『宝島』
監督:大友啓史
出演:妻夫木聡,広瀬すず,窪田正孝,中村蒼,瀧内公美,尚玄,木幡竜,奥野瑛太,村田秀亮,デリック・ドーバー,ピエール瀧,栄莉弥,塚本晋也,永山瑛太他
休日出勤だった日曜日、早く帰れたら2本観ようと思っていましたがそうはならず。イオンシネマ茨木にてこれ1本だけ。でもこれ、ボリウッドも顔負け、『国宝』の175分をも15分以上うわまわる191分の長尺だから、短めの作品を2本分観るぐらいの時間を要します。
真藤順丈の直木賞受賞作を“るろうに剣心”シリーズの大友啓史監督が映画化。沖縄戦の後の1952年の米軍統治時代から沖縄が日本に復帰した1972年までを舞台としています。
アメリカに統治されていた1952年の沖縄。人々は生活の基盤を失い、米軍からの配給に頼る毎日を送っていた。そんななか、“戦果アギャー”を名乗る若者たちが奮闘。彼らは米軍基地に忍び込んで食料や生活物資を盗み、苦しい生活を送る人々に分け与えている。こうして義賊的抵抗活動を続けるリーダーのオン(永山瑛太)は英雄として崇められ、その弟レイ(窪田正孝)、オンの親友グスク(妻夫木聡)もオンを慕ってやまない。
しかしいつまでも米軍が黙っているはずもなく、ある夜、いつものように戦果アギャーの面々は米軍基地へと乗り込むも失敗し、オンが行方不明になる。なんとか逃げ延びたグスクとレイ、オンの恋人でグスクの妹ヤマコ(広瀬すず)はオンのことを一時たりとも忘れられない。3人はオンの消息を求めながらそれぞれの道を歩みはじめる。やがてグスクは刑事に、ヤマコは小学校の教師に、そしてレイはヤクザになるのだが……。
沖縄の人々は米軍による扱いに腹を立てつつ、復帰に向けて尻込みしている本土にも不満を募らせています。ゴザで起きる暴動事件は凄絶で言葉を失うほど。その様子が鮮烈に描かれれば描かれるほど、本作のいちばんの目的であった「オンちゃんを探すこと」の印象が薄れてしまう。
オンちゃんの身に何があったかがわかるラストは確かに感動的ですが、そこだけちょっとセンチメンタル。綺麗事を言っていても世の中は変わらないと毒ガスを携えて突入しようとするレイと、それは間違っていると止めようとするグスクの対峙のほうが心に残る結果となりました。アメリカさんの通訳・小松役の中村蒼、グスクの友人・徳尚役の塚本晋也、女給・チバナ役の瀧内公美などみんなよかったし、カネのかかった作品だなぁということはわかります。沖縄を知るには観たほうが良い作品かもしれません。
『チェンソーマン レゼ篇』
『チェンソーマン レゼ篇』
監督:吉原達矢
声の出演:戸谷菊之介,井澤詩織,楠木ともり,坂田将吾,ファイルーズあい,高橋花林,花江夏樹,内田夕夜,内田真礼,津田健次郎,高橋英則,赤羽根健治,乃村健次,喜多村英梨,上田麗奈他
封切り日、前述の『ひゃくえむ。』とハシゴ。同じくイオンシネマ茨木にて、大人気コミックだということ以外は何も知らずに観ました。鑑賞後に調べたところによれば、藤本タツキの“チェンソーマン”は『週刊少年ジャンプ』で2019年から連載中。2022年にはTVアニメ化される。中でも屈指の人気を誇るエピソードがこの“レゼ篇”なのだそうです。監督はTVアニメ版と同じく吉原達矢。“呪術廻戦”シリーズなどのMAPPAがアニメーション制作を担当しています。
とにかく何も知らないものだから、チェンソーマンは誰なのかという疑問から始まります。主人公はこのデンジという少年らしいけど、美女に会えば妄想を膨らます普通の男子。ちらり口元が見えると歯が少しギザギザか。だからって吸血鬼だってことはないよね、この漫画の登場人物はみんなこんな感じなのかも。と思ったらやっぱりこのデンジがチェンソーマンでした。でもチェンソーマンに変身するシーンは終盤まで出てこないから、私の疑問が解決されるのはその頃になってからです。
デンジにはマキマという憧れの女性がいるのに、雨宿り中に出会った美女レゼのことが気になって仕方ありません。レゼが働いているというカフェに出向くと、なんとレゼのほうからデートに誘ってきます。嬉しくてさっそく訪れてみると、完全にレゼ主導で、映画を5本もハシゴさせられる。時には5本ハシゴする私は笑う。
てっきりレゼは自分に気があるのかと思っていたデンジ。そんなわけはなく、レゼは悪魔でデンジの心臓を頂くべしと狙っていただけ。レゼに瀕死の状態に追い詰められたデンジを救うのがビームという奴なんですが、頭がサメなんです。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020)でハダカイノシシに衝撃を受けた私は、今度はサメ頭なの!?と唖然。騒がしい奴だけど、デンジのことが大好きらしくて、とにかく献身的。嫌いになれません。そうそう、レゼの変身した姿も衝撃的でした。頭が爆弾って、何それ。しかもめちゃめちゃ強くて、デンジが勝てる相手とは思えない。しかし、私には何者なのかよくわからない仲間がいっぱいいて、なんだかんだで最後は勝っちゃうんですよね。
わからなくても楽しめる。わかってからもう一度観たらきっともっと楽しい。ロングランになりそうだから、登場人物についてもうちょっと勉強してみます。人気があるのがわかりました。
『ひゃくえむ。』
『ひゃくえむ。』
監督:岩井澤健治
声の出演:松坂桃李,染谷将太,笠間淳,高橋李依,田中有紀,種崎敦美,悠木碧,榎木淳弥,石谷春貴,石橋陽彩,杉田智和,内田雄馬,内山昂輝,津田健次郎他
封切り日にイオンシネマ茨木にて。
『チ。―地球の運動について―』で手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した魚豊(うおと)のデビュー作が原作なのだそうです。『チ。』は2020年から2022年『ビッグコミックスピリッツ』で連載されていた作品で、この『ひゃくえむ。』はそれより前の2018年から2019年にかけてウェブコミック配信サイト『マガジンポケット』で連載。『ひゃくえむ。』連載終了時には魚豊は引く手数多となっていて、のちの『チ。』でその存在が確固たるものに。そして今、デビュー作の『ひゃくえむ。』のアニメ映画化に至る。監督は『音楽』(2019)の岩井澤健治。彼は『無名の人生』のプロデューサーでもあります。
小学生のトガシは生まれたときから足が速かったと言っても過言ではない。同年代では彼に勝てる者など誰もおらず、なんなら中学生と競走しても勝てるのではないかと噂されるほど。特に努力せずともぶっちぎりの速さを見せるトガシはどこへ行っても人気者。勝手に人が集まってくる。
そんなある日、必死の形相で近所を走っている男子を見かける。息をするのも苦しそうに走るその男子=小宮が翌日転校生としてトガシのクラスにやってきたからビックリ。挨拶する声も消え入りそうに小さく陰気な小宮はさっそく同級生たちの嘲笑の的となり、体育の授業でも散々な走りっぷり。なのに放課後また走っている彼を見かけたトガシが「走る理由」を問うと、現実から逃避するためだと言う。こんなにも苦しい思いをして走っている間は、辛い現実から逃れられるからだと。興味を惹かれたトガシは、小宮に走り方を教えるようになるのだが……。
たった100m、されど100m。100mを誰よりも速く走ることができれば、居場所を得られると考えているトガシ。実際そのとおりで、足が速かったトガシは労せず友だちも居場所も手に入れてきました。それに対して小宮は辛い現実に縛られていそうだけれど、別に家庭環境に問題があるわけでもなさそう。ただ自分を追い込んで走る。そしてがむしゃらに走ることで速くなる。
小学生から中学生になり、行き詰まりを感じて走ることを一旦やめていたトガシは、走らなくて済むように陸上部が強くもなんともない高校をわざと選んで入ります。しかし当然陸上部に勧誘され、1本だけ走るのを見せてほしいと言われて走ったら、忘れていた気持ちよさを思い出す。この高校時代がとてもいい。それぞれの声を担当する松坂桃李と染谷将太もピカイチ。
そして大人になった彼は、足のおかげで就職先も決まるけど、足はいつかしか衰えて、ちやほやされていたときは過ぎてゆきます。それでも走る人たち。この10秒を一緒に感じたいと思う。すごく好きでした。ちょうど“東京2025世界陸上”開催中だったから、気になって観てしまいました。
2025年9月に読んだ本
2025年9月の読書メーター
読んだ本の数:5冊
読んだページ数:1588ページ
ナイス数:659ナイス
https://bookmeter.com/users/762098/summary/monthly/2025/9
■ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人
【再読ではなく、映画版を観たので書き込み】公開初日の昨日鑑賞。読んだときのことを驚くほど忘れていて、ただ「ここまでコロナに寄せるんだ東野圭吾」と思ったことと、東野作品の中ではあまり好きではなかったことだけを覚えていました。それを思えば、この映画版はコロナがうっすら背景にある程度です。胡散臭いマジシャン役に福山雅治を起用したことで一気に華やかになり、映像としての見せ場がたくさん。犯人が誰なのかも忘れていたから、存分に楽しんで観ることができました。ここまで映像向きの作品だとは思いもよらず。田中亮監督、ナイス。
読了日:09月13日 著者:東野 圭吾
https://bookmeter.com/books/16909684
■火之神の奉り
映画館通いに明け暮れて本をまったく読めないまま今月も半ばに。内藤さんの新シリーズは現在進行中のどのシリーズとも趣が異なる。あらすじを読んだときは時代物に若干の苦手意識がある私にはツライかもと思いましたが、なんと面白い。そのせいで丁寧に読みたくて2週間もかかっちまったのですけれども。どのシリーズとも異なると言ったけど、憑童の主人公・江姫の存在は『よろず建物因縁帳』の春菜に近いか。悪鬼が眠る土地の人々を救うために舞う江姫。最後の立ち回りはアニメ向きかもしれません。彼女のまわりはイケメンだらけのようだし(笑)。
読了日:09月16日 著者:内藤了
https://bookmeter.com/books/22732418
■8番出口
この人の著作を読んだときはいつも感想に困る。それはこの人の監督作を観たときも同じこと。特に面白いとは思わないし、好きでもない。でも売れる。物凄く売れる。プロデューサーとして十分お稼ぎなんだから、自ら本を書いたり映画を撮ったりしなくてもよろしいんじゃないですかというやっかみがあることを感じて自己嫌悪に陥ります(笑)。本作を読んでも同じで、このページ数といい、黄色く塗られた文字といい、手に取りやすくて関心をひくお手本のよう。そしてぶつくさ思いながらも楽しませられ、ちょっとした感動もある。結局上手い。妬ましい。
読了日:09月20日 著者:川村元気
https://bookmeter.com/books/22662794
■警視庁地下割烹 取調室のカツ丼 (角川文庫)
“鍋奉行犯科帳”シリーズは結構好きで読んでいました。食べ物を絡めた話には目がないし、いそいそと読み始めたのですけれど。警視庁の地下に存在する部署って、まるで内藤了の“警視庁異能処理班ミカヅチ”シリーズのようですよね。期待に胸が膨らんだものの、どんなダジャレだらけやねん。スベりまくりでキツイ。そのせいで肝心の事件が頭に入ってこない(笑)。それでも、生で活弁を何度か観た経験のある者としては、弁士がスクリーンの中に登場する活弁を観てみたくなります。ダジャレに辟易しつつも“恋の季節”はついつい歌ってしまった私。
読了日:09月25日 著者:田中 啓文
https://bookmeter.com/books/22605361
■俺ではない炎上 (双葉文庫 あ 71-01)
【再読ではなく、映画版を観たので書き込み】これをどうやって映像化するのだろうと思っていたら、なるほどそういう改変ですか。数多のヒット作の脚本家だけあって話はわかりやすくなっていますが、『護られなかった者たちへ』は原作の犯人とは性別が変わり、『少年と犬』は原作とまるで別の展開になっていたりして、しばしば目が点になります。本作はそこまでは行かなかったものの、えばたんが彼とは。「どうり」への違和感をおぼえるのも奥さんだし。でも芦田愛菜の「諸悪の根源はおまえだろうが!」、大好きです。悪かったと言い合える家族、◯。
読了日:09月28日 著者:浅倉 秋成
https://bookmeter.com/books/21939441
『最後のピクニック』
『最後のピクニック』(英題:Picnic)
監督:キム・ヨンギュン
出演:ナ・ムニ,キム・ヨンオク,パク・クニョン,リュ・スンス,イ・ハンナ,コン・サンア,シン・イェソ,チェ・ユリ他
前述の『ブロークン 復讐者の夜』で少々期待を裏切られて意気消沈。気を取り直して本作を同じくキノシネマ心斎橋にて鑑賞。『ブロークン』とは打って変わって穏やかな話のはずが、意外とヘヴィーな中身です。
ソウルに暮らす老女ウンシム(ナ・ムニ)。手塩にかけて育てた一人息子ヘウォン(リュ・スンス)は詐欺まがいの商売を始めて行き詰まっているらしく、ウンシムの部屋に勝手に入っては通帳やら生命保険証書などを探している。そんなヘウォンの妻はウンシムの親友グムスン(キム・ヨンオク)の娘ミヒョン(イ・ハンナ)。ふたりが結婚すると聴いたときは驚いたものだが、しっかりしているミヒョンならヘウォンのことを任せられると当時は思った。しかし今はヘウォンが金に困っているから、ウンシムが家を売って金を工面してくれることをミヒョンも願っているようだ。
ウンシムは60年ぶりに故郷の南海に戻ってみることに。そこには昔と変わらずグムスンが暮らしている。彼女と旧交を温めているところに通りかかったのがテホ(パク・クニョン)。醸造所を営むテホの初恋の相手がウンシムで、テホはこの再会に大喜び。ウンシムもしばらくは息子たちのことを忘れて帰郷を楽しむつもりだったが……。
これってインディペンデント作品なんですね。データがほとんどなくてわからないのですが、おそらくまだお若いキム・ヨンギュン監督が、大ベテラン女優のナ・ムニとキム・ヨンオクを起用してこんな聞くもよさげなドラマを撮ったら全世代の心を掴んで大ヒット。確かに良い話だけど、私はそこまで入り込めず。コメディを観るぐらいの気持ちで観に行ったら、中途半端にヘヴィーだったということと、彼女たちの「今」を見ているのがきついということがあります。娘や息子に虚勢を張ってみても、実は尿失禁どころかウ○コまで漏らしちゃうとか、あまり聞きたくない話を見せられる。しかも画面に映るのは婆さんと爺さんばかり。気持ちが乗りません。
最後まで信用できるのは昔ながらの友だちだけよ、そう言われているかのよう。生まれ変わってもあなたと友だちでいたいというフレーズは、私には刺さらない。