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『殺し屋のプロット』

『殺し屋のプロット』(原題:Knox Goes Away)
監督:マイケル・キートン
出演:マイケル・キートン,ジェームズ・マースデン,スージー・ナカムラ,ヨアンナ・クーリク,レイ・マッキノン,ジョン・フーゲナッカー,ジェイ・ポールソン,チャールズ・ビセット,リーラ・ローレン,モーガン・バスティン,デニス・デューガン,マーシャ・ゲイ・ハーデン,アル・パチーノ他

連日の忘年会続きでさすがに疲れを感じていたものの、この歳になるとそんなに長く寝ていられず、いくら布団の中にいようと思っても7時半にもなればもう寝ていられなくなります。の面会に行った後、やっぱり映画も観ることに。ノーマークだった本作の評判が良さそうで、塚口サンサン劇場へと向かいました。

監督と主演を務めるのがマイケル・キートン。まもなく俳優デビューから50年を迎えようかという彼ですが、監督作って今までなかったような気がして調べてみたら1本だけ、『クリミナル・サイト 運命の暗殺者』(2008)という作品があるけれど、日本では劇場未公開。ということは、これが監督として初お目見えの作品になるわけですね。名優が名監督になれるとは限らないから、やめときゃよかったのにという評価になることもままありそうですが、いや〜、これは面白かった。

凄腕の殺し屋ジョン・ノックスは知性を兼ね備える元軍人で、決して失敗しない。この仕事のせいで妻子と普通の家庭を築くことはできず、疎遠となっている。最近記憶が途切れがちなのを自覚して神経科を受診すると、クロイツフェルト・ヤコブ病との診断。初期症状がアルツハイマーと酷似するこの病に治療法はなく、しかもジョンの症状の進行は例を見ない速さだという。このまま殺し屋を続けるわけにはいかないと引退を決めたジョンだったが、最後のつもりで引き受けた仕事で誤って相棒のマンシーを殺してしまう。なんとか現場を取り繕い、信頼するフィロ・ジョーンズに自分の資産の分配を頼む。

これで引退と思っていたその晩、ひとり息子のマイルズが手に傷を負ってジョンを訪ねてくる。興奮した様子で泣き喚くマイルズ曰く、娘つまりジョンの孫ケイリーがネットで知り合ったクズ男アンドリュー・パーマーと実際に会った挙句、妊娠させられたと。アンドリューに会いに行ったマイルズは、奴のあまりのゲスぶりに怒りを抑えきれず、刺し殺してしまったのだと言う。話を聴き終えたジョンは、マイルズの衣服を脱がせて傷の手当をした後、家に戻ってこれまでと変わらぬ毎日を送るように指示するのだが……。

認知症の兆候が出はじめた殺し屋が引退を決意する話といえば、リーアム・ニーソン『MEMORY メモリー』(2022)もそうでした。それを思えば本作は二番煎じと言えなくもないけれど、あちらは明らかにリーアムにアクションものでメインを張らせるのはしんどくなっていますという言い訳のように感じました。こちらはそんなことはなくて、胸がキュンと絞られる。

父親らしいことは何もしてこられなかったと思っているジョン。だけど彼の仕事はいつも完璧で、おそらく妻子もそのことがわかっている。こうして息子から初めて頼られて、記憶障害を起こしつつも懸命に「完璧」を考える。それを助けるのがアル・パチーノ演じるかつての泥棒仲間ゼイヴィア・クレイン。今はすっかり悠々自適な生活を送るゼイヴィアがジョンを支え、計画に乗ります。ジョンの思いをすべて察して受け止める妻ルビーを演じるマーシャ・ゲイ・ハーデンもとてもよかった。マイルズ役のジェームズ・マースデンなんて“ソニック×シャドウ”シリーズだけの俳優かと思っていたのに、なんだ、できる奴じゃあないか。ジョンの思惑を察していたらしい女刑事エミリー・イカリ役のスージー・ナカムラもよかったですね。

昨年末の良き拾い物でした。

『ヒポクラテスの盲点』

『ヒポクラテスの盲点』
監督:大西隼

忘年会前に十三へ。第七藝術劇場とシアターセブンのパートナー会員の有効期限が12月いっぱいだったからそれを更新しに行きがてら、ついでに1本観ることに。

新型コロナワクチン それは国が推奨した“救世主”のはずだった あのとき喧伝されたことは正しかったのか」。そんな疑問を抱いた大西隼監督によるドキュメンタリー作品。シアターセブンは小さな劇場ではありますが、それにしたって連日ほぼ満員になるほどの客が入っています。こんな政府に楯突いた作品がシネコンで上映されるわけもないから、気になりゃここへ観に行くしかないですよね。それにしたって、これを観に来るのはどんな客なのでしょう。

国民の8割が接種したという新型コロナワクチン(mRNA遺伝子製剤)。ちなみに私は残り2割のほう。ワクチンは1度も接種していません。面と向かって「なんで受けへんの」と言われたことは1回だけありますが、その人の場合は責める口調ではなくて単に疑問という感じだったから、嫌な思いはしていません。その1回を除けば職場でもそれ以外の場でも誰かに何か言われたことはないけれど、内心ではきっと思われていたのではないかと思います。

ただ、私は別にワクチンを疑問視していたわけではなく、便秘になるのが嫌だったからです(笑)。便秘知らずの私は、とにかく毎朝「出してから」でないと何もする気になれません。「出ない」のはたとえば風邪薬を服用したとき。葛根湯だけは例外ですが、ほかの風邪薬を飲むと覿面に「出なく」なります。それなりの歳だから、更年期用のサプリも摂取していますが、あるときそれよりうんと高いサプリを試してみたら、あらら出ない。で、即やめて元のサプリに戻しました。発熱したときも解熱剤などは飲まず、服を何重にも着てありったけの布団をかぶって寝て、汗をかいて下げるなんとも原始的な方法で治します。長らく悩まされていた湿疹も結局脱ステロイド脱保湿で治しました。今では擦り傷・切り傷・虫さされ、何にも塗らないで放置して治る体になっているので、薬ほしくないんです。なんだか「薬要らない自慢」みたいになっちゃいましたが、製薬会社の敵ですよね私(笑)。

そんな自慢はさておき、本作では政府が推奨する新型コロナワクチンの安全性を当初から問題ありと訴え続けてきた医師や専門家たちに取材しています。もちろん、一方だけの話ではなく、ワクチンを有効だとする立場の医師への取材もおこなっています。双方言い分はあるでしょうが、「大丈夫です」と言う人の話だけが大きく取り上げられ、「あかんって!」と言う人の話は隠されていたかのようなのが疑問。誰か儲かっている人がいたんだろうなぁとついつい思ってしまいます。

ワクチン接種の後遺症とおぼしき症状にこんなに苦しんでいる人がいるとは知りませんでした。心臓が溶けると言ってもいいような症状が出たり、それまでは何の異常もなかった人にいきなりステージ4の癌が見つかったり。コロナ禍がまだ落ち着いていなかった2022年に癌で亡くなった弟のことを思ってギクッとしましたが、そうそう、弟は私と同じでワクチンは接種しなかったことを思い出す。

本作をご覧になっている人たちは、ワクチンを接種した人たちなのだろうか、もしそうならこれを観て不安になるばかりではと思わずにいられないのです。“ヒポクラテスの誓い”は「患者に害をなす勿れ」。「自分の能力と判断に従って、患者にためになる治療を選び、害と知る治療を絶対に選ばない」。そんな医師にかかりたいですね。

『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』

『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』(原題:Sew Torn)
監督:フレディ・マクドナルド
出演:イヴ・コノリー,ケイラム・ワーシー,K・カラン,ロン・クック,トーマス・ダグラス,ヴェルナー・ビールマイアー,ヴェロニカ・ヘレン=ヴェンガー,キャロライン・グッドオール,ジョン・リンチ他

前述の『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』を烏丸の京都シネマで鑑賞した後、烏丸御池のアップリンク京都へ移動して本作を観ました。この劇場もいつぶりだろうと調べてみたら、やっぱりほぼ8カ月ぶり。

カリフォルニア州サンタモニカ出身のフレディ・マクドナルド監督はなんとまだ25歳。本作はもとは映画学校への出願用に撮ったわずか6分の短編作品だったところ、早々にサーチライト・ピクチャーズが買い取りを決定。それがジョエル・コーエン監督の目に止まり、長編として撮り直すように助言されたとか。AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)の史上最年少会員として受け入れられたそうです。将来が恐ろしくなるような天才っぽい。そんな彼によるアメリカ/スイス作品。

スイスの田舎町で裁縫店を営むお針子のバーバラ。大好きだった亡き母親から受け継いだ店は倒産寸前で、精神的にも物理的にも追い詰められる毎日。そんなある日、車で出かけた先で麻薬取引の場に遭遇。目の前には倒れたバイクと、売人とおぼしき血まみれの男ふたり、散らばった麻薬の袋、そして大金の入ったブリーフケース。どうするバーバラ。

選択肢が3つ提示されます。横取りして完全犯罪を図るか、警察に通報するか、そのまま直進して見て見ぬふりをするか。それぞれを選択したらどうなったかが描かれます。この「もしもこっちの選択をしていたら」という設定はもはや珍しくもないけれど、バーバラの武器が「針と糸」というのがものすごく面白い。3つの選択肢の中でバーバラは針と糸をさまざまな用い方をして切り抜けようとします。針と糸がこういうふうにも使えるのねと感心することしきり。

本作で用いたアイデアは一度しか使えないから、これ以降この天才監督がどんな作品を撮るのか楽しみで仕方ありません。加えて、バーバラ役を熱演したアイルランド出身の女優イヴ・コノリーの今後も楽しみです。

『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』

『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』(原題:Un P’tit Truc en Plus)
監督:アルテュス
出演:アルテュス,クロヴィス・コルニアック,アリス・べライディ,マルク・リゾ,セリーヌ・グルサール,ルドヴィック・ブール,テオフィル・ルロワ,マリー・コラン,ソフィアン・リベス他

東福寺の蕎麦茶寮で忘年会の日、久しぶりに京都で映画を観ることにしました。まずは京都シネマで1本。会員になってはいるもののいつぶりでしょう。このとき以来だからほぼ8カ月ぶりか。本国フランスで『最強のふたり』(2011)の記録を塗り替え、年間第1位の大ヒットを飛ばした作品なのだそうです。

父親ルシアンと息子パウロは親子で宝石店に押し入って強盗を働くが、逃走用の車を身障者用スペースに駐めていたものだからレッカー移動されてしまう。駐禁だと通報したのは障害者施設の職員アリスで、毎年恒例のサマーキャンプに出発するところ。入所者たちが次々とバスに乗り込むなか、今日から入所予定のシルヴァンがまだ姿を現さない。ちょうどそこで立ち尽くしていたパウロを見たアリスは、彼がシルヴァンだと思い込む。パウロのみが連れて行かれそうになり、咄嗟にルシアンは自分が彼の介助者だと嘘をつく。介助者が同行することは通常はないのだが、シルヴァンには絶対に介助者が必要だとアリスを説得。ちゃっかり一緒にバスに乗り込んだふたり。ルシアンの名前を問われるも本名を明かすわけにはいかない。バスの外に見えた店の名前オルピを頂戴し、しばらくサマーキャンプに紛れて身を隠すことにするのだが……。

監督と主演を務めるアルテュスは38歳、フランスの人気コメディアンなのだそうです。本作は本国では2024年に公開されて年間の興行収入1位を記録しただけではなく、フランス映画史上でもトップ20に入るらしい。はたしてそれほどのものかと思わなくはないものの、知的障害者たちを主役にしたコメディとなると、笑ってもよいギリギリの線を攻めたということになるでしょう。

そもそもパウロが新しい入所者だと思われた原因は、パウロが着ていた服。強盗の後、ルシアンとパウロは逃走用の服に着替えますが、パウロが持ってきた服が怪しい。本人は「ドイツ人観光客に見えそうな服」のつもりだけど、ルシアンにするとふざけているとしか思えない服装。「なんだその服は」と呆れるルシアンとおどおどするパウロを見ていると、父親のもとでずっとこんなふうに怯えながら人生を送ってきたのだろうかと推測できます。

パウロはほかの入所者の話し方や動き方を真似て知的障害者のふりをしようとしますが、職員以外にはバレている。「君、障害者じゃないよね」と当の障害者たちは最初から見抜いているのです。問われたパウロは驚きつつ、内緒にしておいてほしいと頼みます。バレていることを知らないルシアンの前では「ふり」をしたまま行動するけれど、入所者たちだけがいる前では物語を楽しく話して聞かせてくれる良き兄ちゃん。パウロがすっかり溶け込む一方、ルシアンは早く宝石を持って逃げる方法を考えたい。とても横柄で許しがたいぐらいですが、予想外に懐かれる。最初はただただ鬱陶しそうにしていたのに、いつしか一緒にサッカーボールを蹴るのが楽しくなります。

パウロの服にしろ、考えてみれば「障害者が着ていそうな格好」とどこかに私たちの勝手な想像があります。こんな役を演じさせていいのかと思うシーンも多々あって、だけどこれって逆に差別しているということかなと思ったりも。健常者なら問題ない役だと頭の中で振り分けているのかもしれません。本物のシルヴァンはどうなったのかというと、集合場所に行ったときにはすでに施設のバスは出発した後で、ちょうどそこへやってきた普通高校のサマーキャンプのバスに乗り込みます。シルヴァンはシルヴァンでそのキャンプを謳歌する様子が楽しい。ノリノリで踊り狂ってみんなからリフトされている様子などを見ると、健常者と障害者の垣根は思い込みで作られているのかもしれないとすら思う。

最後は私が必ず泣いてしまう展開に持ち込まれました(笑)。まんまと泣かされちゃったなぁ。

『ブルーボーイ事件』

『ブルーボーイ事件』
監督:飯塚花笑
出演:中川未悠,前原滉,中村中,イズミ・セクシー,真田怜臣,六川裕史,泰平,渋川清彦,井上肇,安藤聖,岩谷健司,梅沢昌代,山中崇,安井順平,錦戸亮他

扇町キネマってどこ? 昔ありましたよね、扇町ミュージアムスクエアって。20世紀の終わりにそこで『MONDAY マンデイ』(1999)を観たのを思い出します。試写会に当たって、ほぼ一緒に映画を観ることはないダンナと行ったら、「悔しいけど面白かった」と言っていたのでした。「悔しいけどって何やねん」と思った記憶があります(笑)。11月になんばで観逃した本作はもうどこでも上映されていないと思っていたら、その扇町キネマで上映中だと知って滑り込み。性別適合手術が違法か合法かを争った1960年代の実在の裁判“ブルーボーイ事件”に着想を得たという飯塚花笑の作品です。

東京オリンピックを控えた1965年。街の浄化を進める当局は街娼の一斉検挙を目論むが、性別適合手術を受けた戸籍上の男性、通称“ブルーボーイ”が男娼として街角に立っていた場合、現行の法律では取り締まることができずにいた。業を煮やす当局は、そもそも手術をおこなった医師・赤城昌雄(山中崇)に狙いを定めて逮捕する。

赤城の弁護を担当することになった弁護士・狩野卓(錦戸亮)は、手術の正当性を証明するためにブルーボーイたちに証言を求めることに。しかし最初に証言台に立ったメイ(中村中)は、男の気を引くために手術を受けただけだと面白可笑しく話すのみ。次のアー子(イズミ・セクシー)は心は女でありながら体は男であることへの辛さを語るが、狩野からそれはつまり治療を必要とする精神疾患ということかと問われて、病人扱いするのかと激怒。

もうひとり、赤城の手術を受けて狩野から証言を求められるも断ったサチ(中川未悠)は、メイやアー子らとは違い、いたって普通の女性として毎日を送っていた。すでに男性器切除の手術は終えており、すべてを知る恋人・若村篤彦(前原滉)からプロポーズされて、最後の女性器形成の手術が無事終わったあかつきには結婚すると決めている。もしも証言台に立てばマスコミに騒ぎ立てられるだろう。勤務先の店主(渋川清彦)や同僚からどう思われるかわからないし、篤彦にもきっと迷惑がかかるはず。葛藤する日々が続いたのち、やはり証言すると決意するのだが……。

ブルーボーイ事件自体を知りませんでした。こんな裁判があったのですね。

勇気を振り絞って証言台に立ったサチ。マスコミは好奇心のみのように見えます。検事・時田孝太郎(安井順平)は、男性は国家存続のためにその機能を果たすべきと言い放ち、法廷でサチのことを罵倒。それでも逃げようとしなかったサチは、手術を受けることが治療になったと言わせたい狩野の思惑に反し、手術を受けても何も変わらなかったと語ります。望んでいた女性の体になった、女性として愛された。それでも変わったと言えないのは、世間が何も変わっていないから。勝手な女性像を作り上げ、「元は男だった女」としてずっと見られつづける。男であろうが女であろうが私は私。このサチの話には胸を打たれます。

これをきっかけに少しは状況が変わったのだとしても、公に性別適合手術が認められたのは1998年のことだそうです。憲法第13条、幸福を追求する権利はいろんな場面で今も尊重されていません。