MENU
ChatGPT-Image01
previous arrow
next arrow

今年観た映画50音順〈や行〉

《や》
『山逢いのホテルで』(原題:Laissez-moi)
2023年のスイス/フランス/ベルギー作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
熟年女性のクローディーヌは、アルプスの麓にある町の自宅で仕立て屋を営みながら脳性麻痺の息子バティストをひとりで育てている。彼女の息抜きは、毎週火曜日、ロープウェーに乗った先にあるホテルで客を物色し、後腐れのないアバンチュールを楽しむこと。その日限りの肉体関係を心がけていたが、あるとき、ダムの調査にやってきたドイツ人男性ミヒャエルと恋に落ちて……。
最初は観るのをやめようかと思うほど気持ちが悪かった。だって、どう見ても60歳ぐらいの化粧の濃いオバハンがホテルのフロント係に今日の狙い目を尋ねるんです。ホテル公認の売春婦かと思ったらそうではなくて、ただベッドに男を誘って数時間を楽しむだけ。こんなオバハンの誘いに乗るなよと言いたくなりました。その思いは最後まで変わらなかったけど、次第にオバハンの化粧にも慣れてなんとか最後まで。バティストを捨ててミヒャエルとアルゼンチンへ飛ぶと決意するも、土壇場になってやっぱり息子のもとへと戻ります。重い内容のわりに深みはあまり感じられず。主演のジャンヌ・バリバールって、マチュー・アマルリックの奥さんだったのですね。なんにせよ、アラ還になっても裸体をさらして濡れ場に体当たりの根性は凄い。

《ゆ》
『ユア・ソング』(原題:你的情歌)
2020年の台湾作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
台北在住の音楽教師ユゥ(アリス・クー)は、浮気した恋人と再構築を望むも婚約を破棄され、逃げるように花蓮の田舎町へと移り住む。ピアノ教師として再出発した彼女が出会ったのは、やはり台北からこの町へとやってきた教師シン(フー・モンボー)。シンはかつて統一試験で首席を獲った秀才で、将来どんな職業にでも就けるだろうと皆から思われていたのに、理想の教育を追い求めて教師の道を選んだ結果、ずっと非正規雇用に甘んじている。新たな教育事業の展開を志して広報活動をおこなったところで興味を示す者は現れず、くすぶったまま。そんなシンは校内でオーディションを企画し、ひとりの生徒アドン(シェ・ポーアン)に歌の才能を見いだす。ボーカルとギターをアドンに任せ、ほかに楽器のできる生徒を集めると、ボーイズバンド“七月男孩”を結成。オーディション番組への出場に向けて練習を開始するのだが……。
シェ・ポーアン自身が人気オーディション番組『超級偶像』の出身で、本作でスクリーンデビューを果たしたそうな。歌が上手いのはもちろんのことイケメンだから、そりゃ売れるでしょう。ただ、シンとユゥはちょっと魅力に欠ける。シンの理想も不明瞭だし、浮気した恋人にキレるユゥを見ていると、そりゃ逃げたくもなるよねぇと思う。アドンはユゥに想いを寄せ、シンもユゥに惹かれて、生徒と教師の三角関係に終始するのかと思いきや、終盤に明かされる「ユゥが花蓮に来た理由」にビックリ。傷心の彼女が目標に定めたのは、初恋の相手シンを探し出して再会すること。見事それを叶えたのに、シンのほうはまるで覚えていませんでしたって。どう反応すればいいのかわからんがな。ま、アドンは台北に出てスターになり、シンとユゥは結婚して可愛い男の子を授かりましたというハッピーエンドです。「探し求めていた成功とは、実は気持ちの問題だった」というシンの台詞は腑に落ちる感じがして好きだけど。

《よ》
『夜明けの蜃気楼』
2025年の日本作品。Amazonプライムビデオにて配信。
編集者の雨宮省吾(南圭介)は、締切を守らない作家・東雲茉莉(鞘野美咲)がこもりっきりの海辺の宿を訪れる。省吾は妻との間にいた娘・佐知(MEL)を乳幼児突然死症候群で亡くした折に、妻の責任として激しく責め立てた。妻は一切言い返さず、自分のせいだと受け入れた。省五は酷いことを言ったと謝りたいのに謝れないまま時が過ぎるが、佐知がイマジナリー娘として省吾の目の前に現れるようになってから10年以上が経過している。イマジナリー娘の佐知は成長して18歳、今や妻とそっくりの風貌。茉莉は以前から聞いていた佐知の存在を信じ(但し、省吾の妄想の産物ではなく幽霊として)、省吾を変人扱いせずに佐知にもよく話しかけてくれるのはありがたいところ。そんなある日、宿で働く女性・笠原まひる(MAHO)の妹が訪ねてくる。妹によれば、まひるは家出したまま行方がわからなくなっていたらしく、こうして居場所を探し当てた妹がまひるに会うためにやってきたのだ。しかしまひるは妹に会うことを頑なに拒否して……。
目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた子どもを失うのはたまらなく悲しいことでしょう。その責任をすべて妻に押しつけたことが誤りであるとわかっているのに口には出せない。こんな父親にはっぱをかけるべく存在しつづけるイマジナリー娘。やっと妻に電話をかけられるようになった父親を見届ける優しい物語でした。増本竜馬監督、今後の長編作品に期待します。

今年観た映画50音順〈ま行〉

《ま》
『マッド・マウス ミッキーとミニー』(原題:The Mouse Trap)
2024年のカナダ作品。
巨大なゲーセンに勤務する女性アレックスとジェイナは、マネージャーのティムからその夜8人の貸切予約が入ったことを明かされ、残業を頼まれて承諾。マネージャーの退出後、ジェイナは彼氏とデートがあると言ってまんまと抜け出し、アレックスはひとりで対応するはめに。しかし貸切の予約者はアレックスの誕生日を祝おうという友人たちのサプライズ企画であるとわかってひと安心。ところがミッキーマウスの覆面をした何者かが現れ、アレックスの仲間たちを次々と惨殺してゆく。また、郊外の一軒家で時を過ごそうとしていた男女のもとにもミッキーマウスが押し入って……。
間違いなく、ここ何年ものワースト級に君臨するクソ映画。ミッキーマウスが瞬間移動するって何ですか。ゲーセンと一軒家のつながりも何もなし。ゲーセンでひとり生き残ったレベッカを収監して刑事が問い詰める体裁を取っていますが、こんなの茶番以外の何物でもないし、殺し方がエグいだけで面白くもなんともない。冒頭、“スター・ウォーズ”を模したテロップに「ディズニーを愛していて、何度も許諾を得ようとしたけれど無理だった。ディズニーは関係ないよ」としつこいぐらいに流れます。はいはい、こんな中身ゼロの映画をディズニーが許すわけないやんかとシラけるだけ。結局、ミッキーとミニーの殺戮逃避行ということにしたいらしく、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)へのオマージュってとこなんですかね。酷い。最悪。クソ。

《み》
『M3GAN/ミーガン 2.0』(原題:M3GAN 2.0)
2025年のアメリカ作品。Amazonプライムビデオにて配信。
大ヒット作『M3GAN/ミーガン』(2023)の続編ということで、公開を心待ちにしていた人が多かったはず。10月に劇場公開が予定されていたにもかかわらず、中止になったのはなぜなのか。
ミーガンの暴走から2年が経過。開発者のジェマは姪のケイディと多少ぎくしゃくしながらも毎日を送っていたところ、FBIがやってきて、ミーガンのデータを売ったのは国家反逆罪だと言われる。身に覚えのないジェマが詳しい説明を求めると、ミーガンを基に製造されたとおぼしき軍用ロボットアメリアが命令にそむいて暴走しているらしい。アメリアが自分の開発に関わった人物を次々に殺害していることから推測して、おそらくジェマも標的となるはず。ジェマとケイディの身柄を保護する代わりに、アメリアに対抗すべくミーガンの軍用モデルを新たに開発せよとFBIは言う。ジェマがFBIを追い返した後、自宅のモニターに死んだはずのミーガンが現れてジェマはビックリ。ミーガン曰く、ボディが破壊されただけでミーガン自体が死んだわけではないと。アメリアの暴走を阻止できるのは自分のみだが、そうするためにはボディが必要、新たなボディを製造してほしいとミーガンから言われたジェマは、葛藤の末、ミーガンと協力すると決めて……。
劇場公開すれば絶対客が入ったはずなのにと観る前は思っていましたが、中止にしたのは正解だったかも。さくっと終わるのがB級ホラーの良いところなのに、120分は長すぎる。それに、邪悪なところが魅力だったミーガンがいきなり正義の味方になっているんだもの。でも中止になったのはそのせいではないでしょうね。ロシアとかサウジアラビアとか、対立国の名前がいろいろ出てくるのがややこしいせいかという気がします。

《む》
『無理しない ケガしない 明日も仕事! 新根室プロレス物語』
2024年の日本作品。Amazonプライムビデオにて配信。
アマチュアプロレス団体・新根室プロレスを追いかけたドキュメンタリー作品。新根室プロレスは2006年に設立。北海道根室市在住のプロレスをこよなく愛するサムソン宮本はおもちゃ屋の店主。地元民を元気にしたいと自ら発起人となって100万円のリングを購入。神社のお祭りなどにステージを設けて興行を開始したところ、思わぬ反響を呼ぶ。所属メンバーはおもちゃ屋の客をはじめとするプロレスファンたちで、酪農家や建設業者会社員など本職はさまざま。しかし全員に共通しているのは「学生時代イケてなかった」ということ。そんなメンバーがスポットライトのもとで輝く。設立から13年経った2019年、人気も沸騰していたというのに、サムソン宮本が平滑筋肉腫という難病に冒されていることが発覚。サムソン宮本は新根室プロレスの解散を決断。病気を克服してリングに戻ることを誓ったけれど、1年後に55歳で息を引き取る。
55歳といえば弟が亡くなったのと同じだから、いろんな思いが胸をよぎります。プロレスに特に興味はありませんが、娯楽が多いとはいえない地域でみんなを盛り上げてきた新根室プロレス。「無理しない、ケガしない、明日も仕事」をモットーに、笑いあふれるプロレスはさぞかし楽しいことでしょう。サムソン宮本の遺志を継ぎ、再始動することになった新根室プロレスを応援したいです。

《め》
『メリー・リトル・エックスマス』(原題:A Merry Little Ex-Mas)
2025年のアメリカ作品。Netflixにて配信。
学生時代、建築学部だったケイトは、医学部だったエヴェレットと結婚。故郷の町ウィンターライトに戻って開業医となると言うエヴェレットを支えつづけて20年。建築家になって世界を変えるという自分の夢はどこへやら、ウィンターライトの便利屋として毎日を送っていた。子どもたち2人も成人し、長女シエナは恋人のナイジェルとまもなく結婚するだろう。消防士になりたいと主張する長男ゲイブにはなんとか大学に行ってほしいが、それはゆっくり説得するとして、そろそろ自分の夢を叶えるときが来たのではないかと思い、家を出てボストンに引っ越そうと画策している。ところが、エヴェレットが浮気をしていることが判明。しかも浮気ではなく本気で、ケイトと別れて相手のテスと再婚したいと言う。エヴェレットにそんな相手がいることを知らなかったのはケイトだけ。しかも自分とは真逆のタイプのテスのことをシエナもゲイブもナイジェルまで気に入っているらしく、傷ついたケイトは……。
環境保護活動に熱心で、何事も節約を貫いてきたケイト。テスはと言えば、子どもたちを連れ出して流行の服をどんどん買い与えます。いつでも仕事優先で誕生日も記念日も関係なかったエヴェレットが、テスとは時間を割いて過ごしていることが面白くありません。そんなとき、クリスマスツリー用の生木売場で出会ったひと回り以上年下のチェイスが声をかけてくる。こりゃもうオバハンの妄想(笑)。最終的には元サヤに戻るんだから、勝手にしてって感じです。ヒマでほかに観るものがない人だけどうぞ。

《も》
『木曜殺人クラブ』(原題:The Thursday Murder Club)
2025年のアメリカ作品。Netflixにて配信。
原作者のイギリス人作家リチャード・オスマンはテレビ司会者でもありプロデューサーでもあるそうです。彼によるミステリー小説の人気シリーズの映画化。
高級老人ホーム“クーパーズチェイス”には、毎週木曜に集まって未解決事件謎解きを趣味とする“木曜殺人クラブ”がある。メンバーは、経歴不詳でMI6に所属していたとの噂もあるエリザベス(ヘレン・ミレン)、労働組合のリーダーだったらしいロン(ピアース・ブロスナン)、PTSD専門の精神科医だったイブラハム(ベン・キングズレー)。ここに最近入居した元看護師のジョイス(セリア・イムリー)が加わる。クーパーズチェイスはトニー・カラン(ジェフ・ベル)とイアン・ベンサム(デイヴィッド・テナント)による共同経営だったが、イアンは金ほしさにクーパーズチェイスを潰して高級マンションとイベントスペースに建て替えようとしていた。それを知った入居者と、自身の母親も入居中のトニーは激怒。少なくとも母親が健在な間は絶対にイアンの好きにはさせないと公言していたトニーが何者かに殺される。木曜殺人クラブはさっそく活動を開始。以前クーパーズチェイスに防犯の講義にやってきたことのあるフェアヘイブン警察署の女性巡査ドナ・デ・フレイタス(ナオミ・アッキー)を協力者として丸め込むのだが……。
これだけの名優が揃えば面白くないわけがない。ほかにも食い意地の張った主任警部としてダニエル・メイズが出ていたり、エリザベスの夫としてジョナサン・プライスが出演していたりして、認知症の兆候が見える彼の役を好演しています。ジジババ役者の演技に魅せられる楽しい作品です。もっとも、いくら役者が良いからって、話がつまらなければ駄目でしょうから、脚本も良いんでしょうね。

今年観た映画50音順〈は行〉

《は》
『84m²』(英題:Wall to Wall)
2025年の韓国作品。Netflixにて配信。
ソウルにマイホームを持つのが夢だった平凡なサラリーマンのウソン(カン・ハヌル)は、いずれもらえる予定の退職金などすべての資産をフル投入して、17階建てのマンションの14階の1401号室を購入。しかしローンの返済が滞るようになり、一緒に入居した彼女には逃げられ、今はエアコンも使えず電気も極力点けずに過ごす毎日。終業後はウーバーイーツで多少は稼ぐも焼け石に水状態。そこへビットコインで大成功した同僚から儲ける方法を聴き、マンションを一旦売って作った金を元手にビットコインを購入する。1週間後に売却すれば800倍以上になって返ってくるはずだから、マンションを売るのをやめて違約金を請求されたとしてもじゅうぶんの儲けが出るはず。ところが、近頃マンションで噴出している騒音問題について、犯人はウソンだと疑われたうえに暴力をふるったとして警察に連行され……。
1301号室の住人から騒音を訴えられ、自分じゃないんだと1501号室に出向けば、1501号室の住人からさらに上階のせいだろうと言われる。1601号室まで上がるもまた怒られ、最上階のペントハウスにいるのが賃貸に出されているそこらじゅうの部屋の大家かつ住民代表(ヨム・ヘラン)だと教えられます。代表は、高速鉄道の開業時には地価が高騰すると見込んでマンションごと自分のものにするために、ウソンを追い出そうとしているのでした。それに手を貸しているふりをして、その実、スクープを書こうとしているのが1501号室を賃借するチンピラ記者(ソ・ヒョヌ)。面白いけど、ダークすぎて。もうちょっと笑える作品であってほしかった。同様にマンションの騒音を扱ったホラー『層間騒音』と併せて観るのが面白いかも。

《ひ》
『秘密 許せない真実』(英題:Unforgivable)
2023年の韓国作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。日本では劇場未公開。
公衆トイレで惨殺された男性の口に紙切れが詰められているのを発見した刑事ドングン(キム・ジョンヒョン)は、そこに記された日付を手掛かりに捜査を進める。紙切れは10年前に自殺した青年ヨンフンの日記の一部。ヨンフンは被害者の兵役時代の後輩で、当時被害者から酷いいじめに遭っていたらしい。やがてドングンはヨンフンがかつての同級生だったことに気づく。ドングンとは親友と呼んでもよい仲だったにもかかわらず、あるときヨンフンがゲイではないかと思い、以来ドングンはヨンフンを遠ざけて誰かにいじめられるのを見ても知らん顔していたのだ。最初の殺人事件を皮切りに、ヨンフンのいじめに関わっていたとおぼしき人間がひとりまたひとりと殺され、現場には次の殺人を匂わす手掛かりの紙切れが残されている。最後にはドングン自身が犯人のターゲットとなって……。
犯人はヨンフンの母親。心優しき一人息子が自ら命を絶ち、真相にたどりついた彼女は憎き相手を全員殺す決意をします。スリリングな展開の中にドングンの後悔も伝わってきて話に没入した作品でした。と同時に、ゲイのみならず多様な性的指向が世の中には存在すること、そしてこちらがそうではない場合にどのように接すればよいかの難しさについても考えさせられました。

《ふ》
『フランケンシュタイン』(原題:Frankenstein)
2025年のアメリカ作品。Netflixにて配信。一部の劇場で公開された折に観逃し、結局自宅にて。
イギリス人作家メアリー・シェリーが1818年に匿名で出版したゴシック小説が200年以上経ってもこんなふうに映画化されています。『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)や『ナイトメア・アリー』(2021)のメキシコの鬼才ギレルモ・デル・トロ監督が手がけたとなれば面白いのは当たり前。
ヴィクター・フランケンシュタインは、高名な医師である父親がヴィクターの弟ウィリアムにばかり愛情を注ぐことに沸々と怒りを燃やし、必ずや父親を超えると決める。外科医となったヴィクターがとある場で死体蘇生術を披露したところ、外科医師会から追放されるはめに。それでも生命の創造に固執しつづける彼に協力を申し出たのは武器商人ハーランダー。彼から実験場所用の廃墟と資金を提供されたヴィクターは、極秘に入手した死体を切り貼りして新たな命を創り出すことに成功。しかし生まれた「怪物」には知性が伴わず、いくらヴィクターが教えようとしても発する言葉は「ヴィクター」だけ。ある日、廃墟を訪れたウィリアムと婚約者エリザベス。怪物と遭遇したエリザベスは驚くことも気味悪がることもなく、温かい眼差し。怪物もエリザベスには心を開いたかのようだが、ヴィクターには相変わらず進歩の様子を見せない。怪物を鬱陶しく思いはじめたヴィクターは廃墟に火をつけてすべての消滅を図るのだが……。
冒頭は氷海で動けずにいた船の乗員がヴィクターを見つけて救助するシーンから始まります。船長がヴィクターを船室で介抱していると海から聞こえてくるヴィクターを呼ぶ声。ヴィクターが訥々と語る、自身が創造した怪物の話。これが第1部。そして第2部ではヴィクターを追いかけて船に乗り込んできた怪物が語る、廃墟を燃やされた後に生き延びた自分の話。ヴィクター役にオスカー・アイザック、怪物役にジェイコブ・エローディ、エリザベス役にはミア・ゴス。そして船長役のラース・ミケルセン(マッツ・ミケルセンの実兄)が素晴らしい。怪物の師となる盲目の老人を演じたデヴィッド・ブラッドリーとのやりとりには涙が出ました。怪物を創った人こそ怪物。壮大な許しの物語。ラストシーンも美しい。これはやっぱり劇場で観たかった。

《へ》
『ヘヴンズ×キャンディ』
2024年の日本作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
二次元オタクの天翔(たかと)(大成)は母親を亡くした後、父親の悠輔(竹本泰志)から実はゲイであることをカミングアウトされて衝撃を受ける。悠輔は自身が経営する店の従業員だったシンヤ(結城駿)と恋仲になり、現在は悠輔と天翔、シンヤの3人暮らし。シンヤが母親代わりとなって家事などもすべてこなし、悠輔以上に天翔のことを気遣ってくれるが、まだ打ち解けることはできない。ある日、天翔は大好きなアニメ“ヘヴンズ×キャンディ”のイベントのために久しぶりに外出。その帰り、聖地巡礼に訪れた喫茶店で財布を忘れた天翔を助けてくれたのが永遠(とわ)(向理来)。永遠は人気AV男優でノンケを自認。天翔も自分はゲイではないと思っていたのに、瞬く間に恋に落ちて……。
本作を観る前に“有吉クイズ”で女性向けAVの特集をしていたときに、大人気のAV男優だという向理来のことを知りました。まぁ、演技が上手いとは言えないけれど、AVに演技はそう必要ないですもんねぇ。過激なBLです。話のネタに。

《ほ》
『保安官』(英題:The Sheriff in Town)
2016年の韓国作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。日本では劇場未公開だったところ、なぜか今年DVD化。
熱血刑事のテホ(イ・ソンミン)は麻薬組織の大元締め“ポパイ”が潜伏中だとおぼしき部屋に応援を待たずに踏み込む。そこにポパイの姿はなく、訳も知らずに運び屋をやらされていたジョンジン(チョ・ジヌン)を捕まえるも、テホは過剰捜査でクビに。その後、自らが住む釜山北東部の町・機張の治安を守るボランティア班長を務めていたところ、あのジョンジンが現れる。テホのおかげで懲役20年は食らうところ2年で済んだと言うジョンジンは、テホのことを恩人と呼び、親しげな顔を見せる。機張の住人もジョンジンから商売の話を持ちかけられてほくほく。しかしどこかおかしいと、テホはジョンジンに疑念を抱きはじめる。本当はジョンジンは麻薬の密売に関わっているのではないか。住人たちに警告しても、テホがジョンジンを妬んでいるだけだと思われ、テホの言うことを信じるのは義弟のドクマン(キム・ソンギュン)のみで……。
まぁまぁ魅力的なキャストなので日本でも公開すればよかったのにと思ったけれど、観てみりゃ未公開も納得。テンポがイマイチよくなくて、序盤は特にだるい。テホの人柄にも惹かれず、自分が注目されたい人にしか思えません。ただ、ジョンジンこそがポパイだとわかる終盤は面白い。機張の住人の中にはバイプレイヤーキム・ジョンスもいます。

今年観た映画50音順〈な行〉

《な》
『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』(原題:Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery)
2025年のアメリカ作品。Netflixにて配信。
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)、『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』(2022)に続く“ナイブズ・アウト”シリーズの第3弾。第1弾は劇場公開されたのに、第2弾以降は配信のみになってしまいました。この第3弾は今月配信がスタートしたばかりです。
不良上がりのボクサーだったジャド・デュプレンティシーは司祭に転身。かつての自分のような若者を救いたいと願っていたのに、あるとき無礼な助祭を殴ってしまったがゆえに田舎の教区に異動を命じられる。その教区の司祭ジェファーソン・ウィックスの説教はまるで人を憎むことを推奨するように扇情的で、ジャドは唖然。信者は皆ジェファーソンを盲信している様子。この状況をなんとか変えなければと思い、ジェファーソンに内緒で説話の会を設けたところそれがバレ、教区の全員を敵に回してしまう。ところが聖金曜日の礼拝中にジェファーソンが急死。倒れたジェファーソンのもとへ最初に駆けつけたジャドが容疑者になるが、地元の警察署長から依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランがやってくる。ブノワとジャドは手を組んで真相の究明に挑むのだが……。
2時間超は長いよと思いながらも、キャストがこうも魅力的だと集中力が途切れません。ブノワにはもちろんダニエル・クレイグ。ジャドにはジョシュ・オコナー。ジェファーソンがジョシュ・ブローリンで、彼の忠実な秘書マーサ・ドラクロワ役がグレン・クローズ。地元の警察署長ジェラルディン・スコットにはミラ・クニス、町医者のナット・シャープをジェレミー・レナーが演じています。ジャドを教区に送り込む司教ラングストロム役のジェフリー・ライトもよかったな。どう考えても真犯人はマーサでしょ。そうなんですけど、動機が明かされると気の毒になる。道義に悖るダメ司祭をなんとかして。

《に》
『人間爆弾 立ち止まったら、爆発』(原題:Todos los Nombres de Dios)
2023年のスペイン作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。日本では劇場未公開、WOWOWにて放映。
タクシー運転手のサンティがマドリード空港へ客を送り、帰宅しようとしたそのとき、テロリストによる爆破事件が発生する。逃げ惑う人々のなかに怪我人を見つけて自分のタクシーへと運び込むが、なんとその怪我人はテロリスト3人組のうちの1人、ハザムという青年だった。3人で自爆テロを実行するはずが、ハザムは怯えて実行できず。体に爆弾を巻き付けたままのハザムに銃で脅されて車を走らせることになったサンティ。途中でハザムは爆弾の取り外しに成功するが、サンティは眠気に襲われて事故る。重傷を負ったハザムを見捨てられずにいると、車が通りかかる。ところがその車に乗っていたのはハザムを追ってきたテロの首謀者で、ハザムを即銃殺。殴られて気絶したサンティが目覚めると、今度はサンティの体に爆弾が巻き付けられていた。その爆弾には高精度の振動センサーが備わり、歩き続けなければ爆発するとテロリストが告げる。そのままの姿で助けを求めて街に出るサンティをネットで世界中が見守るなか、着任わずか3日目の女指揮官ピラールのもと、特殊部隊や爆弾処理班が出動して……。
B級としか思えない邦題が付いていますが、シリアスで意外と面白い。この事件の前に長女を亡くし、気力を失っているサンティと妻ラウラ、長男ラウルのやりとりも○。

《ぬ》
『ヌルボムガーデン』(英題:Spring Garden)
2025年の韓国作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
韓国の忠清北道堤川に実在する廃屋“ヌルボムガーデン”は、国内三大心霊スポットのひとつと言われているそうです。そこを舞台にしたホラーフィクション。
ある日、ソヒが目覚めると、隣で眠っていたはずの夫チャンスが首を吊って死んでいた。妊娠中だったソヒは葬儀の日に姑たちから責められたせいもあってか流産。後日、チャンスがソヒには内緒で閑静な田舎に中古の一軒家、通称ヌルボムガーデンを購入していたことを知る。そこへ引っ越すと言うと姉のヘランから引き止められるが、生まれてくる子どもとソヒのことを考えて夫がひそかにリフォームを進めていてくれた家だから、住みたい。ところが転居後、ソヒのみならず遊びに来たヘラン一家が幻視に襲われたり、何者かに取り憑かれたかのようになったりして……。
死んだチャンスの姿を何度も目にしたことから、彼が何か言いたいのではないかと思って調べはじめます。チャンスはヌルボムガーデンへリフォームにかよっていたとき、首を吊って自殺を図ろうとしていた女子高生ヒョンジュを助けて看護。世話を焼かれたヒョンジュがチャンスに恋心を抱いてふたりはそういう関係に。妊娠したヒョンジュはこれでチャンスと家族になれると信じるもチャンスと言い争って事故死。家族というものに憧れつづけたヒョンジュが来訪者に取り憑いていた模様。って書いてみると結構面白い話なのに、かなりグダグダです。ちょっと勿体ない。

《ね》
『ねこのガーフィールド』(原題:The Garfield Movie)
2024年のアメリカ作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
親に捨てられた子猫のガーフィールドを拾ったのは心優しき青年ジョン。今は犬のオットーも招き入れ、ジョンと一緒に楽しく暮らしている。ところがある日、自分を捨てた父親ヴィックが現れる。トラブルを抱えるヴィックは、大量のミルクを用意しなければ命が危ういらしい。いまごろ父親面されてたまるかと思うガーフィールドだったが、巻き込まれてしまい……。たしか昨年の劇場公開時は吹替版の上映ばかりだったかと思いますが、それを観逃したおかげでDVDをレンタルしたら、字幕版を鑑賞することができました。ガーフィールドの声を担当するのはクリス・プラット。ヴィックをサミュエル・L・ジャクソン、ジョンをニコラス・ホルトって、その声で観られるのは嬉しい。ガーフィールドのことを全然知らないし、子ども向けだとばかり思っていたら、ヴィックがガーフィールドを手放すことになったときの真相に不覚にも涙が。

《の》
『ノスフェラトゥ』(原題:Nosferatu)
2024年のアメリカ作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
サイレント映画時代の巨匠F・W・ムルナウはドイツ表現主義映画を代表する映画監督。世界的に有名な彼の古典『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)は、ブラム・ストーカーの怪奇小説『吸血鬼ドラキュラ』を非公式に映画化した作品なのだそうです。非公式に映画化ってどういうことなのかよくわかりませんが、要するに原作者の許諾を得ていないということなのでしょうね。ちなみにストーカーはアイルランド人で、ムルナウは映画化に際して登場人物にすべてドイツ語名を与えています。著作権の侵害を避けるためだったとも推測されていますが、ムルナウにそんな気はなくて、単にドイツの映画ファンを楽しませるためにドイツを舞台にしただけとも言われています。低予算映画の走りなのかしら。とにもかくにも吸血鬼映画はいつの時代も私たちを楽しませてくれます。このたびムルナウ作品をリメイクしたのは、『ウィッチ』(2015)や『ライトハウス』(2019)のロバート・エガース監督。
1838年、ドイツの港町ヴィスブルク在住の青年トーマスは不動産屋の社員。ある日、上司からオルロック伯爵なる人物が山奥の城を購入希望だと聞かされる。足が不自由な伯爵はこちらに来ることはできないから、トーマスにあちらへ出向いて契約に係る手続きを済ませるように指示される。トーマスの妻エレンは長年過去とも未来とも思える悪夢に悩まされており、不吉な予感がすると言ってトーマスを引き留めるが、仕事を断るわけにもいかない。しかしエレンの予感は的中。実は伯爵の正体は吸血鬼ノスフェラトゥで……。
ノスフェラトゥにビル・スカルスガルド、トーマスにニコラス・ホルト、エレンにリリー=ローズ・デップ、オカルトに精通する研究者にウィレム・デフォー。リリー=ローズ・デップの演技が凄かったけど、気持ちの悪いシーンが多すぎる。ノスフェラトゥに取り憑かれた人々が動物をバリバリ食べるシーンとか、オエーッです。エレンが自分を犠牲にして皆を救う、悲哀に満ちた最期。

今年観た映画50音順〈た行〉

《た》
『TATAMI』(原題:Tatami)
2025年のアメリカ/ジョージア作品。Amazonプライムビデオにて配信。
ジョージアの首都トビリシで開催中の女子柔道世界選手権。イラン代表選手のレイラ・ホセイニは監督のマルヤム・ガンバリと共に会場入りし、金メダル候補を相手にしても怯まず順調に勝ち進む。ところがこのままではイスラエル選手と対戦の可能性が出てきた途端、負傷を装って棄権するようにとマルヤムを通じてイランの柔道協会から指示される。イラン初の金メダルがかかっているというのに、そんな理不尽なことがあろうかと抗うが、当局は本国でレイラを応援中の両親を逮捕。危険を察知して実家から出ていたレイラの夫ナデルと幼い息子アミルは難を逃れるが、見つかれば何をされるかわからない。マルヤムも当局から脅され、レイラに棄権するように迫り……。
敵対国とスポーツで対戦してはいけない意味が私にはわかりません。協会からは何度も脅され、レイラが従わないと見るや外交官がやってきて阻止しようとする。彼女がどういう状況にあるのかを知った世界柔道連盟の関係者はレイラをなんとか救いたいと考えるけれど、なんてったってレイラに試合をやめさせようとしているのはイランの国家指導者。そんなのに対抗したら何をされるかわかりません。結局権力に屈しない道を選んだレイラは準決勝で敗れますが、試合後に家族やマルヤムと一緒に亡命。以後、イランはすべての国際大会に出ることを禁じられます。イランではレイラもマルヤムも裏切り者扱い。数年後のフランス大会に難民代表として出場するシーンで終わります。イスラエル出身のガイ・ナティーヴとイランの女優ザール・アミールが共同で監督を務めています。マルヤムを演じているのがそのアミール。不屈の精神の持ち主なのでしょうね。こんなふうに両者が手を取り合って映画を撮ることだってできるのに。心を痛めている人がたくさんいるはず。

《ち》
『茶飲友達』
2022年の日本作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
モチーフとなっているのは、高齢者をターゲットにした会員制売春クラブが2013年に売春防止法違反で摘発された事件なのだそうです。監督は『ソワレ』(2020)の外山文治。ENBUゼミナール“ENBUシネマプロジェクト”第10弾。
新聞に「茶飲友達募集」という3行広告を出し、連絡してきた高齢男性に高齢女性を斡旋する売春クラブ“ティーフレンド”。経営者はかつて風俗で働いていた30代の女性・マナ(岡本玲)。厳しい母親と良い関係を築けなかったマナは、ティーフレンドのスタッフたちをファミリーと呼び、どんな困り事にも親身に対応している。ある日、スーパーで万引きしようとしている60代の女性・松子(磯西真喜)を助けると、松子にもティーフレンドで働いてみないかと誘う。一時は自殺も考えた松子だったが、マナに出会ってからは生き生きとした毎日を送るようになるのだが……。
実際には70代の男性が経営者だったとのこと。それをこんな30代の女性に置き換えたことにより金儲けを目的としたクラブだったという意味合いが薄まっているように思います。伴侶に先立たれた独居老人たち。金はあるけどしゃべる相手がいない。セックスしたかったわけではなく、単にしゃべる相手がほしくて連絡してみただけだったとしても、バイアグラをあてがわれて服を脱がされたらそんな気になっちゃうんですね。それがホッとする瞬間になり、このまま死ぬだけだと思っていたのに人生が変わる。その幸せそうな表情がなんとも言えなくて。老人ホームにも女性を送り込むことで一気に顧客を拡大するもビジネスが露見することに。外山監督はほかにも老老介護や高齢者の婚活を描いた作品を撮っています。観てみたい。

《つ》
『ツイスタータウン ジョプリン竜巻を生き延びて』(原題:The Twister: Caught in the Storm)
2025年のアメリカ作品。Netflixにて配信。
2011年5月22日にミズーリ州ジョプリンで発生した巨大竜巻。人口約5万人の中規模都市を突き抜けたこの竜巻は、時速200km超、ピーク時の幅はなんと1.5km超。推定8千戸の家屋が被害を受け、死者は158人に。アレクサンドラ・レイシー監督は竜巻から生き延びた若者たちの視点で描いています。卒業式の直後に竜巻襲来って、これは映画か何かですかと聞きたくなるほどあり得ない惨劇。感染症で生死の境をさまよいながらも、人生で経験したすべてのことに意味があると語る男性、ゲイであるがゆえにかつてはいじめられたこともあるけれど、それでもこの町が好きだという男性の話が印象に残っています。『ツイスターズ』(2024)が大好きだった私は好奇心のみでこのドキュメンタリーを鑑賞しましたが、竜巻がもたらした被害には言葉を失う。再建に懸ける住人の不屈の魂。

《て》
『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(原題:Thelma)
2024年のアメリカ/スイス作品。Amazonプライムビデオにて配信。
ロサンゼルス郊外在住のテルマは93歳。愛する夫テディに先立たれた後はひとりで暮らしているが、娘のゲイルとその夫アランは近居しているし、24歳の孫ダニーは頼れる相談相手で、パソコンやスマホの使い方をいつも丁寧に教えてくれる。ところがある日、その心優しき孫を装った電話に騙される。ダニーのふりをした男から「車で妊婦を轢いてしまい、留置場にいる。保釈金が必要だ」と言われて気が動転。言われるがままに1万ドルを用意して指示された住所宛てに送る。事情を聴いた娘夫婦とダニーは、テルマが無事だったのだからそれでよいと言ってくれたものの、テルマはどうしても1万ドルをあきらめきれない。しかも隣の部屋から漏れ聞こえてくるのは、「テルマのぼけが始まっているからひとり暮らしはさせておけない」などなどという娘たちの声。名誉を挽回するためにも自分で犯人を見つけて金を取り返したいと思い……。
役名のテルマ・ポストは本作で監督を務めたジョシュ・マーゴリンの祖母の実名。祖母テルマが電話による詐欺に遭ったことがモチーフとなっているそうです。テルマ役は御年96歳の大ベテラン女優ジューン・スキッブ。詐欺に遭ったと知ったときの表情を見ると『ジェリーの災難』と同じように切ない。犯人探しを思い立ったテルマがスマホで旧友に片っ端から電話をかけると、みんな他界しているところは失礼ながらちょっと笑っちゃいました。唯一生きていたのは友人の夫でどちらかと言えば苦手だった爺ベンだけ。ふたりしてシニアカーで疾走する様子が頼もしい。見事に突き止めた犯人は、マルコム・マクダウェル演じるアンティークの照明屋の店主。世間の人たちは何でもかんでもネットで購入するようになってこんな店は流行らないからと犯罪に手を染める。それにしたって、老人が老人を騙す時代なんですね。ベンを演じたリチャード・ラウンドトゥリーの遺作となりました。安らかな眠りを。

《と》
『トラブル・ガール』(原題:小曉)
2023年の台湾作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
ADHD(注意欠如・多動症)の少女シャオシャオは学校で疎まれて孤立している。父親は出張ばかりで家にはほぼ不在。ひとりでシャオシャオの世話をする母親はいっぱいいっぱいで、シャオシャオのことを相談していた担任教師ポールと不倫の仲に。先生だけが自分のことを気にかけてくれる存在だと思っていたのに、母親といつのまにかそんな関係になっていることに気づいてしまったシャオシャオは……。
前知識なく観はじめたら、シャオシャオがADHDということが最初はわからなくて、どうにも手のかかる子だなぁ、母親も先生も大変だなぁなんて思っていました。私が小学生だった頃は、学校にこんな子はいくらでもいたけれど、病名なんて付いていませんでしたから。みんなと友達になりたいシャオシャオ。でも同級生たちは彼女のことを怒らせようとからかうばかり。怒って反撃すると、今度は保護者たちから問題視される。なぜみんな優しくなれないのかと腹立たしくなるものの、私ならどうするだろうと自問。どうにもできないと思うのでした。母親役のアイビー・チェンの葛藤ももっとも。先生役にはテレンス・ラウ。やっぱりイケメン。