MENU
ChatGPT-Image01
ChatGPT-Image02
ChatGPT-Image03
ChatGPT-Image04
ChatGPT-Image05
previous arrow
next arrow

『愛されなくても別に』

『愛されなくても別に』
監督:井樫彩
出演:南沙良,馬場ふみか,本田望結,基俊介,伊島空,池津祥子,河井青葉他

イオンシネマ茨木にて。

原作は“響け!ユーフォニアム”シリーズの武田綾乃による同名小説で、吉川英治文学新人賞の受賞作。井樫彩監督の作品を観るのは私は初めて。公開から1週間以上経っていて、もうじき上映が終了してしまいそうなとき。スルーしかけていたのですが、観てよかった。

大学生の宮田陽彩(ひいろ)(南沙良)は幼い頃に両親が離婚して以来、母親(河井青葉)と2人暮らし。働きもせず家事もせず家に男を連れ込む母親に代わって家計を担わなければならないから、宮田は授業の時間以外をほぼすべてコンビニでのアルバイトに費やしている。

体調不良で授業を欠席した日のレジュメを後日もらおうと先生に直談判するが、いかなる理由でも欠席者のフォローはしないと冷たく言い放たれてガックリ。ノートを見せてほしいと頼める友人などいない宮田は、教室でよく見かける木村水宝石(あくあ)(本田望結)に声をかける。あなたにノートを見せて私に何の得があるのかと言う木村と話すのが面倒になって立ち去ろうとすると、宮田と同じコンビニで働く江永雅(みやび)(馬場ふみか)とはつきあわないほうがいいと木村が忠告してくる。江永の父親は殺人犯だからだと。

江永とは大学も同じだが、見た目が派手で愛想皆無の彼女とはバイト先で会っても必要最低限のことしか話したことがない。木村の話を確かめたくなった宮田が江永に単刀直入に聞くと、江永の答えは想像の遥か上を行くもので……。

宮田と江永と木村、三者三様に毒親のもとで育っています。木村だけは毒親というのは当てはまらないかも。地方から東京へ出てきた娘のことが心配で2時間毎に電話をかけてくるという異常に過保護な親だけど仕送りもたんまり。その金を木村は新興宗教につぎ込んでいます。一方の宮田は何が何でも大学は出ないと良いところに就職できないと思って頑張っているけれど、実は母親は娘の奨学金も元夫から受け取る養育費も全部遊興費として使っている。娘に向かって絶えず発する「愛している」という言葉の薄っぺらいこと。また、江永は轢き逃げを犯して逃走中の父親から性的虐待を受け、味方だと思っていた母親からも実は疎まれていたことに気づいて家を出た身。自分こそ最も不幸だと思っていた宮田は江永の話を聴いて愕然とします。

宮田が実家暮らしだと聞いた江永が「いいね、殺したいときにいつでも殺せる」という台詞が衝撃的すぎて笑ってしまったほど。本当に母親を殺したくなった宮田が家を飛び出し、頼る相手は江永しかいません。こうして始まるふたりの生活。

江永が父親の殺した相手の息子(伊島空)につけ狙われたり、木村が通う新興宗教の教祖に会いに行くと木村の母親が乗り込んできたりと不穏なシーンがいっぱいですが、不思議と荒んだ気持ちにはなりません。愛されたいと思っているわけじゃない、愛されなくても別にいいし、別にいいんだよと思わせてくれる人がいてほしい。

南沙良と馬場ふみかの演技が最高です。このふたりをいつまでも見守っていたくなる。

『マーヴィーラン 伝説の勇者』


『マーヴィーラン 伝説の勇者』(原題:Maaveeran)
監督:マドーン・アシュヴィン
出演:シヴァカールティケーヤン,アディティ・シャンカル,ミシュキン,スニール,ヨーギ・バーブ,サリタ他
声の出演:ヴィジャイ・セードゥパティ

封切り日、109シネマズ箕面にて21:05からのレイトショー。ボリウッドだもの、161分の長尺で、上映終了時刻は23:55。きっと客は私ひとりだろうなぁと思っていたら、はい、正解。早くも今年8回目の“おひとりさま”

主演のシヴァカールティケーヤンはタミル語映画界のスターだというけれど、全然タイプじゃない。ラーム・チャランでもサルマーン・カーンでもリティック・ローシャンでもない、私にとって鉄板のヴィジャイでもない、ただの暑苦しい男を3時間近く見続けていられるだろうかと懸念しましたが、インドの建設事情があらわになる作品は面白いですね。

青年サティヤはヒーロー漫画『マーヴィーラン』を描いては地元の新聞社に持ち込んでいる。漫画など流行らないと言う編集者はいずれ漫画欄は広告欄になるからと難癖をつけて、原稿を毎度受け取って連載の形は取るものの、サティヤの署名を勝手に書き換えて本名を名乗らせてくれない。サティヤの母親も漫画など金にならないと言っているから仕方のないこと。

そんなある日、サティヤと母親と妹が暮らすスラムが再開発の対象となり、住人たちは立ち退きを迫られる。あまりに急なことで皆戸惑うが、開発業者が近隣に建てたマンションを提供してくれるとのこと。ほかに選択肢はなくて渋々移動すると、そこには見たこともないような洒落た高層マンションが建っているではないか。いつのまにこんなものを建てたんだと驚きつつ喜ぶ元スラムの住人たち。

ところが入居してみるとハリボテもいいとこ。浴室のノブを持てば外れ、写真を飾ろうと釘1本打っただけで壁が崩れる。窓を開けようとすれば窓ごと落下。住人たちが手抜き工事を指摘すると逆に修理代を請求される始末。実は再開発事業の陰には悪徳政治家の存在があった。誰もが怒りを露わにするなか、争いごとが苦手なサティヤだけは事を荒立てないように努め、『マーヴィーラン』の中ではヒーローを悪に対峙させる。すると、例の新聞社の副社長だという美女ニラーが『マーヴィーラン』を気に入り、サティヤは自分こそが作者であることを明かして描くようになる。

漫画の中では気丈でも実際は臆病なサティヤだったが、事故で瀕死となった時をきっかけに天の声が聞こえはじめる。天の声はサティヤを勇者と呼び、民衆のために悪徳大臣ジェヤコディをぶっ潰すように語りかけてきて……。

スターだけあってもちろん不細工じゃないですよ。インドではこの手の顔が人気あるのでしょう。だけど、私はそうじゃないから、タイプじゃない人を3時間見続けるのはやはりツライものがあります。しかも客は私しかいないから、普段は絶対しない「上映中にスマホを見る」をやってしまったじゃあないですか。(T_T)

とはいうものの、冒頭に書いたように、インドの建設業界における不正がどんなふうなのかわかるのは面白い。再開発事業に関わるものとしては『無職の大卒』(2014)がめちゃめちゃ面白かったし、『ハーティー 森の神』(2021)なんかもそうですね。『ジガルタンダ・ダブルX』(2023)も『ハーティー』同様に政治家が森を狙う話でした。また、『ただ空高く舞え』(2020)は再開発の話ではないけれど、民衆も乗れる飛行機を飛ばそうとしたら政治家の妨害に遭ったのですよね。まったく、インドの政治家で崇高な人はいないのかと思ってしまうほど、金が絡むとなると一枚どころか何千枚も噛みたがる奴が多すぎる。

ジェヤコディ役には思いっきり悪人顔のスニール。ニラー役のミシュキンは本当に綺麗。一度見たら忘れない風貌のヨーギ・バーブは、やっと仕事にありついたと思ったら欠陥工事の修理ばかりやらされるはめになったうえに責任を押しつけられそうになるタミル人クマールの役で、今回も笑わせてくれます。韓国映画でいうところのユ・ヘジンオ・ダルスの役回りってとこですかね。天の声を担当するのはヴィジャイ・セードゥパティ。さすがです(笑)。

中盤まで集中力は途切れがちでしたが、天の声の力を借りなければヨワヨワで腹立たしいほどだったサティヤが本物の勇者となる最後は最高。終わってみれば楽しかったと言えるボリウッドなのでした。

『おい、太宰 劇場版』

『おい、太宰 劇場版』
監督:三谷幸喜
出演:田中圭,小池栄子,宮澤エマ,梶原善,松山ケンイチ

公開初日、仕事帰りに109シネマズ箕面にて。

三谷幸喜の完全ワンシーンワンカットシリーズ第3弾!」と銘打たれていますが、第1弾と第2弾が何やったか知らんし。調べてみたらWOWOW制作のシリーズで、三谷幸喜のオリジナル脚本を彼本人が監督を務めて一度もカメラを止めずに撮るというのがウリのシリーズらしい。第1弾が『short cut』(2011)で中井貴一鈴木京香の共演、第2弾は『大空港2013』(2013)で主演が竹内結子。そしてその両方に出演している梶原善がこの第3弾で一人三役を務めています。WOWOWでは6月29日に放送され、7月11日に劇場版として公開されました。

友人の結婚式に参列した夫婦・小室健作(田中圭)と美代子(宮澤エマ)は、北鎌倉からバス停を探して歩くも見つけられず。地元民の打雷次郎(梶原善)を見つけて道を尋ねるが、兄の四郎(梶原善)と電話で白熱中の彼はバス停の場所をなかなか教えてくれない。ようやく聞き出してバス停に向かおうとしたそのとき、健作はここが太宰治ゆかりの地であることに気づく。

ここ八里ヶ浜は、まだ無名だった太宰治(松山ケンイチ)がカフェーの女給をしていた矢部トミ子(小池栄子)と心中をはかった場所で、今日はまさに同じ日。興奮を抑えきれず、太宰がいたこの浜辺を散策しはじめる。すると、洞窟を抜けた先には当時の太宰とトミ子がいるではないか。しかも打雷兄弟の父親・四郎次郎(梶原善)まで生きている。この心中が未遂に終わり、太宰は生き残って『人間失格』を執筆し人気作家となるものの、トミ子は死んでしまうことを知っている健作はどうすべきか迷い……。

鑑賞後にあらためてWikiなどを読んでみると、太宰ってめちゃめちゃ死のうとしていた人なんですね。20歳で初の自殺未遂(「初の」と言うのも変だけど)、約1年後に今度は初の心中未遂。これが本作のモチーフになっているようで、鎌倉の小動岬で女給と心中を図り、彼だけ生き残って彼女は死亡。その後も試験に落ちては自殺を図り、嫁の不倫を知っては嫁と心中を図り、それでもモテモテで再婚して愛人もいて、どちらとの間にも子どもを授かって、すごいやっちゃなぁ。結局最後は心中を果たして本望だったでしょうか。

三谷幸喜だから、こんな太宰の心中事件もあっけらかんと描いています。自分だけ死んでしまうのだと知ったトミ子は、途中でそんなの嫌だわと思うけれど、心中相手を探しているとしか思えない太宰が美代子をその相手に選びそうになったときライバル心が芽生える。そして、心中から生き延びてみせるとにこやかに健作に言い放つ姿が良いです。

田中圭の起用は間の悪いこととしか言いようがありませんが、それはそれ、これはこれで観りゃいいと思います。そもそも私は不倫否定派ではないから、田中圭と永野芽郁のことはどうでもいい。しかし、どうでもいいからそれとは切り離して考えて観に行ったほうがいい作品だよとまでは言えません。少なくとも三谷幸喜の前作『スオミの話をしよう』(2024)よりは面白かったですけどね。

ところでTVドラマ版と劇場版には何か違いがあるんですか。

『海がきこえる』

『海がきこえる』
監督:望月智光
声の出演:飛田展男,坂本洋子,関俊彦,荒木香恵,緑川光,天野由梨,渡部猛,徳丸完,有本欽隆,金丸淳一,さとうあい,鈴木れい子,関智一他

徳間書店発行の『月刊アニメージュ』に1990年から約2年間にわたって連載されていた同名小説が、1993年に日本テレビ開局40周年記念番組としてアニメ化されました。制作に当たったのは当時スタジオジブリの若手だったスタッフたち。30年が経過した昨年、東京都内で期間限定で劇場公開したら連日超満員。で、こうして全国で3週間限定のリバイバル上映となった模様。

原作者の氷室冴子は1980年代から90年代にかけて集英社コバルト文庫の看板作家でした。彼女の名前はもちろん知っていますが、なぜか読んだ記憶がなくて。今どうされているのかと思ったら、2008年に肺癌を発症して51歳の若さでお亡くなりになったとのこと。50代で癌と聞くと駄目ですね、弟を思い出してしまう(涙)

高知県で生まれ育った高校生・杜崎拓は、東京からの転校生・武藤里伽子のことが気になって仕方がない。美人で秀才なのに周囲にまるで馴染もうとせず、クラスの女子からは反感を買っているが、唯一、小浜裕実だけとは話をする里伽子。

拓の親友・松野豊は彼女に密かに夢中なのが明らかだから、拓は遠慮しているというのに、なぜか里伽子と縁があるのは拓のほう。休みを利用して東京へ行こうとしている拓についてきた里伽子のせいで、ふたりは一緒に旅をして宿泊までしたと噂が流れ、拓は大迷惑。里伽子を責めるとひっぱたかれて……。

三角関係というほどでもない、高校生の三角関係。卒業してそれぞれ別の大学へ行き、拓は東京、豊は京都へ。里伽子は高知に残ったはずが、拓は吉祥寺の駅のホームで里伽子に似た女性を見かけます。卒業後初めての同窓会に出席するために帰郷するも、クラスで浮いていた里伽子は当然来ていません。そこでどうやら里伽子は高知大学に合格していたのに行かずに東京へ行ったと知ります。あれはやっぱり里伽子だったのだと嬉しくなる拓。しかも里伽子が東京に会いたい人がいると言っていたこともわかり、まさにそれは自分のことなのですから。

里伽子不在の同窓会の場で同級生女子たちから拓が聴く話が○。「里伽子のことが嫌いだった、でもそれは彼女も私たちも狭い世界の中で生きていたから」だと。往々にして、いじめはヒマだから出てくるもの。幼稚園のときにいじめられっ子だった私もそう思います。ほかに興味を惹かれることがあればそっちに行くわけで、そうじゃないから誰かをいじめに走る。阿呆。

まぁ、里伽子のことは私も好きにはなれませんけどね。だってこんな女子、というのか、こんな女子のことを好きな男子って、典型的な「こいつのことをわかってやれるのは俺だけ」ってタイプじゃないですか(笑)。好きにはなれない登場人物たちでありながらも、この雰囲気は好きです。時期が自分の青春時代とかぶっているから、懐かしく感じる部分があるのでしょう。

エンディング、里伽子の声を担当する坂本洋子の歌には安田成美『風の谷のナウシカ』を思い出して苦笑い。ごめんなさい。

『夏の砂の上』

『夏の砂の上』
監督:玉田真也
出演:オダギリジョー,髙石あかり,松たか子,森山直太朗,高橋文哉,篠原ゆき子,満島ひかり,光石研他

109シネマズ箕面にて、前述の『キャンドルスティック』の次に。21:50~23:40の上映で、こんな時間に誰も観に来んやろと思ったらやっぱり私だけでした。今年7回目の“おひとりさま”

玉田真也監督が松田正隆の同名戯曲を映画化。劇団“玉田企画”の主宰者でもある玉田監督は、2022年に自身の劇団で本作を上演もしたそうです。当時のキャストを調べたら、ほとんどが舞台俳優だから知らない名前が多いけれど、祷キララ西山真来の名前がありました。1990年代の長崎という設定が映画版でも反映されているのかどうかは鑑賞後の今もわかりません。現在の話として観ても何も違和感がないから。

5歳になるかならないかの我が子を事故で亡くした夫婦・小浦治(オダギリジョー)と恵子(松たか子)は、すっかり抜け殻のようになってしまった。ふたりは別居中で、恵子はなんだかんだと物を取りに立ち寄りはするが、彼女がどこに住んでいるのかすら治は知らない。働いていた造船所が潰れてからは仕事を探す気にもなれずに、治はぼんやりと日々を過ごすだけ。

そんなある日、治の妹・阿佐子(満島ひかり)が17歳の一人娘・優子(髙石あかり)を連れて来る。仕事の都合でしばらく優子を預かってほしいと言うが、要は男ができたから優子を邪魔者扱いしているだけらしい。治と恵子が別居中なのを知らない阿佐子は、たまたま来ていた恵子にも「娘をよろしく」と言い放ち、とっとと出て行ってしまう。そのあと恵子まですぐに帰ったことに優子も唖然とするが、どうすることもできず、治と優子はふたりで暮らしはじめるのだが……。

坂道が続く長崎の夏。立っているだけでも汗が噴き出てきます。雨はまったく降らず、水不足でしばしば水道が止まることも。優子がバイトするスーパーでもミネラルウォーターはおひとりさま2本までの購入制限付き。何かセンセーショナルな事件が起きるとかでもなく、淡々と話が進みますが、私はこれ、嫌いじゃないなぁ。むしろ好きでした。

子どもが亡くなったいきさつは、優子が治に尋ねて初めて観客も知ることになります。それ以前の夫婦仲がどうだったのかは知らないけれど、子どもを失ったことで夫婦がこんなふうになったことは明らか。夫は毎日家にいるくせに、子どもに手を合わせることも水やごはんを供えることもない。仏壇が誇りをかぶっているのを見て居たたまれない気持ちになった妻が位牌を持って行くと言うと、そのときだけは抵抗する夫。自分の友人・陣野航平(森山直太朗)がどうやら今は妻と一緒にいるようだとわかっても何も言わないのに対して、航平の妻・茂子(篠原ゆき子)が怒りをぶつけるシーンが凄かった。女って凄いですよね(笑)。

心の底から笑うことはもちろん、悲しいと声に出して言ったり泣いたりすることもない夫婦。子どもを亡くすというのはこういうことなのかなと、そんな経験のない私は思うことしかできません。でも、癒えない心の傷を抱えたまま、やはり傷ついている優子といるときの治を見て、寂しくも穏やかな気持ちに。人とコミュニケーションを取ることが下手な優子が、バイト先で声をかけてきた大学生・立山孝太郎(高橋文哉)にたいがい失礼なことを言われているのに受け入れてしまう様子もなんだかわかる気がします。無理してつきあわなくていい。そうやって俺も生きてきたと言う治。それでいいのかもしれない。

治が渋々就職した中華料理店で調理する姿を見てニヤけてしまったのは、たぶんオダギリジョーに料理人の格好が似合いすぎているからです。