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『メン&チキン』【マッツ・ミケルセン生誕60周年祭】

『メン&チキン』(原題:Mænd & Høns)
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:ダーヴィッド・デンシック,マッツ・ミケルセン,ニコライ・リー・コス,ソーレン・マリン,ニコラス・ブロ,オーレ・テストラップ,ボディル・ヨルゲンセン,リッキー・ルイーズ・アンダーソン他

前日に観た『ブレイカウェイ』がめちゃめちゃ良かったので、これはもう“マッツ・ミケルセン生誕60周年祭”の上映作品を観られるだけ観ておこうと、連日のテアトル梅田通いとなりました。

アナス・トマス・イェンセン監督による2015年のデンマーク作品で、「あなたの“マッツ愛”が試される?! 狂気的な怪演が光る」とあるとおり、これは変態でイケてないマッツ。彼を本作で初めて見る人がいるとすれば、この人が“北欧の至宝”だなんてなんでよ!?と思うかもしれません。

大学教授のガブリエルは兄エリアスに父親の危篤を知らせる。父親の最期にエリアスは間に合わなかったが、遺品の中のビデオレターがあるのを発見。ふたりで観てみると、実父であることを疑いもしなかった父親が実父ではなかったことがわかる。しかもガブリエルとエリアスの母親も実母ではなく、彼らの実母はどちらもすでに亡くなっているというではないか。生物学的な父親に会いたいと考えるガブリエルが父親の所在を突き止めて会いに行こうとすると、エリアスもついてくる。

実父はエベリオ・タナトスという研究者で、彼が住んでいるのは人口わずか42人の村。タナトス邸は廃墟と言いたくなるほど寂れていて、エリアスを車で待たせたままガブリエルが玄関のドアをノックすると、出てきたのは醜男3人。自分がエベリオの息子であることを伝えると、3人に突然襲いかかられる。

慌ててその場から逃げたガブリエルとエリアスは、雨に降られて途方に暮れていたところを村長のフレミングに拾われる。翌日、フレミングに連れられてタナトス邸に戻るとやはり3人が殴りかかってくるが、腕っぷしの強いエリアスが3人を伸す。それを気に入られて邸内へ招き入れられ、事情を聴いて仰天。なんとその3人、フランツとヨセフとグレゴールもエベリオの息子で、それぞれ別の母親を持つと言う。つまりその3人とガブリエルとエリアスは全員異母兄弟で……。

エリアス役のマッツはちっともカッコよくない。というのか全員醜悪な顔つきで、どう観ても変態映画。ホラーと言ってもいいでしょう。でもものすごく面白い。

邸内では家畜が放し飼いされていて、妙な動物がいっぱいいます。エベリオは幹細胞研究を専門とする遺伝学者だという時点で不気味な予感しかなし。ガブリエルは優秀な研究者らしいけど、咳というのかくしゃみというのか変な癖がある。エリアスは日に何度もマスターベーションしないと生きていけないようだし、ヨセフはやたらとチーズが好き。こうして書いていても思い出して不快です(笑)。

じゅうぶんに予想できる展開だからネタバレにはならないかと思いますが、5人ともエベリオの実験によって生まれてきました。男性不妊だったエベリオは人間と動物を交配させる研究に没頭し、それが成功してこの世に生まれたのが彼ら。交配の相手は牛、梟、鶏、鼠、犬。ぞっとするでしょう。だからそれぞれその動物の特徴を持っている。こんな実験をしていながら、エベリオは自分が想定していたよりも出来が悪いと思えば養子に出していました。養子に出されたのがガブリエルとエリアスで。

おぞましいにも程がある話なのに、最後は妙に晴れやかな気分になるのはなぜなのか。どんな命も命。それを尊重する村人たちというのもすごい。マッツ初心者には到底薦められない作品ですが、すでにハマっている人にはぜひ。

『ブレイカウェイ』【マッツ・ミケルセン生誕60周年祭】

『ブレイカウェイ』(原題:Blinkende Lygter)
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:ソーレン・ピルマーク,ウルリク・トムセン,マッツ・ミケルセン,ニコライ・リー・コス,オーレ・テストラップ,フリッツ・ヘルムート,ソフィエ・グロベル,イーベン・ヤイレ他

テアトル梅田にて開催中の“マッツ・ミケルセン生誕60周年祭”。全7作品を網羅したかったけど、そんなに私に都合の良い時間に上映してくれるはずもなく、とりあえず観たのは『アダムズ・アップル』(2005)でした。そうしたら凄く面白くて、残りもなんとか観たくなる。仕事帰りに梅田まで行くのはなかなかつらいんですが、時間が合うなら行っておこうと車を走らせました。11月半ばから始まっているクリスマスマーケットのせいで、平日の晩でも梅田スカイビルは大賑わい。

本作は2000年の作品で、日本では劇場初公開。本国デンマークでは歴史的大ヒットを飛ばし、デンマーク映画史上最高傑作と言われているそうな。『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(2020)のアナス・トマス・イェンセン監督は脚本も必ずご自分で書く人。大好きです。7作品のうちでも最も人気が高いのではないでしょうか。満席で嬉しくなる。原題の“Blinkende Lygter”は英語で“Flickering Lights”。直訳すると「点滅するライト」。観れば意味がわかります。

コペンハーゲン出身の4人のチンピラたち。トーキッド(ソーレン・ピルマーク)をリーダーに、ヤク中のピーター(ウルリク・トムセン)、拳銃マニアですぐにキレるアーニー(マッツ・ミケルセン)、いちばん年下のステファン(ニコライ・リー・コス)はいつ何時も一緒。トーキッドは足を洗いたいと思っているが、ギャングのボス・エスキモーから借りている金を返さなければ抜けることは許されない。今度こそ金が作れると思った取引にも失敗し、エスキモーから指示された盗みを働かざるを得なくなる。

指示通りにある邸に侵入した4人は、金庫から400万デンマーククローネ(日本円で1億円近く)が入ったアタッシェケースを盗み出すが、いざ退散というときにやってきた警備員と撃ち合いに。急いで車に飛び乗って逃走する。途中、トーキッドがこんな暮らしはもうやめたいと言い出し、このまま金を持ってバルセロナを目指して逃げることにあとの3人も賛同する。ところがしばらく走ったところで車が火を噴き、警備員が発砲した銃弾が腹をかすめたピーターはヤク切れもあって具合が悪そう。身を隠せる場所を求めて森の中を歩いていると、数十年は放置されているとおぼしき廃屋が見つかる。

誰も来ないだろうと思っていたのに、ひょっこりやってきた近所の猟師アルフレッドから「レストランを開くのか」と聞かれ、ついつい頷いてしまうトーキッド。アルフレッドから紹介された医者カールはあきらかに4人を怪しんでいるが、金を握らせてピーターを診てもらう。すると、治療はカール自身の口に含んだ酒を傷口に吹きかけたのみで、2週間は安静だと言い渡される。致し方なく傷が癒えるまでの間はレストランを開店するふりをしてここにとどまることにするが……。

冒頭、「味なんてどうでもいいと思えるレストランがある」と女性の声が流れ、実に居心地のよさそうなレストランに人々が集う光景が映し出されます。ドンパチの後にこんなオチが待っていることは予想できず、これは夢物語なのかなと思っていました。そうか、こういうことだったのですね。

4人とも少しずつイカれていて、普通とは言えません。知的でもないし、いたって粗野な印象。性格的にも合うとは思えないのに、なぜ始終一緒にいるのか。4人の生い立ちを私たちが知らされた後に4人が出会うシーンでは切なくなって、彼らを抱きしめたくなります。エスキモーに追われて最後はみんな死ぬんだろうと思っていたら、そう来るか。エスキモーの「どうして俺だけ仲間はずれなんだ」という叫びに、入りたかったんかい!とツッコミ入れたくなりました。彼も入れてあげりゃあよかったのにとそれもちょっと切ない。

それでも、料理が美味しくないレストランには行きたくないでしょと思うけど(笑)、こんな場所があってもいいかもしれない。

『平場の月』

『平場の月』
監督:土井裕泰
出演:堺雅人,井川遥,坂元愛登,一色香澄,中村ゆり,でんでん,安藤玉恵,椿鬼奴,栁俊太郎,倉悠貴,吉瀬美智子,宇野祥平,吉岡睦雄,黒田大輔,松岡依都美,前野朋哉,成田凌,塩見三省,大森南朋他

原作は朝倉かすみの同名ベストセラー小説とのことですが、私はこの作家の名前すら知らなくて失礼いたしました。公開前に原作を購入したけれど、まだ読めていません。監督は『花束みたいな恋をした』(2020)の土井裕泰。TOHOシネマズなんばにて鑑賞。内容が内容なだけに客は中高年ばかりかと思っていたら、わりと若いカップルも来ていました。

青砥健将(堺雅人)は50代のバツイチ男。元妻(吉瀬美智子)と息子(倉悠貴)のもとを離れ、地元に戻って印刷会社に再就職。認知症を患う母親(大方斐紗子)は施設に入っているから、青砥は実家で一人住まい。男ひとりで不自由があるかと思いきや、ひとりでのびのび、今は料理の腕も上がって弁当作りが楽しい。

ある日、胃に小さな腫瘍があると主治医(前野朋哉)から指摘された青砥は、さらに詳しい検査を受けることに。結果待ちでそわそわしながら行った売店で、レジ打ちする須藤葉子(井川遥)と会う。須藤は中学時代の同級生で、青砥が想いをを寄せていた相手。告白してあっさりフラれた思い出が懐かしい。仕事を終えて帰宅しようとしていた彼女を捕まえてしばらく話す。聞けば須藤は夫と死別して地元に戻ってきたとのこと。たまに会って話をする約束をしたふたりは、以降週一程度、焼き鳥屋で飲むようになるのだが……。

『花束みたいな恋をした』の中年版とでも言えばいいでしょうか。ハッピーエンドには至らず、ちょっと切ないラスト。ふたりが昔の思い出話をしながら過ごす時間はとても幸せそうなだけに、余計に切なくなります。結構淡々と進むぶん、人には勧めにくいけれど、小中高時代辺りに好きだった人と離ればなれになった経験があったりすれば刺さるのではないでしょうか。好きな相手と名前ではなく名字で呼び合う関係とか、キュンキュンしませんか(笑)。それはともかくとして、井川遥演じる須藤が大腸癌で人工肛門を付ける設定だということは知らずに観たからかなり衝撃的でした。

焼き鳥屋の無口な大将(塩見三省)が良いですね。店内で流れる曲を聴いていた青砥と須藤が「これ誰が歌っていたんだっけ」と言うとき、私も小声で言いましたよ、「薬師丸ひろ子」って。大将より早かったでしょ(笑)。須藤の妹役に中村ゆり、めっちゃウザい友だちに安藤玉恵。青砥の勤務先の社長はでんでん、後輩社員に栁俊太郎。須藤がかつて入れあげていた若者に成田凌、青砥の親友には大森南朋吉岡睦雄宇野祥平。中学時代の須藤の父親役に黒田大輔バイプレイヤー揃いの楽しいキャストです。

堺雅人と井川遥というキャスティングがハマっていたのかどうかがちょっと疑問。見ていたくなるキスシーンでもないんだなぁ(笑)。だからと言って、ほかに誰ならハマっただろうかと考えると思い当たりません。誰がいいでしょう!?

『劇場版総集編 ガールズバンドクライ 後編 なぁ、未来。』

『劇場版総集編 ガールズバンドクライ 後編 なぁ、未来。』
監督:酒井和男
声の出演:理名,夕莉,美怜,凪都,朱李,近藤玲奈,あんどうさくら,幸田直子,平田広明,沢城みゆき他

『劇場版総集編 ガールズバンドクライ 前編 青春狂走曲』の公開が先月。それを観るまではタイトルすら聞いたことがありませんでしたが、観てみたら意外と面白くて。後編の本作も109シネマズ大阪エキスポシティにて。

熊本の実家を飛び出し、大学へ行くために東京の予備校に通いはじめた仁菜だったが、憧れの桃香と出会って人生が激変。ガールズバンド“トゲナシトゲアリ”のボーカルとして音楽活動にすべてを賭けると決める。前編では予備校を辞めて音楽活動に専念すると宣言したところで終わりました。

後編では仁菜、桃香、すばる、智子、ルパの5人が次第に人気を博し、芸能事務所からスカウトされます。フェスに出て良い手応えがあればメジャーデビューというところまで来て、見事に成し遂げる。すると仁菜がライバル視する“ダイヤモンドダスト”から対バン企画が持ち込まれ、5人はそれに乗ることにしたものの、ダイヤモンドダストとトゲナシトゲアリでは知名度も既存のファン数も違いすぎて、対バンを張る前から見えている負け。さて5人はどうしますかという話です。

前編を観たときに勘違いしていたことがありました。熊本の高校時代、仁菜をいじめていたのは当時同級生だったダイヤモンドダストの現ボーカル・ヒナだとばかり思っていましたが、違うんですね。クラスでいじめられていた子を助けるために、いじめっ子たちに立ち向かおうとした仁菜。ヒナはそんなことしたらアンタがいじめられるよと忠告したのに、仁菜は聴く耳を持たず。結果、ヒナの言うとおり、今度は仁菜がいじめられるようになった末に登校できなくなって高校を中退したのでした。

自分は間違っていなかった、今も間違っていないことを証明したい仁菜は、わりとややこしくて時にうざい(笑)。私の苦手な「がんばってるアピール」そのままでもあります。トゲナシトゲアリやダイヤモンドダストの曲にも惹かれません。でも物語としては心に留めたい点がいっぱい。仁菜と父親のやりとりにはちょっとホロリとしちゃいました。良いアニメだと思います。ルパちゃん、いい子すぎるし。

からし蓮根カレーって美味しいですか。気になる。

『赤い風船』/『白い馬』

1本だけ観る時間ができたので、すでにクリスマスマーケットでにぎわっている梅田スカイビルへと向かい、テアトル梅田にて。

1922年生まれのフランス人映画監督アルベール・ラモリスは、1970年に48歳の若さで亡くなりました。映像詩人と言われた彼の70年前の作品を4Kデジタル技術によって修復、とあるのですが、テアトル梅田では2K上映です。ま、違いが私にわかるとは思えませんし、とりあえず観ておくことに。短編2本の連続上映。

1本目の『赤い風船』(原題:Le Ballon Rouge)は1956年の作品。登校途中、街灯にひっかかっていた赤い風船を取った少年パスカルは、それを持ったままバスに乗ろうとして拒否される。致し方なく風船を掲げてモンマルトルの街を走り抜け、学校へと到着。授業中は門番の男性に風船を預けると、放課後ふたたび風船を持って歩き出すパスカル。風船が生きているかのように振る舞う様子が楽しい。なんといっても色彩が綺麗です。第9回カンヌ映画祭では短編映画パルムドールを受賞したそうです。

2本目の『白い馬』(原題:Crin-Blanc)は1952年の作品。南仏のカマルグ地方が舞台。野性馬のリーダーである白馬を狙う馬飼いの一団。しかし逃げ足のはやい白馬を捕らえられる者はいない。一団は、同様に白馬を追いかけていた少年に向かって「もしもおまえがあの白馬を捕まることができたら、おまえにやる」と言う。なかなか捕まえられずにいたが、馬飼いたちが白馬をあぶり出すために火を放った日、逃げ惑う白馬を少年が救ったおかげで、白馬と少年は仲良くなる。最後はまた馬飼いに追いかけられて、白馬にまたがったまま海に入ってゆく少年。幻想的です。こちらは第6回カンヌ映画祭の短編映画パルムドールおよび1953年度のジャン・ヴィゴ賞(29歳で他界した天才映画監督ジャン・ヴィゴにちなんだ賞)を受賞。

どちらも映像詩人の名にふさわしく美しい。おかげで睡魔に襲われそうになりましたけど、たまにはこんなのもいいものです。