『火喰鳥を、喰う』
監督:本木克英
出演:水上恒司,山下美月,森田望智,吉澤健,豊田裕大,佐伯日菜子,足立正生,小野塚勇人,平田敦子,カトウシンスケ,麻生祐未,宮舘涼太他
イオンシネマ茨木にて前述の『THE オリバーな犬、(Gosh!!) このヤロウ MOVIE』で爆睡後、本作は21:25から23:30までの上映。こんな遅い時間の鑑賞って、また寝ませんかね私と心配しましたが、これは大丈夫でした。寝なかったからと言って好きだったわけじゃないけれど、集中力は最後まで途切れず。
原作は原浩のデビュー作にして第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の大賞受賞作。未読です。林民夫による脚本ということは、原作からかなり改変されているのでしょうか。監督は“超高速!参勤交代”シリーズや『空飛ぶタイヤ』(2018)の本木克英。
信州の大学で化学の教鞭を執る久喜雄司(水上恒司)。妻は高校の天文部の先輩で、今は同大学に事務職員として勤める夕里子(山下美月)。雄司は中学生の頃に事故で父親を亡くし、母親・伸子(麻生祐未)と祖父・保(吉澤健)と三人暮らしだったところへ夕里子が嫁いで同居中。嫁姑関係も良好で、幸せな毎日を送っている。
ある日、“信州タイムス”の記者・与沢一香(森田望智)と玄田誠(カトウシンスケ)が久喜家を来訪。太平洋戦争時にニューギニア島で戦死したとされる保の兄・貞市(小野塚勇人)の日記が見つかったというのだ。そこには戦地での壮絶な日々が綴られ、また飢餓に耐えるなか密林で見かけたヒクイドリを食べたいという言葉が記されていた。
この日を境に久喜家に不可解な出来事が頻発するようになる。居合わせた夕里子の弟・瀧田亮(豊田裕大)の様子がおかしくなり、玄田は高熱にうなされて寝込む。保は行方不明となり、数日前になくなった車がまるで何年も放置されていたかのように錆びついた状態で発見される。そこで、夕里子の知人で超常現象専門家の北斗総一郎(宮舘涼太)に相談するのだが……。
導入部は上手い。久喜家の墓の裏面に掘られていた先祖の名前のうち、ひとりの名前だけが何かで削り取られたように潰されています。何が起きているのかとドキドキ。その後も襲いかかってくる不穏な事態から目が離せません。ただ、不気味さだけが強く、謎解きのほうに目が行かない。なんだかよくわからないまま力技で話が進められた感があります。生への執着が強い者が生きる世界が残ると聞くと、私にもこんなパラレルワールドがあるんだろうかという興味は湧く。
最後はちょっと切なかったけれど、やっぱり林さんの脚本にはイマイチのめり込めません。いつも原作から驚くほどの改変があるので、読んで確かめてみることにします。
『THE オリバーな犬、(Gosh!!) このヤロウ MOVIE』
『THE オリバーな犬、(Gosh!!) このヤロウ MOVIE』
監督:オダギリジョー
出演:池松壮亮,オダギリジョー,麻生久美子,本田翼,岡山天音,黒木華,鈴木慶一,嶋田久作,宇野祥平,香椎由宇,永瀬正敏,佐藤浩市,吉岡里帆,鹿賀丈史,森川葵,高嶋政宏,菊地姫奈,平井まさあき,深津絵里他
公開週に上映作品のラインナップを眺めていて、いったい何なのこのタイトルと思いました。まず「オリバーな犬」がわからないし、「Gosh!!」が括弧の中に入っているのも意味不明。スルーはできないから調べたら、4年前にNHKのドラマ10枠で放送された作品で、翌年にはシーズン2が放送されたそうな。好評だったわけですね。その劇場版が本作とのこと。監督を務めたオダギリジョーが脚本を書き、演出も編集も兼任。キャストも錚々たるものだから興味を惹かれずにはいられません。イオンシネマ茨木へ。
青葉一平(池松壮亮)は狭間県警鑑識課警察犬係のハンドラー(=調教師)。彼の相棒は伝説の警察犬ルドルフの血をひくオリバー(オダギリジョー)。ある日、一平たち鑑識課メンバーの前に如月県のカリスマハンドラー、羽衣弥生(深津絵里)が現れる。如月県でボランティアのコニシさん(佐藤浩市)が行方不明になったらしく、彼のことをよく知る一平とオリバーは捜査への協力を求められ……。
何も知らずに観に行くのは失敗だったなぁ。そもそも犬の着ぐるみを着たオダギリジョーのことが、ハンドラーにそう見えているだけで実際は普通の警察犬だということがわかりませんでした。全然ついて行けなくて早いうちから爆睡。目が覚めても話はゆるゆるワケわからないまま進行していてまた眠くなる。どうやらNHKで人気を博した奇想天外なドラマというのは、タローマンといいこれといい、私には鬼門のようです。
『ハンサム・ガイズ』
『ハンサム・ガイズ』(英題:Handsome Guys)
監督:ナム・ドンヒョプ
出演:イ・ソンミン,イ・ヒジュン,コン・スンヨン,チャン・ドンジュ,キム・ドフン,ビン・チャンウク,カン・ギドゥン,イ・ギュヒョン,パク・ジファン,ウ・ヒョン他
なんばパークスシネマにて、前述の『アフター・ザ・クエイク』の次に。『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』(2010)を韓国でリメイクするなんて、誰が予想したでしょう。めちゃくちゃ面白かった。
中年男のジェピル(イ・ソンミン)と彼を兄貴と慕うサング(イ・ヒジュン)は田舎暮らしに憧れて、このたび念願の山小屋を購入する。この山小屋の持ち主である神父(ウ・ヒョン)は長らく入院中でもう目覚める気配がないため、売りに出されたらしい。写真で見たのとは違うボロさにジェピルはドン引きするが、サングは大喜び。愛犬のボングも嬉しそうに駆け回る。
ちょうど同時期にその近くに遊びに来ていたボンボン大学生♂3人と♀2人。内ひとりの女子大生ミナ(コン・スンヨン)は、狙っていた男子ソンビン(チャン・ドンジュ)が自分の悪口を言っているのを耳にする。ショックで宿泊先を飛び出したところ、池に落ちてしまう。夜釣りをしにきていたジェピルとサングが溺れるミナを救うが、ミナは自分が気を失っている間に助けてもらったとも知らずに、オッサンたちに襲われると思い込んで逃げ出す。再び転倒して失神し、運び込まれた山小屋で目覚めてしばらく後、自分がとんだ勘違いをしていたことに気づく。
ミナが帰ってこないのは往路のスーパーで見かけたオッサンたちに捕まったからに違いない。奴らはきっと殺人鬼だと考えたソンビンたちは、ミナを探しに山小屋へ。ミナを心配してのことではなく、ミナに貸した上着に入れたままのスマホを返してもらわないと困るからだ。
おびえながらも山小屋へたどり着いたソンビン、ジェイソン(キム・ドフン)、ヨンジュン(ビン・チャンウク)とその彼女でミナの親友ボラ(パク・ジョンファ)、「先輩」とは名ばかりでソンビンから雑用係に使われているビョンジョ(カン・ギドゥン)は、ちょうどスズメバチと格闘中だったジェピルに驚いて逃げる。その途中、ボラは不運にも死亡。ボラも奴らに殺されたと信じて疑わないソンビンらは、ビョンジョに通報するように言いつける。
前日に山小屋へ向かうジェピルとサングを怪しんでいた警官チェ(パク・ジファン)とその部下のドンユン(イ・ギュヒョン)は、命からがら逃げてきたビョンジョから事情を聴き、すぐさま山小屋へと向かい……。
たいしたイケメンでもないのに金があるから偉そうなソンビンたちを見て、最初は嫌な感じ。ビョンジョだけはちょっと気の毒ですが、性格が歪んでいます(笑)。こいつら早く不幸な目に遭えと思っていたら、みんな死ぬ死ぬ。それ以上にむかつく警官チェもいい気味です。部下で気弱なイケメンのドンユンだけは助かってほしいと願う。怖いよ、悪魔が憑依した黒山羊(笑)。
根っから善人のジェピルとサングなのに、見た目のせいですぐに誤解されてしまいます。本人たちは何もしていないのに、周りが勝手に騒いで転んで事故に遭う。あまりに悲惨な状況に声を出して笑いました。オリジナルも面白かったけど、私はこのリメイク版がとても好き。愛すべきオッサン。後味も良くてオススメのホラーコメディです。
『アフター・ザ・クエイク』
『アフター・ザ・クエイク』
監督:井上剛
出演:岡田将生,橋本愛,吹越満,泉澤祐希,北香那,唐田えりか,鳴海唯,黒崎煌代,堤真一,渡辺大知,黒川想矢,井川遥,渋川清彦,津田寛治,錦戸亮,佐藤浩市他
声の出演:のん
仕事帰りになんばパークスシネマにて。18:00からの上映に間に合うかどうかは新御がどれくらい混んでいるかによるのでドキドキします。この日は余裕で間に合いました。
村上春樹の短編集『神の⼦どもたちはみな踊る』に収録されている6つの短編のうち4つがベース。2000年に月刊誌『新潮』で連載されたときは副題として「地震のあとで」が付いていたそうです。つまりこれが本作のタイトルとなっています。NHKで全4回に渡って放映されたドラマのタイトルも『地震のあとで』で、これはその劇場版。ベースとなっている短編が『めくらやなぎと眠る女』(2022)とかぶるので、既視感に浸りながらの鑑賞。第何章と表示されるわけではないけれど、オムニバスというのか連作というのか。
第1章の基は『UFOが釧路に降りる』で、1995年が舞台。オーディオ機器専門店に勤める小村徹(岡田将生)。1月17日に阪神・淡路大震災が発生してからというもの、妻の未名(橋本愛)は食事もろくに摂らずにひたすらニュース映像を見続けていたかと思うと、書き置きを残して突然出て行ってしまう。長期休暇を取ることにした徹は、後輩社員(泉澤祐希)から「妹のケイコ(北香那)に届けてほしい」と箱を預かり、北海道へ。釧路空港でケイコとその友人のシマオ(唐田えりか)に出迎えられる。
第2章の基は『アイロンのある風景』で、2011年が舞台。高校生だった2年前に家出して茨城県の海辺の町にたどり着いた順子(鳴海唯)は、勤め先のコンビニに毎日やってくる客の三宅(堤真一)が流木を集めて夜中に焚き火しているのを見かける。以降、たびたび同棲中の彼氏(黒崎煌代)と共に焚き火に寄っては三宅と言葉を交わすようになる。
第3章の基は表題作の『神の⼦どもたちはみな踊る』で、2020年が舞台。カルト教団の信者である母親(井川遥)のもとで“神の子ども”として育てられた善也(黒川想矢)は、2011年の東日本大震災を機に信仰を捨てた。大人になった彼(渡辺大知)は、病に倒れた教団幹部の田端(渋川清彦)から最期に会いたいと言われて出向く。
第4章は『かえるくん、東京を救う』で、2025年が舞台。かつて信用金庫に勤めていた片桐(佐藤浩市)は今はネットカフェ暮らしの警備員。ある日、彼の前に巨大な蛙の姿をして人間の言葉をしゃべるかえるくん(声:のん)が現れる。かえるくんが言うには、30年前に片桐とかえるくんは協力して東京を救った、再び助けてほしいと。
ね、へんてこな話ですよね。学生の頃、村上春樹が大好きだったのですが、今こうして書いてみると、はたしてあの頃の私に彼の作品が理解できていたのかどうかわかりません。理解できていたとは思えないけれど、なんとなく面白かったのかなと。震災に寄せた話には少し苦手意識がありますが、こんなふうになるとやっぱり村上春樹って凄いなと思うのです。偽善的な雰囲気がいっさいなく、ただ、震災後の人々の気持ちの変化を紡いでいるようで、押しつけがましくない。とはいうものの難解。何度か観たら何が言いたいのか私にもわかるでしょうか。非常に魅力的な出演陣です。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』
『ワン・バトル・アフター・アナザー』(原題:One Battle After Another)
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:レオナルド・ディカプリオ,ショーン・ペン,ベニチオ・デル・トロ,レジーナ・ホール,テヤナ・テイラー,チェイス・インフィニティ,ウッド・ハリス,アラナ・ハイム,シェイナ・マクヘイル,ポール・グリムスタッド,トニー・ゴールドウィン,スターレッタ・デュポワ他
声の出演:ジェナ・マローン
ポール・トーマス・アンダーソン監督は『ブギーナイツ』(1997)で時の人となり、『マグノリア』(1999)でさらに高い評価を得ました。その後も多作とは言えないもののコンスタントに撮りつづけ、世に送り出すたびに絶賛される。『パンチドランク・ラブ』(2002)なんかは懐かしい。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)は主演のダニエル・デイ=ルイスがあまり得意ではないため、私はハマらなかったけど、彼を再び主演に起用した『ファントム・スレッド』(2017)は凄く面白かった。そんなアンダーソン監督がレオナルド・ディカプリオを主演に迎えたのが本作。109シネマズ箕面にて、上映終了は23:55の回でしたが、わりと客が入っていました。
頼りない中年男性パットは、イケイケの逞しい女性パーフィディアに引きずられるように極左革命グループ“フレンチ75”に参加し、カリフォルニアの収容所から不法滞在の移民を救出することに成功。その過程でパーフィディアは収容所の指揮官を務める軍人ロックジョーに屈辱的な思いをさせる。それを恨みに思うロックジョーは、パーフィディアを偏愛するようになる。ロックジョーはパーフィディアの動きを監視し、彼女の爆弾設置現場を捉えるや脅して性的関係を持つ。
そうとは知らないパットはパーフィディアと結婚し、一人娘のシャーリーンを授かる。ところが母親になりきれないパーフィディアは革命家としての人生を優先。シャーリーンをパットひとりに押しつけて家を出て行ってしまう。その後、銀行を襲ったパーフィディアは警備員を射殺。ロックジョーに捕まると証人保護プログラムの適用を受け入れて、フレンチ75のメンバーの名前をすべて吐いて裏切り者となる。すっかりロックジョーに囚われていた彼女だが、やがてメキシコへと逃亡。
16年後、パットはボブを名乗り、娘のシャーリーンの名前もウィラに変えて普通の生活を心がけていた。しかしいつ何時刺客に見つかるかわからず、高校生となったウィラにはスマホの使用を禁じ、密やかな日々を送っている。反移民政策を唱えて警視に昇進したロックジョーは、なんとしてでもパーフィディアの夫と娘を見つけるべく部下たちを使って探し回るのだが……。
ベニチオ・デル・トロが出演しているせいで、この数日前に観た『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』とイメージがかぶります。予告編なんて、音楽も同じような感じに思えて、ポール・トーマス・アンダーソン監督がウェス・アンダーソン監督化していると思いました(笑)。本編を観たらそんなことはなく。小難しい話を予想していたら、意外にもわかりやすい。
このベニチオ・デル・トロの役が良いんです。麻薬王の役なんかも多い彼ですが、本作ではウィラの空手の先生。さらわれたウィラを早く追いかけたいのにロックジョーから追われるボブを全力で助けようとします。ショーン・ペンはよくもこんな変態役を引き受けたと思うほどの気持ち悪さ。KKKのごとき白人至上主義の秘密結社の存在も不気味極まりありません。地獄に堕ちろ、ロックジョー。
パーフィディアにはまったく同情できず。自分で産んだ娘なのに夫が可愛がると嫉妬して、革命運動したいんだと出て行く。こうなると、何のための革命なんだかわからない。移民を解放して世の中に正義をと謳っていても、さっさと自分の娘を捨てての行動ですから。
実はウィラがボブの子ではなくロックジョーの娘だということは誰しも観ていてわかることだと思います。そんなことに関係なく、ウィラを助けるべく奔走するボブがカッコイイ。昔の美しいディカプリオはもういないけど(笑)、彼はやっぱり演技が上手いですね。面白かったけど、長いなぁ。162分。