにもエロを感じさせるシーンが結構あります。観る人の想像力によるのかもしれませんが、嵐が丘を去ったヒースクリフが戻ってきてキャサリンと再会したあとは、脱がないポルノ映画ばり。キャサリンはエドガーの子を身ごもっていることをヒースクリフに隠したまま、ふたりはやってやってやりまくる(笑)。いちばん残念なのは、最初に嵐が丘にいた頃のヒースクリフはロン毛の似合う色っぽい男性だったけど、富を得て戻ってきたヒースクリフがちっとも色っぽくないこと。金持ちになったことを見せつけるかのような金歯キラリのヒースクリフには全然惹かれません。嫉妬深すぎてホラーみたい。
キャサリンが亡くなるシーンは部屋に蛭がいっぱいで気持ち悪いし、楽しめないまま終わった作品。うーむ。どないよこれ。
『#拡散』
『#拡散』
監督:白金
出演:成田凌,沢尻エリカ,淵上泰史,山谷花純,赤間麻里子,船ヶ山哲,鈴木志音,DAIKI,MIOKO,高山孟久他
イオンシネマ茨木にて。
監督は「日中の文化交流を軸に配給や映画製作を手掛ける“チームジョイ”の代表取締役兼CEO白金」とのことですが、全然知らなくてすみません。と思ったのですけれど、そのチームジョイが配給した作品を調べてみれば、なぁんだ、知っているものばかりじゃあないか。『THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女』(2018)、『白蛇:縁起』(2019)、『劇場版 Re:STARS 未来へ繋ぐ2つのきらぼし』(2023)、『ゴールド・ボーイ』(2023)、“羅小黒戦記”シリーズなどなど、面白かった作品ばかり。
富山県の小さな田舎町。老人介護施設の職員・浅岡信治(成田凌)はインフルエンサーである妻の明希(山谷花純)とふたり暮らし。ある日、かかりつけの高野クリニックでコロナワクチンを接種した明希が翌日急死する。原因はワクチンにあると考えた浅岡は、明希の遺影を胸に掲げてクリニックの前に立ち、来る日も来る日も無言の抗議活動を始める。その姿を目にしたのが新聞記者の福島美波(沢尻エリカ)。東京からこの町へ左遷されてくすぶっていた美波は、これは感動を呼ぶネタになると考える。やがてその通り、ネットを中心に大きな反響があり、信治は同僚の薦めもに従ってSNSのアカウントを開設。コラボを望むYouTuberも現れ、信治は“反ワクチンの象徴”としてもてはやされるようになるのだが……。
反ワクチンを扱っているからなのか、上映劇場もそう多くはありません。どういう立ち位置で白金監督は撮ったのだろうと気になっていました。私自身はワクチンを一度も接種していませんが、別に反ワクチンという立場でもない。わりとニュートラルな気持ちで鑑賞に臨んだつもりです。
なんか嫌な感じなんですよね。信治とYouTuberたちが。本当に反ワクチンなの? それを利用して注目されようとしているだけなんじゃあという気がして。そうしたら、結局のところ、ホンマもんの反ワクは医師の高野(淵上泰史)病院だけ。高野が明希の元カレだったのを知って嫉妬していた信治が、この機会を利用して高野を貶めようとしていたという展開で。なんだよ、痴情のもつれの結果がこれかよと、ちょっと拍子抜けしました。問題の提起としては良いのではないかと思いますけれど。思いっきりネタバレですみません。m(_ _)m





