『金髪』
監督:坂下雄一郎
出演:岩田剛典,白鳥玉季,門脇麦,山田真歩,田村健太郎,内田慈他
夕刻から神戸の日本料理店でジャズ懐石。その前にキノシネマ神戸国際にて2本ハシゴの1本目。
原作があるのかと思っていたら、坂下雄一郎監督のオリジナル脚本らしい。本作の公開に先駆けてノベライズ本が出版されています。ノベライズにはそもそも期待していないので、これも今から手に取ることはないと思います。書店で見つけてもしも薄ければ買うかもしれません(笑)。
中学校教師・市川健太(岩田剛典)が担任を務めるクラスで事件が発生。クラスのほとんどの生徒が髪を金色に染めて登校してきたのだ。誰が主導しているのかは生徒たち自身もわからないようで、そんな話が回ってきたから面白そうだと思って乗ったとのこと。きっかけとなったのはおそらく生徒の地毛が明るい茶色だったにもかかわらず校則違反とされて黒に染めさせられたことだろう。そのせいで彼女は不登校になった。この件に反発したのだという想像はつくが、その生徒は市川のクラスの生徒ではない。よりによってどうしてウチのクラスの生徒たちが金髪にするんだよと理不尽に思う市川。
鬱々としながらも態度には表さずに帰宅し、マッチングアプリで出会って交際中の赤坂美咲(門脇麦)と食事をしていると、美咲からいきなり結婚についてどう考えているかを問われる。結婚のことはまったく頭の中になかったから、急な話に呆然。しかし美咲も結婚したくてその話を持ち出したわけではないらしくホッ。
翌日、大半の生徒は髪を黒く染め直して登校してきたが、女子生徒・板緑(白鳥玉季)を含む何人かは頑なに金髪のまま。板緑はおよそこんなことはしそうにもないタイプだと思われていたのに、実は彼女こそが発起人だとわかる。やがて“金髪デモ”を知ったマスコミが学校に押し寄せ、SNSでも拡散されてしまい……。
健太は熱血教師でも何でもありません。彼が生徒に向けて発する言葉も会議などにおける発言もただただ薄っぺらい。実のあることは何にも言えないくせに、家では愚痴ばかりこぼして悪態をつきます。自分に味方してもらうつもりで美咲に意見を求めると、ズバッと痛いところを突かれる。カッコイイ岩ちゃんを情けなくて冴えない健太に配したキャストは面白い。
「これは事件の話ではなくて僕自身の話」という台詞のとおり、金髪事件の話というよりは、オジサン化している自分を認められない男の話です。年齢を言ったときに「見えない〜」と言ってほしかったり、若い子に理解のある大人だと思ってほしかったり、健太以上の年齢の人であれば男性でも女性でも「うわっ、これ私」と苦笑いしてしまうシーンがあるかもしれません。
健太と板緑が密談の場に選ぶのが映画館というのは感心しない(笑)。あんな大声で話されたりスマホを使われたりって最悪だ。映画の中の話とはいえ、これはやめてほしかった。
『TOKYOタクシー』
『TOKYOタクシー』
監督:山田洋次
出演:倍賞千恵子,木村拓哉,蒼井優,迫田孝也,優香,中島瑠菜,神野三鈴,イ・ジュニョン,マキタスポーツ,北山雅康,木村優来,小林稔侍,笹野高史他
声の出演:明石家さんま,大竹しのぶ
公開初日、109シネマズ大阪エキスポシティにて、前述の『インターステラー』の次に。
山田洋次監督が『パリタクシー』(2022)をリメイク。この日は舞台挨拶付きの回が設けられていましたが、へ〜っと思ったのはその時間帯。普通、舞台挨拶付きの回は封切り日の18時以降に設けられる場合が多い。封切り日はたいてい金曜日だから、仕事帰りの人が来場可能な時間に設定されているわけですね。ところが本作の舞台挨拶付きだったのは昼前の回。ま、山田監督はご高齢ですし、倍賞千恵子とキムタクならば中高年以上のファンが多いということか。
個人タクシーの運転手・宇佐美浩二(木村拓哉)がくたくたになって帰宅すると、待ちかまえていた妻(優香)から娘(中島瑠菜)の進学について相談される。クラリネット奏者として将来を期待できる娘は推薦入学が叶いそうだが、私立のために金がかかる、大丈夫かというもの。入学金もろもろで100万円は要るし、車検に賃貸住宅の契約更新も間近で出費が重なってどうにもできそうにないと言うのだ。浩二の姉に用立ててほしいと妻から言われてうんざり。
妻は出勤、娘は登校してやっと睡眠に就いた浩二は、同僚からの電話で起こされる。ぎっくり腰になったという同僚は、自分が受けた仕事を浩二に代わってほしいという。それは東京の柴又から神奈川の葉山まで85歳のマダム・高野すみれ(倍賞千恵子)を送り届けるというもの。長距離だから相当の金を稼げるだろうという思惑から浩二は引き受けるのだが……。
万人受けはすると思いますが、オリジナルの『パリタクシー』も物凄く好きというわけではなかったので、これもそんな感じ。オチを知らずにこれをお読みになっている方がいらっしゃるとしたらごめんなさい。このオチがどうにも好きになれないのです。偽善臭漂うというのか(笑)。
金の工面をどうしようかと思い悩んでいた主人公は、普通に仕事をこなしただけ。その「普通に仕事をこなす」ということがそもそも難しいのかもしれないけれど、感動するほど良いことをしたわけではない。妻にいたっては金がないと日頃から文句ばかり言って、長距離運賃を受け取らずに帰ってきた夫を責め立てます。それが、老婦人に面会に行ってみたらすでに亡くなっていて金は全部主人公一家に遺してくれていました、ってね。遺言を読んだときの夫婦の表情もなんだか。妻なんてあんなに文句を垂れていたのだから、一度も会ったことのない老婦人からの遺言に万々歳のはずでしょう。そんなしおらしい顔をされてもと思うのでした。
万人受けすると書いたけど、素直にこの美談に浸れる人だけにお薦めします。
2025年11月に読んだ本まとめ
全然読書がはかどらないまま12月に突入してしまいました。でもこれだけ映画を観たら本まで読むのムリやろとも思う。しゃあない(泣)。
2025年11月の読書メーター
読んだ本の数:3冊
読んだページ数:1008ページ
ナイス数:535ナイス
https://bookmeter.com/users/762098/summary/monthly/2025/11
■【映画化決定】愚か者の身分(徳間文庫)
4分の3位まで読んだところで映画版を鑑賞。読み始めたときの私のイメージでは、マモルが北村匠海、タクヤが綾野剛だったのですが、それでは年齢的に行き過ぎでしたね。てっきり男性作家だと思っていたから、女性だと知って驚く。『ババヤガの夜』の王谷晶といい、この人といい。登場人物たちが愚か者であることは間違いない。だけどこんな境遇を生き抜いてきたのを知ると、クズだと罵れなくなります。映画版で木南晴夏が演じた由衣夏は、原作のほうが出番が少なくもやはり良い味。鰺の煮付けと塩むすびに感じる幸せ。みんなどうにか生きてほしい。
読了日:11月05日 著者:西尾潤
https://bookmeter.com/books/17866574
■ミステリなカフェ 午後3時の謎解きアンソロジー (双葉文庫 み 36-03)
50頁足らずに短編3つと、80頁弱と100頁ちょいの中編2つ。頁の差に関わらずどれも軽妙なタッチ。読み応えを欲する人は少々物足りなさを感じるかもしれませんが、長編に疲れたときならどれも楽しい。特にカフェが舞台というわけではない話にもシフォンケーキだったりナポリタンだったりチョコレートだったり、あがり性の店長が手を震わせながら煎れるあまり美味しくない珈琲が出てきたりして(笑)、ひと息つきながら読みたくなる話ばかり。謎解きもしっかり。特に楽しんだのは『猫の世話をするだけの簡単なお仕事』。断じて、簡単ではない。
読了日:11月18日 著者:大崎梢,加納朋子,坂井希久子,東川篤哉,望月麻衣
https://bookmeter.com/books/22616040
■禁忌の子
「似ている」などというレベルではない、自分とまんま同じの見ず知らずの人が死体となって目の前に運ばれてきたら。導入部から話に引き込まれます。最も犯人像からは遠い人、けれど急に登場したわけでもない人。ひゃーと驚かされ、5分の3の意味がわかったときには自分の先入観にも驚きました。精子の提供を取り上げた話は映画でもよく観ますが、今はSNSで取引されることもあると知って愕然。城崎には強烈に惹かれます。人の感情を解しない、けれど思いを巡らすことに努めるイケメン。彼の推理をまた聴きたいから、次も文庫化まで待てないかも。
読了日:11月28日 著者:山口 未桜
https://bookmeter.com/books/22154734
『インターステラー』【再上映】
『フォロウィング』(1998)で映画監督デビューを果たしたクリストファー・ノーランは『メメント』(2000)でハリウッド期待の新鋭と呼ばれ、その後の活躍は映画好きなら誰もが知っているところ。『ダンケルク』(2017)や『オッペンハイマー』(2023)のようなSFではない作品もありますが、根強い人気を持つのはやっぱりSFということになるでしょうか。『TENET テネット』(2020)なんかは私にとって超難解な作品ではあるのに、わからなくても面白い。
『インターステラー』が公開されたのは2014年。ノーラン監督作品の中でトップクラスの人気を誇る作品でしょう。これも難解なのに何度でも観たくなる。てか、ノーラン監督作品ほどIMAX版での再上映が願われる作品はなかなかないかもしれません。数カ月前の『ダークナイト』の再上映に続き、今度はこれを上映してくれるとは、なんと嬉しいこと。あらすじは前回の記事をご覧ください。
10年前に観たときとはキャストの認知度が違います。主演がマシュー・マコノヒーだったことは覚えていたけれど、共演がアン・ハサウェイだったことやマット・デイモンがこんな役で出演していたことはすっかり忘れていました。大人になってからの娘をジェシカ・チャステインが演じていて、後半では彼女がほぼ主人公と言ってもよいぐらいなのに忘れていたし、彼女の同僚役でトファー・グレイスが出ているなんてまるで覚えなく。いちばん驚いたのは、子どもの頃の息子役がティモシー・シャラメだったこと。彼は今も昔も砂に縁があるってことですね(笑)。大人になってからの彼を演じるのはケイシー・アフレックですか。なるほど。
109シネマズ大阪エキスポシティのIMAXレーザーGT版は本当に最高です。それを知っている人が多いのか、ここで再上映される作品はどれも満席に近い状態になるくらい客が入ります。IMAXシアターでは映画を観たことがないという人も、ほかの劇場のIMAXシアターには行ったことがあるけれどここには行ったことがないという人も、みんな一度は来てほしい。素晴らしいから。ここで本作を観られてよかった。ジワジワ来ます。
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』(原題:Deliver Me From Nowhere)
監督:スコット・クーパー
出演:ジェレミー・アレン・ホワイト,ジェレミー・ストロング,ポール・ウォルター・ハウザー,スティーヴン・グレアム,オデッサ・ヤング,ギャビー・ホフマン,マーク・マロン,デヴィッド・クラムホルツ他
テアトル梅田で『メン&チキン』を観た後、まっすぐ帰りゃいいものを109シネマズ箕面に寄ってもう1本。
若き日のブルース・スプリングスティーンに焦点を当てたという本作は、スルーしてもいいかなと思っていました。だって私はまったくと言っていいほど彼に興味がない。それでも『カセットテープ・ダイアリーズ』(2019)を観たときにはずいぶんイメージが変わりました。彼は単なるロックスターというよりは、テレサ・テン的な扱いだってことはありませんか。いろんなものを背負っていて、同じような思いを持つ人を支えつづけてくれる存在。まるで違ったらすみません。
幼少期、酒浸りの父親をバーから連れ戻すのが役目だった少年ブルース。酔って帰ってきてはブルースを殴る父親のことを母親は責めたが、それで態度を改める父親ではなかった。ずっと父親に怯えながら過ごしていたブルース。それでも映画『狩人の夜』(1955)を父親と観たことはきらめく思い出。
1980年、『ハングリー・ハート』の大ヒットで一躍スターとなったブルース。新曲が期待されるなか、レコーディングエンジニアの友人マイク・バトランを自宅へ呼びつけたブルースは、アコースティックギターのみでカセットテープへの録音を進める。デモテープを受け取ったマネージャーのジョン・ランドーは、ブルースの望みに100%沿ったアルバムに仕上げようとするのだが……。
自宅の寝室に古い機材を持ち込んで録音した曲のイメージそのままでアルバムを作りたいのに、録音スタジオには最新の機材しかないからブルースの望みどおりにはなかなかなりません。新しい機材で古い機材の音を出すことがこんなに難しいとは。素晴らしいのはジェレミー・ストロング演じるマネージャーのジョンで、こんな人が付いていたからこそ、そして誰もがブルースの願いを笑ったり呆れたりせずに仕事に取り組んだからこそ、納得できる形になったアルバム『ネブラスカ』。常識外と言われた名盤の誕生は観ていてうれしくなりました。
ただ、ブルースの恋愛話には首をひねってしまいます。名前が売れた途端、増える知り合い。「体育で一緒だっただろ」と言われて誰が思い出せるねん。そんな元同級生が「俺の妹」だと言って紹介してきた女性フェイとつきあいはじめるって、グルーピーのうちのひとりとつきあうのと変わらんことないですか。しかも彼女、子持ちだし。どれだけ真面目につきあっていたのか知らんけど、鬱を発症したブルースから別れを切り出されて「逃げているだけ」とか「自分と向き合わないと」とか言われても。そもそも彼が鬱病だとは知らなかったので、それはびっくりしました。
クイーンの『オペラ座の夜』を聴いたプロデューサーが駄目出ししたのと違って、こっちのプロデューサーはこんなの売れねぇだろと言いつつも「でもどうせ言うこと聞かないでしょ」と大切に扱うことを約束するのもよかったですね。とはいうものの、彼の曲にはのめり込めそうにありません。メッセージ性が強すぎる。





